悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
最近レポートの準備やらSEKIROやらで忙しくて執筆が遅れました。
……後者は遊んでるだけだって? まあ次のエルデンリングでフロムのソウルライクは制覇(デモンズ以外)するので、その時くらいには投稿速度が戻ると思います。
ブクブクと泡立つ桃色の液体が、オーガたちの体内に流れていく。
「グッ、ォォ……ォアアアアッ!!」
ひ、ひぃっ!? 何あれ、全身の血管が浮き出て不気味にうごめいてるんだけど!?
バダップたちはまるで獣のように咆哮をあげ、何かに耐えている。
初めの変化は、全身だった。
ドンッ、と一瞬で、まるで風船でも膨らませたかのように、彼らの筋肉がひと回り膨れ上がる。しかしその中に入っているのは空気などではなさそうだ。みっちり詰まった肉感と、感じられる圧でそれがわかる。
最後に、その目が全て真紅に変わった。イプシロン・改に似た雰囲気だ。しかしそのオーラは比べ物にならない。今の私でさえも本能が警笛を鳴らしている。
「は、はは……ドーピングは悪の組織の専売特許なはずなんだけどなぁ」
「……ただのドーピングではない。こいつは『鬼便神毒』。お前が開発に携わった神のアクアを、より凶悪に改造したものだ」
「げっ、マジすか」
道理で見覚えあるわけですよ。
『神のアクア』。説明するまでもないと思うが、世宇子のメンバーたちが使っていたKAGEYAMA印のドーピングドリンクだ。私もプロトタイプだけど使ったことがある。
効果は身体能力の大幅向上。副作用は筋肉の崩壊。それを改造したのが『鬼便神毒』って言ってたけど……改良されてなくない? すっごい苦しそうなんだけど。むしろ改悪されているような……。
「……この薬の使用者は105分後に生命活動を維持できなくなり、死に至る」
「なんだって!?」
みんなが非常に驚く。
ほんとに改悪だった。
「しかし、代わりに……」
試合再開のホイッスルが鳴る。
と同時に、バダップの姿がかき消えた。
「——使用者は、桁外れの身体能力を得る」
お腹に穴が空きそうなほどの衝撃が、走った。
いつのまにかボールがお腹にめり込んでいる。それをしたのは足。——バダップのだ。
「う……そっ……!」
痛覚が追いつき、激痛が走る。口から大量の血が噴き出した。
意識が飛びそうになるほどの膝蹴り。それを、ボールを挟んでくらったんだ。
腹部が焼けるように痛い。あばら骨が何本かお釈迦になったらしい。ほとんど意地だけで意識を繋ぎ止めていたけど、それでも体のほうが先にギブアップし、膝が地面に崩れ落ちる。
「ふっ、ふふっ……す、ごい……じゃん……!」
「虚勢を張ってるつもりか?」
「そんなふうにっ……見えるっ?」
実際今ので私は戦闘不能だ。これだけ折れてちゃ立ち上がるだけでも体が悲鳴をあげるだろうし、走るのにも支障が出る。
だけど……私は、嬉しいんだ。
「私だけじゃなく、相手も命をかけている。こんなゾクゾクするサッカー、初めてだよ……!」
「っ、貴様は、こんな状況でもまだ笑うか……! この悪魔が!」
「だから、だからだからだからだからだからだからっ!!」
もう止められない。溢れ出る喜びが口から漏れ出し、高らかな笑い声がグラウンドに響く。
左手を腹部にかざし、エネルギーを注ぐ。それだけで痛みと怪我は消え去った。
そして私は、獣のごとくボールに飛びつく。
「——もっとやろうよぉっ!!」
転がっていたボールごと、バダップを蹴り上げる。今度は彼の口から血が溢れた。そのまま地面を引きずりながら、数メートルは吹き飛ぶ。
「……きっ、さまぁぁぁっ!!」
激昂。獣のような雄叫びをあげ、バダップが襲いかかってきた。それを狂気の笑い声を発しながら、迎え撃つ。
側から見れば、こんなのサッカーじゃない、と誰かが言うだろう。水面蹴り、かかと落とし、飛び膝蹴り、マッハ蹴り。実際、円堂君がそう叫んでいるのが聞こえる。
だけど、これこそが私のサッカーだ。
命をかけてボールを蹴る。嗚呼、なんと美しいことか! なんと燃え上がることか!?
血が火になって、辺りを燃やし、私をさらに熱するのだ。
炎を纏った前蹴りが、バダップの顔面を撃ち抜き、鮮血が撒き散らされる。
「ぐっ、ごォォォッ!!」
「アハハハハッ!!」
間髪入れずに蹴りを放つ。しかしバダップも怯んだのは一瞬で、私の蹴りを相殺するようにボールに蹴りを撃ってきた。
衝撃波が発生し、私たちの間にクレーターが出来上がる。
威力は互角。衝撃波によって、弾かれるように私たちは引き離される。
「はぁっ、はぁっ……! まだまだァ……!」
ボールはいまだにバダップのもと。突撃をやめる理由はない。
しかし彼はこれまでと違い、あっさりと私のタックルをかわしてみせた。急いで方向転換しようとして……足に激痛が走る。
ローキック。それがボールを挟んで右足に直撃し、あらぬ方向にひしゃげさせていた。
さすがに痛い。声が漏れてしまう。でも治るんだったら問題ない。
エネルギーを注ぎ込むと、すぐさま足が元通りになる。そしてその足で蹴りを放つも、バダップはまたまた余裕そうにかわした。
っ……! だったら、何回も叩き込むだけ!
左足で地面を蹴って突撃し、空中で蹴りを何十回も突き出す。しかしどれもボールに当たるどころか、かすりもしない。
「嘘でしょ……!」
「慣れない力に頼りすぎたな。どうやらそれは、怪我は治せても体力は回復できないようだ」
言われてようやく、私は気づいた。
だが、遅かった。
不用意に突き出した蹴りを跳躍で避け、バダップは空中で一回転。そして足を高く掲げ、ギロチンのごときかかと落としを繰り出した。
——私の伸び切った右足に向かって。
グシャッ! という聞くに堪えない音が響く。
私の足は関節と逆方向に折れ曲がり、血と骨が肉を突き破って出てきた。
「ガァァァァァァッ!!」
痛い痛い痛いっ!
ありったけのエネルギーを足に注ぎ込む。それによって足からは熱が引き、骨も治って元通りになる。
しかしその時、激しい倦怠感が私の中にうごめいた。
「ナエっ!」
ぐぅっ! なに……? 急に頭が……!
吐き気すら込み上げてきて、敵が前にいるのにも関わらず、膝をついてしまう。
息が苦しい……! まさか、使いすぎるとこうなるの……?
精一杯の力を込めて、顔を持ち上げる。
——そこに、蹴りによっていびつに歪んだ、ボールが見えた。
(まずい、死——)
「ナエぇぇぇっ!」
顔面に凶弾が直撃する直前。
フィディオが間に割って入って、腹でそれを受け止めた。
「フィディオっ!?」
彼の口から血がこぼれる。
ボールの勢いは止まらず、私はフィディオごと吹き飛ばされ、その下敷きになる。でも今までのに比べたら、この程度の怪我なんてあってないものだ。
でも、フィディオは……。
彼はお腹を押さえ、とても苦しそうに顔を歪めていた。服の下をめくると、ボールの大きさ分、青く腫れた肌が見える。この感じ、間違いなく骨折だ。それも何本もやってしまっている。
不幸中の幸い、バダップはもうここにはいない。私たちが倒れた時点で、ドリブルで去っていってしまった。だから追撃が来ることはない。
お願い……!
エネルギーを手のひらに集中させ、それをフィディオのお腹に押し当てる。さらに倦怠感が増すけど、今はそれどころじゃない。彼だけは絶対に失ってはならない。失いたくないんだ!
やがて、彼が目を開いた。傷は癒え、起き上がるのにもう支障はない。
私が安心した顔を見せると、彼は微笑む。
そして一言。
「ナエ。一人で戦わないでくれ」
「でも……あいつらは私が呼び寄せたんだもん。私がやらなきゃ……」
「一人の危機はチームの危機。サッカーは11人でやるものだ。……それに、俺は君にこれ以上血を流して欲しくない」
「フィディオ……」
「それとも、俺たちじゃ君の力にはなれないかい?」
「そんなことないよっ!」
慌てて否定する。
むしろ私は恵まれている方だ。円堂君や鬼道君、フィディオ。メンバー一人一人が薬なしのオーガに対抗できるチームなんて、滅多にない。
悔しいけど、今のオーガは正真正銘の化け物だ。命を燃料とする彼らのパワーは絶大で、今の私でさえバダップ一人を押さえつけるので精一杯……さらにもう一人追加されただけで、あっさり潰されてしまうだろう。
フィディオの言う通りだ。
冷静になれ、私。楽しいのはわかるけど、それで結果を捨てるな。
一人がダメなら二人で。二人がダメなら三人で。それがサッカーのはずでしょ?
オーガはバダップを先頭に疾走していく。その超人的なスピードは、赤い旋風とでも表現するべきか。もはや選手がブレて見えるほど。
「全員、単独で行くのは危険だ! 固まれ!」
鬼道君の指示が飛ぶ。が、その矢先にボールを持ったミストレが突っ込んできた。
地面に足をめり込ませるほど強く踏ん張る。歯を食いしばって肩に力を入れる。どんな選手でも受け止められそうな強固な壁と化した鬼道君は、しかし赤い流星がぶつかるとともに大きく後ろに吹き飛ばされた。
「ぐぅぅぅぅっ!!」
しかし地面に足はまだついている。したがって地面を引きずりながら、ミストレに押され続けながら数メートル後退させられるような形となった。
しかし勢いは止まらない。鬼道君一人などなんの障害にもならないというように、彼を押し続けながらも、流星はまったく速度を落とさずに一直線に突き進んでいる。
「っ、クソったれっ!」
「踏ん張れ鬼道ぉぉっ!」
鬼道の背中に、二組の手が押し当てられた。
一組は不動。もう一組はツナミのもの。
三人が踏ん張ることによって、ようやく流星は速度を落とし、動きを止めた。
しかし、この時にはもう三人にはミストレのパスをカットする体力は残っていなかった。
足の筋肉は限界を超えたようで、痛みという名の悲鳴をあげている。体は体力という名の水を雑巾のごとく搾り切られ、もう体内に残ってはなさそう。皮膚の表面に浮かぶ大量の汗は、如実にそれを表している。
体力の限界が訪れ、ドミノのごとく三人は崩れ落ちる。
たった一人を止めるのにも、三人がかり。とても割に合わない計算だ。
ボールは再びバダップのもとへ。
センターディフェンスの壁山と飛鷹が、一斉に飛びかかる。
しかし彼らよりも先に、バダップまでたどり着いたものがいた。
エスカバだ。
空中に浮かぶボールを中心に、二人は向かい合う。
その構図には見覚えがある。いや、それどころかよく知っている技だ。
特に鬼道君と不動が、呆気に取られたかのように口を開けていた。
「あれは、まさか……!」
バダップとエスカバ、チームメイトのはずの二人が喧嘩するように、荒々しく同時に蹴りを繰り出す。それによって行き場を失ったエネルギーは時空を曲げ、超重力の渦を生み出した。
『キラーフィールズV 3!!』
しかも進化版。その規模と威力は見ただけでわかる。鬼道君たちのより二段ほど上だ。あの巨漢の壁山でさえ、一瞬も耐えきれずに重力の波にさらわれてしまった。
波が引いた時、残っていたのは円堂君だけ。
赤いオーラをみなぎらせ、バダップが吠える。
「見せてやろう……これが、オーガのシュートだっ!」
ボールを蹴り上げると同時に、バダップが天に跳ぶ。その高さは私のジャンプに匹敵するほど。両足には空気に触れるだけで振動が伝わるほどのエネルギーが込められている。
それらの間にボールを挟んで、ライフリングを刻むように、回転をかけた。
瞬間、集中していたバダップのエネルギーが台風の如く渦巻く。発生する風は周囲のものを薙ぎ払い、天空の雲すらその形を変える。
それが描くのは螺旋回転。回る数を増すごとに、鉛筆削りのように先端が鋭利さを増す。
そしてとうとう完成したのは、真紅の槍……いや、ドリルと呼ぶべきものだった。
「『デス、スピアー』ッ!!」
「負けるか! 『ゴッドキャッチ』ッ!!」
雷を纏う魔神が現れ、その両手を突き出した。そして血の如く赤い槍と激突。
瞬間、時空が歪むほどの爆発が起きた。
「ぐぅぅっ!! 止めて……みせる……!」
腕に伝わる衝撃を食いしばって耐え、それに共鳴して魔神が手のひらから放つ雷も威力を増す。
しかし、バダップのデススピアーはそれ以上だった。
キュイィィィィンッ! と、耳が痛くなるほどの高音が鳴る。
黄金のかけらのような物が円堂君の近くに落ちては、光の粒子に変わっていく。
その正体は魔神の皮膚。
デススピアーは魔神の両手に穴を開け、その腹部までをも貫いていた。そこまでしても続くエネルギーの螺旋回転によって、ドンドン体が削られているのだ。
「うわぁぁっ!!」
やがて体の半分を削り取られたことで、魔神が爆散。
円堂君はその衝撃波で倒れ、ガラ空きになったゴールを槍が串刺しにする。
1対1の同点。
しかし私は、旗色が悪くなったことを確信した。