悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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小さき巨人、秘めたる力

 ホイッスルが鳴り、かかとでバックパスをナカタに出す。

 戦況は1対0。おまけに敵キーパーのロココは一人じゃ太刀打ちできない。この状況を突破する鍵になるのは『ネオ・ギャラクシー』だけだろう。

 ナカタを頂点とし、逆三角形のような陣形になりながら、私たちは前に進む。

 

『これは華麗だ! オルフェウス、鮮やかなパス回しで一度もボールを触らせていません!』

 

 近づかれたら二人のどちらかへパス。それを前進しながら高速で繰り返し、どんどん敵陣へ潜入していく。

 しかし相手もバカではない。敵コートの中盤ぐらいまで行ったところで、私がボールを持っている時に二人の壁が立ちはだかった。

 すぐにボールを出そうとして、気づく。他の二人にもマークがついていることに。

 

「あなたは通しませんよ!」

「ご自由にどうぞ。私も通る気はないし」

 

 足の外側、つまりアウトサイドでボールを横に流す。そこにいるのはアンジェロちゃん。敵さんは四人も固まっていたことで、あっさり彼に抜かれてしまった。

 しかし敵はまだいる。アンジェロちゃんの正面から、突風を纏いながら迫る選手が一人。

 あの青バンダナは……たしかウィンディだったっけ。陸上競技のフォームで走る姿は風丸そっくりだ。そしてその速さも。

 

「遅い! 分身ディフェンス!」

 

 ただでさえ速いウィンディが三人に分裂して、襲いかかってきた。

 あのスピードじゃ、回避はまず難しいだろう。アンジェロちゃんは小回りは効くけどスピードが突出してるわけじゃない。

 でもまあ、()()があるから大丈夫でしょ。

 その予想通り、アンジェロちゃんは腕を天に掲げ、指を弾いた。

 

 その瞬間、世界が色を失う。

 

ヘブンズタイム

「……ハッ、いない!? ……って、うぉぉっ!?」

 

 気がついたらウェンディは何もないところにタックルをしかけていて、アンジェロちゃんはそんな彼の後ろにいた。

 ポカンとした表情を浮かべるウェンディ。彼は状況を理解することなく、アンジェロちゃんが立っていた場所から発生した竜巻に呑まれ、吹き飛ばされていった。

 

 いやー、なかなかの掘り出し物だったね。

 『ヘブンズタイム』はもちろん私の美容の師匠アフロディの技。でも私だって適性がないだけで原理くらいは理解しているのだ。伊達にゼウスのキャプテンやってたわけじゃない。

 それでコトアール戦前に悪ふざけであれ教えてたら、なんと彼には適性があったことが判明した。それからは大忙し。急ピッチで仕上げたから、まだまだ粗いところはあるけど、うまくいってよかった。

 

 コーナー付近までたどり着いたところで、アンジェロちゃんがセンタリングを上げる。それを誰よりも高いところで私が受け取り、ナカタへパス。

 

 そして、ペナルティエリア前で三人が揃う……前に、地面に大きな亀裂が走る。

 

グランドクウェイクッス!」

「ぐっ、分断された……!?」

 

 突如ナカタと私たちの間の地面から泥の壁が噴き上がった。それに巻き込まれ、体が宙に放り出されたあと、地面に叩きつけられる。

 これは……あの壁山みたいなセンターバックのせいか。

 顔をしかめていると、ロココが話しかけてくる。

 

「悪いね、夏未の分析と作戦のおかげで君たちの技は対策済みだよ。僕としては受けてみたかったんだけど……負けてはいられないからね」

 

 お嬢ぉぉ!!

 なに敵に回った瞬間に強化されてるんですか!? あなたつい最近までクソ不味いおにぎり握るだけの癒し担当だったじゃん!

 そんな能力あるんだったら、エイリア戦で活かしてほしかったよ……。

 そんな私の嘆きを察したのか、目を合わせたとたん気まずそうに髪を弄り始めた。おまけに目も逸らされてるし。

 

 私たちが立ち上がり、戻ってくるまで待っている時間はない。その間にも敵はどんどん集まってくる。

 そう判断したようで、ナカタは即座にシュート体勢に入った。

 

ブレイブ……ショォォォットォォォォッ!!」

 

 オーバーヘッドで蹴られたボールが輝き、青い流星が流れる。

 

ゴッドハンドX!」

 

 しかし、それですら赤き神の手を撃ち破るには至らない。

 流星は手に衝突した途端に回転を止め、黒煙を出してロココの手の中に収まってしまう。

 

「もう一点だ! いっけー!」

「全員、カテナチオカウンター準備! 急いで戻るんだ!」

 

 再び打ち上げられるボール。そこから猛攻が始まり、どんどんオルフェウスコートが侵入されていく。

 さっきと同じパターンだ。でも、何度もはやらせはしない。

 ボールを追い越すほどの勢いで戻ってきて、敵の前に立つ。

 

デーモンカットV2

エアライド! ……がっ!?」

 

 私が出した紫色の炎の壁に、さっきのボールサーフェンが激突。

 サーフェンはものすごい勢いでも、乗っている人は生身だ。ゆえに激突した時、真っ先に投げ出されたのはドラゴだった。しかしその衝撃は凄まじく、意図しない場所にボールが弾かれてしまう。

 それを敵のゴーシュが拾う。

 

「よくやったナエ! これでカテナチオカウンターが発動できる!」

 

 ギリギリ間に合ってよかった。ゴーシュの周りをみんなが取り囲む。

 発動されるのは、もちろん……。

 

カテナチオカウンター!」

「っ!」

「ダンテ!」

 

 ボールを奪ったフィディオがセンターサークル内にいたダンテにパスを出す。時間稼ぎをやってて私が上がれていないからこその選択だろう。

 すぐに前線に上がるために足を動かそうとして、さっきボールを取られたゴーシュが気になることを呟いた。

 

「カテナチオカウンターか……。たしかにすごい必殺タクティクスだ。だがまだ足りない」

「……なにが言いたいの?」

「見せてやるってことさ! 最強の必殺タクティクスを!」

 

 カテナチオカウンターを超える必殺タクティクス。そんなものが本当にあるの?

 私が知ってる限り、カテナチオカウンターは最強だ。まず人数が八人もいるし、発動速度も防御力もトップクラス。おまけに名前の通りカウンターにつなげられて速攻性もある。

 あちらがカテナチオカウンターを過小評価してるとは思えない。あれくらいの実力者だったら正確に私たちの実力を測っているはず。

 考えていたその時、ロココが大きな声で指示を出した。

 

「マキシ今だ、指示をお願い!」

「いくぞみんな、必殺タクティクス——サークルプレードライブ発動!」

 

 なに……あれ……?

 それは不思議な必殺タクティクスだった。

 まず八人が一瞬でダンテを円状に囲い込む。ここまでは普通だ。

 しかし、彼らは緑色のオーラを纏うと、風を巻き起こそうとするようにダンテの周囲をグルグルと走り始めた。それはだんだんと加速していき、やがて選手たちの姿が見えなくなる。そのころになると、彼らはもはや緑色の竜巻と化していた。

 

「ぬぉぉぉぉっ!?」

「ダンテ!」

「……あの竜巻、動いてる……」

「なんだって!?」

 

 見間違いなんかじゃない。竜巻は明らかにこっちに向かって移動してきていた。

 何人かの選手たちがそれを食い止めようと体当たりをしかける。しかし効果はまるでなく、全て弾かれてしまう。

 それは私たちも変わらない。

 

デーモンカットV2! ——きゃぁっ!?」

「ナエっ!」

 

 進路上に紫炎の壁を設置するも、まったく意味がなく、私は竜巻の中に飲み込まれてしまう。

 前後左右がわからない。まるで体をシェイクされている感覚。激しい風で体が様々な方向に力が加えられているのを延々と感じながら、竜巻の中を彷徨い続ける。そうやってボロ雑巾のように体をめちゃくちゃにされたあと、私は放り投げられた。受け身も取れず、歪な体勢で地面に激突してしまう。

 

 立ち上がろうとして、酷い吐き気が襲いかかってくる。

 ぐ……三半規管を狂わされたせいで、酔いが来てるんのか……。

 とてもじゃないが、数秒で立つことは無理だった。

 

 竜巻はあらゆる障害を弾き、ようやく止まる。

 ダンテは状況把握しようと周りを見渡し、そして驚いたような表情を見せる。

 そこは、ゴール前だった。

 袋小路に追い詰めた獲物を狩るように、リトルギガントが動き出す。

 

ダブルサイクロン!」

「ぐあああっ!!」

 

 竜巻が終わったと思ったら、また竜巻。

 ダンテはリトルギガントの選手二人が繰り出した、巨大な竜巻に巻き込まれ、今度こそ吹っ飛ばされた。

 

 なんて異様な光景。

 ゴール前にディフェンスはおらず、敵選手八人がたむろしている。

 長くサッカーをして来たけど、こんなのを見るのは初めてだ。それほどの光景を作り出す必殺タクティクス『サークルプレードライブ』。

 ぞくりと冷たいものが背中を流れた。

 

 ボールはゴーシュのもとへ。その隣には少林に似た、ユームという小柄な選手が立ち、二人で高速でパスを回し始める。あまりの速さにボールが二つに分裂しているように見える。

 ……いや違う? これは、本当に分裂して……!

 

デュアルストライクッ!!』

 

 二つになったボールで、二人はシュートを放つ。

 それはゴール前で融合し、さらに加速。二人分の威力が加わった、強烈なものとなる。

 

 ブラージはその突然の変化に、対応できなかった。

 

コロッセッ……ガハッ!?」

 

 コロッセオの壁が閉じる前に、ボールが中へすり抜け、ブラージの腹に直撃する。そして大きく後ろに弾かれて、ゴールネットが揺れた。

 

『ゴォォルッ! なんとリトルギガント、まさかの追加点! 隠された力は本物だった!』

 

 さすがの連続失点に、チームのみんなにも動揺がはしる。

 しかし、相手はこれで終わってくれなかった。

 

 

 前半戦が始まってからかなりの時間が経ち、また私たち側のゴールネットにボールが突き刺さる。

 

『誰が予測できたでしょうか!? 前半戦3対0でリトルギガントがリード! 観客席も予想外の展開にどよめいています!』

「そんな……」

 

 私自身、知らないうちにそんな言葉を呟いていた。

 重苦しくのしかかる絶望感。押し潰されたのか、中には地面に両手をつけてうなだれている人もいる。

 FFI準決勝は、こうして最悪のスタートで半分を終えた。

 

 

 ♦︎

 

 

 休憩中、控室にて。

 普段は盛んに意見交換が行われているのに、今は誰も口を開こうとしない。

 私はなんとか雰囲気を明るくしようと口を開くけど、すぐにつぐんでしまう。

 わかってる。不用意な発言をすれば、抑えられているみんなの感情が爆発してしまうことが。

 さながら導火線があちこちにばら撒かれているよう。

 それに嫌でもわかってることだが、私には誰かを慰めたりする勇気づけたりする才能が絶望的にない。

 そう思うと、とても何かを言う気分にはなれなかった。

 

 だけど……このままみんなが落ち込んでいるままだったら、確実に負けちゃう。

 劣勢を覆すのはいつだって闘志だ。円堂君はその点、どんなに負けてても決して諦めることはなかった。

 だけど、その闘志でさえ負けてたら……もう勝ち目はない。

 いったいどうすればみんなの士気をあげられるのか。負けたくなくて必死に頭を働かせるけど、一向にいい案は浮かんできてくれない。

 

「ナエ、ナカタさん。ちょっと外についてきてくれませんか?」

「……ここでは言いづらい話か。わかった」

 

 フィディオの突然の誘いに戸惑う。ナカタは何かを察したのか、すぐに席を立って扉の奥へ行ってしまった。

 その意図がわからないが、彼が決して試合を諦めるような男でないことは私も知っている。だったら新しい作戦ができたのだろうか。でも、それだったらみんなに知らせない意味がわからない。

 ……まあいいや。どうせここにいたって私じゃなんも浮かばないんだし。そう結論づけて、彼らの後を追って外へ出た。

 

 扉が閉められたのを確認すると、フィディオは用心深く周りを警戒する。そして何もないことが確認できたあと、その視線をこっちに向けてきた。

 

「フィディオ。君は今キャプテンとしてチームを引っ張っている。そのチームを励ます方法は思いついたのか?」

「はい。みんなは今酷く動揺してしまっている。だから、悔しいけど言葉だけじゃ通じないと思うんです」

「だったらどうする?」

「……点を取ります。それも後半戦が始まってから、一瞬で」

 

 あまりに大胆な言葉に耳を疑った。

 彼も私のシュートが止められたんだから、オーディンソードが通じないことくらいわかってるはず。でも、彼の顔は決して冗談を言っているものじゃなかった。

 ニヤリとナカタが笑う。どうやら動揺しているのは私だけらしい。

 この男には、フィディオが打開策を用意することが想像できていたのだろうか。それはつまり、私以上にフィディオのことを知っているということで……当たり前のことなのに、ちょっと悔しいと思ってしまう。

 

「でも、そんなのがあるんだったらなんでみんなに言わないの?」

「ほとんど賭けみたいなものだからね。たぶん、今のみんなには反対されちゃう。でも俺はここで勝負をしかけなければ絶対に勝てないと思っている」

「同意見だ。士気が下がった状態じゃ、試合が長引けば長引くほど不利になっていく。これ以上の失点を許さないためには、短時間でチームに発破をかけるしかない」

 

 へぇ、よく考えてるんだ。さすがキャプテン二人。

 ……一応、私も元キャプテンなんだけどね。まったくそんなこと思い浮かばなかった。

 

 若干虚しくなりながら、フィディオの作戦を聞く。

 たしかに、これはほとんど賭けだ。反対意見が出てくるのも頷けるよ。だけどこれなら、間違いなく不意をつける確信が私にはあった。

 目には目を、歯には歯を。

 夏未ちゃんが相手のアドバイザーで、私たちの情報を向こうに流しているのは間違いないだろう。だけど、それは逆に私ならアドバイザーである夏未ちゃんの性格を読めるってことでもある。

 そういうことを加味していうと、次の作戦はどこまでいっても常識人である彼女じゃ絶対に思いつかない。

 というか頭のいい人ほど不意を突かれるかもね。現に、私だってそんなアイデア思いつかなかったし。

 

 一通り話し合っていたら時間になった。私たちは暗い雰囲気を漂わせるみんなを引き連れ、グラウンドに戻ってくる。

 リトルギガントはすでに来ていたようで、ロココがゴール前で笑いながらウォーミングアップをしていた。

 待ってなよ。まずはそのヘラヘラした笑みを撃ち抜いてみせてあげる。

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