悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「では、データを解析するぞ」
響木監督はUSBをパソコンに差し込むと、ミーティングルームのスクリーンにそれが表示される。
それを、私はイナズマジャパンのみんなと眺めていた。
ガルシルド邸から脱出したあのあと、私たちは特に襲われることなくジャパンエリアの宿舎までやってくることができた。
それを響木監督に渡して今見ようとしてるってわけだ。
ちなみに席は最後尾でぼっち状態である。
仕方ないじゃん、所属が違うんだからちょっと気まずいんだよ。鬼道君とかシロウの横に行こうと思ったけどちょうど全部埋まっちゃってるし。
円堂君? 彼がぼっちなわけないでしょ。
おまけに鬼道君の横座ってるのは、あの不動だし。なにしれっといるんだよ。お前孤高の反逆児なんだからぼっちしてろよ。
話が脱線しちゃったな。
スクリーンに色々なデータが表示される。
「響木監督!」
「ああ。お前にもわかったか」
「いいえ、なに書いてあるかさっぱりわかりません!」
ガクッと響木監督がうなだれる。
まあ中学生に理解できる内容ではないしね。案の定一部を除いてみんなは円堂君のように疑問符を浮かべていた。
ヒロトはともかくメガネ君が「なるほど」とか言ってるけど、地味にすごいなあの人。
響木監督は仕方ないというように、わかりやすくデータの内容を教え始める。
「まずこいつは油田のデータだ。ガルシルドが経営するオイルカンパニーのな」
「……なんか、どれもすごい右肩下がりになってますね」
「そこはさすがにわかるか。ああその通りだ。油田から取れる石油の量が急速に減少している」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!? これじゃあピーク時の25%もないじゃないですか!」
メガネ君が驚きながら叫ぶ。
響木監督は頷きながら続ける。
「そうだ。ガルシルドの油田は枯れかけている。おそらくこれからはほとんど取れなくなるだろう」
「あのー響木監督。その油田が悪事とどう関係があるんですか?」
「関係大ありだ。こいつを見ろ」
開かれる前にちらっと見えたファイル名には兵器生産量という文字が見えた。それがクリックされ、何かのデータが数字とアルファベット、グラフ付きで表示される。
円堂君がまゆを寄せてしわを作る。
「響木監督。英語はちょっと……」
「はぁ……こいつはアルファベットであっても英語じゃない。兵器の名前だ」
まあM56とかB2とか円堂君にわかるわけないよね。ちなみに前者は戦車、後者は爆撃機である。
なおも疑問符を浮かべている彼に、ヒロトが助け舟を出す。
「円堂君。ガルシルドは兵器を開発しているようなんだ」
「そーそー。それも私が持ってるこんな豆鉄砲みたいなやつじゃないよ。一瞬で敵を壊滅させられる戦略級兵器って言えばいいかな」
太もものホルダーから黒光りするそれをぷらぷらとかかげる。
「ひっ」という声がいくつか聞こえた。
「なえ。ふゆっぺとかはそういうの慣れてないんだ。だからな?」
「あーそっか。ごめんごめん、慣れてない人がいるの忘れてたよ」
「私たちは慣れたくなかったですけどね……」
「あはは……」
ふゆっぺ? ちゃんを除いたマネージャー組が苦笑いを浮かべる。
そういえば夏未ちゃんがいないな。まさか家事スキルがあまりになくてお役御免になったのか。あの子のツッコミが聞けなくなるのはちょっと残念だ。
ちなみに私の中の各マネージャーの役割は
秋ちゃん→家事
春奈ちゃん→情報収集
夏未ちゃん→ツッコミ
である。
ここにふゆっぺちゃんが入るわけだから……あの子はたぶんボケ属性だな。おっとりした顔してアホみたいなことを言うのだろう。
「あの人……私を見てる……?」
「あー見ちゃいけませんよ。冬花さんにはちょっと刺激が強すぎますから」
春奈ちゃんがふゆっぺ……じゃなくて冬花ちゃんの顔をくいっと横に向ける。
「それにしてもこの量の兵器……ガルシルドは戦争でも起こす気か?」
「そうなんじゃねーの? 戦争やったら儲かるのはそいつなんだからよ」
鬼道君の呟きに不動がさらっと答えを言った。
憎々しいけど……相変わらず頭の切れるやつだ。私と同じ沼に浸かってた分、そういった悪意には敏感なのかも。
彼の言葉にハッと鬼道君は顔を上げる。
「そうか……戦争をするには大量の石油がいる。つまり戦争を起こせばガルシルドの枯れかけた油田でも莫大な利益を得ることができる……!」
「それだけじゃねえぜ。戦争に使う兵器まで作って売り出せば、やつの気分次第で戦争をコントロールできる」
「それはつまり……世界を征服したも同然というわけか」
『せ、世界征服!?』
みんなが驚くのも無理はない。私だってぶっ飛びすぎていまいち実感できてないくらいだ。
アニメとか漫画でならそういった言葉をよく聞いたことがある。しかしこれは現実なのだ。リアルで、それも大人になってこんなバカげたことを真剣に考えたことがある人が果たしてどれほどいるだろうか。
まったく、厨二病も大概にしなよあのクソジジイ。
「FFIもおそらくガルシルドの計画の一部なのだろう。最近、このサッカーで各国首脳の間が緊張していると聞く」
「それもガルシルドのせいでしょうね。どーせあのクソ野郎のことだし、裏で各国の対立の火種を煽ってるに違いないよ」
使えるものはなんでも使う。それがガルシルドという男だ。
やつにはサッカーへの愛情なんて欠片もないのだろう。そんなのがこの夢の大会のトップって言うんだから、腹が立って仕方がない。
他のみんなも同じ気持ちなのだろう。みんなやり切れなさそうな顔をしている。
土方が怒りに肩を震わせ、机を殴る。
「くそったれっ。なにが『私の愛するサッカーによる全世界平和を願う』だ! 真逆もいいところじゃねえか!」
もう一度拳を振り下ろそうとして、急に彼の腕が止まる。
その横からすさまじい怒気を感じたからだ。
目を瞑り、円堂君は静かに怒っていた。
そこから背筋も凍るように迫力が発せられており、誰もが言葉を失う。
「許せない……! 俺たちの大好きなサッカーを、そんなくだらないことのために汚すなんて……っ!」
……ガルシルドは私たちの、いや世界中のサッカープレイヤーたちの夢を踏みにじった。
だから絶対倒さなければならない。
総帥も……たぶんそれを望んでいるはずだ。
暗くなった雰囲気。それを払拭しようとしたのか、メガネ君は無理に明るそうな声を出す。
「でもよかったじゃないですか! これでガルシルドを逮捕することができますよ!」
「へっ?」
呆けたような顔を円堂君は浮かべる。
彼は得意げに話を続ける。
「だってその証拠がここにあるじゃないですか! これを警察に届ければきっとガルシルドを逮捕できます!」
「そ、そうか!」
「じゃあブラジル代表のやつらも助かるのか! よっしゃあ!」
彼がそう言い終えるのを皮切りに、どっとミーティングルームが明るい声で満ちる。
土方なんてさっそくブラジル代表の人たちに知らせようとしてる。
たしかにメガネ君の言うことは正しい。それに盗んだデータの中にはそれ以外の犯罪の証拠もあるはずだ。普通の犯罪者だったら捕まること間違いないだろう。
……そう、普通の犯罪者だったらね。
「たぶん、それは無理だよ」
明るくなった雰囲気をばっさり切るように、断言する。
一瞬、静寂が訪れる。
「ど、どうしてですか!? 現に証拠ならここに残ってるじゃないですか!」
「そこにあるのは結局ただの油田と兵器開発のデータだよ。あとはほとんど軽犯罪。金を払えば解決できるものばっか」
「で、でもこれを見れば誰だってその意図に気がつきます!」
「でもそれはあくまで予想なんだよ。過去に起こったわけでも計画書が出てきたわけでもない。未然犯罪とでも言えばいいのかな」
さらに私は続ける。
「それにガルシルドはたぶん警察にも手を回してる。単に提出するだけじゃ握りつぶされておしまいだろうね」
「そんな……」
はぁ、一気にまたお通夜ムードになっちゃった。
みんなにはあんまりこういった社会の闇を見せたくなかったんだけどね。ぬか喜びさせるのはかわいそうだから。
さすがにこれだけじゃ不安しかないと思うし、今後の具体的な目標だけでも教えておくか。
「みんな聞いて。ガルシルドを逮捕するのに必要なデータは二つ。一つはRHプログラム。もう一つは過去やつが行った重犯罪の証拠だよ」
「RHプログラム? なんだそれ?」
円堂君が初耳と言わんばかりに聞いてくる。
「人間をお手軽に強化する技術だよ。電極とか指して特定の電流を流すだけで、簡単に人間を強化できるってわけ」
「なっ……そんなの人体実験だろ!」
「そう。この技術は非人道的な実験が何回も行われてる。実際に死んじゃった人もいるみたいだし、これだけあればかなりやつを追い詰められるね」
私が受けたプロトタイプとか死亡率99%だしね。というか私以外は全滅だった。まあ特訓に銃とか地雷使う時点で頭おかしいしね。今思えばよく私生きてたな。
プロトタイプだけでもそれだけ犠牲が出てるんだし、新型もかなり死んでるに違いない。犠牲者には悪いけど、あのクソの罪を重くするため、できる限り死んでてほしいものだ。
「それで二つ目。これはやつが今まで行った重犯罪の証拠」
「重犯罪? えーと……」
「たとえば、殺しとかね」
「っ!?」
予想外の言葉だったのか、彼らは驚いた顔をする。
うーん、兵器開発してる時点で察してると思ってたけど。
「ガルシルドって腐っても大企業の社長なんだろ? そんな殺しなんてするのか?」
「やってるさ。現に最近だって一人殺されてるじゃん」
「っ、まさか……!」
私の言葉に思い当たることがあったのか、突如鬼道君は青ざめた顔で私を見てくる。
「総帥の死。あれは間違いなくガルシルドの手によって行われたものだよ」
「……くそっ……!」
「鬼道……」
何かを喋ろうとして、しかしそれは言葉にならず、行き場を失った怒りで彼は机を叩く。
彼にとってもこの事実は大きいだろう。しかし今の彼は一人じゃない。円堂君たちがいる。だからこのことも受け止められると思って、話すことにした。
それは正しかったようで、彼はしばらく俯いたあとに円堂君たちといくつか言葉を交わし、いつもの顔付きに戻っていた。
その円堂君は、今度は私に問いかけてくる。
「もしかして、お前がガルシルドを追う理由って……」
「まー、正解かな。でも安心して。殺すつもりはもうないよ。私は総帥の意思を継いでサッカーをしなきゃいけないからね」
「……そっか。だったら俺はできる限りお前に協力するぜ。昨日の敵は今日の友達だ!」
「えっ……酷い、円堂君……今まで私のこと友達って思ってなかったの……?」
「えぇっ!? いやこれはそのっ、言葉のあやというか……!」
私がショックを受けたみたいに目をうるうるさせると、彼はあたふたと慌てだす。
ふふっ、純粋だなぁ。他の人は私の演技に気づいているようだけど、ニヤニヤしたりヤジを飛ばしたりして同じくからかっていた。
「くふふっ、冗談だよ冗談。言葉にしなくてもボールを蹴り合った時から私たちは友達だもんね」
「……それだと、帝国戦の時からずっと友達って思ってたってことッスかね」
「うししっ、あれだけ敵対しといて友達名乗れるってすげえ頭してるよなぁ」
「そこ、うるさいよ」
それにお気に入りの友達にはイタズラしたくなるものでしょ。まあ大半のちょっかい(試合)は総帥の意思だったけど。
まあそれはいいとして。
「私は今度ガルシルドの屋敷にまた入ってみることにするよ。データがなきゃどうにもならないしね」
「じゃあ俺たちも……」
「それはダメ。円堂君たちはもうすぐ試合でしょ?」
「うっ……」
正直彼らがいても足手まといだしね。
再潜入するガルシルド邸の警備は、たぶん今日とは比べ物にならないほど強化されているはず。万が一見つかったら今度は私でも守れる保証がない。
しかし仲間思いな円堂君のことだ。こっちがどうしても心配なようで、納得しきれていない様子。
「だけど、お前だって俺たちより早くに次の試合があるだろ?」
たしかに私は三日後にコトアール代表との試合を控えている。
だから今日中に片付けたかったんだけど、そうも言ってられなくなっちゃった。
「もちろん潜入はその後にするつもりだよ。さすがに時間を空けとかないとあっちの警戒心も下がらないだろうし」
「それでも、やっぱり心配だ」
むー。やっぱり納得してくれないか。他人を放って置けないのは彼の美点だけど、今回はちょっと困るかな。
他の人にならまだしも、円堂君にはっきり足手まといと言う勇気は私にはない。だから別の理由を探していると、久遠監督から声がかかってきた。
「そこまでだ円堂。私もお前がついていくことを認められない」
「か、監督、でも……」
「円堂。お前が今すべきことはなんだ。……世界を取るためだ。お前たちの背には、お前たちを送り出した全日本人の夢が乗せられている。ならば選ばれた者、代表として今はその責任を果たせ」
「監督……」
「その通りだよ円堂君。私たちの最終目的はあくまで世界一。だったら、ガルシルドなんか気にしてる暇はないんじゃない?」
それに、私だって決勝での再戦を楽しみにしているのだ。上がってきてもらわなくちゃこっちが困る。
それでもまだ悩む円堂君の前に、鬼道君と豪炎寺君がやってきた。
「ガルシルドなんか、か……。あのガルシルドをあそこまでぞんざいに言うのはアイツらしいが、確かにその通りだ。俺たちには犯罪者などに構っている余裕はない」
「ああ。それでも何かしたいと言うのであれば、まずはやつが率いるブラジル代表を倒すのが先だ」
「……わかった。まずは打倒ブラジルだ! ガルシルドの件はなえ、お前に任せたぞ!」
ようやく迷いが吹っ切れたようだ。これなら彼はいつも通り突き進んでくれることだろう。
……私も、まずは目の前の敵を倒さなくちゃね。
彼の頼みに私は頷く。
そうしてしばらく話し合ったところで、今日は解散となった。
兵器の名前とかは適当にネットから拾ってきました。作者、剣とかの中世あたりの武器や武術の本はけっこう持ってるんですが、現代兵器は詳しくないんですよね。なのでなにか間違ってても生暖かい目で見逃してください。