悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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必殺の『●●落とし』

「失礼します」

 

 声がしたあと、自動ドアが開いて鬼道君が執務室に入ってくる。

 私は相変わらずいつもの位置に座っていて、パソコンとにらめっこしていた。

 

 彼はそんな私を一瞥すると、視線を横にずらす。

 そこには総帥が肘をついて、まるで魔王のごとく堂々と座っていた。

 

「何の用だ鬼道」

「俺は堂々と戦いたいのです。今日の試合、何も仕組んでいませんよね」

 

 それは質問というよりも確認だった。

 総帥はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開く。

 

「……今まで通り、私に従えばいい」

「っ……!」

 

 返って来たのは答えになっていない言葉だった。

 あるともないとも言っていない。

 でも鬼道君はそれだけで察したようで、すぐに踵を返して退出しようとする。

 その背中に追い打ちのように総帥の言葉がかけられる。

 

「天に唾しても自分にかかるだけだ」

 

 その脅しに鬼道君は足を止めることはなかった。

 背中が遠ざかったところで自動ドアが世界を二つに分け、彼の姿は見えなくなった。

 

「『天に唾しても自分にかかるだけ』か……。ずいぶんなヒントじゃない、総帥?」

「卒業試験のようなものだ。合格すれば私の教育の正しさが証明され、不合格ならば計画が順調に進むのみ。どちらに転ぼうがさして影響はない」

 

 鬼道君はたしかに優れた選手だ。

 でも、総帥が必要とするのは命令に逆らわない忠実な僕。そういう意味では彼は不合格だったというわけだ。

 

「さて、私ももう一働きするか」

 

 もう一働きって、普段椅子に座っているだけじゃん。

 そんな文句はともかく、総帥自ら動くだなんて珍しい。グラサンのせいで目は見えないけど、歪んだ口元からなんとなくゲスいことを考えているのがわかる。

 

「何しに行くの?」

「なに、鬼道のことを少し円堂守に聞かせてやるだけだ。果たしてやつは鬼道の家庭事情を知って、全力で戦っていられるかな」

「あれ、それもうとっくに教えちゃったんだけど……」

「……」

 

 立ち上がリーヨしていた総帥の体が再び革の椅子に落ちる。

 辺りに気まずい雰囲気が流れた。

 

 や、やばい、これ久しぶりにやらかしちゃったかも。

 何か強引でもいいから話を逸らさないと。

 

「ね、ねぇ。勝ち負け関係ないんだったら、今日の試合は自由にやっちゃっていいの?」

「好きにしろ」

「やったー!」

 

 投げやりなその言葉にオーバーなぐらいのリアクションを取る。

 そして勢いに身を任せて手をブンブン振りながら退出した。

 

 はぁー、おっかなかった。

 でもここまで来れば大丈夫なはずだ。

 

 さて、気持ちを切り替えてアップをしなくちゃ。

 そう思い、小走りで廊下を渡っていると、佐久間と源田にばったり出くわした。

 今まで走っていたらしく、二人の息は荒れている。

 

「二人とも、どったの? そんなに息を荒くして」

「はぁっ、はぁっ……鬼道の言う、総帥の罠ってやつを探していたんだ。お前の方はどうだ? 何か手がかりは見つかったか?」

「うーん……パソコンで監視カメラとか隅々までチェックしたけど、不自然に増設されてたり変なものが置かれてたりはしてなかったよ。ここまでくるとお手上げって感じ」

 

 源田から確認されるが、もちろん正直に話すつもりはない。

 今日彼らは共に戦うチームメイトなのだ。試合前に不信感を持たれてしまっては連携が取れなくなってしまう。

 

「そうか……」

「どうする源田? 試合まであと一時間もないぞ。このままじゃウォーミングアップの時間を取れなくなる」

「くっ……どうすれば……」

「お前らはウォーミングアップに行け」

 

 源田が唸っていると、横から突然現れた鬼道君がそう指示してきた。

 お、おう、いつの間に……。

 急に出てくるの、心臓に悪いからやめようね。

 

「安心しろ。俺が残って罠を探す」

「危険だ! お前一人に探させるなんて!」

「源田、冷静になろうよ。たぶんこのまま数任せで探しても見つからないと思うよ。ならここは一番頭が切れる鬼道君に任せて、私たちは試合の準備をしていた方がいい」

「だが……っ!」

「私たちは帝国学園なんだよ? 試合でいざというときに力が出せなくて、無様を晒すつもり?」

 

 うむ、自分で言うのもなんだけど完璧なロールプレイだね。これなら誰も疑いはしないでしょう。

 

 帝国学園という言葉に誇りを持っている彼らは、それに泥を塗りつけてしまうような言葉に弱い。

 源田もその例に漏れず、金看板を出してあげただけで怯んだ。

 

「くっ、仕方がない……。急いでみんなに連絡して、ウォーミングアップをするぞ!」

 

 私は源田たちと一緒にみんなに声をかけることとなった。

 やがて鬼道君を除いた全員が集結し、各々がグラウンドでウォーミングアップをし始める。

 けど試合開始直前になっても、鬼道君が帰ってくることはなかった。

 

 リフティングをしながら、雷門側のコートを見つめる。

 円堂君がいつもと同じ気合十分な顔で染岡からのシュートを受けていた。

 あの様子なら力が出せないなんてことにはならなさそうだ。

 

 他のメンバーを見ると、壁山のお腹を宍戸が何やらくすぐっていた。

 耐えることができず、壁山は笑いながらボールを勢いよく真上に蹴り飛ばしてしまう。

 

 そのとき、ガシャンという音が上から響いてきた。

 ……あ、やばい。

 

 天井から、遠目では銀のしずくのように見える何かが複数、ボールとともに落ちてくる。

 でもそれは液体なんかじゃなくて金属製のボルトだった。

 

 総帥の命令で緩くしてたからなぁ。ボールが当たった衝撃で取れたのでしょうね。

 

 いつのまにか鬼道君が入場口に立っていた。その視線は上に向けられている。

 こりゃ、バレたね。でも安心でもある。

 これで、ようやくサッカーができる。

 

 

 審判に声をかけられて、二つのチームが入場口で二列に並んだ。

 帝国側の先頭はキャプテンである鬼道君、その後ろが私だ。

 私が身に纏っている天鵞絨(びろうど)色のユニフォームには『10』という数字が刻まれている。

 

 ふと、隣にいた豪炎寺君と目があった。

 無表情ではあるものの、その瞳からはメラメラと熱い何かが伝わってくるのを感じる。

 

 思い返すのは帝国と雷門が初めて戦ったあの日。あのときはシュートを撃ち返されちゃったけど、今度はそうはいかないよ。

 不敵な笑みを浮かべながらも、目だけは鋭くする。

 この思いが伝わったのかどうかはわからない。

 

 大歓声の中、グラウンドに全員が上がる。

 センターラインを間に、改めて雷門と帝国の両チームが相対した。

 

「今日こそ決着つけてやるぜ、鬼道! それになえも!」

「円堂、時間がないからよく聞け。ホイッスルが鳴ったあと、すぐにセンターサークルから離れるんだ」

「えっ、どういうことだ?」

 

 鬼道君の忠告に、やる気に満ちていた円堂君に疑問符が浮かび上がる。

 やっぱり気づいていたみたいだね。それでこそ鬼道君だ。

 誰にも見えないよう心の中で笑みを浮かべる。

 

「詳しく説明している暇はない。だが、これも総帥の罠なんだ」

「でもよ、センターサークルから離れたら先手を取られちまうじゃねえか!?」

「染岡、円堂! 鬼道さんはそんな嘘をつくような人じゃない! 信じてくれ!」

 

 染岡の言葉に他の雷門の選手たちも同意するが、それに反論したのは元スパイの土門だった。

 裏切り者までも惹きつける魅力か。

 彼はいいチームに出会えたようだ。

 うちじゃ即刻死刑ものだもの。もちろん暗部の話だけど。

 

 円堂君はしばらく唸っていたけど、やがて力強く鬼道君に頷いた。

 

「わかった! 俺は鬼道を信じる!」

「円堂……ありがとうな」

 

 鬼道君と円堂君が固く握手を交わした。

 それを皮切りに、次々と雷門側の選手たちと握手をし続け、それぞれのポジションにつく。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 これが今日のスタメンだ。

 攻撃と防御をバランスよくとったフォーメーション『デスゾーン』。

 

 でもそんなこと今はどうでもいい。私をはじめ帝国学園全員がセンターサークルに注目していた。

 ボールは雷門から。なので一番先頭の私もセンターサークルにはいないため危険はない。

 

 そして運命のホイッスルが、鳴った。

 

 ——途端に轟音が響き、天井からいくつもの巨大な鉄骨が落ちてきた。

 

 あまりの衝撃に大きな砂煙が巻き上がる。

 グラウンドにはまるで死体に突き刺さった剣のように、鉄骨が縦にめり込んでいる。

 

『鉄骨落とし』。

 暗部では密かにそう言われている、総帥が得意とする妨害工作の技だ。

 

 いや、ここまで来たら妨害ってレベルじゃないな。

 殺人だ。

 昔から暗部にいたやつらが言うには、実際にこれをくらって何人も死者が出ているらしい。

 

 湧き上がる悲鳴。観客席は瞬く間に凍りついた。

 帝国のみんなも顔を青くしていた。

 そんな中、私と鬼道君だけは依然として砂煙の奥を見つめる。

 

 やがて煙が晴れていく。

 鉄骨の下には誰も下敷きにはなっていない。

 

 現れたのは、無傷の雷門イレブンだった。

 

「あーよかったぁ。これでようやく試合ができるね!」

「ああ。だがその前にやるべきことがある」

「やるべきこと?」

 

 問いの答えを聞く前に、入場口から複数の警察が走ってきた。その中心にはいつか見た雷雷軒の新聞おじさんもいる。

 

「試合は一旦中止だ! 選手たちもグラウンドから出てくれ!」

「刑事さん!? どうしてここに?」

 

 ふぁっ、刑事!? 警察関係者を通り越してさらに上の人じゃん! 

 やっべえ、超逃げ出したい。

 でもそんなことをすれば捕まるのは確実なので大人しくしておこう。

 

 幸いやっこさんは私には目を向けずに、円堂君と話している。この様子じゃ私の件はまだバレていないだろう。

 

「やるべきことと言ったら決まっている。みんな、総帥のもとに行くぞ!」

『おうっ!!』

 

 わーお。

 鬼道君を先頭に帝国のメンバーが怒りの表情を浮かべながらゾロゾロと歩いて行く。

 まるで戦争にでも行くかのようだ。

 

 その最後尾には円堂君と雷雷軒の店員さんも参加していた。

 しょーがない。

 取り残されまいと、私は急いでみんなのあとを追うことにした。

 





 原作との背番号の変更

 鬼道:10→7
 咲山:7→17
 本来の7番は咲山ですが、正直言って影が薄いのでそこまで影響は出ないと思います。

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