悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
……すんません、今まで諸事情でゲームできてなかったので、色々溜まってました。
巨悪というものは保身を重ねるものである。
誰もが自身が悪いことをしている。その意識を僅かでも心の奥底に宿している。その自覚ゆえに復讐を恐れ、身を固めるものだ。
たまにそういったものを感じないサイコパスもいるが、それは協調性がないという理由で巨悪になりえないので割愛する。
ともかく、何が言いたいかといえばやつは必ず一度ガルシルド邸に帰るということだ。
あそこには兵器がわんさかある。犯罪者認定されたやつは使用を躊躇わないだろうし、警察でも時間をかなり稼がれることだろう。その隙に証拠品とボディガードを引き連れて脱出、というのが私が予測したやつの計画だ。
私が何年悪人やってると思ってる? これぐらいは読めて当たり前さ。
とはいえ、私はその警察でも苦戦する戦場に単騎で、ロクな武器もなく突っ込むというのだから笑えない。
いろいろ考えたけどこれしかなかった。つまりヘンクタッカー君たちの護衛をすり抜けてガルシルドを気絶させ、拉致して警察に届ける。
届け先も気をつけないと。一番信用できる鬼瓦刑事は鉄骨落としのえじきになっちゃったし、他を探さないと。あの歳で鉄骨落としは心配だけど、今は『不死身の鬼瓦』を信じる他ない。
……これを取らぬ狸の皮算用って言うのかな。失敗する確率の方が超高いのにも関わらず後のことを考えるなんて笑える。
さて、現実逃避はここまでにしよう。
目の前を睨みつける。たたずむのは夜のカーテンを纏った悪趣味な屋敷。
周囲を警戒する必要はない。だってもうバレてるだろうし。
ガルシルドと違って、ヘンクタッカー君と私の付き合いは鬼道君ほどではないにしても、そこそこ長い。彼なら私がどのように動くのか手に取るようにわかるだろう。
歩みを進めれば、ほら見えた。
霧の中でうっすらと浮かび上がる十数の影。その先頭のものは実にふくよかで、見間違えるわけがない。
「お待ちしておりました」
「その割には手ぶらじゃん。客に茶すらも出さないのがそちらのルールなのかな?」
「いえいえ、もちろんご用意しております。……あなたの首を持って、ガルシルド様への手土産とさせていただきましょう!」
「もらう側じゃん」
直後にマシンガンが火を吹く。
十数人から放たれた数百発の弾丸は文字通り弾幕となって襲いかかってくる。
石畳の上にも関わらずスライディングを決め込み、門の後ろに滑り込んでそれらをかわす。
ひっどい手土産だこと。私じゃなかったら間違いなくお陀仏だったね。
撃ち方やめの号令で嵐がやむ。しかし構えを解いたわけではないだろう。不用意に体を晒せば、今度こそ蜂の巣だ。
何もできない私を見たのか、下品な高笑いが門の向こうから聞こえてくる。
「うざいからそれやめてくれない? 今どきそんな負けフラグ全開な笑い方するの総帥くらいだよ?」
「ふんっ、相変わらずの減らず口を……。まさかこの私がこんな小娘一匹にしてやられるとはな。だがそれも今日で終わりだ。貴様だけは今ここで血の海に沈めてやる! 貴様の恩師のようになぁ!」
影山総帥……!
胸元にかけていたひび割れのサングラスを強く握りしめる。
ごめん。わかってたけど、どうにもならないや。でも仕方ないでしょ? 私の目指す最高のサッカー選手は、何度だってその無理を乗り越えてきたんだから。張り切っちゃうのも当然と思わない?
私は『本物』の器じゃなかったってだけ。だからこの行動に関しては怒らないでよね。
「さあ許しを乞え! そして絶望の涙を流せ!」
「あいにくだけど、謝るって精神は帝国学園暗部には存在しないんだよっ!」
覚悟を決める。
太ももからナイフを取り出し、それを血が滲むくらい握りしめて……叫んだ。
「うォォォォォォっ!!」
駆ける。
そして世界が冷たい光に包まれ……。
「待てぇぇぇぇぇっ!!」
——る前に、その声が私たちを静止させた。
この胸にビリビリくる叫び声……まさか……。
急いで後ろを振り返る。
そこには、イナズマジャパンのみんながいた。
「円堂君……みんな……なんで……!?」
「そんなの決まってる! 仲間だからだ!」
ああ……そういう人だよね、君は。
あんまりにも単純な言葉なのに、それだけで「なんで来たの?」とか「逃げて」とか、言いたいこと全部吹っ飛んじゃった。
こんな私のことを仲間と思ってくれている人たちがこんなにいる。それがたまらなく嬉しくて、追い返すことができなかった。
実に私らしいことだ。
赤キャップのおじいさん——大介さんが、ヘンクタッカー君の後ろに立っているガルシルドを睨みつける。
「こんな少女一人に銃火器か。それも複数で。恥ずかしいとは思わんのか!?」
「私の方からすれば、そいつこそ恥ずかしいとは思わないのかと言いたいがね。さんざん影山にひっついていたくせにいざとなったら敵側へ寝返る。醜い売女とは思わんかね?」
「っ……!」
一瞬、胸に痛みが走る。
しかし円堂君は私を庇うように前に出て、迷いなく断言してくれる。
「違う! たとえ所属するチームや尊敬する人が違っても、俺たちは仲間だ! 仲間が仲間に頼ることの何が恥ずかしいんだ!?」
「仲間か。たとえその女が何人もの人間を手にかけた、私と同じ犯罪者だとしても?」
「それでも助ける! そんでもって思いっきり叱って、そして全力で更生させてやる! それが仲間だ!」
「守……大きくなったものだ」
え゛ん゛と゛う゛く゛〜ん゛っ!
そこまで私のことを思ってくれてたなんて……感動した!
もうこうなりゃヤケだ。円堂君を巻き込みたくないとかうじうじ悩んでたけど、私は覚悟を決めたぞ。
円堂君たちと一緒に、ガルシルドを倒す!
うん、実に自己中ないつもの私らしい考えだ。
彼の素晴らしい演説も、しかし人の心を持っていない野蛮人には響かなかったらしい。鬱陶しそうに顔を歪めている。
「ふんっ、家族揃って暑苦しいものだ」
「えっ、家族って……まさか……!」
「ここで邪魔者が全て揃ったのも何かの縁。貴様はここで潰してやろう。アラヤ……いや、円堂大介!」
ガルシルドの言葉に円堂君が大介さんを見つめる。
む? あ、そっか。まだ彼、この赤キャップおじさんが大介さんって知らなかったのか。
期待を込めた目。うんうん、私も今日の今日までこんな目してたなぁ。……大介さんの凶行に振り回されるまでは。
この人空き缶にすっ転んでSPに見つかったあげく、そのSPに突撃して真っ先に捕まったくせに私に文句言ってたんだぜ? ないわー。もはや尊敬できんわ。総帥があんな性格になった一端は間違いなくこの人のせいだと今は断言できる。
まあこのことは私とロココの心の奥底にしまっておいてあげよう。少年の夢を壊すものじゃあない。
「が、ガルシルド様。お言葉ですが時間が……」
「心配せずともここの戦力は万全だ。それになヘンクタッカー君。やつらをお得意のサッカーで叩き潰さなければ、私の腹の虫が収まらんのだよ……! よくも、よくも私の計画を……っ!」
「お気を確かに、ガルシルド様!」
あ、さすがに人生に一回ぐらいの大プロジェクトをペシャンコにされたのには堪えたみたい。ガルシルドの口は大量のヒゲで覆われて見えないものの、よく耳を澄ませたらガチガチと歯軋りするような音が聞こえる。
あいつの悔しげな顔に気を良くしていると、ふと円堂君の顔が目に入った。
彼は……なんとも言えない、迷っているような悩んでいるような、そんな顔をしていた。まるで何かを見極めようと思って、それができないような……。
「……なあガルシルド。戦う前に一つ聞いていいか?」
円堂は恨みも憎しみもない真剣な表情で問いかけた。
「お前は……サッカーが好きか?」
「ふむ?」
あんまりにも唐突な問いだ。ガルシルドだけでなく私たちまで戸惑った表情を見せてしまう。
円堂はそんな問いをした理由を、今までを思い返すように手を胸に添えて言う。
「今までサッカーで悪いことをしたやつはたくさんいた。でもそいつらは本当はサッカーがすっげえ大好きで、最後にはその『好き』って気持ちを思い出すことができたんだ」
ふと脳裏に浮かんだのは二人の男。
片方は愛するサッカーを失った絶望に狂い、復讐鬼と化した男。
もう片方は未知の石の力に取り憑かれ、愛する者やサッカーを道具にしてしまった男。
どれも大きすぎて比較できそうにない悪人たちだ。だから円堂君はそんな問いかけをしたのだろう。
しかし私が許せないのは、やつはサッカーを……。
「くっ……くくくっ……!」
「何がおかしい?」
「ブワッハッハッ!! これがおかしくなくてなんという!? 私があんなもの好きなわけないだろう! ブラジル代表の監督になったのも、実験体になる上質な選手を都合よく集めることができたため! 私からすればあんな玉転がしに夢中になってるやつの気が知れんわっ!」
『サッカーをバカにするなっ!!』
気がつけば私たちは同じことを叫んでいた。
「サッカーは私みたいな人にも光をくれた!」
「一生懸命走って……! 仲間と一緒に熱くなって……!」
「見てる人にも希望を与える……! そんなスポーツなんだよっ!」
「それをお前なんかに……っ!」
「あなたなんかに……バカにされてたまるかァッ!!」
「っ、なんだこの衝撃波は……!」
「……ガルシルド様、お下がりください」
「この私が……震えている……? あんなガキどもに……? ふっ、ふざけるな!」
ガルシルドは唾を飛ばすような勢いで命令する。
「ええい、やれ! チームガルシルドよ! これ以上の虫の羽音は聞くに堪えんわ! お前たちにはあらゆる選手を超越した最高の力を与えてやった。その研究成果を見せてやれ!」
『ハッ!』
上等だよ……! 耳に障害があろうが、体に穴が空いてようが関係ない! ここで決着つけてあげる……!
双方睨み合いながら、ヘンクタッカー君に案内されてグラウンドに歩いていった。
♦︎
「ほい変身っと」
「きゃぁっ! ……って、あら? いつのまに着替え終えてる……」
夏未ちゃんはいつまで経ってもウブだねぇ。私の早着替えなんてイナズマキャラバン時代に飽きるほど見たでしょうに。
ほい、というわけでここで夏未ちゃんがなぜここにいるかの経緯を話しておこっかな。
彼女、なんと大介さんが生きてるかもしれないって聞いて、円堂君のために一人海外に調査に出かけたんだって。青春だねー。
そんでついでにマネージャーとしての力を磨くためにそのまま残り、コトワールのマネージャーになったのだとか。
うーん、妬けちゃう。お腹いっぱいになりそうなお話だ。
「私のことはどうでもいいでしょ!」
それもそうだね。
さて、メンバーを確認しよう。試合に出るのはイナズマジャパン+私だ。ロココもフォワードとして参加できたらよかったんだけど……。
「ごめん師匠……さっきSPに倒された時に軽く捻ったみたい……」
「いや、大丈夫だ。お前は嬢ちゃんを手伝ってやれ」
てなわけで出場は無理みたい。おのれ財前! ……いや、別にあのSPが財前総理のって決まったわけじゃないけど。
フォーメーションはこんな感じだね。
対するチームガルシルドは……もちろん私のデータにない選手ばかりだ。警戒すべきなのはキャプテンのヘンクタッカー君がディフェンスにいることだろう。
あのふくよかな体なら納得のポジションだが、見た目に騙されてはいけない。私と格闘戦ができるぐらいに動けるのだ、ドリブルもできると思った方がいいだろう。
審判はいない。これは野良試合なのでいなくても問題はないのだが、それはやつが私たちを徹底的に潰すつもり満々なのが感じ取れる。なにせファールとか取るつもりないって言ってるようなものだからね。
ストップウォッチを持った夏未ちゃんが、ホイッスルを口に咥え……
——試合が始まった。