悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:キメラテックパチスロ屋

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最強軍団襲来

 ガルシルドの姿を見たとたん、体中の血が逆流したかのような感覚が襲いかかった。鼓動が高鳴り、口元は醜く三日月を描く。頭の中が真っ赤に染まっていき、流れる血が加速する。

 ……落ち着け……落ち着かなきゃ……。冷静に考えればこれは明らかな罠。ガルシルドが公共の目が多い宿泊施設の前に来るなんて怪しすぎる。ここはみんなを呼ぶべきだ。そう頭の中での私が叫ぶ。

 ……ああ、でも……。

 理性に対して体が従ってくれないのだ。本能の中の私はまるで肉をぶら下げられた獣が喉を鳴らすように力を入れ、今にもあの車を食いちぎりたいと叫んでいる。

 かろうじて残った理性でメールをみんなに送る。しかしそこが限界だった。次の瞬間には、矢のように体が車を追いかけていた。

 

「アハハッ、アハハハッ!!」

 

 一度動き出したら、いよいよ抑えが利かなくなってしまう。障害物や通行人を跳ね除け、ひたすら最短距離を走る。

 

「ぐっ……この……!」

 

 しかしその差はなかなか縮まらない。もともと走り出した時点で距離があったのだ。いくら私が車より速いと言っても、その差はそこまであるわけじゃない。

 ああ、面倒だなぁもう。このままじゃ追いつく前に角を曲がられて見失っちゃうよ。もっと早く走れる方法はないものか。

 そこで後ろから私に迫る速度で走る物体を見つける。

 ……あるじゃん。もっと速いもの。

 邪悪な笑みが自然と浮かび上がる。

 

「お邪魔しまーす!」

 

 勢いよく跳躍し、私は過ぎゆく車へ()()()()()。そしてまるで因幡の兎のように車から車へと飛び移っていく。

 速いものの上で私が走れば、さらに速くなる。実際は飛び移る時のロスで思ったより速度は出なかったが、それでもさっきよりはマシになった。

 そのまま角を曲がろうとする車に飛びつき……。

 

「やぁぁっ!!」

「ぐっ、この化け物が!」

 

 運転席に向かって飛び蹴りを繰り出した。窓を突き破ってそれは見事に命中し、運転手の首が悪い方向に捻じ曲がった。

 ……気絶だよねこれ? うん気絶だよきっと。いやそうに違いない。

 それよりも。

 

「久しぶりじゃんガルシルド。見ない間にずいぶんいい格好になったじゃない」

「ばばば馬鹿者がぁっ!! 前をみろ前をっ!」

「前? ……あっ」

 

 振り向いた瞬間、ガードレールが目の前に映った。

 ふぁっ!? 

 ハンドルを切ったのはほぼ反射だった。車はぐるんとコースを変え、車道をまっすぐ走り始める。

 あああ、危なっ!? ちょっと運転手どこよ!

 しかし助手席で寝そべっているだらしない男は、白目を剥いて泡噴いておそらく気絶していた。

 返事がない、ただの屍のようだ。

 この役立たず! もうちょっと首鍛えときなよ!

 

 なんとか体勢を立て直し、安全運転を心がけていると、背中に冷たいものが突如突きつけられた。

 

「ひゃんっ!? ちょっと、こんな時にイタズラは……あっ」

 

 ゆっくり後ろを振り返ると、黒光りする銃身が一つ。そしてガルシルドっぽい人がそれを握っている。

 ……アハハ、ハ……。

 

「馬鹿め。敵に背中を見せるとは」

「しまったああああ!!」

 

 今ハンドルを離したら運転できなくなって即ゲームオーバー。

 つまり私の両腕は動かせない。

 バカだ私。自分で言うのもなんだけど超バカだ。

 

「進め。これから私の言う通りにな」

「……はい」

 

 終わった。少なくとも私じゃもう無理だ。この状態はいくら私でもキツすぎる。超能力もあるにはあるけど、まだ人を吹き飛ばしたりはできないし。

 ガルシルドが指示した場所はジャパンエリア、そこにある森の手前だった。

 いったいどうしてここに? ガルシルドは相変わらず銃口を突きつけたまま私に降りるよう指示を出す。

 その時、一瞬だけ銃口が離れたのを感じた。

 

「さあ進め。この森が貴様の処刑場だ」

「いや、そう言われていくわけないでしょ」

 

 ガルシルドの手を掴み、思いっきり引っ張って肩で背負い……地面に叩きつける! いわゆる背負い投げってやつだね。

 ゴギィ、という鳴っちゃいけないタイプの鈍い音が彼の肩から響く。汚い涎を吐き出しながらも、しかし衝突の時の衝撃で無意識にトリガーを引いたようだ。しかし首を捻り、かすり傷一つなく銃弾を避けると、思いっきしその顔面を踏み潰した。

 

「ガァっ、がががァァァッ!?」

「諦め悪いねっと!」

 

 歯も折れ肩も最低脱臼はしてるはずなのに、ガルシルドは血を撒き散らしながらも銃口をまた私に向けてくる。

 まあ無駄だけど。

 それは空気を切り裂いて迫った私の蹴りによって弾き飛ばされた。

 ついででガルシルドの手が変な方向に曲がっているが、まあいいでしょう。

 そのまま体を捻って跳び上がり、思いっきり踵落としをそのふくよかなお腹に落とす。

 げっ、汚っ! 変な液飛んできたんですけど。顔の方に近づいてなくてよかった。

 

 ガルシルドは……あそこまでやったらもう動けないでしょう。現に車に轢かれたカエルみたいに白目を剥いて倒れているし、どうやら気絶したらしい。

 さて、あとはガルシルドを交番に届けるだけだ。しかしガルシルドに手を伸ばした時、その体からは光が溢れ、光子となって崩れていった。

 

「こ、これは……?」

 

 見たこともない現象。少なくとも今の科学では証明できないものだろう。ということは……。

 サーっと悪い予感が胸をよぎる。

 気のせいであってほしいと願う。でも私は一方で知っているのだ。

 こういう時の私の感覚は、非常によく当たることを。

 

「ガルシルドは元の牢獄に戻しておいた。やつもまた大罪人だ。秩序を守る俺たちが解放するわけにはいくまい」

「ハ、ハハ……」

 

 突然木々の中から男が現れ、そんなことを告げる。

 普通だったらガルシルドが牢に戻って万々歳な気分になっているのだろう。でも、今の私は冷や汗でいっぱいだった。

 なぜか?

 その男の顔を知っているからだ。

 

 日焼けのように浅黒い肌に、悪魔を模したような額の紋章。

 そしてこの、突き刺さるような殺気。

 相対してるだけで足が震えそうだった。喉が震え、汗が止まらない。

 それでも精一杯の虚勢を張るように、その名前を絞り出す。

 

「バダップ……!」

「忠告したはずだ。『サッカーを捨てろ』と。しかしお前は従わなかった。これがその結果だ」

 

 一瞬だった。

 バダップがボールを蹴ったかと思うと、私は吹き飛ばされて木に激突していた。

 あまりに強い衝撃を受けて、口から、そして頭から血が流れる。それがまるで炎のようにジュクジュクと私の感覚を突き刺す。

 

「ガハッ……!」

「言っておくがここら一帯に電波妨害装置を仕込んだ。助けはこない」

「用意周到っ……じゃんか……っ!」

「当然だ。それが俺たちの使命だからな」

 

 ダメだ。前回会った時とは違う。今回この人は本気で私を殺しにきてる。

 暗部にいたころの記憶が命の危機に呼び起こされ、意識が戦闘時のものに切り替わる。

 真正面からの戦闘はまず無理。どうやったって勝てやしない。

 だったら悪い手札の中から最良を選ぶしかない。

 

 即断即決。身を翻し、バダップから遠ざかるように駆け出す。

 三十六計逃げるに如かず。今は命が最優先だ。ここで撒いてもいずれまた出会うだろうけど、その時は大枚はたいて同じ戦闘のプロでも雇えばいい。

 幸いここは木々生い茂る森の中。視界を振り切るには絶好の場所だ。

 木を蹴って飛んだりぶら下がったりと、360度自由な動きをしながら前に進んでいく。そうしてしばらくすると、バダップがまったくついてきていないことに気がついた。

 この障害物だらけの中で私を見失った? 

 そう判断し、一息ついた時……。

 

「オラよっ!」

「があっ!?」

 

 突如横から伸びてきた蹴りが、私の鳩尾に当たった。

 威力はバダップよりも軽い。しかしそれは決してこの蹴りが軽いわけではなく、むしろ私の体はボールのように十数メートル跳ね飛ばされる。

 

「ぐっ……伏兵……!」

「バーカ。バダップ一人なわけねえだろうが」

「おいエスカバ。バダップへの連絡を忘れてるぞ」

「別にいいだろミストレ。それにバダップのことだ。どうせこいつの位置ぐらい、俺たちが伝えるまでもなく把握してるさ」

「それもそうだな」

 

 レーダーでも搭載してるのかあの人……!

 気だるげに私を蹴ったやつだけじゃない。ミストレに続いてその後もゾロゾロと軍服を着た人たちが姿を現してくる。

 その数は十人。

 そして最後に、バダップが死の音を響かせながらゆっくりと歩いてきた。

 

「吹き飛ばされた先に偶然サッカーグラウンドか……」

 

 言われて気づく。どうやらこの開けた場所はサッカーグラウンドらしい。しかし手入れがされている様子はなく、あちこち雑草だらけだ。

 

「喜べ、ここがお前の墓場だ」

「嫌だね。私は絶対に光の世界に出て、歓声を浴びながら死んでやるの。こんな寂れた場所なんて、絶対いや!」

「……お前の意志は聞いてない!」

 

 閃光が煌めき、私の肩から大量の血が噴き出す。

 凄まじい激痛。もはや叫ぶこともできなくてその場から逃げようとするが、周囲にいたバダップの仲間たちに蹴られ、殴られ、地面に叩きつけられた。

 それを彼らは全員で囲い、執拗に蹴り続ける。まるで何か恨みでも私にぶつけるように。

 血が、血が、血が……。

 全てが真っ赤に染まって見える。もう蹴られているのか撃たれているのかわからない。ただただ体が穴だらけになって、体がだんだん冷たくなっていることのみを感じた。

 

「終わりだ、白兎屋なえ。未来のための犠牲となれ」

 

 終わり……。

 なるほど、死っていうのはこういうものなのか。

 もはや痛みすら感じなくなった今では、恐怖は起こらなかった。

 ただただ眠い。

 もういいよね……? だって、こんなに眠いんだもん……。

 

 ゆっくりとまぶたが落ちていく。

 溶ける。意識が、私が、深い暗闇へと。

 それはとてもひんやりして心地よく、私を包み込んでいき……。

 

 

『生きろ。生きて私などという影を踏み越え、月を掴め』

 

 ふと、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 

『貴様はいずれ最高の選手になれるだろう。そんな貴様の踏み台になれたのなら、私はこの醜い人生を僅かにでも誇りに思うことができるかもしれない……』

 

 そうだった……。

 私は総帥の存在証明。私は、総帥のためにも絶対に世界一にならなきゃいけないんだ。

 

 体に力が戻っていく。伸びた暗闇を強引に引きちぎり、あらんかぎりの声で叫ぶ。

 こんなところで……。

 

「こんなところで、死ねるかぁぁぁぁっ!!」

 

 その魂の咆哮は衝撃波となって、バダップたちを吹き飛ばした。

 それだけじゃない。意識を取り戻した私の体には、確実な変化が起きていた。

 あれだけ酷かった傷は全て癒え、跡形もない。

 そして全身からは凄まじい量のエネルギーが気流となってほとばしり、スパークしている。

 

「ば、バカな……何が起きた!?」

「っ、まさか、超能力が覚醒したのか……!」

 

 ぐっと拳を握ったり開いたりし、体に流れるエネルギーを感じる。

 試しに念じてみると、体がふわりと宙に浮いた。

 力がみなぎる。今ならなんでもできそうだ。

 これなら……いける!

 手のひらを突き出し、エネルギーを集中させる。

 その動作にいち早く気づいたバダップが、仲間たちの前に立つ。

 

 ——そして、私の手から極太のレーザーが放たれた。

 

 凄まじい爆発音が響く。奥の木々は焼き払われ、地面は焦土と化す。

 ……あっ。

 や、やっちゃった! どどどどうしよっ!? あれ間違いなく人に向ける威力じゃなかったよね!? ほんとは軽く吹き飛ばす程度にするつもりだったのに!

 あわあわと一人慌てていると、砂煙の中から物音が聞こえた。

 そして砂煙が晴れ……無傷のバダップたちが姿を現す。

 さすがはバダップ。彼らの目の前には丸い機械を中心とした結界のようなものが張られており、それでレーザーを防いだようだ。

 しかし鉄壁というほどではないらしく、結界型の機械は役目を終えたとばかりに灰になって崩れ落ちる。

 

「ハァッ、ハァッ……白兎屋なえ……! やはりお前は危険だ……!」

「あれ防いでるそっちが言っても説得力ないんだけど」

「お前が成長したら誰も手がつけられなくなる! そうなる前にお前を殺す! 俺たちの未来を変えるためにっ!!」

 

 バダップたちは文字通り鬼のような表情で私を睨んでいた。

 前々から疑問に思ってた。バダップたちの目、それは極限まで誰かを恨んでいる目だった。

 薄々とわかっていたのだけど、おそらく私はこの力を使って未来の世界をメチャクチャにしてしまったのだろう。彼らがあんなに必死なのも頷ける。

 だけど、私は死ぬわけにはいかないのだ。

 覚悟を決め、無数のエネルギー体の槍を形成していく。

 同時にバダップたちも銃などの武器を抜く。

 そして同時に発射される……。

 

 

「——待て待て待てぇぇぇっ!!」

 

 私たちの間に転がり込むように男が乱入してきて、私たちの引き金を引き止めた。

 ……って、

 

「円堂君!? どうしてここに!?」

「いたたぁっ……ギリギリ間に合ったみたいだな」

 

 なんか前にもこんなことあったような……。

 というかどうやってここに? たしか通信は妨害されてるはずだけど……。

 まあ円堂君のことだ。たぶん勘とかで来たのだろう。彼ならあり得る。

 

「円堂、一人で先走るな!」

「あっ、なえさん、無事だったん……ひぃぃぃっ!! ち、血まみれッスゥゥゥゥ!!」

「ナエ、大丈夫か!?」

「あっ、これでも怪我は治ってるから大丈夫だよ」

 

 そして円堂君もいるなら当然イナズマジャパンが来るよね。そしてフィディオも来てくれたみたい。

 彼はすぐに駆け寄ったあと、本当に怪我がないかあちこちペタペタ触ってくる。

 うーん、心配してくれるのは嬉しんだけど……すごく恥ずかしいなこれ。

 いい加減耐えきれなくなってきたので、超能力を使ってみると服についた汚れがべったり落ちた。残ったのはまるで新品同然になった服のみ。

 ……超能力、便利すぎない? 代わりに地面は真っ赤になってて、壁山がまた悲鳴をあげることになったけど。

 みんなもそれを見て驚いてたけど、なんか『まあなえだし』みたいな雰囲気ですぐに興味をなくしてた。失礼な、いったいいつ私がそんなデタラメなことしたのか。

 

「バカな……電波妨害はどうした?」

 

 だから勘でしょ勘。と思ってたけど、どうやら違ったようだ。

 ヒロトが口を挟む。

 

「GPSの反応がこの森の手前で消えてたし、大きな音が聞こえてたからもしかしてと思ってね。このグラウンドは前に来たことがあるんだ」

「うしし、遭難した甲斐があったぜ。カッパに感謝だな」

 

 カッパ? なんかよくわからないけど、ヒロトたちがここの森の地理を把握してたということか。

 バダップたちは忌々しそうに円堂君たちを睨む。計算が狂ってイライラしているのだろう。

 バダップの隣にいた男……たしかエスカバが、彼に話しかける。

 

「っ、おいバダップ、どうするんだこりゃ? もういっそここにいる全員殺しちまうか?」

「未来は小石が少し転がった程度で変わる危険性がある。お前も知っているだろう」

「つっても、ここでこの女始末しないことにはどうにもならねえだろうが! タイムマシンだって無制限に使えるわけじゃねえんだぞ!」

 

 おお焦ってる焦ってる。

 このまま仲間割れでもしてくれたら助かるんだけど……。

 

 バダップはしばらく微動だにしなかったが、突如耳についてあるマシンを弄り始める。

 

「提督に報告。作戦は失敗。次の指示を求む」

 

 突如独り言を話し始めた彼に一瞬驚く。しかしすぐにあれが通信機なのだと気づいた。電波はジャックされてると言ってたけど、あれはそれをすり抜けられるようだ。

 

『オーガに通達。このまま戦闘を続行しろ。ただしサッカーでだ。やつの超能力は目覚めたばかりであり、繊細なコントロールが必要なサッカーでは十全に扱えないと判断した』

「……そのようなものをしなくとも、我々は戦えます」

『無理だ。単純な殺し合いでは、もはややつを殺すことはできん』

「……任務を了承。オーガ、戦闘態勢に移行」

 

 ピッと電話が途切れるような音がマシンから聞こえるやいなや、バダップたちの服装が一瞬で軍服から赤と紫のユニフォームに変わった。

 しかし変化はこれだけにとどまらない。突然周囲が光に包まれたかと思うと、気がつけば私たちは人工芝の上に立っていた。 その上にはサッカーグラウンドが引かれており、それぞれのゴールの背後には巨大な悪魔の顔が壁に張り付いている。

 いや、それだけじゃない。周囲には観客席ができており、空も天井によって真ん中以外覆われている。まるでどこかのドームに入ってしまったようだ。

 

「な、なんだこれは!?」

「もしかして、私たちをワープか何かさせたのかも」

「ワープってそんな……映画じゃあるまいし」

「つい先日天使と悪魔と戦ったじゃん」

「そうだった……」

 

 というかエイリアとかと戦ってる時点で今さらって感じするけどね。結局あれも人間だったけど、エイリア石の謎は未だに解き明かされてないし。

 

「ここはオーガスタジアム。お前の処刑場だ」

「なんだって……?」

「白兎屋なえ。俺たちとサッカーで勝負しろ。俺たちが勝ったらお前の命をもらう」

「なっ、そんなことさせるわけないだろ! なえは俺たちの大切な仲間だ!」

 

 円堂君とフィディオが私を庇うように前に出る。

 

「そうだ! 神聖なサッカーに命のやりとりを持ってくるな!」

「え、いいじゃんやろうよ! 殺し合いは好きじゃないけど、サッカーなら大歓迎だよ!」

「なっ、バカか君は! こんなの殺し合いと変わらないだろ!」

「バカとはなんだいバカとは!? 文字通り命をかけてサッカーできるんだよ? デスタたちといい、こんなにワクワクするイベントが立て続けに起こるなんて嬉しいなぁ!」

「……ちっ、あのバカ女の性格を完璧に逆手に取られちまってるな」

「やられた……なえはサッカーに嘘をつかない。やつは負けたならたとえ逃げる力があっても約束を守るだろう。その代償が命だとしても」

 

 私とは対称的にみんなは苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 その気持ちも最近はなんとなくは理解してるつもりだ。彼らは私に死んでほしくないのだろう。なぜなら彼らは優しく、私を大切な仲間だと思ってくれているのだから。

 でも、ごめん。私はサッカーにだけは逃げないよ。

 このプライドは私の命そのもの。サッカーから逃げた途端、私はサッカーに食われて死ぬ。

 円堂君。フィディオ。君たちならわかるだろ?

 

「ダメだダメだ! ぜーーーったいにダメだ!!」

 

 しかし円堂君は意地でも聞かないと言うように顔を横に振る。

 私の肩をガッチリ掴み、髪が震えるほどの大きな声を発した。

 

「なえ、お前はそれでいいのかよ!? サッカーってのは負けても強くなって、リベンジするから熱くなるんだろ!? 一度だけの負けなんてあっていいわけがない!」

「挑まれた勝負を受けるのもサッカー選手としての責務だよ。私は対戦相手から逃げたりしない。逃げて掴める最強なんてどこにもない」

「っ……!」

 

 円堂君はそれっきり何も言わなくなった。いや、正確には何かを言おうとしてるけど、そのたびに口の中で噛み潰している。

 円堂君の言い分も間違っていない。けど、私のも正しくないとは思えないのだ。

 危険だから敵から逃げる。そんなのは言い訳。

 勝てばリスク0。負けたら最強の資格がなかっただけのこと。

 円堂君も一流のサッカー選手。だから私の考えも理解してくれているのだろう。だから必死に己の自己満足と戦って口を紡いでいる。

 フィディオがそんな彼の肩に手をやる。

 

「マモル、戦おう」

「フィディオ、お前まで……!」

「ナエがこんなに覚悟を決めているんだ。俺は……俺はっ、彼女を信じる……!」

「お前……」

 

 毅然とした顔。しかし視線を少し下に向ければ、その拳は手が流れるほど握り締められているのがわかる。

 ……こんなに私のことを思ってくれている。それがたまらなく嬉しく、愛おしい。

 二人のやりとりを見て、他のみんなも覚悟を決めてくれたようだ。全員がサッカー選手の目つきになっている。

 

「決まりだね。バダップ、私たちはその勝負を受けるよ。そして私の大好きなサッカーで、あなたに勝つ」

「サッカー? 違う、これは——戦闘だ」

 

 戦闘か。いい例えだね。

 命が賭かったサッカー。その名はこのゲームにこそふさわしい。

 

 私のオーラとバダップの殺気がぶつかり合い、火花を散らす。空間が振動し、空気がビリビリと震え、それだけでスタジアムが割れそうだ。

 確信する。こいつこそが今まででもっとも強い敵なのだと。

 命をチップにした不安と興奮。そして最強の敵に出会えた喜びを胸に、私はベンチに向かった。




 どーも、投稿遅れました。
 しかし文字数はいつもの二倍くらいなので許して? なんか区切りのいいところを探してたらこんな文字数になってしまいました。
 あと投稿が遅れた理由としてはブラッドボーンを最近始めたからです。正直やめたい。ゲーム自体は面白いし、理不尽な敵もいないんだけど、とにかく怖くてグロいんですあのゲーム。それがホラー耐性皆無な作者の体力を削って小説書く気力を失わせていました。
 早く終わらせてSEKIROとエルデンリングやりたいなぁ。

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