悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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ヘルアンドヘブン

「ハッハッハッ! テメェらの半端な攻撃なんざ、魔王には通用しねえんだよ!」

 

 たしかに、ユニコーンブーストが止められた以上、一人でのシュートはほぼ決まらないだろう。かと言って今はいつものメンバーと違う。グランドファイアも皇帝ペンギン3号もできない。

 ……ん? もしかしたら私ならいけるんじゃ……。

 豪炎寺君とシロウにアイコンタクトを送ると、二人も頷いてくれた。

 

「お返しだ! やれっ!」

「ぐあああああっ!」

「マーク! くっ、この……があっ!?」

 

 デスタたちめ。彼らは痛めつけるようにマークたちにシュートを撃ってきた。

 その行為に激昂して、テレスがボールを奪おうとするも……。

 

「『デビルボール』!」

「っ……!」

 

 巨漢の酷く大きな口を持った男が蹴ると、ボールに悪魔の翼が生え、まるで意思を持ってるかのようにフィールドを飛び回った。しかも鳥みたいに速い。さすがのテレスもそれには追いつけず、突破を許してしまう。

 ボールはデスタへ。そして……。

 

「地獄に落ちやがれ! 『真ダークマター』!!」

「『真イジゲン・ザ・ハンド』ッ!! ——くっそぉぉぉぉっ!!」

 

 放たれた黒い閃光が、ガリガリと結界にヒビを入れていく。そしてとうとうそれを突き破り、円堂君を吹き飛ばしてゴールに入った。

 

「ハッ! もはやシャドウ・レイを出すまでもないな!」

「イジゲン・ザ・ハンドが通用しない……!」

 

 ライオコット島に来てから円堂君を支え続けてきた技だけど、それじゃあダークエンジェルのシュートは止められない。その事実がはっきりしてしまった円堂君は、何かを決意した顔で両手を見つめていた。

 使う気だね、例の未完成技を。

 彼のことだ。今さら完成を疑うなんてことはしないさ。ただ、シュートを止められるようになっても、点が取れなきゃ意味がない。そしてユニコーンブーストすら止めるキーパーに生半可なシュートじゃ通用しない。

 ……新技、か。

 一応私も新技と呼べるものを持ってはいる。

 あのロココのタマシイ・ザ・ハンドすら破った『ミラクルムーン』。あれさえ撃てれば間違いなく点を奪えるだろう。

 そう考えていたところで、後ろから声をかけられた。

 

「焦るな。たしかに敵の守りは硬い。だが手を出し尽くしたわけじゃないはずだ」

「僕たちがいるんだ。賭けに出るにはまだ早くないかな?」

「豪炎寺君、シロウ……」

 

 そうだった。サッカーは仲間に頼るものだ。なのに私、自分が点を取ることだけを考えていた。

 一人二人なら無理でも、十一人だったらあの壁も崩せるはず。

 

「ありがとね。ちょっと頭が冷えた」

 

 よし! ほおを叩いて気合いを入れ直し、試合再開だ。

 ボールを持った私が突っ込み、そこにデスタが守備に回る。

 

「『フォトン・スターダスト』」

「っ、だが……!」

「……げっ!?」

 

 光の粒子から戻った私の前に、セインが待ち構えていた。

 

「二度同じことが通じると思ったか!」

「ぐっ……!」

「させない!」

 

 タイミングを読まれ、あわやボールを奪われてしまう寸前のところで、なんと豪炎寺君が私たちの間に割り込んできた。そしてその体を壁として使い、セインが私に近づけないようにする。

 上手い。これでセインが来る前に体勢を整えることができる。

 

「こっちだよなえちゃん!」

「任せた!」

 

 さらにシロウがディフェンスラインからオーバーラップしてきて、サポートに来てくれた。

 セインは豪炎寺君に阻まれてパスを阻止できず、突破に成功する。

 

「ヒュー、いいコンビネーションだね!」

「俺たちも負けてられないな。……へい、こっちだ!」

 

 マークがボールを受け取り、ディランがそこに並走していく。

 彼らを止めようとディフェンスが集まっていくが……。

 

「シュートだけが俺たちじゃない!」

「アメリカのオフェンス、とくとご覧あれ!」

「「『ジ・イカロス』!!」」

 

 ディランはマークの腕を掴むと回転し、遠心力に任せて彼を宙に放り投げた。するとマークは両腕に羽根のオーラを纏い、イカロスのごとく羽根を撒き散らす。

 瞬間、羽根から発せられたまばゆい光が、周囲を包んだ。

 

 って、うおっ、まぶしっ!

 ちょっとー? 近くを走ってたせいでこっちにまで被害が及んでるんですけどー? 味方に優しくない技だなこれ。

 ん? ディランがサングラス付けてる理由ってもしかして……。

 

「っと、試合に集中しなくちゃね」

「『ゴー・トゥ・ヘル』!」

「それはさっき見た」

 

 この技はボールに向かって黒いオーラを叩きつけるもの。だったらタイミングを合わせれば……ほいっと。見事なバク転を決め、上からの落下物を避ける。

 

「『ゴー・トゥ・ヘブン』!」

「名前でどういう技かわかるんだよなぁ」

 

 要するにゴー・トゥ・ヘルの下バージョンでしょ?

 予想通り、私の足元に光るサークルが出現する。すぐに前転でかわすと、さっきの場所から光の柱が天井に伸びていった。

 必殺技を使ったあとで、相手は隙だらけだ。その隙に突破すれば、ゴール前に辿り着く。

 

「ふっ、久しぶりにやるか」

「いくよ、豪炎寺君、なえちゃん!」

「私たちの絆パワー☆ 存分に見せちゃおうね!」

「……恥ずかしいからその名前だけはよしてくれ」

「さっそく絆崩壊!?」

 

 ま、まあネーミングなんてどうでもいいことよ!

 炎を。氷を。闇をそれぞれ纏い、私たちは空中で✳︎を描くように交差。するとエネルギーが集中していき、空に炎と氷のリングを纏った黒球ができあがる。

 それを三人同時で蹴り飛ばす。

 

「「「『アスタリスクヘブン』ッ!!」」」

「『ジ・エンドV2』——ぐっ、押され……てっ……!」

 

 キーパーがボールを停止させるが、それは一瞬だけだった。次の瞬間には彼の右手は弾かれ、ゴールが音をたてて上下するほど激しくネットに突き刺さった。

 

 これで2対1だ。ダークエンジェルも勝てない相手ではないことがこれで証明され、みんなが沸き立つ。

 私たちは互いに得点できたことを喜び合い、ハイタッチを決めた。

 

「……しかし、これでこの技も使えなくなったな。あれほどの敵だ。同じ攻撃は二度通じないだろう」

 

 豪炎寺君の問いに私とシロウは頷く。

 次からはこの三人のうちの誰かが常にマークされることだろう。三人技というのは、三人いなければ撃てないのだから。

 しかし新たな突破方法を我らが司令塔はすでに見つけていたようだ。

 

「好都合だ。サッカーは十一対十一。メンバーの一人を徹底的にマークしようとしたら、必ずそこに穴が生まれる。そこを俺たち三人で突く」

「三人ってことは……」

「ちっ、テメェとまた組むのかよ。まあ命懸けならしゃーねーか」

「げっ、不動……」

 

 そういえばガルシルド戦で不本意ながら不動との連携技もできちゃったのか。鬼道君もいるからマシだけど、嫌なものは嫌だなぁ。なんて顔してたら鬼道君にジッと睨まれたので、黙っていることにした。

 

「俺たち魔王が一点を取られた……だと……?」

「デスタ。もうお遊びはなしだ。全力で潰しにいくぞ」

「おう! 魔王の誇りを傷つけた報い、その魂に刻んでやろうじゃねえか!」

 

 うわっ、点を取られて逆ギレっすか。かっこわる。

 でも相手が余力を残しているのは確かだろう。一点取られたにも関わらず得点ではなくプライドに話が行っちゃってるのは、その余裕の表れに違いない。

 

 相手ボールで試合が再開する。

 

「うおぉぉぉぉぉっ!!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 な、なに? 

 ダークエンジェルの選手たちが天に気を注ぎ始める。それは形をなしてドーム状の結界となり、フィールド全体を包み込む。

 

「いくぜ、必殺タクティクス!」

「——『ヘルアンドヘブン』!!」

 

 ダークエンジェルの選手たちが光に包まれ、逆に私たちのコートに黒い雷が落ちると……ホイッスルの音が鳴っていた。

 

「……は?」

 

 急いで振り返ると、円堂君が腹にボールを受けてゴールの中で倒れている。

 なにが起こったのかわからなかった。いやわかる人なんて誰もいないだろう。ダークエンジェル以外には。

 

 続いてホイッスルが二度鳴る。

 異様な静寂を抱えたまま、前半戦が終わった。

 

 

 ♦︎

 

 

「あれはおそらく、天空の使徒の『セイントフラッシュ』と魔界軍団Zの必殺タクティクスの合わせ技だ」

 

 ミーティング中に、まず鬼道君が口を開く。

 彼が言うには、セイントフラッシュには味方を速くする力があるらしい。そして魔界軍団Zの『ブラックサンダー』はその逆。敵の認識速度を限りなく遅くする。

 

「んなのどうすればいいんだよ!」

 

 ベンチに座っている染岡君がそう吐き捨てる。

 あれはもはや速いとか遅いとかの次元じゃない。たぶん世界一の足を持ってる私ですらなにも見えなかったんだ。速く走るだけじゃ絶対勝てない。

 いい案が出ずにみんなでうなってると、不動が馬鹿にするように鼻で笑ってきた。

 

「ハッ、こんなのもわかんねぇのかよ。あのタクティクスは結界型、つまり結界の外なら十分に動けるだろうが」

「しかし不動、結界はフィールド全てを包み込んでいる。結界外のスペースなどないぞ」

「頭使えよ頭。横にはなくても縦にはあるだろうが」

 

 それで鬼道君は理解したらしい。

 そして今後の作戦をみんなに説明しようとしてベンチを見た時、足を押さえている人が目に入った。

 

「っ、くっ……!」

「マーク、大丈夫かい?」

「ちょっと見せて」

 

 彼のレガースを剥ぎ取ると、その下から青く膨らんだ肌があらわになる。

 もしかしてダークエンジェルにボールをぶつけられた時、足を捻ってしまったのか?

 原因はともあれ、これじゃあ続行は不可能だ。彼もそれがわかっていたらしく、自分から話を切り出してくれた。

 

「すまない……この足じゃみんなの足を引っ張ってしまいそうだ……」

「じゃあミーも下がるとしようかな。ミーの真骨頂はコンビネーション、一人技も持ってはいるけど、ユニコーンブーストが止められた以上ミーがいても仕方ないだろうしね」

 

 自分にできることとできないことを正確に把握する。それもまた一流の仕事だ。彼らはそれをよく理解している。

 ちなみにそれ言ったら円堂君はどうなのかって話だけど、一見無謀でも結果的に彼は全て乗り越えてきているので、あれもまた一流の形の一つだろう。結果が出れば無謀は英断になるのだ。

 

 その後、抜けた二人に代わってヒロトと虎丸が入ることになった。彼らは個人のレベルではマークたちに劣ってるかもしれないが、戦力ダウンとは言い難いと思う。サッカーは十一人でやるもの、結局はチームプレーが重要なのだから。そういう意味ではイナズマジャパン出身の二人はマークたちと同等以上の力を引き出せるはずだ。

 そして作戦が決まったところで、ちょうどハーフタイム終了のホイッスルが鳴った。

 

 

 ♦︎

 

 

「ん? あの生意気な女がいねえな。ビビって逃げ帰ったのか?」

「ふっ、無駄なことを。我々が勝てばどこにも逃げ場はないというのに」

 

 私がいないのをいいことにデスタのやつ、饒舌になっちゃって。

 しかしすぐに興味をなくしたようで、そのまま試合が始まった。

 豪炎寺君たちが彼らの元に走り出すが……。

 

「お前らが何やっても無駄なんだよ!」

「必殺タクティクス『ヘルアンドヘブン』発動!」

 

 光がダークソウルを包み、黒い稲妻が落ちる。途端にイナズマジャパンのみんなは時が止まったように動かなくなってしまった。

 そんな彼らの横を悠々とあいつらは走り抜けていく。

 ……思ってたんだけどこれ、オーバーキル気味じゃない? 絶対ブラックサンダーだけでもいいと思うんだけど。

 

 デスタは楽々とペナルティエリアに侵入していき、そしてシュートを放つ。

 ……今だ!

 

 私は手に入れていた力を離し、天井から飛び降りた。

 

「やあああああっ!!」

「なにっ!?」

 

 タイミングばっちり。私は飛んできたシュートを踏みつける形で止めてみせる。そして同じくらいのころにみんなの動きが戻った。

 

「な、なん……だと……!?」

「バカな! 貴様、どうやって我々のヘルアンドヘブンから逃れた!」

 

 よし、成功したね。忌々しいが、不動の作戦は成功した。

 その時のことを思い出す。

 

 

『頭使えよ頭。横にはなくても縦にはあるだろうが』

 

 彼は私たちをバカにするようにそう言った。

 縦? どゆこと?

 私が首をかしげているのに対して鬼道君は理解したようで、その視線を上に向ける。

 

『……無理だ。さっきの結界は高さだけで天井との差が数メートルあるぐらい。ジャンプでは届かないし、仮に届いたとしてもすぐに落ちるだけだ』

『いやいるだろうが。ジャンプ力だけしか取り柄がなくて、ゴキブリみたいにどこでも這い回れそうなやつが』

 

 二人の視線が私に向いた。

 

『……私?』

『そうか、なえなら……』

『えいや鬼道君、ゴキブリみたいな人って言われてなんで私の方を向いたの!? 心の中でそんなこと思ってたの!?』

『い、いやそれは……』

『何度も倒されても湧いてくる時点でそっくりじゃねえか』

『せめて兎って言ってくれない!? ほらぴょんぴょーん』

『こんな腹黒兎いたら子供が泣くぜ』

 

 私が泣きたいんだけど。

 

 

「……とまあ、クソアマの馬鹿力を使って天井に張り付かせ、タクティクスの範囲内から逃れたってわけだ。ちょうど天井にいいものがぶら下がってて助かったぜ」

 

 いくら私でも真っ平らの天井だったら、張り付くなんて無理だっただろう。でも、この洞窟の天井にはつらら石が大量に生えている。それが私のスパイダーマンごっこを可能にさせていた。

 

「そしてお前らのタクティクスの弱点もだいたいわかった。まず第一に、ヘルアンドヘブンは相手の認識速度をバカみたいに遅くする。つまり本当にスピードが落ちてるわけじゃねえ。だったら重力を利用して、認識速度が遅くなろうが無理やり体を落としちまえばいい」

 

 これが落下して結界内に入った時に、私の速度が落ちなかった理由だね。実際結界内に入ってからは一瞬で、いつのまにか私はボールを持って地面に立っていた。

 

「そして第二だ。この必殺タクティクスを発動している間、お前たちは必殺技を撃つことができねえ」

「な、なぜそれを!?」

 

 図星だったのか、デスタたちはここで初めて焦った顔を見せた。

 不動の笑みがさらに凶悪になっていく。

 

「セイントフラッシュやブラックサンダーの情報を集めてた時からどうしても気になってた。この二つのタクティクスの発動中、お前らが必殺技を使ったことが一切ないことに」

 

 たしかに、言われてみればそうだった気がする。

 さっきの私のディフェンスもダークマターとか撃ってたなら間違いなく入ってたはずだ。それなのにあいつはしなかった。

 

「おそらく、この結界を維持するためにはお前ら全員が絶えずエネルギーを送り続ける必要がある。そのせいで他の技にエネルギーを回すことができねえんだ。違うか?」

「おのれっ……! 必殺タクティクスの仕組みを暴いたくらいで、調子に乗るなよ人間!」

 

 おおー。かっちょいー。今の不動はまるで名探偵みたい。

 ……いや、モヒカンヘッドで悪魔みたいな笑みを浮かべて舌を垂らしてる探偵とかないわー。宣言撤回しよう。

 

 ともかく、これでヘルアンドヘブンは無効化した。これからが勝負だ。

 

「みんな、反撃だ!」

『おうっ!!』

 

 円堂君の声に押され、私たちは前線へ駆け出した。





『フォトン・スターダスト』
 オリオンのブルー・スターダストの色違い技。カッコいいので採用しました。名前変えたのはなえちゃんに青色のイメージがなかったからです。


『ヘルアンドヘブン』
 GOで登場した必殺タクティクス。いや3で追加しろよと当時は思ってました。
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