悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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生きる理由

 轟音とも言えるエンジン音が屋内にいるというのに聞こえてくる。

 激しい日が差しているにもかかわらず、ここの空気はキンキンに冷えている。それだけが理由ではないが、広大な屋内には国籍が入り混じったたくさんの人々が目まぐるしく動いている。

 そんなライオコット空港の中で一際目立つ集団がいた。

 

「もう行くのかいテレス。決勝だけでもせっかくなら見たらどうだ?」

「負けが決まっちまったからな。おちおち見てる暇はねえんだよ。帰って次に向けての練習だ」

「まったく、性急なやつだな」

 

 彼らを見たのなら、今の時期の観光客なら全員が一瞬で振り返るであろう。そこにいたのは壮観な顔ぶれだ。

 イタリア副キャプテン、フィディオ・アルデナ。

 イギリスキャプテン、エドガー・バルチナス。

 そしてアルゼンチンキャプテン、テレス・トルーエ。

 

「ソーだぜ! テレスもカッカしないでミーたちと観戦しようぜ!」

「ああ。特にイナズマジャパンにはカズヤの分まで頑張ってもらわなければならないからな」

「おう。ズババーンと任せてとけ!」

 

 それだけではない。それぞれアメリカのキャプテンと副キャプテンを務めるマークとディランや、イタリアに続いて決勝トーナメント進出を決めたジャパンの円堂や鬼道、不動や佐久間たちもいる。

 グループAの代表選手たちが集まっていることもあって、周囲にはかなりの人だかりができていた。

 

 円堂たちがここにいるのはフィディオの誘いが原因だった。

 テレスが帰るというから見送りに行こうという彼の提案を円堂が引き受けたのだ。そこに影山が捕まったという実感が湧かず、地に足がついていなかった帝国組三人が気を紛らわすにはちょうどいいとついていくことが決まり、同じく見送りに来た他のメンバーと合流して今に至る。

 

 テレスはディランたちにわずらわしそうにしている。しかしちょうどよかったというように円堂の前にやってくる。

 

「そういやエンドウ、お前にだけは伝えておきたいことがあったんだ。あの時は悪かったな」

「えっ、あの時って?」

 

 突然の謝罪に戸惑う円堂。彼にはテレスがいつのことを言っているのか覚えがなかった。

 

「ほら、ライオコット島に来たばかりのころにフィディオとジャパンエリアでゲームをやっただろ。あの時のことだ」

「あーあれか! でもお前が謝ることなんてあったか?」

「……俺はあの時フィディオしか見ていなかった。キーパーのお前なんて眼中になかったんだ。だが勝ち上がったのは俺たちじゃなくてお前たちだった。恥ずかしい限りだぜ」

「ああ本当だ。私もここで謝罪させてくれエンドウ。世界は実に広い。自分が井の中の蛙だったことを思い知ったよ」

「え、エドガーまで! よしてくれよ。一度サッカーをやったら俺たちは仲間だ。だから謝る必要はないぜ」

「ふっ……ならその言葉に甘えさせてもらおう」

 

 ガッシリとエンドウはテレスとエドガーそれぞれと握手する。そして世話話へと入っていく中、フィディオに向かって大きな声がかけられた。

 

「フィディオッ! フィディオッ、大変だよッ!」

「アンジェロ……? それにみんなも。どうしたんだそんなに慌てて?」

「ハァッ……ハァッ……にゅっ、ニュースを……ッ!」

 

 アンジェロたちは声を絞り出して情報を伝えようとする。しかしあまりに急ぎすぎたせいで喋る体力が残っていなかったようだ。

 その切羽詰まった雰囲気に押され、フィディオがケータイを開くと同時に——空港に取り付けられていた巨大テレビがとあるニュースを映し出す。

 

『——では次のニュースです。FFIイタリア代表の監督を務めていたミスターK氏が昨日トラックに衝突され、お亡くなりになりました』

 

 その言葉を、一瞬彼らは理解できなかった。

 何度も何度もフィディオはテレビの文字を読む。しかし認めることはできなくてアンジェロたちを見るも、彼らは目を伏せて首を振るだけ。

 それだけで、フィディオは理解してしまった。

 

「ミスターKが……」

「総帥が……死んだ……?」

 

 呆然と呟いたのは鬼道だ。彼はふらふらとおぼつかない足取りで歩くと、崩れるように椅子に座り込む。その尋常でない様子に円堂たちが彼の名を呼ぶ。

 

「鬼道!」

「総帥が……そんなっ……嘘だ……」

「鬼道っ! しっかりしろ!」

 

 円堂と佐久間の声も今の彼には届かない。

 彼の頭の中で影山との思い出が次々と巡る。

 幼少のころ才能を見出された時、雨でも雪でも厳しく指導してくれた時、初めてゴーグルをもらった時……。

 それら全てが巡り終えると、ガラスのように粉々に砕け散っていく。

 その耐えがたい喪失感は、彼の喉の奥を飛び出す。

 

「ぉぉ……おおぉぉぉっ……! うっ……ぁぁああああああッ!! 影山総帥ぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 その心の叫びに、円堂たちでさえもいたたまれない気持ちになる。オルフェウスのメンバーは堪え切れない涙を流し、フィディオは小さく、されど血が滲み出るほど拳を強く握る。

 

 しばらくその慟哭は続いた。

 声すら枯れ果てた時にようやくそれが終わる。そのころに多少彼の気持ちは落ち着いていた。

 円堂が声をかける。

 

「鬼道……」

「ああ……俺は大丈夫だ……」

 

 嘘なのは誰が見ても明らかだ。しかし誰もそれを言う者はいない。

 そのことに鬼道は心の中で感謝し、ゆっくりと立ち上がる。

 ここで泣いているわけにはいかない。悲しいのは自分だけではないのだから。

 

 しかしそう思った時、ハッと彼はあることに気づいた。そしてバッとフィディオとオルフェウスのメンバーに目線を向ける。

 いない……。

 震える声でフィディオへ問いかける。

 

「フィディオ……なえはどこ行った……?」

「ナエ? そういえば朝から今日は見なかったな」

「俺たちも見てないぜ」

 

 気づいてしまった最悪の事態に、彼の顔はどんどん青ざめていく。佐久間と不動も同じことが頭を巡ったようで、目を見開いた。

 

「探せっ! なんとしてでもなえを探すんだっ!」

「なっ、どうしたんだ!? 彼女がどうかしたのか!?」

「やつは……人一倍影山総帥に依存していた。死んだなど知ったら……最悪、自殺もありえる……」

「っ!?」

 

 全員の背筋に冷たいものが流れる。鬼道の顔を見れば冗談かどうかなんて一目瞭然だった。

 

 ——ナエが……死ぬ……?

 少女が血濡れで倒れている姿が一瞬浮かび上がる。

 その瞬間、フィディオは弾かれるように走り出した。

 

「フィディオ!」

「俺たちも行くぞ! 他のメンバーにも連絡を入れろ! 島中を隈なく探すんだ!」

「ちっ……さすがにこんな事態で島出るわけにはいかねえよな。俺も手伝うぜ」

「ああ。私もできる限り探してみせよう」

 

 慌ただしく全員は空港を出ていく。

 空は少女の心を表すように、雨が降っていた。

 

 

 ♦︎

 

 

「どこにいるんだナエ! 返事をしてくれっ!」

 

 勢いよく水溜まりを蹴りつけるたびに、水が飛び散らかって足を濡らす。服も靴も水をギッシリ吸い込んで鉛のように重い。それでもフィディオは必死に島中を駆け巡りながら叫び続ける。

 

 なえの捜索が始まって数時間は経っただろうか。

 あれからオルフェウスやイナズマジャパン、その他多くのチームを含む数十人が探し回っているも、発見したという報告はない。

 それが彼をさらに焦らせる。

 足を動かし続けるたびに鬼道の言葉が脳内で繰り返される。

 『最悪、自殺もありえる』。

 やらせない。やらせない! やらせないっ!

 無我夢中で足を動かし続ける。激しい雨で視界が塞がれるが、それでもガムシャラに走り続ける。

 彼自身、もはやどこに向かっているのかわかってはいなかった。しかし足が止まらないのだ。彼の意思とは別で、まるで導かれるように足は迷いなく道を突き進んでいく。

 

 そして彼がたどり着いたのは崖の上だった。

 切り立ったその端からは、普段なら綺麗な地平線が見えていたのだろう。

 

 ——そこに腰をかけて、彼女は座っていた。

 

「ナエ……」

「……」

「ナエっ!」

 

 声をかけるも、返事はない。彼女はフィディオには目もくれず波紋立つ海を眺めている。

 再度呼びかけると、ようやく彼女から声がした。

 

「……最初の時も、こんな雨だったの。こうやって待ってたらさ、総帥が昔みたいに迎えにきてくれるんじゃないかって……」

「ナエ……」

「……でも総帥はもう、いないんだよね……」

 

 そこで初めて彼女は振り返る。それを見てフィディオは言葉を失う。

 彼女の目には光がなかった。

 まるで宝石のように輝いていたのに、今ではただ深い闇のみが広がるばかり。かつて宿していた夢も希望も映されていない。

 その代わり果てた姿に、彼はどうすればいいのかわからなくなる。

 

「総帥が生きてれば頑張れるって思ってた……。でも、もう無理だよ……もう立ち上がれないよ……」

「なにを……?」

「……ごめん、フィディオ」

 

 その言葉の意味を問うよりも早く。

 ぐらり、と彼女の体が揺れる。

 そして次の瞬間、彼女は逆さになって崖から落ちた。

 

「ナエッ!」

 

 それに反応できたのは奇跡という他ないだろう。フィディオはつま先以外の全身を空中に放りやって、なえの白い足を掴んだ。

 

「離してっ! もう嫌なの! 総帥がいない世界に価値なんかない! 生きてる意味なんて私にはもうないのっ!」

「離さないっ……絶対にっ……!」

 

 歯を食いしばって、全身に力を込める。

 あのスピードを出せるだけはあって、彼女はフィディオの想像以上に軽い。しかしつま先だけで人間二人分の体重を支えることは、さすがの彼にも厳しい。

 それでも決して諦めず、ひたすらなえの足を握り続ける。

 

「ぐっ……ぅァァァあああああああっ!!」

 

 このままじゃ耐え切れない。そう判断して彼は賭けに出た。体をぶらぶらと揺らして遠心力を利用し、ありったけの力を込めて彼女を上に放り上げたのだ。

 それは日々の厳しい特訓によって磨かれた超人的な肉体のみがなせること。

 

「きゃうっ!?」

「ハァッ……ハァッ……」

 

 可愛らしい悲鳴が聞こえ、なえが無事崖の上に落ちたことを確認すると、彼は足の力だけでようやく崖を這い上がる。

 なえはしばらく呆然としていたが、キッとフィディオを睨みつける。そこには先ほど消えていた感情、怒りが見える。

 

「どうして……どうして助けたのっ!? お願いだよ、もう死なせて……! 早く総帥のところに行きたいんだよ……」

 

 しかしなえにはその怒りを燃やす燃料がなかったようで、怒声はしだいにかすれ声に変わっていく。そして戻っていた目の光も再び見えなくなってしまった。

 

 なえは心の底から死にたいと思ってしまっている。

 フィディオにはそれが痛いほどわかってしまった。もう彼女はこの世界に光を見出せなくて、絶望してしまっている。生きていること自体が苦痛なのだろう。そこから彼女を解き放つことができるのは『死』だけなのかもしれない。

 

 ——それでも……それでも俺は、君に生きていてほしいんだ……!

 

「違うよナエ。君がすべきことは死んでミスターKのところに行くことじゃない。生きてミスターKの意志を継ぐことなんだ!」

「総帥の意志ってなにさ!? 総帥はもう死んでる! 意志なんてあるわけないじゃん!」

「あるさ。君のその心の中に!」

「っ!」

「君がサッカーを愛し、生きていれば、それだけでミスターKは君の中に生き続ける!」

「……っ、それでも、それでも私は……っ!」

 

 なえは全てを拒絶するようにフィディオを押し退ける。しかしその瞳は揺れていた。

 言葉は確実に届いている。あと少し、あと少しなんだ……。

 その足りない部分を探し出そうと言葉を探している最中、彼の目にあるものが映り込む。

 

「あれは……」

 

 茂みの中に白と黒の何かが落ちている。

 それはボロボロのサッカーボールだった。

 っ、そうだ、これなら……!

 ここでそれがあったのはまさに天啓だった。凍り切った彼女の心。それを溶かすにはもうこれしかない。

 フィディオは急いでそれを拾い、なえの前に突き出す。

 

「……それは……?」

「ナエ、俺と勝負しよう。俺が負けたらもう君を止めたりしない。だけど、勝ったならどんなに苦しくても生きると約束してくれ」

「……正気? あなたも薄々気づいているんでしょ? 個人の能力だったら、私はあなたよりも確実に上ってことに」

「なにがあるかわからないのが、サッカーじゃないかな?」

 

 そのセリフに、一瞬フィディオの顔がなえの憧れの少年と被っているように見えた。

 ——もしこれで勝てば、ようやく私は……。

 しばらくなえは熟考する。

 負ける道理はない。フィディオはチームを率いる力ならなえを遥かに上回るだろう。しかしここに仲間はいない。個人としての能力なら、先ほど彼女自身が言ったように、なえの方が上だ。

 

「……わかった」

「よし。ならグラウンドに行こう」

 

 フィディオの後を追ってなえは歩き始める。

 雨は、少し弱まっていた。

 

 

 ♦︎

 

 

「ボールを真上に蹴り上げた時が開始の合図だ」

「……」

 

 静かになえは頷く。それを了承と受け取り、フィディオはボールを手に取った。

 

 なえは影山を失い、生きる意味を失ってしまっている。その心は凍てついていて、言葉だけじゃ崩しようがない。彼女を救うには、生きる理由、熱源が必要なのだ。

 それがこのボールの中にあるはず。彼女のボロボロのスパイクがそれを物語っている。

 

 彼は深呼吸を一度すると、思いっきりボールを上へ蹴り上げた。

 

 二人は同時に地を蹴り、空中へ跳ぶ。しかしジャンプ力はなえの方が上で、フィディオはあっさりと頭上を超えられ、ボールを取られた。

 

「ぐっ……まだだ!」

「……無駄だよ」

 

 着地後、すぐさま彼はディフェンスに回る。

 あのスピードを出されたらおしまいだ。密着して距離を潰そうとする。しかしなえの足捌きは想像を上回っていて、踊るように宙を飛び回るボールに彼はついていけていなかった。

 

「これなら……!」

 

 体を一回転させ、高速の後ろ蹴り。カテナチオカウンターに時に使っているヒールブロックだ。

 捉えた。そう思った時、彼女の姿が一瞬で消えた。

 

 上から指笛の音が聞こえてくる。

 

「……これで終わり。皇帝ペンギン零式

 

 その言葉とともに、桃色の閃光が放たれた。

 急いでフィディオはゴールへ走る。そして蹴り返そうとするが、閃光は蹴りが繰り出されるよりも早く近づいてきて。

 彼の顔面を、飲み込んだ。

 

「っ……!」

 

 その光景に一瞬、なえは手を伸ばす。しかし冷静になり、すぐに引っ込めた。

 ——これでいいんだ。これで私はようやく……。

 せめてこの後の惨劇を見ないようにと、彼女は背を向ける。

 その時、硬いもの同士がぶつかったような鈍い音が聞こえた。

 

「まだだァァァァアアアアッ!!」

「嘘っ……」

 

 フィディオはバーとポストに両腕をかけて、必死になえのシュートを受け止めていた。

 ボールは彼の顔面に当たったままだ。そうなれば当然、ボールの回転全てをそこで受け続けることになる。なえほどのシュートでそんなことをすれば……最悪後遺症が残る。

 それでもフィディオはそれに耐え続け、ボールを止めてみせた。

 

 コロコロと、ボールがなえの足元へ転がる。しかし彼女の目にそれは入っていない。彼女はフィディオだけを見つめていた。

 

「ぐっ……ナエっ、君にもまだ残っているはずだ! 生きる理由が! このボールがそれを教えてくれるんだ!」

「そんなものっ、あるはずが……!」

「あるさ。サッカーだ! 君はまだサッカーをしたがっている! その思いは十分に生きる意味になるはずだ!」

「う、うるさいうるさいうるさいっ!」

 

 濡れた髪を乱れ散らかし、なえは叫んだ。それはまるで子どもが認めたくないものを前にして癇癪を起こしているようだ。

 そしてその怒りのままにシュートが放たれる。蹴りが入った途端にボールは一瞬湾曲する。そして雨を巻き込み、螺旋状の突風となってゴールに迫る。

 

 フィディオはそれを足で受け止めた。

 ミチミチと筋肉の悲鳴が聞こえる。ぬかるんだ地面は彼を支えるのに不十分で、後方へ押しやられる彼につられて大きな溝を残していく。

 

「っ、死んだら……もうサッカーができなくなるんだぞっ!?」

「っ、そ……れは……っ!」

 

 限界まで足にエネルギーを注ぎ込み、彼はボールを蹴り返してみせた。

 ボールが今度はなえに迫る。しかし彼の言葉に気を取られ、ボールを弾いてしまう。

 フィディオはその隙を見逃さなかった。なえを通り越して、それを回収する。

 そこでようやく攻守が逆転した。

 

「思い出せナエっ! 君がサッカーに注ぎ込んできた情熱を! 心の中に残る、生きる意味を!」

「っ、デーモンカットV2!!」

 

 ——頼む、俺の足! 今だけでいい……俺にナエを救う力をくれっ!!

 

 その思いに応えるように魔法陣が展開されていき、かつてないほどの光の粒子が足へ集い始める。

 その光はデーモンカット越しのなえにも見えていた。そしてその圧倒的なエネルギーの奔流に影響されて、フィディオが立っている場所だけ雲が裂けて、光が差し込む。

 

 一瞬の静寂。

 そして全てを解き放つように彼は、ボールを蹴った。

 

真……オーディンソードォォォォッ!!!」

 

 巨大な黄金剣が炎の壁を貫き、なえの胸に直撃する。そのあまりの威力になえはどんどんゴールへ押されていく。

 しかし不思議と痛みはない。代わりに伝わってくるのは燃えるような熱。

 

 ふと、いつかの記憶が蘇る。

 FFの決勝戦の最後。イナズマブレイクを受けて、その時感じたもの。この熱はそれに似ていた。

 

 ——……そうだ。あの時感じた気持ちは……。

 

「サッカーやりたい……だったけ……」

 

 なえは体から力が抜ける。

 そしてオーディンソードが、ゴールを貫いた。

 

 倒れ伏した彼女は、しかしどこか満足そうな笑みを浮かべていた。

 フィディオはそっと手を差し伸べる。それを掴み、彼女は立ち上がる。

 

「ナエ……」

「……やっぱり私、死ねないよ。私はもっとサッカーがしたい」

「本当か!? って、うぉっ!?」

 

 喜ぼうとしたのも束の間、なえが体に抱きついてきた。

 ほんのりと甘い香りがする。

 顔を赤くして混乱していると、囁くように彼女の声が聞こえた。

 

「ごめん……でもまだ心の整理がつかないの……。だからちょっとの間、こうさせて……」

「……ああ」

 

 掠れるような泣き声が延々と聞こえてくる。

 フィディオは頭を撫でる。それだけで決壊したように、なえは泣き出す。

 

 雨は、いつのまにかやんでいた。

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