悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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魂の御手

 主審に呼ばれ、センターサークルにボールを置く。

 ちらりとフィディオとナカタの方に目をやると、無言で頷いてくる。準備はできた、手筈通りにってことか。

 

 チームの士気は相変わらず低い。これを逆転させるには大きな衝撃が必要だ。それも、とびっきりのね。

 相手に狙いを気づかれないように、あくまで普通に。目線は目の前の敵に合わせ、どう突破しようか考えているふうにみせる。

 よし……いくか。

 

『後半戦キックオフ! ……おっとぉっ!? オルフェウスのナエ、フィディオがボールを無視してどんどん突き進んでいくぅ!』

 

 一歩踏み込むだけで衝撃波が発生。それだけ強く踏み込み、加速を増していく。敵なんて無視だ無視。

 当然、私が自重なしに走ればフィディオとの距離は離れてしまう。だけど今はそれでいい。

 こうしてフィールドの図は、センターサークルにナカタ、敵コート中盤にフィディオ、敵ペナルティエリア内に私というようになる。

 

「けっ、無視してんじゃねえよ!」

「悪いな。そうも言ってられないようだ」

 

 一番前にいたのに素通りされたことに激昂して、ドラゴが激しいチャージをしかけようとする。しかしナカタはそれをジャンプで乗り越えるように回避。その空中に浮かぶボールに、青い光が集っていく。

 

「まさか……」

 

 足を天に伸ばし、真っ逆さま。ナカタでこの体勢といえば一つしかない。

 ドラゴの予想に答えるように、その技の名が叫ばれる。

 

ブレイブ……ショットォォォッ!!」

 

 青い流星、再び。

 加速するそれは人をすり抜け、ロココの待つゴールへとまっすぐ突き進んでいく。

 しかしこのまま決まるほど、相手は弱くない。ロココもそうだけど、中盤のメンバーはすぐに反応して、迎撃の体勢に入っていた。

 しかし……。

 

『いや違います! これは……パスです!』

 

真……オーディンソードッ!!」

 

 シュートチェイン。

 青い流星は黄金の光を纏い、さらに加速。リトルギガントのメンバーは必殺技を放とうとしていたが、間に合わない。突然のことで誰も止めることができなかった。

 ……ロココ以外は。

 

 最後方にいる彼には全てが見えていたのだろう。

 フィディオも、そのさらに前で待ち続ける私のことも。

 しかし、どうしようもない。これらはたった数秒の出来事。言葉でチームメイトに伝えるには、あまりにも時間が足りない。

 ゆえに彼は、私が蹴るシュートを待ち構えるほかなかった。

 

「さあ、とくとご覧あれ! これが皇帝ペンギンXV3もとい…… 真トリプルブーストッ!」

 

 ペンギンたちを指笛で呼び出し、普通に足をくわえさせる。

 魔法陣もレーザーもないけど、地上じゃ零式は使えないからね。だけど三人で撃つ分には……十分だ。

 そして、迫り来る青と金色の流星に、赤色を追加した。

 

「させない……ゴッドハンドX!」

 

 チェイン2。

 赤いゴッドハンドが三色の流星を受け止めようとする。が……。

 

「——ぐぅぅぅぅっ!!」

『ロココッ!!』

 

 ジリジリと、ロココの足が後ろに下がっていく。赤い手には衝突の瞬間に大きなヒビが入り、それが徐々に広がっていくのが見える。

 そして……ガラスのようにキラキラと光りながら、砕け散った。

 

『ご……ゴォォォォルッ! 一瞬! 一瞬です! あの無敵のキーパーロココを、一瞬で突破しましたァ! それを成し遂げたのはイタリアが誇る三人の天才! まばたきしていた人は実にお気の毒です!』

 

 シィィンと会場が静まり返る。あまりのことに観客はおろか、チームのみんなでさえも空いた口が塞がらないみたい。

 しかし掲示板が光り輝く1の字を表示した途端、歓声が爆発した。

 

 それを浴びながら私たちは帰還する。

 ワッとブラージを含むみんなが殺到してくる。

 

「す、すごいよみんな! あんなシュート、見たことがない!」

「ああ! さすがはフィディオやナカタさんだぜ! 憎たらしいがナエもよくやりやがったな!」

「どうだみんな、肩の荷は下りたか?」

「あっ……」

 

 みんなの顔はさっきまでとは打って変わって明るい雰囲気になっていた。そう、簡単に言えば希望を抱いていた。

 ブラージは私たちの目的に気づいたようで、やられたというふうに笑う。

 

「ふっ、何をビビってたんだろうな俺たちは。おかげで目が覚めたぜ、フィディオ」

「その通りだ。この世で絶対無敵のチームなんて存在しない! 諦めない限り、道は必ずできる! だから、最後まで俺についてきてくれっ!」

『おうっ!』

 

 よしよし。空気が試合前ぐらいに戻ったぞ。さすがの演説だ。

 それに、あの連続チェインシュートでロココを破れたってことは、直接三人で撃つ『ネオ・ギャラクシー』も止められない可能性が高い。

 前半までの絶望的な雰囲気が嘘みたいだ。希望が見えた気がした。

 そしてこの一点による変化は思わぬところにも現れる。

 リトルギガントの選手たちがボールをセットする。しかし彼らから発せられていた巨人のようなオーラは見る影もないくらいに小さくなっていた。まるで萎んだ花のようだ。

 彼らの表情は一概に暗くなっており、誰が漏らしたか、こんな言葉まで聞こえてくる。

 

「まさか、ロココが点を取られるなんて……」

 

 あーなるほど。

 彼らの身に起こった変化の理由がわかった気がする。

 この人たち、点を取られ慣れてないんだ。……いや、正確には本気の時に取られたことがない、か。グループ戦では普通に負けてる試合もあるし。

 まあそりゃそうだよね。ロココは贔屓なしに見ても現段階で最強のキーパー。大会最高クラスの私たちのシュートを軽々と止めてるところから、おそらく今まで敵なしだったのだろう。

 その自信が破られたから、彼らは動揺している。

 

 視線をナカタに向ける。彼も、リトルギガントの脆さに気がついていたようだ。

 曇りを晴らせないまま、彼らのキックオフが始まる。

 

 ——そしてすぐにボールが弾かれる。

 

デーモンカットV2!」

「っ!」

 

 地面から噴き出た紫の炎に、あっさりドラゴは捉えられた。

 ポーンと落ちてくるボールをつま先と脛で挟んでキャッチする。

 

 やっぱり動揺して動きが鈍くなってる。

 これは好機だ。最強のチームに生じた唯一の弱点。突かない手はない。

 

「今がチャンスだ! ディフェンスを残して全員で攻めろ!」

「っ、死守しろ! ロココのところにまで行かせるなっ!」

 

 フィディオとマキシの大声がフィールドで交差する。

 しかし即座に動き出したオルフェウスに対し、リトルギガントの動きはぎこちない。

 敵の士気の低下でもあるけど、あれは作戦ミスだね。リトルギガントはロココという絶対的な壁がいたせいでゴールを守り慣れていない。そんな中全員防御の指示を取ったところで、どうしたらいいか戸惑うだけだ。

 おかげで敵のフォーメーションが崩れて、隙がいくつもできた。

 そこを、オルフェウスの風たちが通り過ぎていく。

 

「ここは俺が……!」

「っ、バカよせ! ……ぐあっ!」

「ヘヘッ、ラッキー!」

 

 ウィンディとゴーシュがクラッシュ。どうやら位置取りを間違えたらしい。ダンテがその間を軽々と通り抜けていく。

 驚くほどにパスが通っていく。リトルギガントはいまだ立ち直る目処すら立っていない。

 そしてあっという間に、前線のナカタへとボールが渡った。その左右に私とフィディオが並ぶ。

 

グランドクウェイク!」

「押し通る! スーパーエラシコ!」

 

 ナカタがボールを何度も蹴りつけ、歪な回転をかける。そして緑色のオーラを纏うと、土砂の壁に向かってジグザグに動きながら突っ込んだ。

 弾丸のように螺旋回転するボールが壁に触れると、巻き取られるようにしてその周囲にポッカリと穴が空く。

 私たちはその中を通って最後のディフェンダー、ウォルターを突破した。

 

「まだだっ……大介と僕は負けないっ!」

「いや、負けるね」

「なに……?」

「あなたたちは負けることの意味を知らない。恐怖を知らない。そして、それによって生まれる勝利への渇望を知らない。……そんなチームに、私たちは負けない!」

「っ……!」

 

 思えば、私の人生負けっぱなしだ。

 クソ親には捨てられるし、悪どい黒グラサンには拾われるし。挙げ句の果てには逮捕。ロクなことが起きた試しがない。

 試合だって同じだ。いつもいつも円堂君(ライバル)には負けてばかり。

 でも、だからこそ私は勝ちたいんだ。

 だって悔しいから。負けていいことなんて一つもないし、毎回こんな思い二度と味わいたくないって思ってる。

 彼らにはそういった、勝利への執着が感じられない。

 そんな人たちに、負けたくない。

 

 私のその思いが燃料となり、ボールが赤い炎に包まれて天に打ち上げられる。そして爆発したかと思うと、巨大化して太陽のようになった。

 それを、私たち三人の蹴りの衝撃波で叩き落とす。

 

ネオ・ギャラクシーッ!!』

ゴッドハンドXゥゥッ!!」

 

 赤い手のひらでは到底収まりきらないその面積、その質量に、大した抵抗もできずロココは押されていく。

 その手は衝突後、間もなく消滅していき……大爆発がゴールで巻き起る。

 炎が消えた時に見えたのは、倒れ伏した彼と、ネットに絡まったボールだった。

 

『ゴォォルッ! 流れを掴んだのか、オルフェウス一気に逆転へ近づきました!』

「あ……そんな……」

「よっしゃぁぁぁ! この調子で逆転だ!」

 

 ぬわちょっ!? 全員で押しかけるなバカ! 私のちっさい体じゃ潰れちゃうでしょ!

 特にブラージ、背中叩くな! 張り手か? あなたは私に気合いでも注入してるつもりなの? 強すぎて背中にアザができるどころか背骨が折れるわ!

 

 いつつ……。ようやく振り切れた。背中に手を当てながら元のポジションに戻る。

 さて、敵さんは……。あー、ダメだねこれ。ポッキリいっちゃってる。具体的に言うと前半戦の私たちぐらい。

 彼らの敗因は経験不足だ。でもその責任を大介さんに押し付けることはできない。コトアールじゃこれほどのチーム、二つといるわけないしね。

 惜しい。実に惜しくて素晴らしいチームだ。少なくとも次やったら勝てるかわからないだろう。

 

 キックオフで試合が再開。しかしその動きはさっきよりも遥かに悪い。もはや必殺技を使わなくても、ドラゴからボールを奪うことができた。

 そしてパス、パス、ドリブル。もうディフェンスは機能していない。全てがうまく通っていき、私たち三人はすぐにゴール前にたどり着いてしまった。

 

「これで決める!」

ネオ・ギャラクシーッ!!』

 

 赤い太陽が落ちていく。

 それは私たちの希望。そして敵にとっての絶望。

 その時、私は気づいた。

 見上げるロココの表情が、鬼のような形相を浮かべていることに。

 

 恐怖が彼をおかしくした? いや、違う。あの目を私はよく知っている。

 あれは……勝利に飢えた獣の目だ。

 

「僕は、僕はっ、負けたくないィッ!!」

 

 彼は叫んだ。ありったけの声で、全てを吐き出すように。

 その心からの思いが赤いオーラとなって胸から噴出し、彼の望みを形作っていく。

 それはまさしく、赤い手だった。ただし、その大きさはどこまでも大きい。ゴール一つを覆ってもあまりあるくらいだろう。

 全身全霊となって、彼はその手の名を叫ぶ。

 

タマシイ・ザ・ハンドォォォッ!!」

 

 太陽を超える大きさ……!?

 タマシイ・ザ・ハンドはなんと私たちのシュートを真っ向から受け止めてみせた。先ほどとは違い、ヒビが入るどころかびくともしない。

 まるで、巨大な岩に小石を当てているような感覚を覚えた。

 太陽は最後の足掻きとばかりに爆発を巻き起こす。しかしそれでも、タマシイ・ザ・ハンドを動かすことは叶わず、むしろその爆発すらも覆われて握りつぶされてしまう。

 全てのエネルギーを燃やし尽くしたボールは重力に従って落ちていき、それをロココが軽々とキャッチする。

 

 ……そうだった。彼はあの大介さんの弟子だったッ。

 肝心なことをわすれていた。

 円堂君と戦う時、私が最も恐れているものがある。

 それが進化の速度。彼は逆境に追い詰められるほど強くなっていく。そうやって何回も奇跡を起こしてきた、起こされてきたのを私は覚えている。

 だったら、その円堂君と同じイナズマ魂を持つロココが、進化しないわけないじゃんか……!

 

みんなァァァッ!! 僕は、勝ちたいッ!

「ろ、ロココ……?」

 

 雄叫びような叫ぶが歓声すらもかき消し、こだまする。

 さっきまでの穏やかな雰囲気が消えたのを見て、リトルギガントたちは戸惑う。

 

「僕は今さいっこうに楽しいんだ! ここまで追い詰められたことなんてなかった! みんなもそうだろ!? 強いやつに会いたくて、ここまで来たんだろ! だったら楽しもうよ、めいいっぱい!」

 

 っ、この電撃でもくらったみたいに鼓膜がビリビリする感覚……!

 感じた途端にヤバいって悟った。だって、こういう場合はいつも……。

 

「……そうだ。そうだった。俺たちは国じゃ見られないぐらいすごいやつに会いたくて、ここに来たんだった」

「なのにいざ強いやつが出てきた途端にビビっちまうなんて……カッコ悪いぜ」

 

 瞬間、熱いと錯覚してしまうほどの凄まじいオーラを背中で感じた。

 錆びついた機械みたいぎこちなく振り返る。

 そこには、完全復活……いやそれ以上に進化したリトルギガントの選手たちがいた。

 

「みんな、僕に続けェェェッ!!」

 

 大きく蹴られたボールを追いかけて、小さな巨人たちが進軍する。

 

「エネルギーの量が前半以上とか、嘘でしょ……」

「珍しいねナエ。怯えているのかい?」

「にゃっ、誰が! あんなのまとめて倒せばいいだけでしょ!」

「ああ。いくぞ、俺たちもいくぞ! 勝つのは俺たちオルフェウスだ!」

『おうっ!!』

 

 あーもう、やればいいんでしょやれば!

 後半戦残り半分。両チームのテンションは最高潮に達し、今最後の戦いが始まろうとしていた。

 

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