悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
豪炎寺君からのパスを受け取り、一気に敵陣へ攻め込んでいく。
一人をかわし、二人目を抜き去り、三人目を弾き飛ばす。
「す、すごい気迫……一気に三人抜いちゃいましたよっ」
「虎丸、遅れるな! 俺たちもいくぞ!」
「は、はい!」
開始わずか数十秒で私は敵コートの真ん中まで進んでいた。
これ以上の進軍は許さんと、敵ミッドが立ちはだかるも。
「ヘビーベイビー!」
「邪魔だよ! 真ジャッジスルーッ!」
「ふごぉっ!?」
黒い波動がボールを包み込み、その重さを何十倍にする……前に。
放たれた私の蹴りがボールを間に挟んで彼の顔面に直撃した。
さらに前進。
今度はセンターディフェンスのヘンクタッカー君が立ちはだかる。
「ふふ、やるじゃないですか。ですが……見えてますよ! —— デーモンカットV3!」
「残念だけど、それは目の錯覚だね」
「なっ!?」
ちょんと、軽くバックパス。それに意表を突かれたのか、ヘンクタッカー君が目を見開く。
彼の予想だと、今までの恨みを晴らすために私が真っ向からぶつかってくると思っていたのだろう。だけどこれはサッカーなのだ。私は一人じゃない。
バックパスの先には鬼道君がいた。その隣には不動も。
一瞬目を合わせただけで私たちは通じ合い、連続パスであっさりと彼を抜いてみせた。
「そのまま決めろ、なえ!」
キーパーと一対一。絶好のチャンスだ。
総帥。貴方の仇はこの足で……サッカーで取ってみせる。
ボールを足で挟み、回転しながら跳躍。そしてある程度の高さまでいったところで放すと、ボールを中心に六芒星の魔法陣が描かれる。
最後に指笛を鳴らしてペンギンを呼び寄せ、その中心のボールを思いっきり踏んづけた。
「皇帝ペンギン零式!!」
魔法陣を通過して、桃色の閃光となったボールとペンギンたちが、ゴールを襲う。
あれを止められるのなんて、ロココくらいのものだ。そう思っていた。
「ビッグスパイダー!!」
私の予想は完璧に裏切られた。
キーパーは背中から八本もの蜘蛛の腕のようなものを生やすと、それらをレーザーに突き刺した。
それだけで、ボールは回転を落とし、止まってしまった。
「なっ……!?」
「ふっ、所詮はプロトタイプ。あらゆるデータを注入された、我々のRHプログラムには敵わない!」
「ハッハッハッ! 見たか、私の力を! 神のアクア? エイリア石? そんなものをもはや必要ない! RHプログラムさえあれば、人智を超えた力を手にすることができるのだ!」
「……ふん、いったいどれほどの負担を代償にしているのやら」
「おや、一試合のために命を落としても構わないのが君の主義ではなかったかね?」
「ちっ……!」
ぐっ、悲しいけど何も言い返せない。
たしかに皇帝ペンギン1号とか自発的に使うやつが未来見てるとは言えないけどさ……。
投げられたボールはヘンクタッカー君へ。そして近くにいたもう一人の男へ、さらに渡る。
「さて、では見せてあげましょうかね。私たちの力を!」
「っ……!」
ヘンクタッカー君が宣言すると、突如視界からボールを持っていた男が消えた。
そう思った次の瞬間、凄まじい衝撃を感じ、体がくの字に曲がる。
「がっ……!」
「ジャッジスルー2!」
追い討ちをかけるようにスライディング気味の蹴りを腹部に受け、体が真上に吹き飛ぶ。しかし落ちることは許さないとばかりに、男のマシンガンじみた蹴りがその後延々と私を突き上げ続けた。
「がっ! ごっ! ぐっ! がぁぁっ!!」
「なえええっ!!」
最後に逆立ちするかのような両足蹴りが顔面にクリーンヒット。鮮血を撒き散らし、そこでようやく私は地面に崩れ落ちる。
「おい、今のは確実にファールだろ!」
「ぐっ、審判がいないのはこういうことか……! やつら、サッカーの範囲内で俺たちを潰すつもりなんだ!」
痛っ……ヤバい、意識が少しトんでた。円堂君の声が聞こえなかったら即ノックアウトしてただろう。
ボールを……奪わなきゃ……。
脳が立ち上がれと四肢に命令を送る。しかしそれはところどころで切断されたみたいにうまく届かず、立とうとすると足が震えてしまう。それでもようやく膝立ちまでできた私が、揺れる視界の中で見たものは、ものすごい勢いで目の前に落ちたボールだった。
「お昼寝には早いですよっとっ!」
「あ゛っ!!」
ワンバウンドしたボールは少しも勢いを衰えさせることなく私のアゴを撃ち抜いた。その衝撃で上半身が跳ねるように起き上がり、無理やり立たされる。脳が上下にシェイクされ、さらに視界が歪む。その中でヘンクタッカー君と先程の男が近づいてくるのが見える。
男はボールの上に踏んづけるように飛び乗る。するとボールは三つに分身し、まるで衛星のように彼の頭上を回り始めた。
それらに、ヘンクタッカー君は渾身の蹴りを叩きつける。
『ジャッジスルー3!!』
「ガァァァァァァアアッ!!」
意識が……薄れて……。
三つの弾丸は全て顔面にクリーンヒット。今度こそ私は地面に横たわり、指一本も動けなくなる。
「裏切り者には罰を。そして反逆者どもには鉄槌を。……さあ、いきましょう」
『ハッ!』
ぐっ……何もっ、聞こえない……! まさか……!
最悪の予感が頭をよぎる。しかしその間に無情にも試合は進んでいく。
チーム・ガルシルドは恐るべき身体能力を余すことなく使って、強引にイナズマジャパンのブロックを打ち砕いていく。
彼らのタックルで人が数メートル吹き飛んでいく様子は、まるで電車かなんかが突っ込んでくるみたいだ。
そしてゴール前。円堂君は一対一となり、身構える。
『受けてみろ! これが究極のシュートだ!』
『究極なんて存在しない!』
円堂君は右手に虹色の気を溜め始める。
対する相手は空中に跳び、両足でボールをガッチリと挟む。そして捻るように放すと、ボールは一人でに高速回転を始め、一つの弾丸となって放たれた。
『ガンショット!』
『真イジゲン・ザ・ハンド! ……ぐあぁぁぁっ!!』
あのヒデナカタのシュートすら止めた技をこうも簡単に破るなんて……。
この圧倒的な一連の流れから、私のシュートも撃たされたものだったのだろう。
私たちにさらなる絶望を与えるためのデモンストレーションとして。道理で簡単に突破できたわけだ。
……よし、だんだん回復してきた。さすが私。
あいにくと、顔面にボールをぶつけられたりするのはエイリア時代から慣れっこだ。気合いを入れれば血は止まるし傷も塞がる。いやほんとマジで。バダップにボコボコにされた時くらいからかな、いつのまにか使えるようになってた。
でもまあ限度はある。今私を一番悩ませている問題はこれじゃ解決できないみたいだし。
「へっ、無事みたいだな。あんだけタコ殴りにされたってのに、相変わらず丈夫な女だな」
「……」
『おい聞いてんのか!?』
「っ、ああ今話しかけてたのか。まあ怒らないでよ。ちょっとトラブルが起きたみたいでさ」
『ああん? トラブルだと?』
私の読唇術は当然ながら視界に入らなきゃ意味をなさない。今度こそ不動の言葉に頷き、首に巻いていたチョーカー型の機械を取り外す。
「実は今耳に異常が残っててね。それの補助にこの機械を使ってたんだけど、どうやら壊れたみたい」
『なにっ!?』
「いや、壊されたの方が正しいかもね」
ヘンクタッカー君たちなら情報を集めるのも簡単だろうし。なによりこっち見て上機嫌にニヤニヤしてる様子から、あれは棚からぼた餅的なものじゃなくて計画的にやったものだと推測できる。
不動はそんな彼らを睨みつけ、舌打ちを打つ。
『ちっ、どーすんだよこれ。司令塔の指示が聞こえないなんて欠陥どころの話じゃないぜ』
「だよねぇ」
今みたいに試合が止まってるならまだしも、プレイ中に鬼道君や円堂君の言っていることを読み取るのはほぼ不可能だ。敵を見ないで突破出来るほど、チーム・ガルシルドは弱くない。
「でもやるよ。やらなきゃならない。私の手でガルシルドを倒さなきゃ、たぶん私は前に進めないから」
『……あっそう。よかったなポンコツ。ちょーど監督さんもOKの指示を出したところだぜ』
遠くであんまり見えないけど、どうやら夏未ちゃんが選手交代のサインを出そうとするのを大介さんが止めたらしい。
ふと目が合った。それだけで感情が流れ込んでくる。
……あの人もやっぱり『本物』だ。私のこの試合に賭ける思いを理解してくれている。そしてこの試合に最後まで立っていなければ、たとえ命は助かってもサッカー選手としての、戦士としての私が死ぬことも。
そうだ、負けられない。たとえこの試合で燃え尽きたとしても、この試合だけは絶対に勝たなきゃならない。
事情を聞かされたらしい鬼道君が作戦を伝えてくる。
『こうなったら仕方がない。お前は自由に行動しろ。俺たちがお前の動きに合わせる』
「ごめんね……」
『ふっ、どこぞのバカ曰く、仲間とは困っていたら助け合うものらしいからな。俺もずいぶん助けられた。だから気にするな』
これ以上謝るのは逆に失礼だろう。私が今すべきことは点を取ること。それが一番の感謝を伝える行動となる。
敵はたしかに私のシュートを止めた。しかし無敵のキーパーなんてどこにもいないのだ。必ず隙はあるはず。
私たちボールでキックオフ。した瞬間に敵がものすごい勢いで急接近してきて、荒々しく豪炎寺からボールを奪った。
「くっ、やはり速い……! だが……!」
「真キラースライド!」
「簡単にやられる俺たちじゃない!」
不動の必殺技が炸裂。ボールを取り返し、再び豪炎寺君に繋げることに成功する。
「虎丸!」
「っ!? ……わ、わかりましたっ!」
自分にパスした豪炎寺君の体勢を見て、虎丸は一瞬驚いた顔を見せる。しかしすぐにその意図を理解し、腰を深く落として足に気を集中させる。
なるほど……そういうことね。
「タイガー……」
「—— ストーム!」
「なっ……ロングシュートですと!?」
虎丸が打ち上げたボールを、豪炎寺君が蹴ってさらに加速。気によってできた虎は炎を纏い、フィールドを真っ直ぐと駆け抜ける。
「させるか! デーモンカット!」
ヘンクタッカー君以外も覚えていたのか。
当然、グラウンドの真ん中から撃ったところで入るわけがない。せいぜい今みたいに必殺技をぶつけられて、大きく威力を削られるのがオチだ。
なら、なぜこんなことをした?
それを一瞬で考えるのが一流だ。
紫色のオーラが噴き出してできた壁に、虎が激突。その激しさに雄叫びをあげるも、なんとか壁を突き抜けることに成功する。しかしそれで威力を落としすぎたらしく、虎は消え去って、ただのシュートになってしまった。
それを、走り込んでいた私が胸で受け止める。
「なんと、いつのまに……」
「スプリント……ワープッ!」
そこでさらに加速。桃色の気を身に纏い、もはや残像すら見える勢いでフィールドを縦横無尽に走り、必殺技を出させる間も無くセンターディフェンスを突破した。
次こそ、決める!
「ハァァァッ!!」
天に掲げるように高く足を引き絞り、ボールを蹴り出す。それは風を突き抜けて音を鳴らし、ゴールに迫る。
キーパーはさっきの必殺技の構えを取ろうとする。しかしその時、シュートの軌道が斜め上へと変化し……ゴォォォンッ! という鐘でも突いたかのような音が響いた。
「出た、なえの十八番『バー当て』!」
跳ね返ってきたボールはちょうど私の斜め上にやってくる。そのまま迎えるように跳躍して体を逆さにし、ダイレクトでボールを蹴った。
必殺技のタイミングをずらした、完璧なシュート。これなら……。
『ビッグスパイダー!』
そんな私の期待は、蜘蛛の手によってあっさりと摘まれてしまった。
ボールはキーパーの手でガッチリと掴まれ、テコでも動かなそう。それほどまでに完全にキャッチされていた。
「ジョークでしょ……?」
『クックック。どうやら肝心なことをお忘れしているようですね。あなたが使ったのはプロトとはいえRHプログラム。つまりあなたのデータも私たちの中には含まれているんですよ!』
「っ……そういうことね」
RHプログラムを使ったのは完全に失敗だったなぁ。と若干後悔する。いやまあ、あの時の私に拒否権なかったけど。ブラック企業勤めはつらい。
『もちろん他の技も分析済み。あなたが点を入れることは万に一つもありえないのですよ!』
『だったら、俺たちが決めるまでだ!』
キーパーから投げられたボールを、豪炎寺君がうまくカット。その両横に虎丸とヒロトが並ぶ。
『グランド……ファイアッ!!』
イナズマジャパン最強の必殺シュート。それが三人によって放たれた。
燃え盛る爆炎は壁のように広がり、途中の地面を焦がしながら突き進んでいく。その威力はおそらく皇帝ペンギン零式以上だろう。
しかし、それでも敵の表情は変わらない。キーパーは先ほど同様に、腕を広げて蜘蛛の足を展開し……。
『ビッグスパイダー!』
それらを炎に突き刺して、中のボールを抉り出した。まるでモーセの海割りのように、炎の壁は真っ二つに割れ、消えていってしまう。
グランドファイアが止められたことは今まで一度もなかった。それゆえに衝撃もものすごく、あの豪炎寺君でさえ声を荒げてしまう。
『バカな、データを収集されていたのはなえだけじゃなかったのか!?』
『もちろんあなた方のもありますよ。なにせイナズマジャパンは円堂大介のサッカーを受け継ぐチーム。警戒するのは当たり前ですよ』
『くっ……!』
『フフフっ、リトルギガントと違って、あなたたちのデータ収集はとても簡単でした。なにせ毎試合全ての手札を見せてくれるのですからね』
必死ですねぇ、と嘲るようにヘンクタッカー君は笑う。
たしかに、イナズマジャパンは余裕勝ちをしたことが一度もないチームだ。それがこの試合で裏目に出るなんて……。
『ついでだ。そこの女から生み出した新たな力を見せてやろう』
『ハッ!』
なんだろう? ガルシルドが何かを命令すると、何か禍々しい気がチーム・ガルシルドたちから溢れ、それを纏い出した。彼らの肌は若干ピンクがかり、まるで界王拳でも使ってるかのような雰囲気だ。
それにしてもこの気、誰かのに似てるような……。
その答えはすぐにわかった。
『ふんっ!』
『なっ!?』
ヘンクタッカー君が一歩を踏み出す。
それだけで次の瞬間、彼は豪炎寺君たちを通り過ぎていた。
ヘンクタッカー君の体型的に、あんな速度を出すことは不可能だ。にも関わらず、彼はまるで閃光のように次々とイナズマジャパンのブロックを突破していく。
「このスピード……まさか私の!?」
『そうだ! 私の研究により、お前の天性のスピードすら付与できるようになったのだ! ガハハハッ! もはや努力も才能も必要ない! 私の力が全てなのだ!』
ヘンクタッカー君だけじゃない。チーム全員が光の如きスピードでグラウンドを駆けている。
その恐ろしい光景に、背筋に冷たい汗が流れるのを感じた。
なえちゃんに聞こえているものは二重かぎかっこ、それ以外は普通のにしてあります。