悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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リバイブ・シャドウ

 黒塗りの車を走らせていく。

 向かう場所は東京の検察庁だ。

 

 今日、総帥がようやく釈放されるのだ。

 私はその迎えってわけ。

 

 警察によって逮捕された人物はまず検察官の元に送られ、詳しい取り調べを受けることとなる。

 拘留期間は最大二十日間。

 んで、何も証拠が見つからなかったら釈放となる。

 とはいえ検察側にも手は回してあるので、そこまで長くはならなかったけど。

 

 手元にあるスマホでフロンティアスタジアムの生中継を見る。

 各チームが名前を呼ばれ、列をなして入場している最中だった。

 おっ、次は帝国のようだ。そのあとに続いて雷門が呼ばれた。

 

 鬼道君も円堂君も変わりないようだ。

 アップされた映像には、二人が何やら話し合っている様子が映し出されていた。

 

 最後に世宇子中という学校が呼ばれる。が、入場口から現れたのは顔を真っ赤にしたプラガールただ一人だった。

 

 そこまで見たところで、車が検察庁に着いた。

 スマホをしまい、外へ出る。

 

 それからしばらく待っていると、自動ドアがスライドして総帥が姿を現した。

 

「お勤めご苦労様でーす」

「それは刑務所に入っていた人間に使うものだ。それとなんだその服は」

「あ、これ? いいでしょ。アフロディがくれたんだ」

 

 着ている服をつまんで、見せつけるようにクルクルとその場を回る。

 

「くだらん。さっさといくぞ」

 

 いや、アンタが聞いてきたんでしょうが! 

 しかしながらいつものことなので、放っておくことにした。

 二人で車に乗り込む。

 

「ゼウススタジアムへ戻る」

 

 総帥はそう運転手に命令し、車を走らせた。

 

 

 ♦︎

 

 

 ゼウススタジアムは空中要塞だ。車で直接は行けない。

 なので私たちは途中ヘリを経由して、要塞に戻った。

 

 この要塞はスタジアムの名の通り、サッカーグラウンドが設置されている。

 観客席から見下ろすと、そこには十数人の選手たちがボールを蹴っていた。

 

 でもその光景ははっきり言って異常だ。

 常人なら消えたと錯覚してしまうほどの速度で選手たちは動き回り、ボールが歪んでしまうほど強くパスをし合っている。

 

 あれが世宇子のサッカー選手たちだ。

 

「おーやってるね」

「神のアクアはやはり素晴らしい。雷門も帝国も、この力を前にすれば塵同然だな」

「ちゃんと頻度を保って使ってよね。あれけっこう依存性が強いんだから」

 

 神のアクア。

 それは総帥が開発した、人間の身体を作り変えるほどの力を持つ薬物だ。効果はコカインとかのアッパー系ドラッグの比ではなく、身体能力を大幅に向上させる効果を持つが、その分依存性も酷い。

 

「参考程度に考えておこう。()()()の意見は参考になるからな」

「いったい誰のせいでヤク中になったと思ってるんだろうね。保護者の顔が見てみたい」

 

 そう、総帥の言葉通り、私は神のアクアを使っていたことがある。

 いや正確には神のアクアが完成する前の試作品なんだけど。

 

 あれは正直言ってかなりヤバイ。

 一回使うだけで身体中から力がみなぎってきて、全能感にも似た感覚を覚えるんだけど、効果が消えるとその全能感を味わいたくてまた使いたくなるんだ。

 

 今下でサッカーをしている選手たちも、おそらくは同じような気持ちになっているだろう。

 そして薬物乱用はもちろん、選手の体を壊すことにもつながる。

 それでも、私はこの薬物を仲間に使うことになんのためらいもない。

 

 観客席から跳躍して、一気にグラウンドまで着地する。

 身体に痛みはない。重りがなくなったおかげで、身体が羽根のように感じる。

 

「やあなえ。僕があげた服、着てくれたんだね。よく似合ってるよ」

 

 声をかけてきたのは腰までかかるほど長い金髪を持つ美少年、アフロディだった。

 その足はボールに乗せられている。

 

「ありがとねーアフロディ。感謝ついでに、ちょっと私と遊ばない?」

「……ふっ、いいだろう。受けて立つよ」

 

 その言葉を合図に、私たちは一瞬で動き出した。

 一秒にも満たない時間で私たちの右足が、ボールを真ん中にぶつかる。

 それによって発生した衝撃波が、グラウンドを揺らした。

 

 キック力はほぼ互角。

 弾かれるようにして両者とも後ろに飛び退く。

 ボールは今だにアフロディの足元にある。

 

 アフロディが猛スピードで駆け出した。

 左右小刻みに揺れながら抜こうとしてくる。しかし常人にはその動きはまったく見えないだろう。

 翻弄されることなく、足を伸ばす。

 でもアフロディはそれすら予測していたようで、私が目の前に来たとたんにボールを蹴り上げた。

 

 ボールは頭上を通り、背後へ。

 アフロディが勝利を確信した笑みを浮かべながら私の身体を抜き去る。

 でも私は一瞬でさらに後ろに下がって、アフロディの目の前に出現してみせた。そして彼の顔が驚きで満ちている間にボールを奪い取る。

 これで私の勝利だ。

 

「弱い者たちとプレイしていて腕が落ちてないか心配したけど、これなら大丈夫そうだね」

 

 アフロディはそう言って私に微笑む。

 

 私はもちろん、今の勝負で神のアクアを使用していない。

 それなのにこれだけ身体能力が高いのには理由がある。

 

 さっきも言った通り、私は昔神のアクアの試作品を使っていた。

 神のアクアには身体能力を大幅に向上させる効果がある。でも急に跳ね上がった力に身体中の筋肉が耐えられなくなってしまう。それで最後にはサッカーを二度とプレイできなくなる。

 そういう薬物だ。

 

 でも私はその筋肉の崩壊に、奇跡的に打ち勝った。

 身体を壊しては治し、壊して治す。

 それを繰り返すことで元の身体能力が上がっていき、比例して神のアクアへの耐性が高くなっていった。

 そして最終的に薬を使わなくても、それ以上の力を発揮できるようになったのだ。

 逆に神のアクアは身体の耐性が高まりすぎて、その効力を発揮してくれることはなくなったけど。

 

 こうして、超人的な能力を手にしたわけである。

 

 でものちにわかったことだけど、私が生き残れたのは全身の筋肉が常人とは比べ物にならないほど柔らかかったかららしい。

 これは天性のもので、特訓でどうにかなることではないという。

 それはつまり、この世宇子のメンバーは遠い未来に再起不能になる可能性が高いわけで……。

 ちらりとアフロディを見つめる。

 

「……? 僕の髪に何かついているのかい?」

「いや、なんでもないよ。みんな変わらないなって思っただけ」

「ふふっ、神とは不変的なものなんだよ」

 

 髪をかき分けながらアフロディは笑う。その顔には絶対的な自信に満ち溢れている。

 

「じゃあ私はこれで。総帥を放ったらかしにしちゃったからね」

 

 アフロディに背を向け、もう一度跳躍。

 私の身体が再び天空に浮かぶ。そして総帥の隣に降り立った。

 

「重りを外した感想はどうだ?」

「身体能力はともかく、重心移動がスムーズになった気がするね」

「だがそれに引っ張られて動きが雑になっている。試合前には調整しておくことだ」

 

 この人はサッカーに関することなら超一流だ。今もあの短い一戦だけで私の弱点を見抜いている。

 

 それに、重りをつけるという特訓も元はといえば総帥が考えたものだ。身体能力に頼ったプレイができなくなる分、ボールのコントロールテクニックを磨くことができる。

 こんな人がサッカーを憎んでるんだから、世の中は不思議なものである。

 

「そう思うんならデスクワークの量を減らしてほしいな、なんて」

「……いいだろう。帝国を離反してから暗部に集中しやすくなったからな。貴様に渡す仕事は減らしておくとしよう」

「え、マジ? ……よっしゃぁ!」

 

 やったぜ! とうとう地獄のデスクワークから解放されるときがきたのだ! 

 さっそくグラウンドへ引き返そうとすると、総帥に足を引っかけられて倒された。

 ぐぉぉっ……! 私の顔がぁ……! 

 

「減らすとは言ったが、まったくやらんとは言ってない」

「いてて……でも、サッカー協会の会長さんはもうやっちゃったよ。他に何かあったっけ?」

「……仕事が早いな。すでに終わらせているとは」

「総帥が次に狙いそうな人くらい、簡単に想像がつくよ」

 

 総帥は黙り込んでしまった。

 どうやら要件はそれだけだったらしい。

 心の中で勝利の笑みを浮かべる。

 

 すると、服の胸ポケットにしまっていたスマホが震えた。

 部下からの報告のようで、フットボールフロンティア本戦のトーナメント表がようやく決まったらしい。

 

 画像が表示された。

 私たちは二つあるブロックの中でAブロックのようだ。

『世宇子』という文字のとなりに『帝国』と書かれてあった。

 ジト目で総帥を見つめる。

 

「……仕組んだでしょこれ?」

「はて、なんのことやら?」

「せ、性格悪い……」

 

 たぶん、前々から帝国は自分の手で潰すって決めてたんでしょうね。

 鬼道君たちも可哀想に。

 総帥の顔には邪悪な笑みが浮かんでいた。まるで近い未来に起こる惨劇を思い描き、楽しんでいるようだ。

 

 試合は三日後。

 ちなみに雷門はBブロックで、その前日に試合があるようだった。

 

 知り合いなだけに気が引けるけど、勝負の世界では常に本気が礼儀。

 円堂君にもそう言ったばかりだった気がする。

 なら、私がそれを守れなくてどうする? 

 そう思った瞬間、覚悟は決まった。

 

 

 そしてあっという間に時間は進み、いよいよ試合の日がやってきた。




 神のアクアの設定はオリジナルです。
 だってあんな薬が副作用なしなわけないじゃん……。てことで付け足しました。

 ちなみにサッカー協会の会長でピンと来ない人もいるかもしれませんが、お嬢のパパさんのことです。
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