悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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ブラック企業KAGEYAMA

「ふんふふ〜ん」

 

 上機嫌に鼻歌を歌いながら、目の前のキーボードを叩いていく。その歌を聴いて総帥が顔のシワをピクピクと動かしているけど、気にしない気にしない。

 

 私こと白兎屋なえは孤児だった。

 うちの父親は北海道にある『しろうさぎ本舗』という大きな会社の父だった。しかしそれも過去の話だ。

 父は重大なプロジェクトで取り返しのつかない失敗を犯してしまったのだ。その後、会社は瞬く間に潰れて家は借金まみれに。挙げ句の果てに両親は私を残して失踪してしまった。

 

 それ以降、私は東京の孤児院に送られ、そこで総帥と出会った。

 んでなんやかんやあって、今の総帥補佐という地位に立ってるってわけ。

 今の喋り方も北海道弁から標準語にあっという間に変わってしまった。それでも故郷が忘れらないのか、たまになまっちゃうんだけど。

 

「失礼します」

 

 っと、自分のことを内心で語ってたら、我らが帝国イレブンのキャプテンである鬼道君が自動ドアの向こうからやってきた。

 ゴーグルに赤マント。相変わらずの変態っぷりである。

 

「ヤッホー鬼道君。わざわざ来てくれてあんがとねー」

「いや、これも総帥の命令だ。礼などいらん」

「……よく来てくれたな、鬼道よ」

 

 鬼道君が来たことでようやく総帥が重い口を開いた。

 

 影山零治。ここ帝国学園の学園長兼総帥。そしてサッカー協会副会長の名を持つ男。つまり私たちの頼れるボスだね。

 

 ここ総帥の部屋は、玉座の間をモチーフにしたものになっている。

 奥の方では床が一段上になっており、そこに銀色の長机と高級そうなな椅子が置かれている。総帥の席はもちろんそこだ。

 そして補佐である私の机と椅子はその斜め後ろに置かれてある。しかし私のはなんも置かれてない総帥のとは違ってコンピュータ類でいっぱいだ。

 だってこの人中卒のせいで機械類にめっぽう弱いんだもん。だから仕事を押し付けてくるし、補佐のを含めて総帥の仕事の半分は私が補っていると言っても過言ではない。

 まあ給料高いからいいんだけど。ホワイト企業KAGEYAMAは今日も平和です。

 

「それで総帥、御用とは?」

「ああ、我ら帝国学園と雷門中の練習試合が決定した。貴様らには一週間後、そこに出向いて行ってもらう」

「雷門中ですか……? 聞いたこともない学校ですね。調整は……」

「いらん。詳しくはなえに聞け」

 

 それだけ言うと総帥は口を閉じて、石像のように固まったまま無反応になってしまった。

 はぁ、まったく……人使いが荒いんだから。

 私はキーボードをタップする。すると半透明なモニターが鬼道君の前に現れ、そこに目当ての中学校の情報が表示された。

 

「部員数7人……大会出場記録なしだと? ただのザコじゃないか」

「そーゆーことやっぺ。だから調整は必要ないってわけ」

「だが……こんなところになぜ一軍が行く必要があるんだ?」

「そこに転校生が入ったという情報があるからだ」

 

 おい総帥、説明私に任せるんじゃなかったのかよ……。

 いいとこで毎回セリフ奪うのやめてくれない? ガキかあんたは。

 ジト目になっている私を無視して、総帥は語り出す。

 

「豪炎寺修也。この名に聞き覚えは?」

「確か前回のフットボールフロンティアで木戸川清州のストライカーだったはず。 ……まさかこいつが?」

「貴様の任務はこいつのデータ採取だ。そのためならば試合中何をしても構わん。引きずり出してでも試合に参加させろ」

「……了解です。チームのみんなにも伝えに行ってきます」

 

 鬼道君は丁寧にお辞儀をすると、部屋を出ていった。

 辺りに静寂が再び蘇る。この人気の利いたジョークもしないし必要ないことは基本ガン無視してくるから喋ることないんだよねぇ。

 どうせデータ採取とか言いながら、細かい作業は部下にやらせるつもりなんでしょうね。この人自身が動くとこなんてあんま見ないもん。君の部下たちと飲み会行く時にすごい愚痴られるんだよ? 曰く給料は高いけど仕事量多いし、下手したら警察に捕まるから割に合わないだとか。あと休日が少ないだとか。

 

 結論を言おう。

 我らがホワイト企業KAGEYAMAは今日も平和です。

 

 

 ♦︎

 

 

 白兎屋なえ。

 それは日本サッカー界において天才ゲームメイカーと呼ばれる鬼道と同じくらい有名な存在だ。

 精細なボールコントロール。閃光のように素早いドリブル。そして豪快なシュート。

神姫(ゴッドプリンセス)』。

 まるで女性のような美貌と、組織的サッカーを好む帝国の中で凄まじい個人技が目立ちに目立った結果から付けられた名がそれだ。

 ……いや、実際は女性そのものなのだが。

 

 鬼道は帝国イレブンに一週間後の試合のことを伝えた後、全員と練習をしていた。

 調整は必要ないのはわかっている。だからといって己のプレイを錆びつかせていいわけではない。常に切磋琢磨していかなる敵をも打ち破る。それが帝国サッカーだと鬼道は思っていた。

 

 だが、その全員の中になえは含まれてはいなかった。

 当然だ。なえは総帥補佐。今こうして自分たちが練習している間も、デスクワークに追われているに違いない。

 その分仕事がない時のなえのサッカーへの真剣度は人一倍なので、他のメンバーがなえに対してマイナスな思考を抱くことはほとんどないが。

 

 鬼道となえは長い付き合いだ。

 孤児院にいたころから知り合っており、二人揃って影山総帥に連れてかれた。

 鬼道はちょうど跡取りを欲しがっていた鬼道家に迎えられたが、話によるとなえはここ帝国学園の一室に住んでいるらしい。そして総帥の補佐をする事で生活費を稼いでいるそうだ。

 

 だが正直言って白兎屋なえという存在は得体が知れない。

 誰よりもサッカーを愛しているのはわかる。楽しそうにボールを蹴っているところを見ると、まるで無邪気にはしゃいでいる子供のように感じられてしまう。

 しかし、それ以外がよくわからない。

 相手が勝負するに値しない相手と見ると、なえは豹変してしまう。

 まさに天使から悪魔になったかのように、冷酷に相手を潰そうとするのだ。昨日も命令とはいえ、笑いながら敵校舎を破壊してしまっている。

 

 狂っている。

 だがそれを鬼道が口にすることはない。言ってしまえば、なえという存在そのものを否定してしまうから。

 脳裏によぎるその考えを振り切り、鬼道は再び練習に集中するのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

 影山零治にとって白兎屋なえとは、磨き上げた黒い宝石だ。

 

 孤児院で鬼道という最高の素材を見つけた後の帰り道、道草を食って人通りの少ない空き地で彼女を見つけた時、戦慄が走った。

 

 明るい髪とは裏腹に、絶望を含んだ暗い瞳。そして全ての憎しみを叩きつけるかのように延々とボールを蹴り込む姿。

 一瞬で悟った。自分の闇の全てを注ぎ込むのに、これ以上優れた存在はいないと。

 

 鬼道に教えたのがサッカーの表とするならば、なえに教えたのはサッカーの裏だ。鬼道には教えていないあらゆる悪事の知恵を授け、磨き上げた。

 そして完成したものはとても美しく……とても面倒くさいものになった。

 

「総帥総帥ー。たまには書類仕事くらい手伝って欲しいっぺよー。このままじゃ私が潰れちゃうよー」

「我慢しろ。その代わり給料は見積もっているのだから」

「お金増やせばいい話じゃないんですよっと。労働基準法で訴えますよ?」

「私は君が女性であることを告発して、フットボールフロンティアに出れなくさせてもいいのだが?」

「許してください総帥! それだけは勘弁して!」

 

 冷たいタイルに頭を擦り付ける自身の最高傑作。

 フットボールフロンティアは男子中学生の大会だ。本来なら女性であるなえが出ることは許されてはいない。

 だが影山はサッカー協会の副会長だ。性別を偽ることぐらい造作でもない。

 

 しかし面倒なのは最初に出会った時とは正反対のこの妙に明るい性格だ。一応の性別バレのために男らしく振る舞えと昔から言っているのだが、聞く耳を持たない。服も黒いダッフルコートにミニスカートと、性別を隠そうともしていない。おまけにサッカーをやってない時はいつもうるさいので正直迷惑だ。

 

 だがこんなやつでも闇を持っているため、鬼道にはできないことをやらせることができる。

 言ってしまえば裏社会の悪事。ターゲットの故障や暗殺の手引き、さらには違法薬物などの密輸も行なっている。そしてそれができるからこそ、闇が深い帝国学園において二番目に権力を持つ総帥補佐の地位にこれを置いているのだ。

 

「ねー総帥? 雷門中に行くときにトラクター持ってっちゃダメ?」

「好きにしろ。現場の指揮も貴様に任せる」

「あいあいさー」

 

 そんなやりとりがあって一週間後。

 ついに練習試合の日が来た。

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