悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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屋敷での死闘

 とうとうこの日がやってきた。

 ブラジルエリアの裏路地を歩きながら、手元のスマホに目を向ける。フード越しには、ウミガメスタジアムの様子が映し出されている。

 

 今日はイナズマジャパンVSザ・キングダムの試合。つまりガルシルドが屋敷を離れる日だ。

 裏路地を通り抜ければ、そこに見えたのはまさにそのガルシルド邸。前とは違うルートで壁を飛び越え、茂みの中に身を隠す。

 今は曇りだけど、それでも昼だ。侵入するのに向いている時間ではない。

 だけど泣き言言ってられない。今日しかチャンスはないんだから。

 

 幸い、前回の潜入で警備システムについて多くのことがわかった。

 たとえば窓。これにはアル●ックだかセ●ムだかに入ってるのかはわからないけど、強引に開けると位置情報を知らせるトラップがしかけられている。

 調べたところ、それ以外にも色々なところに電子機器によるセキュリティが満載だった。

 

 てことで持ってきたのが、ジャミング装置。見た目はほとんどスマホだ。

 電波も前回の侵入でわかってる。ポチポチっとコードを入力して、セキュリティを無効化した。これで通れるはず。

 ……よし、やっぱり空いた。それにブザーも鳴ってない。成功だ。

 

 すぐに窓から中に侵入し、ガルシルドの部屋目指して走り出す。

 ここで私の着ている服について説明しておこう。デザインはただの黒いローブ。しかし電波を妨害できるのだ。

 さながら今の私はステルス戦闘機。監視カメラにだって映りはしないし、レーザー感知器もすり抜けられる。

 護衛がいたら物陰、果てには天井にぶら下がり、極力接触を避けて進んでいく。倒してもいいけど、それは気絶した体を隠せるものがあったらだ。

 そうやって進んでいくと、一際大きく、金などの豪華な装飾の施された扉が現れた。

 

 一目で見てわかった。この成金趣味の装飾、重要な部屋に違いないって。

 中から音は……しない。電子ロックがかかっており、カードキーが必要なところを、ハッキングして強引に開ける。

 こっからは時間の問題だ。駆け込むように中に潜入。内部は帝国学園の総帥室を思わせるような、玉座の間に似た作りだった。

 玉座の代わりに奥にあるのは、大きな一つのディスク。その上には……あった、パソコンだ。

 

 すぐに駆け寄り、起動させる。これもロックがかかっていたが、ウイルスUSBをぶち込むことで強引にロック解除する。

 私が求めるのは悪事の証拠。それは驚くほどあっさり出てきた。それも大量で、全部見るには到底時間が足りないほどに。

 そのほとんどが殺人と隠蔽に関係する話。十分だ。二、三人やってれば十分奴を無期懲役に追い込める。

 大雑把に色々なデータをUSBにコピーして、いざパソコンから離れようとした時。

 

 

「おや、もう終わってしまいましたか。予想よりずいぶん早いですね」

「っ!」

 

 突如何者かに両手を羽交い締めにされた。

 ぐっ……つぅぅ……! なんちゅう馬鹿力だよっ。頑丈なはずの私の骨が折れちゃいそうっ。

 背中に伝わる感触で大柄な男であることが、そしてこの声でその正体がわかる。

 

「ひっ……さしぶりっ……じゃん……ヘンクタッカー君……!」

「フフフ、まだまだ余裕そうですねぇ。ですがそれもいつまで持つか」

 

 ヘンクタッカー君が指を鳴らすと、黒装束に赤いマフラーを巻いた謎の集団が一瞬で現れた。

 私の本能が告げている。こいつらはただの護衛なんかじゃないと。

 

「彼らは……いえ、私たちは『チーム・ガルシルド』。その名の通りガルシルド様を主人とする強化人間の戦闘部隊でございます」

「強化人間……!? そうか貴方たち、RHプログラムを……!」

「左様でございます」

 

 強化人間の恐ろしさは身をもって知っている。というか私がそれだし。それに、ただの草サッカーチームに過ぎなかったチームKも、あれのおかげでオルフェウスと互角に戦えるほどになっている。

 目を光らせ、周囲の状況を把握する。

 ヘンクタッカー君を含むと七人か……。腰には銃とナイフ。ただ、跳弾の可能性があるので室内ではあまり撃ってこないと思いたい。

 冷静に分析していると、ヘンクタッカー君の腕の力が強くなってくる。

 

「さて、ここまで見られては貴方を生かして帰すことはできなくなりました。残念ながらここでお別れです」

「そうだねぇ……そういうのをなんて言うか知ってる?」

「はい?」

「油断大敵」

 

 直後に大きく跳躍し、腕を掴まれたままくるりと縦に回転。その勢いのままにオーバーヘッドキックを彼の脳天にぶち込んだ。

 

「ぶぐむっ!?」

「はいもういっちょっ!」

「ぶげっ!」

「おまけの……トドメ!」

「ぶぎゃぁっ!?」

 

 しかしあんなんじゃ大した怪我にならないのは前回でわかってる。てことで念入りにやらないとね。

 怯んで私を離した隙に、その後頭部を掴んで壁に思いっきり顔面を押し付ける。そしてそのまま潰す勢いで蹴りを頭にくらわせた。

 結果、ヘンクタッカー君の顔面は抜けなくなるレベルで壁に埋まった。ここまで約三秒の出来事である。

 

 ハッとした刺客たちが素早く腰に手をかけ……って、銃!? ここ室内だよ!?

 しかし私の訴えは届かず、弾丸が発射される。同時にデスクの下へと転がり込む。

 直後に、木材を食い破るような音がいくつも聞こえた。

 

「ああもう……このっ!」

 

 こちらも銃を取り出し、デスクの端から顔を出しては引っ込めて応戦する。もちろんゴム弾だ。

 しかし数が多い。一人減っても六人だ。これだけの数に撃たれていればデスクだって持たない。

 冷や汗が滲み出る。

 心臓の鼓動が早まり、血液が頭を駆ける。思考が急加速していく。それでもいい案は思いつかない。

 加速して加速して加速して……何かがキレる音がした。

 

「だぁぁぁぁぁっ!!」

「なっ!?」

 

 頭が真っ赤になって、気がつけばデスクを思いっきり標的にシュート! してた。

 素っ頓狂な声が聞こえる。私の恐るべき足に蹴っ飛ばされたそれは、その重量に見合わないほど加速し、三人を押し潰す。

 あまりの出来事に一瞬全員の動きが止まる。もちろん私もだ。

 ……ちゃ、チャーンス!

 素早くディスクに駆け寄り、その足を持ち上げて……。

 

「とりゃぁぁぁっ!!」

「ゴハッ!」

 

 思いっきりそれでぶん殴った。

 数十を軽く超える質量。そんなものぶつけられたらひとたまりもあるはずがない。まるでピンボールのように吹っ飛んでいく刺客をよそに、近くにいたもう一人に思いっきり振り下ろす。

 するとあまりに強くたたき過ぎたのかディスクに穴が空き、その中に刺客が埋まった。

 

「なっ……人間かお前!?」

「あんたも強化人間でしょうが!!」

 

 ジャブ→ストレート→ローキック→昇竜拳!

 哀れ、格ゲーみたいなコンボをくらい、彼はきりもみに吹っ飛んでった。

 ……一応強化人間だから大丈夫だよね。

 

「ぐっ、早く追うのです! 早くっ!」

「げぇっ、もう生き返ったの!?」

 

 ヘンクタッカー君の頭は傷が見えるも、血一つ流れていない。

 ゾンビ、いや化け物かあのデブ!

 さすがにまともにやりあう暇はないので、すぐに部屋を出て逃げ出す。私を捕まえるため、新たに黒装束の刺客たちが追いかけてくる。

 ああもう、何人いるのさ!

 幸いスピードは私の方が上だ。しかし廊下で前に立ちはだかれたら戦わざるを得ない。

 って、考えてるそばから二人来た!

 

 前から銃弾がいくつも飛んでくる。それを見切り、転がって避ける。しかし後ろから来るものはは避けきれず、いくつかが私の体を貫通してしまう。

 

「づぅっ!? このぉっ!!」

 

 もはやなりふり構っていられない。

 身体能力に任せて壁、天井、床を跳ねるように駆け回る。そのたびに鮮血がお腹から飛び散り、意識が薄れる。

 しかしこの変則的な動きには相手もついていけていないようだ。銃の照準を合わせようとしてるけど全然間に合ってない。

 ……今だ!

 

 前方の一人に向かってドロップキック。そのまま踏み台にして宙返りし、返す刀でオーバーヘッドをもう一人に食らわせてやる。

 これで前方は全員ダウン。もちろんその間に背後から弾丸がやってくるが……ちょうどいい盾があるじゃん。

 

「ほら、仲間のところにお帰り!」

「ゴハッ!?」

 

 倒れかけている刺客を盾にして弾丸を防ぐ。ドチュ、という肉を抉る音がいくつかして、血が顔にかかる。

 それに構わず、今度はさっきのディスク同様刺客を蹴飛ばして、別の刺客たちと衝突させた。

 よし、これで包囲網は崩壊した。それに運がいいことに、走った先には窓が見える。

 丁寧に開けてる暇なんかない。走る勢いを利用してドロップキックをぶち込み、そのまま外へと脱出した。

 ……そこまではよかった。

 

 眼前に広がるのは銃、銃、銃。

 何人くらいいるんだろ。たぶん十以上は確実だ。

 それらの黒装束たちが窓の周囲を取り囲んでいた。

 

 ……罠か。

 迂闊だった。ガルシルドの部屋から一番近い窓なんて警戒されるに決まってるじゃん。もっと外をよく見て出てくるべきだった。

 しかし戻ることもできない。屋敷に戻ろうとした瞬間、黒金の閃光がほおをかすめた。

 

「あ、あはは……もしかしてピンチ?」

 

 どどど、どうしよう!? 八方塞がりじゃん!

 これだけの数はさすがの私も倒すことは不可能。手持ちのアイテムは煙幕とかが入ってはいるんだけど、取り出そうとした瞬間に手を撃たれるねこれは。怪しい動き一つ見せたら速攻でやられる。

 ジリジリと銃口を私に向けながら、包囲網が狭まってくる。

 このままじゃ捕まってしまうのは確実。何か手を打たなきゃマズイ。

 そう思ってると……。

 

 

Xブラストッ!!」

 

 突如、赤き閃光一筋(はし)る。

 それは目の前の黒装束たちをなぎ倒し、道を開かせる。

 

「今のうちだ! 早くこっちに!」

「まったく無茶する小娘だ!」

 

 声のした方には先日戦ったコトワールのキャプテン、ロココとそのチームの監督がいた。

 何が起こってるのか、なんでここにいるのかまったくわからないけど、今はそんなことは後回しだ! 黒装束たちが怯んだ一瞬の隙を突いて、包囲網を脱出した。

 そのままロココたちと合流し、表通りに向かって全力で走り出す。

 

「ゼェッ、ゼェッ、こりゃ老身にしみるぜ……っ!」

「師匠頑張って!」

「ああもうしょうがない! これで借りは返したからね!」

 

 ロココの監督——円堂大介さんを強引に背負い、走る。後ろからうめき声がするけど勘弁してね。

 人一人とはいえ、そこはハイスペックなえちゃんのこと。走る速度はロココとほぼ同速だ。

 

「ひぇぇぇぇっ! 銃弾バンバン飛んでくるよ師匠!」

「うろたえるな! 前に向かって全速前進だ!」

「痛い痛い! 頭叩かないで!」

 

 馬か私は! しかし文句を言っている暇もなし。

 そうやってギャーギャー言いながら走ってると……光だ。前方に光が見える!

 飛び込むようにその中へ駆け込む。

 そんな私たちを迎えたのは人混み。気がつけば後ろから迫ってくる足音は消えていた。

 

「た、助かった……」

 

 緊張が解けて私とロココは地面にへたり込んでしまう。

 今回ばかりは死ぬかと思った。あそこまで大ピンチだったのは久しぶりだ。

 しかしなぜか大介さんだけはピンピンしてるようだった。ぴょんと私の背から飛び降りて、休憩中の私の頭を容赦なく小突いてくる。

 

「これ小娘、ガルシルドの犯罪データはちゃんと持ってこれておるんだろうな」

「どうしてそれを……?」

「僕たちもそれを狙いにきたんだよ。もっとも、もう侵入できそうにないけどね」

 

 お、おうマジか……このおじいちゃん、あのガルシルド邸に侵入するつもりだったのか。なんという無茶を……いや、むしろ彼のおじいちゃんらしいか。

 誰かに止められてなかったら間違いなくついてきていただろう友人の顔を思い出し、苦笑いを浮かべる。

 

「でもなんでそんな危険を?」

「決まっとる。ガルシルドこそ全ての元凶。ワシの弟子をそそのかし、今なおサッカーを汚すやつを許しておくことはできん!」

 

 握りしめられた拳が震えるほどの怒りが伝わってくる。

 弟子、というのが誰を言っているのかはすぐにわかった。総帥はたしかにこの人に酷いことをしたはずだ。それなのにまだ『弟子』と呼んでくれている。

 なんとなく、この人を信じていいような気がしてきた。

 

「ほい。今回のは間違いないよ。これがあれば十分逮捕できると思う」

「よし、じゃあさっそく警察に……」

「いや、そいつぁやめたほうがいいだろう」

「師匠?」

 

 どうやら大介さんも同じことを考えていたようだ。

 

「ガルシルドの手はかなり広い、警察に持って行っても握り潰されるのがオチだな」

「あれだけ犯罪起こして捕まってないわけだしね。で、どうする? 私としてはコピーしたあと、こっちのルートで情報を流したいんだけど」

「いんにゃ、それには及ばん。どうせそれじゃあ数日かかるんだろう? ワシにいい考えがある」

 

 はて、これ以上にいい案? まあたしかに私の方法じゃガルシルドのハッカーたちに情報を奪われるかもしれないけど。それ対策にコピーするとしても、数日かかるのは否定できない。

 じゃあどうするのか?

 大介さんの答えは単純明快で、ぶっ飛んでいた。

 

「簡単じゃ。この世でもっとも偉い奴らにこれを直接見せればいい」

「一番偉い? こんな混み入ったご時世でそんな人いるの?」

「ちょうど今日、そいつらが一堂に会する場所がある」

「っ、ま、まさか……?」

 

 とある馬鹿げた考えが頭をよぎる。

 確認のため大介さんの方に目をやると、そのまさかと言わんばかりに得意げな顔をしてた。

 ロココは頭に疑問符を浮かべてた。

 

「ウミガメスタジアムに行くぞ。目指すはVIP席、各国首脳陣の席だ!」

 

 ま、マジか……。

 マジか!?

 

 拝啓、円堂君。君のおじいちゃんパワフルすぎじゃね?

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