悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
ガルシルドとの決戦から数日。ジャパンエリアの宿舎にて。
朝、食堂で何気なく全員がテレビを見ていた時のことだった。
『次のニュースです。昨日、少年サッカーイタリア代表、オルフェウスのメンバーである白兎屋なえ選手が、大会主催者であるガルシルド・ベイハン氏に暴行を与えたとして拘束されました。なお、その後ガルシルド氏は数多くの犯罪を犯していたことが発覚し、逮捕されました』
「あ、円堂君見て! なえさんのことが載ってるわよ!」
秋の言葉に全員がテレビに集中する。
「が、ガルシルドは悪いやつだったッスけど……あれ見たあとだとちょっと同情しちゃうッスね……」
「ば、バカ壁山! 思い出させんじゃねえ! またトイレに行けなくなっちまうじゃねえか!」
「あはは……」
染岡の静止に円堂は苦笑いするほかなかった。
ガルシルドの最期の断末魔。あれを思い出すたびにまだ体が震えてしまう。あれは男としてとても他人事には思えなかった。
『あ、白兎屋選手が警察署から出てきました!』
と、みんなが昨日の恐怖に怯えている時に、その元凶がテレビに姿を現した。どうやら着替えはもらえたようで、普段着を着ている。顔つきも悪くなく、思ったよりショックは受けてないようだ。
まあ、少年院送りされかけたり、潜水艦で爆破されたりしてるやつがメンタル弱いわけがない。
『白兎屋選手! 今回の事件はなぜ起こってしまったのでしょうか!? ガルシルド氏といったい何があったんですか!?』
このような質問が降り注ぐ中、なえは半ばヤケになったように叫んだ。
『ガルシルドがムカついたから、キンタマ蹴っ飛ばしてやりましたっ!』
このパワーワードはしばらくの間、ネットでトレンド一位を獲得したのだった。
♦︎
「『サッカーの女神ナエ・シラトヤ、ゴールデンボールをシュートする』かぁ……」
「その話題はもう言わないでぇぇっ!!」
急いでフィディオが持ってた新聞を取り上げ、ビリビリに破り捨ててやった。
ハァッ、ハァッ……。くそぉっ! どうしてどこもかしもそればっかり報道するんだ! 新聞とか私の体で見出し全部使ってるせいで、ガルシルドの犯罪とか隅に追いやられてたよ!? 暇かライオコット島の住人は!
ガルシルド戦から数日後、ようやく釈放された私を待っていたのは羞恥による責め苦だった。地獄かここは。
はぁ、せっかく耳の怪我とか体に空いた穴も治ったっていうのに。呑気に喜んでらんないよ。
え、たった数日で銃による怪我が治るわけないだろって? 治るんだなぁ、なぜか。まあ体質ってやつだね。神のアクアすら克服した体だし、まあこんなもんでしょう。
ふしゃー! と猫のように唸ってると、ポンポンと頭を叩いてフィディオが宥めてくる。
「まあまあ。無事お咎めなしで終わったんだし、いいじゃないか」
「こんなの黒歴史だよぉ……あのナカタですら大爆笑してたんだよぉ……?」
「ガッハッハ! いいもん見れたぜ! 記念に録画でもしておくか!」
「うっさい、キンタマ潰すよコラ」
「ひぃぃぃぃっ!!」
ブラージ、よっわ。
というか男性陣全員が内股になっちゃってるんだけど。もうお嫁に行けない……!
いい加減しんどくなってきたので、ごほん、と咳払いしてその話をやめさせる。
「そうだフィディオ、今から円堂君たちのとこに行かない?」
「ジャパンエリアに?」
「そっ。昨日盗聴……げふんげふん盗み聞きしたんだけど、今日私や円堂君たちの友達がライオコット島に来るんだって。それでせっかくだからってことで紅白戦をやるらしいの」
「全然言い直せてないよ、それ……」
ちなみに盗聴器は総帥の命令でつけたものである。だから私は悪くない。そんでもってあるものは使うのが私の主義なのだ。
フィディオはちょっと考えたあと、こころよくOKしてくれた。決まりだね。
「他にも行きたい人いるー?」
「いや、すまねえな。俺たち今日上映の映画見に行く予定なんだよ。だからお前たちで行っててくれ」
と、ブラージ。
「僕サーフィンの体験に申し込んじゃったから……」
と、アンジェロちゃん。
「俺たちも観光ツアーバスのチケット買っちゃったからなぁ」
と、ラファエレ。
他のみんなもこの三人のどれかについていくみたいで、暇な人はいなかった。みんな、ちゃっかり遊んでるなぁ。まあ南国に来たんだし、遊ばなきゃ損か。
♦︎
バスに乗って数十分。二人で談笑してるうちに、あっという間にジャパンエリアに着いた。
ここは何回も訪れてるけど、相変わらずいいところだね。昔の日本を完全再現して建物は全て木造建築。それもかなり本格的だ。川の上にかかっている橋なんて、京都にでも来たような気分になるよ。しかも川には鯉がいるという風流さもある。
日本人ゆえか、こういうもの見てると心にくるものがあるね。
それらを一通り見終えたあと、橋の先にあるグラウンドにやってきた。
『バタフライドリーム!!』
お、やってるやってる。
二人の少女によって蹴られたボールは、蝶みたいに不規則に飛び回り、ゴールを目指していく。
対する円堂君は……。
「ガン、シャン、ドワァァァンッ!!」
体全体を使ってそう叫ぶと、彼の背後に魔神さんが現れた。ん〜、でもまだ安定してないなー。気がコントロールできてないせいで、はっきりしたり薄くなったりしてる。
それでも構わず、円堂君は両手でボールを取ろうとするけど……。
「——ぶべっ!?」
あー、やっぱこうなっちゃったか。ボールは霧みたいに魔神さんの手を貫通して、円堂君の顔面に直撃してしまった。血が出てるし、いたそー。
ガルシルド戦の時は止めれたじゃんって思うかもしれないけど、残念ながらあれは
決勝戦まで残り一週間を切ってしまっている。この技は間違いなく次の試合での切り札になりうるだろう。それまでの間に完成できるかが、勝敗に関わってきそうだ。
まあ私はなんの心配もしてないけどね! どうせできてなくても、試合中に完成しちゃうだろうし! なんでピンチの時に限って劇的にパワーアップしちゃうのおかしくない!? サイヤ人か君は!
……失礼、ちょっと本音が出てしまった。
「なえ、あの技は……」
「新必殺技だって。まあ今見た通り、完成までまだかかりそうだけどね」
それよりもっと。
おーい、と声をかけながら手を振ってると、みんなが振り向いてくれた。特に円堂君は真っ先にこちらに来てくれた。
「なえじゃないか! 体は大丈夫なのか?」
「だいじょーぶだいじょーぶ! この通り完治したよ」
「あれだけの怪我を数日で治すって、やっぱ人間じゃなかったか」
「僕もあれくらい怪我が治りやすかったらなぁ」
「こらそこのトサカ頭、開口一番で失礼なこと言うんじゃない」
まったく、口を開けば余計なことしか言わないな、このバナナは。
シロウは私の体を若干羨ましそうに見ていた。むっ、さては私の体を乗っ取って中性的な男性から本格的な女子にイメチェンする気か! させぬ、させぬぞそんなことは!
「どうしてなえちゃんは僕を見てふしゃーって鳴いているんだい?」
「たまにやつの頭はバグるからな。俺でもわからん」
「ほらナエ、ドードー」
ポンポンとフィディオに頭を叩かれる。子供扱いするなバカ。私は今身の危険を感じている最中なんだぞ! って主張したけど、軽く無視された。なえちゃん泣いちゃいそう。
「あんた、ほんっと変わってないよね。まあらしいと言えばらしいけどさ」
「うわ、スッゴイイケメン……あんたも隅に置けないやつやな」
「ヤッホー、塔子、リカ。ライオコット島へようこそ」
まあご覧の通り、彼女たちがこの島に来た円堂君の友人たちだ。
服装は二人とも雰囲気に合わせてか、お土産屋さんで買ったであろうイナズマジャパンのユニフォームを着ている。
リカはあんまりリアクションがない私に呆れてた。
「なんや驚かへんのな。せっかくサプライズで来たのに、つまんないわー」
「なえのことだから、盗聴器でもしかけてたんじゃないの?」
「ギクッ! ハ、ハハハッ……さすがの私もそこまでしないよ!」
「まあそうだよなー」
こっわ! 塔子こっわ! なんでピンポイントで真実を言い当ててるの!? 総理大臣の娘、恐るべし。
「というか気になってるんだけど……なんで夏未ちゃんまでここにいるの? コトアールのマネージャーやってるんじゃなかったっけ?」
「べ、別にいいでしょ」
「夏未はまた俺たちのマネージャーになってくれたんだ。ガルシルド戦の時のアドバイスもわかりやすかったし、頼りにしてるぜ」
「ふんっ」
おっ、円堂君がそうベタ褒めしてると、夏未ちゃんはそっぽを向いてしまった。しかししっかりその顔は真っ赤になっちゃってる。アオハルだねぇ。
「イナズマジャパンはもちろん、あんたの活躍も見てたよ。あーいいなー、あたしも性別偽装して男として参加すればよかったなー」
「お、おう……前から思ってたけど、この子アグレッシブすぎない? 鬼道君」
「お前が言うな」
総理大臣の娘がそんなこと言っていいのかって思って聞いたら、そんな言葉バッサリと両断された。最近みんなの私に対する態度が冷たい気がする。
……む? ボーッとリカを眺めてたら気づいたんだけど、なんか変わった腕飾りをつけているね。色は白く、なんか民族紋様的なデザインになっている。……なんか気になるんだよね。不思議な力を感じるというか。
「ねえ、それ変わった腕飾りだね。どこで売ってたの?」
「おっ、これに気づくとはさすがやな! これな、『伝承の鍵』っちゅーらしいで。露店で親切な爺さんたちがくれたんや」
「ほんとはもう一つあるんだけど、あたしには似合わないと思うからつけてないんだよね」
「へー、見せて見せてー」
塔子が取り出したのは、リカと対をなすような黒い腕飾り。
うん、こっちからもなんだか不思議な力を感じるよ。
「よかったらあげよっか? ちょうどあんたのイメージカラーって黒とピンクだし、似合ってるんじゃないか?」
「じゃ、せっかくだからもらっとこっかな」
はい装着!
たしかに、この腕飾りは不思議に満ちている。なんだか地雷臭がどことなくするし、伝承の鍵なんて名前からして胡散臭い。
だがぁしかしぃ! 私は気になったらとことん調べなければ満足できないタイプなのだ! 未知が怖くてサッカーができますかってことよ!
「うん、やっぱ禍々しいデザインで似合ってるな!」
「塔子、それ褒め言葉じゃないよ?」
「細かいことは気にすんなって!」
やだ、男らしい。
いや私は女なんだから、さすがに気にしますって。禍々しいなんて言われてちょっと気になったので、いったん外そうとする。
「……あれ? 外れない?」
しかし腕飾りは、なぜか手首までいくとテコでも動かなくなり、外れることはなかった。
この時の感想を一言で述べましょう。
あ、オワタ。
なんか嫌な予感がさっきの数倍感じられるんだけど。私の経験上、こういう時はロクなことが起こらない。わかってたはずなのに……なんで私は好奇心に負けて冒険してしまったんだ! 二分前の私死ね!
「大丈夫か? タダほど高いものはないってことか。あのじいさんたち、不良品配ったな!」
「げっ、うちも外れへん!?」
その後私たちはしばらく腕飾りと格闘していたけど、なんの成果も得られなかった。
大勢で引っ張ってもダメ。油塗ってもダメ。壊そうとしてもダメ。
いろいろやった結果、たどり着いた結論は……。
「ま、えっか」
『いいのかよ!?』
全員でリカにツッコんだ。
まあ、外す方法が現状ないから、仕方ないか。これ以上やっても無駄なのは分かり切ってるし、今日は塔子とリカの歓迎会なのだ。こんなので時間は食いたくない。
てことで、さっそく紅白戦を始めようとしたんだけど……。
「やあミスター・エンドウ。今日は激励に来させてもらったよ」
「なんだ、フィディオもいるのかよ。ちょうどいい、前に中途半端で終わった勝負、ここで白黒つけようぜ!」
「張り切ってるようだなエンドウ」
「ヒュー、風の噂で聞いたよ! ミーたちの代わりにガルシルドを倒したんだってね! 礼を言うよ!」
なんか多くないですか!?
上から順番にイギリス代表キャプテンのエドガー、アルゼンチン代表キャプテンのテレス、そしてアメリカ代表のマークとディラン。そこにフィディオと円堂君が加われば、Aブロックのチームのキャプテン大集合だ。
さすがの円堂君も、困惑した顔をしている。
「ど、どうしたんだいったい?」
「なに、たまたまこのメンバーが集結してね。せっかくだからと、君たちを激励しにきたのさ」
前髪をふわっと手でかきながらエドガーが答える。おー、かっこいい。こりゃ人気出るわけだ。現にリカとかめっちゃ興奮してるし。
「最初はお前たちのことなんざ眼中になかった。けど、最後まで生き残ったのはお前たちだった。こりゃ認めるしかないぜ」
「お前たちにはイチノセの思いも背負って、優勝してもらわないとだしな」
「ああ! サンキューな! スッゲー気合い入ったぜ!」
うんうん、敵だった選手たちがお互いを認め合ってる。いい光景だ。円堂君にはやっぱり人を惹きつける力がある。
その後しばらく談笑したあと、円堂君がこんな提案をしてきた。
「そうだ、せっかくだからさ。エドガーたちも混ぜて紅白戦をやろうぜ!」
「ふっ、面白い。餞別代わりだ。君たちにもう一度騎士の剣を味合わせてあげよう」
「いいねそれ! ミーも賛成だよ!」
「へっ、ちょうどいいぜ。まだぶっ倒せてねえやつもいるしな」
なんかテレスさんが獣みたいな目で私を見てるような……。
そうか、私が加入したのってアルゼンチン戦のあとだから、私はテレスと戦ったことがないのか。
面白い。私も世界最強のディフェンスを間近で見たかったしね。
そんなこんなで、世界の強豪を集めたドリームチームが誕生したのであった。
ダクソ2始めました。ドラングレイグ旅行です。相変わらず難しくて面白いけど、2はストーリーとかがわかりにくいから残念ですね。まあこれも考察しろってことなのかな。