悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:キメラテックパチスロ屋

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 うーん、久しぶりの投稿だぁ。


暴かれた闇

 まるでジャングルのように生い茂る木々。その間に敷かれた木の板の道を走っていく。

 霧がかった空気が肌に粘りついてくる。補聴器の紐がそのたびに揺れてうっとうしい。しかし付けてないと敵襲があっても気づけないからね。ロココと大介さんもそこは素人なので、期待はしていない。

 しかし意外なことに敵襲はなかった。ガルシルドのパソコンで嫌がらせに電波系統をジャックしておいたのが功を制したのかも。連絡がいってないのかもしれない。

 

 スタジアムの外からでも歓声が聞こえてくる。まだ試合は続いているようだ。

 その中に入り、上へ上へと目指す。そして通路を歩いていると、その先には二人の黒服が先を塞いでいるのが見えた。

 

「で、どうするの? 言っとくけど監督だからって通してくれるとは思わないでよ」

「ふっ、ここはワシに任せとけ」

 

 ビシッと親指を立てて行ってしまった。

 って、ちょっと作戦内容は!? 私たち何するか教えてもらってないよ!

 しかし大介さんはもういない。

 ……あれか。優秀な監督の間では作戦を伝えないのが流行っているのか。誰とは言わないけどさ。

 

 大介さんは千鳥足を演じて黒服たちに近づいていく。そしてそのまま……タックルぅ!?

 

「ぶごはっ!?」

「な、なんだこのジジイ!」

 

 やった。やっちゃったよあの人。国に喧嘩売っちゃった。

 このまま派手な喧嘩に発展してしまうのか……と思ったけど違うらしい。なんと肩を抑える黒服を前にして居眠りを始めたのだ。

 

「う〜……酒……酒をくれぇ……」

「なんだ、ただの酔っ払いか。おいじいさん、ここから先は立ち入り禁止だ。悪いが引き返してくれ」

「うっぷっ、マズイ。しょんべんしたくなってきたぞ……」

「げっ、マジかよ」

「あーダメじゃ! 間に合わん! ここでしたくなってきた!」

「おいバカやめろ!」

 

 す、すごいと言っていいのかこれは? ともかく、素晴らしい演技だ。バレてる様子が微塵も見られない。……絵面が最低なのがたまにキズだけど。

 

「ナイス師匠……だけどカッコ悪いなぁ……」

「それは言わないであげて」

 

 黒服たちは今にもお粗末しようとしてる酔っ払いのおじさんに釘付けになってる。これだったら奇襲をしかけられそうだ。

 素早く忍び寄り、一人に向かって首をトンっと。すぐさま振り向き、もう一人の口を掴んで壁に押し込む。

 

「ん゛ーっ!?」

「しーっ。動かないで。あんまり乱暴だと……キュッ☆ としちゃうぞ?」

 

 ゆっくり、肌を撫でるように、恐怖を煽るように、もう片方の手を首に添える。するとぶるぶると震えるだけになった。

 ふふっ、いい子いい子。

 まあ、どちらにしろやるんだけどね。

 

 黒服が安らかに目を閉じたのを見届けて振り返ると、二人がドン引きしてた。

 

「か、可哀想……」

「まったく、無駄に怖がらせるところなんかはお前の師匠そっくりだな」

 

 ……すんません。なんかテンション上がってやっちゃいました。

 念のために言っとくけど、もちろん寝てるだけだよ? ただその寝顔は悪魔でも見たかのような迫真と悲壮に満ちてた。

 

「まあ今は放っておくしかあるまい。先を急ぐぞ」

 

 そして数分後……。

 

 

「いたぞ! あっちだ!」

「げぇぇぇっ!? 結局こうなるのぉぉぉ!?」

「師匠ぉぉぉ!!」

「ガッハッハ! まあたまにはこういうこともあるわい!」

「言ってる場合かっ!」

 

 このおじいちゃん、護衛から隠れている時によりによって缶を踏み、すっ転んだのだ。

 で、結果はご覧の通り。現在進行形で猛ダッシュしております。

 しかしガルシルドの手下どもと違って発砲してこないことが幸いかな。さすが公務員、あんなゴロツキどもと違って理性がある。

 

「止まれ! ここから先へは行かせん!」

「げっ、前からも追手が!」

「しかしVIPルームはそのすぐ後ろにある」

「その心は?」

「強行突破だ!」

「やっぱりぃ!?」

 

 しかしもう止まれはしない。

 ええい、ままよ!

 私たちは肉壁を作っている黒服に突っ込んだ。

 

「ぬわーーーっっ!!」

「侵入者一人、確保!」

「言い出しっぺの本人がそれなの!?」

 

 おじいちゃん、真っ先に捕まっちゃったよ!

 しかし振り返るわけにはいかない。髪やら服やらを引っ張ってくる黒服たちとひたすら押し合う。

 だけど状況は良くはならない。

 ぐっ、さすが護衛に選ばれるだけはある。私とは違う、戦うこと専門の体だ。

 そうこうしているうちに、後ろからも黒服たちが合流してしまい、

 

「侵入者二人目、確保!」

「僕のことは構わず行くんだ!」

 

 そうは言われてもっ……! こんなにおしくらまんじゅうにされちゃ身動きも取れないよ……!

 こうなったら!

 なんとか服の中をあさり、()()()()を取り出す。

 ピンが付いた缶のような形状の物質。それを引き抜き、思いっきり目を閉じる。

 

 瞬間、目を突き刺すような閃光が周囲に満ちた。

 

「スタングレネードだバッキャロー!」

 

 黒服たちが目を覆っている隙に強引に拘束を抜け出す。

 よっしゃ! これで黒服はもういない! 私たちの勝ちだ!

 勝利を確信し、一歩を踏み出そうとして……。

 

 何かに足を思いっきり掴まれ、ビターンと体が床に叩きつけられた。

 

 ……は?

 ギギギっと足を見つめる。それを掴んでいるのは一人の黒服。

 な、なんでスタングレネードが効いてないの!? 直視すれば失明すらあり得るのに……あっ。

 マジマジと黒服の顔を見つめて、気づいた。

 黒服の目を覆う黒いプラスチック。

 サングラスである。

 

「は、はは……そりゃ黒服にサングラスは付き物だよね……」

「確保ぉ!」

「もんぶらんっ!?」

 

 ぎゃぁぁっ!!

 私にだけ黒服たちが殺到して、お山が一つ出来上がる。私はその下に顔だけ出して生き埋めになった。

 

「まったく、若いんじゃからもちっと根性いれんか根性を!」

「一番最初に捕まった人に言われたくないよ!」

 

 手が動いたらあのヒゲ引き抜いてやりたい……!

 くそっ、なんなのこのおじいちゃん。あれだけマトモな人に見せといて、言ってることが総帥レベルでムチャクチャすぎる。カエルの子はカエル、あの弟子にしてこの師匠ありか。総帥の性格がひん曲がった理由の半分が理解できたような気がする。

 

「って、痛た……こんなこと考えてる暇ないか」

「おーい小娘ー。こっから先の作戦はどうするー?」

「私が知りたいよぉ……」

 

 もうやだ泣きたい。そんでもって過去に戻れるなら、この人を無条件で信じた私をぶん殴ってやりたい。

 しかしああ現実は非情かな。私たちはずるずると黒服たちに引っ張り出されて……。

 

「どうした!? いったい何が起きた!」

 

 あれは……か、神だ! 救世主だ!

 部屋から現れた人物を見た途端、私はあらんかぎりの声で叫んだ。

 今だ、ここしかない。ここを逃せばおしまいだ!

 

「財前総理! 財前総理! お願いです、助けてください! 世界の危機なんです!」

「あこら、動くな!」

「んぐっ!」

「君は……白兎屋なえ君か!」

 

 いたた……ぶったなこの黒服。

 しかし私だと財前総理には気づいてもらえたようだ。

 

 当然のことだけど私と総理に面識はない。当時は一応指名手配中だったしね。しかし総理は私のことを知っているという確信はあった。

 なにせ総理はあのザタワ-キヤ- でお馴染みな塔子のお父さんなのだ。エイリア戦は全国中継されてたし、チームメイトである私のことを知らないはずがない。

 そしてその読みは当たっていたようだ。

 

「待ってくれ。彼女と話がしたい」

「しかし、こいつらは侵入者で……」

「そんなこと言ってる場合じゃないんですって! 世界の危機です危機!」

「総理、安易に近づいてはいけません。今は違うとはいえ、この少女は犯罪者なのですから」

「スミス、私は彼女を信じたい。円堂君は敵対していた彼女を信じ、エイリアを倒してみせた。なら日本の未来を背負う私が子どもにできたことをできなくていいはずがない!」

「総理……」

 

 ……なんかすっごいマトモな大人を久しぶりに見た気がする。

 総理の言葉に押されたようで、SPらしき人は頭を下げて後ろに下がった。代わりに総理が私の前に歩み寄ってくる。

 やり手の政治家という話だったけど、総理になれたのも納得だよ。これがカリスマってやつなんだろうね。さっきの言葉で私ですら感動しそうになったもん。

 黒服の拘束を離してもらい、USBを差し出す。

 

「これは?」

「ガルシルドから盗んできた極秘データです。今すぐ見てください。できれば部屋の各国首脳と一緒に!」

「……わかった。スミス、パソコンを用意してくれ」

 

 やった。これでガルシルドもおしまいだ。

 総理の性格は『正義』を体現したようなもの。それは政策やエイリアの時でよく知っている。この事実を隠蔽することはないだろう。

 大介さんは『よくやった』と言うようにニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 総理はVIPルームに戻ろうとして、ふと振り返る。

 

「そうだ、せっかくだから君たちも入ってくるといい。なに、そこの護衛たちと一緒ならスミスも文句は言わないだろう」

 

 じゃあお言葉に甘えて。

 総理に連れられ、部屋に入る。

 中は豪華な作りになっていた。赤い絨毯の床に、フッカフカの椅子。壁の近くには自販機やワインセラーが置いてある。ガラスの奥の光景は見下ろせるようになっており、下ではイナズマジャパンとザ・キングダムが試合をしている。

 スミスと呼ばれたSPはちょうどUSBが差さったパソコンを操作している。その周囲にはアメリカ、ブラジル、イタリアやイギリスなどなど……各国首脳陣がいた。

 

 やがて解析が終わったのだろう。スミスの手が止まる。その顔ははっきりと青ざめている。

 

「結果は?」

「……総理、そして各国首脳陣の皆様方。これをご覧ください」

「……これはっ!」

 

 全員がそれを見て顔色を変えた。

 その内容は残虐としか言い尽くせないもの。人体実験の結果や犯罪の数々。もちろん私の受けたRHプログラムのデータもある。

 政治家とはいえ暗部ではない人たち。その内容の惨たらしさに口を押さえる者もいる。ちなみにR18なのでもちろんロココには見せてない。

 

「こんな情報を、どこで……?」

「さあ? それはちょっと警察の前では言えないなぁ。ただ、皆さんがガルシルドに感じていた不信感の正体はわかったんじゃないですか?」

 

 ちらっと後ろを見る。

 気配は私たちが捕まった時から感じていた。

 私の視線に観念したのか、ノックして中に入ってきたのは……。

 

「財前総理、失礼ながら話は聞かせていただきました」

「君は……鬼瓦刑事だったか……?」

 

 まあ、こんなところにいるのはこの人ぐらいだよね。

 鬼瓦刑事。総帥を追い詰めるためなら敵の移動要塞だろうが潜水艦だろうが潜入してくるような人だ。

 総理、警察、そして証拠のデータ。

 全て揃った。私の勝ちだ。

 

「鬼瓦……つけてたのか」

「ハッ、見てたぜ。ずいぶん老いぼれたモンだなおい」

「フン、ビビって助太刀しなかったやつに言われたかないわい」

「はいおじいちゃんたち、お静かにー」

 

 そういえば二人は知り合いなんだっけ。まあ総帥追ってるんだし、当たり前っちゃ当たり前か。

 でも今はそんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない。

 

「この大会はガルシルドが各国を仲違いさせ、戦争を起こさせるもの。皆さんはガルシルドに利用されていたんですよ」

「……許せないな。ああ許せない。この大会は子どもたちに夢を与えるもののはず。断じて戦争などに利用してはならないっ!」

 

 その言葉はポツリとつぶやく程度の静かなもの。しかしその中にはグツグツと燃え盛るような怒りが感じられる。あまりの威圧感に、親しい仲と思われるSPの人すら一歩退いてしまうほどだ。

 ダンっとテーブルを叩き、総理は立ち上がる。

 

「皆さん、今こそ我々が立ち上がる時です。鬼瓦刑事、国際警察に連絡を。私たちはグラウンドに直接行こう」

 

 そのかけ声に反対する者はいなかった。

 当然だ。ガルシルドから利益を得ている者も中にはいるだろうが、戦争が起きるとなればそんなものは吹っ飛ぶ。そんなことは二回もの世界大戦を経験した今では分かりきっている。倫理以前の話だ。

 

「そうだなえ君。それと連れのあなた達も一緒に来てくれ」

「私たちも?」

「今回は君たちのお手柄だ。君たちにも最後を見届ける権利はあるだろう」

 

 断る理由はなかった。あのクソ野郎の最期が見れるなら願ったり叶ったりだ。大介さんたちも異論はないようだ。

 ガルシルドを逮捕するための逮捕状が出るには少し時間がかかる。

 それまでにちょっと準備をしようかな。なに、ちょっとしたイタズラだ。あいつをさらにどん底に叩き落とすためのね。


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