悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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エンペラーカウント・ゼロ

「足の具合はどう? 鬼道君」

「問題ない。これならあと三発ぐらいは撃てるだろう」

 

 鬼道がベンチに座りこんでいると、なえがそう問いかけてきた。

 大丈夫だと返事をするが、右足が若干震えているのは隠し切れていないかもしれない。

 呑気そうだが、その実恐るべき観察眼を持っているのを、鬼道は知っている。

 

 皇帝ペンギン1号は、もともと体への負担が大きい技だ。

 それを2号に改造したとはいえ、負担が完全に取り除けたわけじゃない。

 とはいえ、プレイに支障が出るほどのものでもないので、大丈夫だろうと鬼道は判断する。

 

 一試合で無理なく撃てるのは三発。

 少ないようにも聞こえるが、後半戦を戦うには十分な弾の数だ。

 

 ゴッドハンドは通用しない。

 ならばこのまま押し切るのみ。

 鬼道はそう自分に言い聞かせ、立ち上がる。

 

「ほいドリンク。ちょっとは飲んどかないと」

「ああ」

 

 なえから投げつけられた容器の蓋を外し、口に含む。

 ふと、彼女の方を見た。

 

 なえは女性だ。

 鬼道は同じ孤児院にいたのでそのことを知っていた。

 故に、本来ならばこの大会には出場することは叶わないはずだった。

 

 それを叶えさせたのは影山の力があったからこそ。

 だがその影山はもういない。いずれ彼女の性別が明かされてしまう日が来る。

 

 だからこそだろう。

 今日の彼女はいつもよりも張り切っていた。まるで全てを出し切ろうとしているかのように。

 

 来年からどうなるかはわからない。

 だが、ここにいる仲間たちが全員揃っているうちに、真の意味での優勝トロフィーを勝ち取りたいものだ。

 

 鬼道はそう願いながら、グラウンドへ歩いていった。

 

 

 ♦︎

 

 

 コートチェンジも終わり、後半戦が始まる。

 ボールは帝国からだ。

 佐久間からのパスを受け取り、真っ直ぐに走り出す。

 

「これ以上好きにはさせない!」

 

 これまでの雷門選手とは一味違う速度で、目の前に立ちはだかる選手が一人。

 豪炎寺君だ。

 私はヒールでボールを跳ね上げ、彼をかわそうとした。が……。

 

「甘い!」

 

 豪炎寺君はなんとその場で跳び上がり、オーバーヘッドキックを決めてみせた。

 でも大丈夫。()()()()()()()()()()()だよ。

 

 足が触れた途端、ボールは擦り付けるような音を立てながら、まるで車輪のように彼の足を転がっていく。

 

「スピンだと!?」

「大正解。保険は用意しておくものだよ」

 

 そう、私はあらかじめヒールで蹴ったときに強力な前回転をかけていたのだ。

 ボールは豪炎寺の足を渡って前へ。

 再び私はドリブルし出す。

 

 続いて松野が来たけど、ボールを右足で引きながら、走り込んだ勢いを利用して体を回転。

 まるで回転扉のようにいなして突破してみせた。

 

『マルセイユ・ターン』。

 サッカーのドリブル技術の一つだ。

 

『白兎屋、華麗に避けた! まるでダンスのように軽やかな動きだ!』

 

「抜かせない……!」

 

 土門が走ってくる。さっきのジグザグスパークを警戒してだろう。その動きは少し強張っていた。

 そんなにガチガチしてたら、視野が狭くなっちゃうよ?

 たとえば上とか。

 

『おおっと!? ここで白兎屋が跳躍! 鮮やかに土門を飛び越え、三人抜き! 三人抜きだァ!』

 

 空中にボールを蹴り上げると同時に天高く跳躍。

 まるでサーカスのようにアクロバティックな動きでボールを足で挟み、そのまま土門を飛び越して円堂君と一対一へ。

 

 鬼道君と佐久間はまだ来てないか。

 彼らの到着を待ってもいいけど、それじゃあせっかく突破した意味がない。

 だったら! 

 

「ディバインアロー!」

「その技はもう見切ったぜ! 爆裂……っ!?」

 

 青白い電気を纏った矢がゴールへと飛んでいく。

 それは円堂君の頭上を越え、バーに当たってこちらに跳ね返ってきた。

 

 すかさず跳び上がり、オーバーヘッドキックを叩き込む。

 

「間に合えっ! 熱血パンチ改っ!!」

 

 必殺技のタイミングを完全に逸らされた円堂君は、無理な体勢から横にダイビングした。そして伸ばした拳がかろうじてボールに当たり、ポストの横を通り過ぎていく。

 

「あ、危なかった……!」

「そういえば熱血パンチは体勢が崩れていても使えるんだっけか。いやー失敗失敗」

 

尾刈斗戦で見たばっかりだというのに、すっかり忘れてたよ。

 この技は初見殺しなのでもう使えない。

 さっさと次の手考えないと。

 

 ボールはコーナーキックから。

 鬼道君はペナルティエリアに入るかどうかのギリギリのラインに、私と佐久間はその中にそれぞれ待機している。

 

 相手側も、こちらが皇帝ペンギン2号を撃とうとしているのは予想できているだろう。

 それをどうやって崩すかが重要だ。

 

 洞面から、ボールは鬼道君へ。

 彼はボールが足元に来るや否や、指笛を吹いてシュートを放った。

 

 だけどそのコースを遮る影が二つ。

 雷門ディフェンスの風丸と壁山だ。

 

「来たぞ! このパスを通させるな!」

「はいッス!」

 

 なるほど。皇帝ペンギン2号は鬼道君からのパスを止めてしまえば発動することはない。

 彼らはそれを狙っていたのか。

 

 でも彼らは気づいていない。

 鬼道の足元に出現していたペンギンが()()()()()()()()ことに。

 

 ボールは壁山のお腹に直撃した。あの巨体は簡単に吹っ飛ばせるものではない。

 だけどボールは壁山の意思とは裏腹に、鬼道君の元へと戻っていく。

 

「しまった!」

 

 鬼道君は、彼らが止めに来ることを見越してバックスピンをかけていたのだ。

 雷門ディフェンスのタイミングがずれたところで、今度こそペンギンを飛ばしながらシュートする。

 ボールは二人の間をすり抜け、私と佐久間の元へ。

 

 よし、ディフェンスはもう誰もいない。

 これで二得点目だ! 

 

「うぉぉぉぉおっ!!」

 

 しかしそんな私の予想を裏切り、円堂君が私たちの間に飛び込んできた。

 

 彼がしている行為は、発射直前の大砲から弾を取り除こうとしているようなものだ。

 失敗すればただでさえ強力な皇帝ペンギン2号を超至近距離で受けてしまい、骨折は確実。

 最悪は……再起不能だ。

 

 それなのにも関わらず、彼の目にはボールしか映っていなかった。

 幻か、その背後には雷神が雄叫びをあげているのが見えた。

 

 面白い……これだからやめられないんだよサッカーは! 

 円堂君の気迫に応じて、私からも黒色の邪悪なオーラが溢れ出す。

 

 全力で足を振るう。一秒にも満たないけど、僅かに私の方が速い。

 勝った。

 そう思い、ボールを蹴るタイミングを合わせようとして気づいた。

 佐久間の足が、いつもより遅れていることに。

 

「ガァァァァァァァァッ!!」

「……っ!」

 

 雷が私と佐久間の間を切り裂いた。

 

 ボールを制したのは円堂君。

「よっしゃあ!」と、高々にそれを掲げている。

 

 ……気迫に押されたか。

 佐久間もなぜ遅れたのかわかっているのだろう。悔しそうに表情を歪めていた。

 

 まあたしかに、自分が相手を再起不能にしてしまうかもしれないと思ったら普通ためらうよね。

 それ以上に、あんだけものすごい勢いで人が突っ込んできたら誰でも怖がるってのもあるんだろうけど。

 

 これはタイミングがどうのこうので解決できるものじゃない。

 心理的な問題だ。

 次もし同じようなチャンスがあっても、このままじゃ再び止められてしまうだろう。

 

 円堂君はボールを蹴り上げ、前線で上がっていた豪炎寺君にパスをした。

 

 雷門のカウンターだ。

 帝国はコーナーキックでチャンスだったのもあり、フォワードのみならずミッドまでもが上がってしまっていた。

 私もさすがにこの距離は間に合いそうにない。

 

 帝国の最後のディフェンス、大野が巨体を生かして跳び上がり、衝撃波を発生させようとする。

 

「アースクエ——」

「ヒートタックル!」

「ぐわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 しかし豪炎寺は体に炎を纏ったままタックルし、強引に大野を突破した。

 大野はあまりの勢いにゴールラインまで吹き飛ばされる。

 

 まずい。大野があの位置じゃオフサイドは発生してくれない。

 てことは……。

 

「染岡っ!」

「おうっ! ——ドラゴンクラッシュ!」

 

 豪炎寺はペナルティエリアまでボールを運ぶと、後ろへバックパス。それをダイレクトで染岡がシュートした。

 

「パワーシールド!」

 

 源田がパワーシールドを展開し、ボールを受け止める。

 豪炎寺君はそれを見るが否やいつもより低く跳躍し、未だにパワーシールドと競り合っているボールに蹴りを入れた。

 

「なにっ!?」

「パワーシールドは衝撃波でできた壁。弱点は薄さだ! 遠くからのシュートは止めれても、至近距離から押し込めば……ぶち抜ける!」

 

『ドラゴントルネード』。

 豪炎寺君の足が炎を纏ったかと思うと、パワーシールドがガラスのような音を立てて崩れた。

 ボールはそのまま源田の横を通り過ぎてゴールへ。

 1対1。追いつかれてしまった。

 

 笑顔を浮かべて抱き合う雷門メンバーを尻目に、源田と鬼道君を見る。

 

「豪炎寺、まさかこの短期間でパワーシールドを破るとは……」

「くそっ、もう点はやらん! こうなったらあの技を使ってやる! たとえ腕が壊れようとも……!」

「いや、フルパワーシールドにそんな副作用ないでしょ」

「比喩だなえ。察してやれ」

 

 とはいえ、源田がフルパワーシールドを今まで使ってこなかったのは腕の負担が激しいからだ。

 壊れるまでとは言えないものの、試合中では無理をしない範囲でなら三回ぐらいが限界だろう。

 それ以上は腕の痺れで気が散ってエネルギーを溜めることができなくなってしまう。

 

 掲示板をちらりと見る。

 あと十分ほどか。

 点を取ることは十分にできる。……十分だけに。

 

 ……くだらないギャグはよしておこう。

 

「鬼道君、皇帝ペンギン2号のタイミングは掴めてるよね?」

「ああ、お前らのを何度も見ているからな。……まさかお前」

「ぶっつけ本番だけど頼んだよ。私もこの試合、負けたくないから」

「……わかった」

 

 深く語らずとも、鬼道君は私の作戦を察してくれたようだ。

 佐久間にも同じように伝えたあと、各自ポジションにつく。

 

 ホイッスルが鳴り、佐久間からパスがきた。

 それをさらにバックパスし、鬼道君にボールを渡す。

 

「ディフェンス以外全員上がれ! 勝ちにいくぞ!」

『おおっ!!』

 

 帝国のみんなが一斉に走り出す。

 目指すはゴール、全員の気持ちが一つとなっていた。

 

「イリュージョンボール」

「ぼ、ボールが……!」

 

 一度空中で回転しながら、鬼道君は両足でボールを踏みつける。

 するとボールがいくつにも分身して、ブロックしにきた染岡を惑わした。

 その隙に鬼道君は悠々と染岡を抜き去り、私の方をちらりと見てくる。

 

「ここは僕たちが……!」

「絶対に抜かせないでヤンス!」

 

 松野と栗松が密着するようにマークしてきて、私は身動きが取れないでいた。

 いや、彼らだけなら突破することができるんだけど、明らかに後方のディフェンスが私を意識して右に寄ってきているのがわかる。

 これにはさすがの私も手を焼くね。

 

 鬼道君は私にパスを出すのをやめて、逆サイドの洞面に出した。

 

「そうくるのはわかっていた!」

 

 風のような速さで風丸が走り込んできて、あっという間にボールを奪われてしまった。

 そりゃ、逆サイドが薄くなってたらパスを出すのは決まっている。裏を突かれたわけだ。

 でもあいにくと、うちにはその裏の裏すらかくことができるキャプテンがいるもんでね。

 

「へっ、もらった! キラースライド!」

「なにっ、グハッ!?」

 

 間髪入れずに、オールバックハゲこと辺見が激しいスライディングをしかけ、ボールを奪い返した。

 鬼道君はあらかじめ彼に指示を出していたのだ。

 

 それを見て私をマークしていた二人に動揺が走る。

 今だ。

 

 私は素早い動きで二人の間を抜け、ペナルティエリアめがけて走り出した。

 

「いけ、なえ!」

 

 高く上げられたボールを受け取り、ペナルティエリアに侵入する。

 でもすぐ目の前に壁山が立ちはだかる。

 

「ザ・ウォールッ!」

 

 気合の入った声とともに、壁山から岩でできた巨大な壁が発生した。

 たしかに、高い。でも私なら乗り越えられる。

 ボールを上に蹴り上げ、膝のバネを最大限発揮してその場で跳躍した。

 

 空中で壁を飛び越えながら、下を覗く。

 見えた、ゴールだ。

 その前には佐久間と鬼道君が両サイドから走り込んできていた。

 

 空中にとどまったまま、指笛を吹く。すると地面から複数のペンギンが飛んできて、ボールに突き刺さった。

 それを、私はオーバーヘッドキックで撃ち下ろす。

 

「オーバーヘッドペンギンッ!」

「空中から!?」

 

 紫色のオーラを纏いながら、ボールとペンギンたちは下で待ち構えている鬼道君たちの元へと飛んでいった。

 さすがの円堂君も予想外だったのか、飛び出しに間に合っていない。

 そして、二人の蹴りが同時にボールを捉える。

 

『皇帝ペンギン2号ッ!!』

 

 爆発が起き、シュートが加速した。

 オーバーヘッドペンギンも合わさって、威力はさっきよりも上だ。

 ゴッドハンドで止められるようなものじゃない。

 だけど、円堂君は諦めていなかった。

 

「片手がダメなら……両手でどうだぁ!! ゴッドハンドW(ダブル)ッ!!」

 

 円堂君の両手が天に掲げられる。

 すると光り輝く巨大な手が二つ、出現した。

 両手でのゴッドハンドにペンギンがぶつかる。

 

 あまりのエネルギーの奔流に爆発が起きた。砂煙が巻き上がる。

 

 それが晴れたあとには……両手を焦がしながらも、しっかりとボールをキャッチしている円堂君がいた。

 

「なんだと……!?」

「これがラストチャンスだ! いくぞ、みんなっ!」

 

 円堂君はボールをすぐさま蹴り上げたあと、なんと自らも走り出した。

 いや、円堂君だけじゃない。

 雷門イレブン全員が走り出していた。

 

 ふと掲示板を見ると、残り三分ほどとなっていた。

 これじゃあゴールがガラ空きだ。

 それを承知で全員が賭けに出られる度胸。

 

「面白くなってきたぁ!」

 

 全エネルギーを使い果たすつもりで、走り出す。

 ハーフライン辺りで風丸がボールを受け取った。

 その前に回り込む。

 

「無駄だよ。あなたのスピードじゃ私には勝てない!」

「円堂がつないでくれたこのボール、絶対に無駄にはしない! ——疾風ダッシュ改っ!」

「スピニングカット!」

 

 足を振り抜き、正面にエネルギーの壁を発生させる。

 しかし風丸は進化した疾風ダッシュの加速を活かして、壁に体当たりをかましてきた。

 

「ぐ……うぉぉぉぉぉっ!!」

 

 雄叫びを上げながら、さらに風丸が力を込めてくる。

 そしてとうとう壁が二つに切り裂かれ、突破されてしまった。

 

「少林っ!」

「竜巻旋風!」

 

 風丸からパスをもらった少林はボールを両足で挟むと回転させ、竜巻を起こして辺見を吹き飛ばす。

 こぼれ球を雷門の半田が広い、ペナルティエリアまで空高く蹴り上げた。

 

 ペナルティエリアには豪炎寺君と壁山の姿があり、二人がその場で跳躍する。

 イナズマ落としの構えだ。

 

「させるかぁ!」

 

 ギリギリ追いついた私はワンテンポ遅れて跳躍し、壁山を踏み台にした豪炎寺君と同じ高さにまで並んだ。

 

 キック力はほぼ互角。

 なら源田が守るゴールに入ることはない。

 そう確信し、体をひねってオーバーヘッドの体勢になる。

 

 そのとき、豪炎寺君の影に隠れてもう一人上がってきた。

 特徴的なオレンジのバンダナ。

 ——円堂君だ。

 

『イナズマ1号落としッ!!』

 

 私の蹴りと、二人のオーバーヘッドキックがせめぎ合う。

 でも二人の威力にはかなわず、私の体は地上へ弾かれた。

 そして落雷が、ゴールへと落ちてくる。

 

「フルパワーシールドォッ!!」

 

 源田は両手でも溜めたエネルギーをぶつけ、パワーシールドを超えた衝撃波の壁を作り出した。

 でもその壁さえも、このシュートの前では無駄でしかない。

 轟音を響かせながら落雷はフルパワーシールドを突き破り、ゴールネットに突き刺さった。

 

 ゴール。それと同時にホイッスルが響き渡る。

 掲示板を見上げた。

 帝国対雷門と書かれた下には、1対2という数字が表示されていた。




 雷門時代しか知らない人のための補足。

 ♦︎『オーバーヘッドペンギン』
 アレスでの必殺技です。詳しい描写は本編で書いたので省きますが、検索をかければすぐに動画で出てきてくれると思います。気になった方はそちらをどうぞ。

 タグでGOアレスオリオンは関係ないとありましたが、字数の関係で、正しくは書けていませんでした。
 正しくは『GOアレスオリオンのストーリー関係なし』です。
 これからも、場面に合うと作者が個人的に思った一部の技が、時たまに出てくると思われます。しかし動画検索でもかければ出てくると思われますので、描写が気になる方はご了承ください。
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