悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

24 / 157
イナズマ魂を宿す者

 ベンチに戻ってきた私たちを待っていたのは、台車に置かれた神のアクアだった。

 

「濃度を濃くしました。これ一杯で後半戦をフルで戦えます」

「ちょっと待って。まさか二倍にしたの? そんなもの、身体が持つはずないじゃん」

「……これも総帥のご命令です」

 

 ちっ、あのブラック社長が……! 

 神のアクアは危険な薬物だ。

 だからこそ、開発した際に濃度に制限をかけていたのに。

 とことん総帥のゲスっぷりが表れてるよ。

 

 それに、神のアクアはあくまで筋力増強剤であって、体力が増えるわけじゃない。

 アフロディたちも後半戦を戦うのは初めてだ。

 上がりすぎた身体能力に振り回されるのは目に見えている。

 それを承知でこんなことをしているってことは……早めに潰せっていう私へのサインか。

 

「……今は幸いハーフタイム。今すぐ交換すれば間に合う……」

「いいさ、なえ。ちょうど僕もいちいち休憩を挟むのは面倒だと思っていたところだからね」

 

 アフロディは私の肩を叩いて引き止めると、ガラス容器を手に取って神のアクアを一気に飲んでしまった。

 それに続いて他のメンバーも次々と神のアクアを飲み干していく。

 

「はぁ……もう好きにしなよ」

 

 まだ、アフロディたちとはサッカーしてたかったんだけどなぁ。

 ヤケクソ気味に神のアクアを口に流し込む。

 甘い味が、今だけはうっとうしかった。

 

 神のアクアは間違いなく選手生命を縮める。

 今後シャドウジャパンとして活動していく以上、彼らにはできる限り長生きしてもらいたいのに。

 この分じゃ、冬のフットボールフロンティアインターナショナルが始まるまでに数人が脱落していそうだ。

 

 ……まあいい。今はそんなことを考えている場合じゃない。

 主審が両ベンチに向かって呼びかけてきていた。

 もうすぐ後半戦の始まる時間だ。私たちは先ほどとは反対側のコートに歩いていく。

 

 途中、円堂君とすれ違った。

 強い眼差しだ。まだ勝負を諦めてはいない。

 だけど私も負けるわけにはいかない。ここで負けたら、全てが水の泡と化してしまう。

 

 ボールがグラウンドの中心に置かれ、両陣営が構え。

 

 ——最後の戦いを告げる笛が、今鳴った。

 

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

(点を取る! そして勝つ! 優香のために……なによりもチームのみんなのために……!)

 

 開幕早々、豪炎寺君が雄叫びを上げながら突っ込んでくる。

 私たちは前半同様それをスルー。後ろにはディオ率いるディフェンス陣がいるし、問題はない。

 

「ハァァァァァァッ!!」

「無駄だ。神には通用しない」

 

 ボールを間に、豪炎寺君とディオの足が激突する。

 衝撃波で地面がわずかだけど揺れる。

 しかし苦しそうな豪炎寺君に対してディオは余裕の笑みすら浮かべていた。

 そして徐々に豪炎寺君の足が押されていき……。

 

『まだだっ!!』

 

 後ろから加勢に入った鬼道君と一之瀬の蹴りが、ディオを押し返した。

 ディオと三人は互いに弾かれ、たたらを踏む。

 ディオは復帰すると、青筋を額に浮かべた。

 

「こ、の……調子に乗るんじゃねぇ! メガクウェイク!」

 

 彼らの足元から岩が飛び出し、三人をバラバラに吹き飛ばす。

 しかし豪炎寺君は、なんと空中で体勢を立て直すと、ボールを拾って一気にディオを飛び越えてみせた。

 

「裁きの鉄槌!」

「っ、がっ……!!」

 

 だけどそれが限界だったようだ。

 続けてアポロンの裁きの鉄槌をくらい、豪炎寺君は今度こそボールを手放して倒れた。

 ボールはクリアされ、デメテルが受け取る。

 

「ダッシュストーム!」

 

 暴風が吹き荒れ、雷門の選手たち四人を見事に吹っ飛ばした。

 そしてデメテルはパスをアフロディに出す。

 

「コイルターン!」

「キラースライド!」

「ザ・ウォ——」

「——ヘブンズタイム」

 

 後半戦になって松野と代わっていた影野が、土門が、壁山が、それぞれ必殺技をしかける。

 しかし、一つ遅かった。

 プレスが、スライディングが、壁が。

 出現するよりも早くアフロディの指が弾かれ、その瞬間世界が止まる。

 

 次に彼らが見たのは、誰もいない空間と、どこからともなく発生した竜巻だった。

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 これで、円堂君以外の全員を倒した。

 アフロディは冷たくも美しさを感じる笑みを浮かべながら、ペナルティエリア外からボールを蹴る。

 

「ゴッドハンドは通じない……だったら、残るはアレしかない……!」

 

 円堂君は腰を深く落とし、右腕を掲げる。すると彼の体から、凄まじいエネルギーが感じられるオーラが溢れ出した。

 この感じ……ゴッドハンドを超えている?

 てことはあれが……。

 

「マジン・ザ・ハンド!」

 

 円堂君はそのまま、右手を前に突き出した。

 しかしその途端、溢れていたエネルギーが胡散してしまい、彼は無防備となってしまう。

 そこにアフロディのシュートが当たり、彼の体を弾き飛ばした。

 

「ぐあっ!」

「……やっぱり、未完成だったようだね」

 

 かつてイナズマイレブンと呼ばれていた響木監督ですら習得できなかった技だ。

 いくら円堂大介の孫といえども、やはり無理があるのだろう。

 

 ボールにはバックスピンがかけられていて、すぐにアフロディの下に戻ってくる。それをトラップもせずにダイレクトで、彼は再びシュートを撃った。

 

「マジン・ザ・ハンド! ……ガハッ!」

「ハハハッ! 諦めたまえ! その技は絶対に完成しない!」

「っ、諦めてたまるか! マジン・ザ・ハンドォッ!!」

 

 まるでビデオテープを巻き戻しては再生するかのように。

 何度も何度もボールが円堂君に当たり、そのたびに彼は立ち上がってくる。

 

 側から見れば延々と終わることのない残虐刑。

 しかし私にはわかる。

 苦しんでいるのはアフロディの方だった。

 

 いつのまにか、彼の顔からは優雅さは消えており、ただただ必至にボールを蹴り込む人間らしい表情がそこにはあった。

 

「なぜだ……なぜ、倒れない!?」

「お前には理解できないだろうな……アフロディ」

 

 ふと、後ろから声が聞こえてきた。

 見れば、足を引きずりながらも、鬼道君がペナルティエリア近くまで戻ってきていた。

 

「帝国の時だってそうだ……。円堂は倒れるたびに強くなる。お前は円堂の強さには敵わない!」

「そんな……そんなこと、あっていいはずがないっ!」

 

 アフロディが背中から白い翼を生やし、空を舞う。

 もういたぶるなんて考えはもはや消えていたのだろう。

 彼はただ、眼下にいる敵を睨みつけていた。

 

「僕は神の力を手に入れた! その僕が、人間ごときに恐怖するはずがない!」

「そんなのは神の力なんかじゃない! ただのインチキだ!」

「っ、黙れぇぇぇぇ!!」

 

 宙に浮いていたボールが白い雷を纏う。それが発する光は、私でさえ見たことがないほどの大きさになっていた。

 まさか、アフロディの怒りに神のアクアが反応したっていうの? 

 

 もしそうだとしたら、今度こそ終わりだ。

 あのシュートは、円堂君じゃ止められない。

 

『円堂っ!!』

『キャプテンっ!!』

『円堂君っ!!』

 

「聞こえてくる……みんなの声が。サッカーが大好きなみんなの声が」

 

 ……なのに、なぜだろうか。

 円堂君を見ていると、不可能なんて気持ちは消えていった。

 

「そうだ……これはっ、サッカーを守るための戦いだっ!」

 

 気合いを込めるように、円堂君は両方の手を互いに打ち付ける。

 すると、今までとは比較にならないほどのエネルギーが溢れ出した。

 

 だけどマジン・ザ・ハンドはその次が問題だ。捻り出したエネルギーを固定させることができない。

 それに対しての円堂君の答えは——左手に力を集中させることだった。

 

 円堂君は獣、いや落雷のように吠えた。

 その瞬間、彼の体から電気にも似た眩いオーラが発生し、徐々になにかを形作っていく。

 

 それはまさしく、魔神だった。

 魔神は円堂君の動きと連動するように左手を構え——前に突き出す。

 

「ゴッドノウズッ!!」

「マジン・ザ・ハンドッ!!」

 

 神対魔神。

 神々しい閃光が、荒々しい巨手が、ぶつかり合う。

 凄まじいエネルギー同士の真っ向勝負。それを制したのは……魔神だった。

 

 目も開けられないほどの光が辺りを包み込む。

 一瞬の静寂。

 次の瞬間、まぶたを開けてみるとそこには、ボールを左手で完全に掴んでいる円堂君の姿があった。

 

 会場中が奇跡のような出来事に湧き上がった。

 

 あれが……幻のマジン・ザ・ハンド。

 あまりのショックに、私たち全員が声を失っていた。

 そうやって呆然としていると、円堂君がボールを前線へと投げつけた。

 

「いくぞ、みんな!」

『おうっ!!』

 

 しまった、カウンターだ! 

 私は急いで戻ろうとするけど、最初に出遅れたせいでボールとの距離がかなりあった。

 これじゃあ追いつくのは不可能だろう。

 

 ボールは鬼道君へ。その横に豪炎寺君が並走していく。

 

「何度来ようが無駄だ! メガクウェイク!」

「ふっ、その技はもう見飽きた」

 

 地面が盛り上がり、彼らを突き飛ばさんと岩が真下から飛び出してくる。

 しかし二人はその前に高く跳躍し、ディオごと岩を跳び越えた。

 

 ゴールは目前。

 二人は着地後、再び空中に跳び上がる。だがそれには回転が加わっていた。

 ファイアトルネードに……あれは、木戸川清修の……! 

 

 赤と青。

 左回転と右回転。

 正反対な竜巻が、一つに融合していく。

 

『ダブルトルネード!!』

「っ、ツナミウォール! ……がぁぁぁっ!!」

 

 ゴール前に津波を思わせる水の壁が発生する。が、竜巻はそれを真っ二つに切り裂き、ゴールネットに突き刺さった。

 

 馬鹿な……ありえない。

 鬼道君がバックトルネードを使ったなんてデータも、増してやそれをファイアトルネードと融合させる特訓をしていたなんて情報もなかったはずだ。

 なのにさっきのシュートの完成度は、まるで長年タッグを組んでいたと錯覚するほど高かった。

 

 それは二人の絆が生み出した奇跡なのか……はたまた、反対側のゴールで人一倍喜んでいる円堂君の影響か。

 どっちかはわからない。

 だけど今やるべきことはひとつだ。

 

「みんな、加減はいらないよ。全力で叩き潰す」

 

 スコアは3対1で、ホイッスルが鳴った。

 その途端に、私たちは目にも留まらぬスピードで駆け上がる。

 

「ライトニングアクセル!」

 

 そのまま黒いオーラを放ち、稲妻のような速度まで加速して二、三人を追い抜いた。

 だけど技の終了と同時に、影野がさらにディフェンスに加わる。

 

「コイルターン!」

「ちっ、デメテル!」

 

 グルグルと影野は私の周囲を高速で回った。

 技使用後で私の動きは一瞬だけ鈍くなっている。だけど取られまいと、かろうじてデメテルへとパスを出した。

 彼の前には壁山が立ちはだかる。

 

「ダッシュストーム!」

「ザ・ウォールッ!」

 

 壁山の背後に巨大な壁ができあがる。同時にデメテルの巻き起こした突風が、壁山を吹き飛ばす。

 しかし背後の壁が支えとなり、彼はなんとか風をしのいでみせた。

 

「なにぃっ!?」

「うォォォォォォ!!」

 

 自身の必殺が破られ、動揺するデメテル。その隙を突いた壁山のタックルが、彼を逆に吹き飛ばした。

 

 なんなのこれ……? 

 予想外の展開に困惑する。

 円堂君だけじゃない。チーム全員がパワーアップしている。

 いや、正確には力を限界まで引き上げていると言った方が正しいか。

 これも円堂君の力だって言うの? 

 

「だけど、私は負けていられない! ——スピニングカットV2!」

「ぎゃっ!?」

 

 すぐに壁山を吹き飛ばし、ボールを奪い取る。

 彼を抜ければ、円堂君との一対一だ。

 

「来い! お前の全力、受け止めてみせる!」

「言われなくても!」

 

 空中に蹴り上げたボールが闇のオーラを纏い、巨大化していく。

 たしかにマジン・ザ・ハンドはすごい技だ。

 だけど私のシュートはゴッドノウズを上回る。利き手じゃない必殺技じゃ、止められやしない! 

 

 だけど空中に跳んでいるとき、気づいた。

()()()()()()()()()()()()()()ことに。

 

 彼は腰を捻るように背を向け、右手を左胸に押し当てていた。

 左手……左胸……そうか! マジン・ザ・ハンドのコツは心臓からエネルギーを生み出すことなんだ! 

 と言うことはつまり、彼が今やろうとしていることは……。

 

 青空の浮かぶ暗黒の月。それを逆さまになりながら、突き落とす。

 

「——ダークサイドムーンッ!!」

 

 対して、円堂君は身体を正面に向け、再び魔神を出現させる。そして魔神はさっきとは違って、右手を弓引くように構えた。

 

「これが俺だけの……マジン・ザ・ハンド改だァッ!!」

 

 ありったけの力が込められた掌底が、黒い月と衝突した。

 

 ゴール付近の地面が衝撃波でぐちゃぐちゃになっていく。

 あまりのエネルギーの奔流に、空中にいた私は吹き飛ばされそうになった。

 それでも必死にこらえ、身体中から絞り出すように声を上げる。

 

「ハァァァァァァッ!!」

 

 それに呼応するように、黒い月は徐々にだが魔神の右手を押していった。

 

 負けられない! 負けるわけには……いかないんだよっ! 

 こんなところで、私の世界への挑戦が奪われてたまるかァ! 

 

「お前の勝ちたいって気持ち、ビリビリって伝わってくるぜ。だけど俺だってみんなと一緒に——勝ちたいんだァァァァッ!!」

 

 円堂君の叫びに応えて、魔神の右腕が一回り大きくなる。

 そして完全にダークサイドムーンを押し返した。

 

 闇が胡散していき、やがて月は元のボールへと戻っていく。

 完全に動きを止めたところで魔神は消え、後には右手を突き出したままボールをキャッチしている円堂君が残った。

 

「そ、んな……」

 

 止められた……? 私のシュートが……? 

 私の中に生まれて初めて感じるような感情が芽生える。

 

 思えば、私は本気でやった物事で負けたことはなかった。

 だからこそ、今になってようやくこの渦巻く感情の正体がわかった。

 これが、悔しさなのだと。

 

「っ、まだだよ!」

 

 だけど負けを認めるわけにはいかなかった。

 私は円堂君に背を向けて走り出す。

 たとえシュートが止められようと、まだこっちは二点分リードしている。彼らの攻撃さえしのげれば勝てる。

 

 それは普段の私からは考えられない思考だった。

 いつもならたとえシュートを止められても、すごいと相手を褒めるだけで終わっていたはずだ。

 なのに今はなりふり構わずに、ましてや防御に回ろうとしている。

 それはなぜか? 

 負けたくないからだ。

 私は今このとき、本当の意味で彼らに勝ちたいと思った。

 

 世宇子ゴール前までなんとか戻り切り、こちらに攻撃してくるエースの二人を待ち構える。

 だけど私の予想とは違い、目の前には三人の選手が走ってきていた。

 一人は豪炎寺君。もう一人は鬼道君。そして最後の一人が……壁山だ。

 

 二人を追い抜き、壁山がボールも持たずにゴールに突っ込んでくる。

 鬼道君はそれを確認したあと、壁山に向かってシュートを撃った。

 

「ザ・ウォールッ!」

 

 しかし彼は事前にそれを知っていたようで、すぐに振り返って巨大な壁を出現させた。

 それに当たってボールが真上に弾かれる。

 

 このとき、私たちはあることに気づいた。

 壁山のザ・ウォールが視界を妨げるカーテンのように、彼らの姿を隠しているのだ。

 まさか鬼道君はこのために……! 

 

 壁よりも高い位置にまで跳躍する影が見えた。

 豪炎寺君だ。

 その足には炎が纏われている。

 

「ファイアトルネード改!」

「スピニングカットV2!」

 

 そこだ! 

 豪炎寺君がシュートを撃ってくるタイミングに合わせて、衝撃波の壁を出現させた。

 だけどまたしても私の予想を上回ることが。

 ボールはゴールではなく、真下に向かって進んでいったのだ。そこにはいつのまにか鬼道君が右足を振り上げている。

 

「ツインブーストF(ファイア)!!」

 

 鬼道君に蹴られ、炎と闇を纏ったボールは直角に軌道を変えてこちらに向かってくる。

 

 タイミングをずらされ、スピニングカットの威力は弱くなってしまっている。そんなものは壁にすらならず、あっけなく突き破られてしまった。

 

「ギガントウォール!」

 

 最後の守護神、ポセイドンはどういう原理かはわからないけど身体を巨大化させて、その拳をボールに叩きつけた。

 しかしそれすらも弾き飛ばし、ボールは再びネットに突き刺さる。

 

 3対2。

 どんどん追いつかれていく。

 

 ここまで戦ってわかったことがある。

 それは私以外の世宇子の選手が衰えていっているという事実だ。

 

 彼らは後半戦を戦ったことがない。

 そもそも全ての試合を苦戦することなく勝ち抜いて来たがゆえに、彼らは極度の疲労というものを感じたことがないのだ。

 その差が、徐々に出始めてきている。

 

「くっ、いくよアフロディ!」

「ああ! 僕らは負けられない!」

 

 キックオフと同時に、ボールを持ったアフロディは駆け出す。

 それを食い止めようと豪炎寺君と鬼道君が殺到してくる。

 

「ヘブンズタイム!」

 

 だけど、アフロディにはいかなるディフェンスも通用しない。

 時間が止まっている隙にアフロディは二人の間を通り抜け、催眠を解除したあとに竜巻で吹き飛ばした。

 

 だけどここでも、誤算が発生する。

 

「ウォォォォォォッ!!」

「ゼアァァァァァァッ!!」

「なんだとっ、ぐあっ……!?」

 

 二人は空中に投げ出されたあとに体勢を立て直して、アフロディめがけて落下してきたのだ。

 ヘブンズタイムが破られたことがなかったために、アフロディは油断していた。その隙を突いて二人は落下を利用したタックルをしかけ、彼を吹き飛ばしてボールを奪ってみせる。

 

「っ、得点できるのはあの二人だけだよ! 全員彼らを潰せ!」

「裁きの鉄槌!」

 

 私の指示で動いたアポロンが裁きの鉄槌を落とす。

 しかし二人は軽やかな動きで左右に分かれ、それをかわしてみせた。

 

「メガクウェイク!」

 

 ディオが地面から岩を突き出させるが、そのときにはもう二人は地上にはいない。

 彼らはそれぞれ回転しながら、足にエネルギーを集中させていた。

 

『ダブルトルネードッ!!』

 

 赤と青の竜巻がゴールを襲う。

 でも、今度こそは間に合った。

 ポセイドンの前に立ち、青いエネルギーを纏った足をなぎ払う。

 

「スピニングカットV2!」

 

 地面から衝撃波の壁が噴き出し、竜巻とぶつかり合った。

 さすが、ポセイドンの守りを突破するだけはある。すごい威力だ……! スピニングカットもまもなく破れてしまうだろう。

 でも、それでいい。

 これで少しでもシュートの威力を削げれば、ポセイドンなら止めることができる。

 

 しかしこのときの私は忘れていた。

()()()()()()()()だということを。

 

「スピニングシュート!」

 

 かけ声とともに、衝撃波の壁にボールが深くめり込んだ。

 壁の向こう側を見ることはできないが、声で一之瀬だとわかった。それと同時に彼がしたことも。

 

『シュートチェイン』。

 彼はスピニングカットと衝突中のボールに向かって、さらに蹴りを加えたのだ。

 

「ローリングキック!」

「グレネードショットッ!」

 

 しかも、蹴りを加えたのは一之瀬だけではなかった。

 半田と宍戸。

 今まで警戒したこともなかったような人物たちが、私を破らんとばかりに牙を剥く。

 

『トリプルシュートチェイン』。

 さすがにこれは耐えきれず、スピニングカットは消滅してしまった。しかしシュートはまったく衰えていない。

 むしろ最初より加速しているかもしれない。

 

「ツナミウォール! ……がっ!!」

 

 そんなものをポセイドンが止められるはずもなく、色々なものが複合した竜巻が津波を破り、ゴールに入っていった。

 

 ……追いつかれた。

 残り時間は少ない。すぐに攻撃をしかけなければいけない状態だ。

 だというのに、チームのみんなには覇気がなくなっていた。

 

「神である俺たちが……同点……?」

「もうだめだ……勝てない……」

 

 一人、また一人と選手たちは膝をついて崩れ落ちていく。

 

 こんなときに自分を支えてくれるのは、毎日走って、何万とボールを蹴り込んで、何度も何度も積み重ねてきた努力。それが杖となって、倒れそうな自分を支えてくれるんだ。

 だけど……世宇子の選手たちには、それがない。

 神のアクアなんてものに頼ってしまったがばっかりに、彼らの杖は酷く脆く、弱々しいものになってしまった。

 

 それに比べて、雷門の選手たちの杖はなんと力強いことか。

 選手としての質の高さ。その差が画然と出てきてしまっていた。

 

 だけど、それを嘆いている暇はない。

 味方が役に立たないのなら、私自身がやるしかない。

 

 あれを……()()()()を使ってやる! 

 

 ホイッスルが鳴ると即座に黒いオーラを纏い、加速する。

 

「ライトニングアクセル!」

「クイックドロウ!」

 

 鬼道君も同じように加速するけど、私の方が数段速い。

 彼の突進を避け、その後ろにいた豪炎寺君を吹き飛ばしながらその場を突破した。

 本来ならここで必殺技を止めるんだけど、今はそれをしない。おかげで身体に負荷がかかり、ミシミシという嫌な音がしてきた。

 だけどそれをこらえ、ライトニングアクセルを保ったまま、私は突っ込んでいく。

 

 道中で何人吹き飛ばしただろうか。痛みでそんな些細なことは覚えていなかった。

 

「させるかぁ! ——スピニングフェンスッ!」

 

 そんな私の速度に唯一食いついてきた風丸が三人に分身し、その場を回転し始める。

 すると三つの大きな竜巻が発生し、私を押し潰さんと迫ってきた。

 

 囲まれて、回避することは不可能。

 だったら押し切るのみ。

 

「負けるかァァァァァァッ!!」

 

 自慢の速度に身を任せて、一本の槍のごとく、竜巻へと突き進んでいく。

 気を抜いたら身体がバラバラに引き裂かれてしまいそうだ。そう思わせるほどの風。

 それを歯をくいしばって耐えて、がむしゃらに突っ切っていき——とうとう竜巻を突破した。

 

 しかしその反動でライトニングアクセルは解除されてしまい、ボールも風のせいで私の足から離れて空中に飛んでいってしまう。

 だけどあの高さなら問題ない。そう思って足に力を入れ、ジャンプしようとしたときに……。

 

「行くでヤンスよ、壁山!」

「おうッス!」

 

 壁山と栗松の二人が前に出てきた。

 壁山は巨体を地面と水平にしながらジャンプする。

 その腹を足場として、栗松がさらに跳躍し、ボールへ迫る。

 

「イナズマ落とし!」

 

 その上昇する速度は私の跳躍を超えていた。

 栗松は私よりもどんどん速くボールに迫っていき、オーバーヘッドで前線へクリアしてみせる。

 空中から見下ろせば、ボールの落下地点には一之瀬と土門と——円堂君がいた。

 

 驚き、雷門側のゴールを見る。そこには当然、円堂君の姿はない。

 信じていたっていうの……? 仲間が防ぐことを信じて。

 

 三人は高速で走りながら一点で交差し、そこにエネルギーを集中させる。するとそこから炎で形作られた不死鳥が誕生し、空へと舞い上がった。

 その先には、足に炎を纏った豪炎寺君がいた。

 炎の竜巻が、不死鳥をさらに巨大化させる。

 

「ファイナルトルネードッ!!」

 

 不死鳥は炎を撒き散らしながら飛翔し、ゴールへと迫る。

 

「ツナミウォールっ、V2ッ!!」

 

 ポセイドンは地面を叩き、さらに巨大化したツナミを発生させる。

 だけど不死鳥はそれすらも蒸発させ、突破していった。

 

 このとき、誰もが雷門の勝利を確信しただろう。

 

 ——ポセイドンの後ろに私がいなければだけど、ねっ! 

 

『なんということだァ! キーパーの後ろに伏兵、白兎屋選手が潜んでいた!』

 

「あいつ……!?」

「バカな……恐るべき執念」

「ガァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 渾身の右足をボールに叩きつける。

 痛い。熱い。肉がジュクジュクと焦げていく。

 だけどここで負けたら全てが終わる。終わってはいけない。

 私はまだ、遥かなる高みにたどり着いてはいないのだから! 

 

 身体を支える左足が悲鳴をあげる。

 その下の地面がひび割れていく。

 それでも私は不死鳥に食らいつき、打ち勝つことに成功した。

 

 集中していた炎が弾け、爆発が起こり、ボールは天高くまで飛ばされる。

 

 だけど、それじゃあ終わらない。

 ボールはなんとその後、黒いオーラを纏いながら巨大化し始めた。

 

 異変をいち早く察した鬼道君が呟く。

 

「まさか……あの距離から撃つつもりか!?」

 

 そうだよ。

 ゴールからゴールへシュート。そんなスーパープレイ、私だってやったことがない。というかできない。

 でも今は別だ。なんせ、相手ゴールにはキーパーがいないのだから。

 

 希望から絶望へ。

 跳躍し、反転した暗黒の月を、オーバーヘッドで蹴り落とす。

 

「ダークサイドムーンッ!!」

 

 そして月は凄まじいエネルギーの余波を生み出しながら、ゴールへと飛んでいった。

 

 ペナルティエリア内じゃなければマジン・ザ・ハンドは使えない。よってこの技が止められることはない。

 だけど、円堂君たちはまだ諦めてはいないようだった。

 

「まだだっ!」

 

 彼らは一斉に黒い月の高さまで跳び上がり、Yという文字を反転させたかのようなフォーメーションになる。

 まさか……三人でダークサイドムーンを蹴り返すつもりなの!? 

 

『イナズマブレイクッ!!』

 

 彼らの足が月に触れた瞬間、膨大な電気が発生した。エネルギー同士のぶつかり合いによって発生した光が、天空を眩く照らす。

 

「ウォォォォォォッ!!」

「ハァァァァァァッ!!」

「俺たちは日本一に……っ、なるんだァァァァァァッ!!」

 

 三人の叫びに負けたかのように、黒い月は砕け散り、浄化された。

 そして闇を帯びた落雷が、私に落ちてくる。

 

 もう蹴り返す力もない。

 勝てない。

 そう理解したはずなのに、気づけば私の身体はボールに食らいついていた。

 

「ァァァアアアアアアアアアッ!!」

 

 落雷が胸に突き刺さり、身体中が悲鳴をあげる。

 だけど私がボールに触れたときに強く感じたのは、痺れるような電撃と、燃え上がるような熱だった。

 

 そうか……この熱なんだ。

 この胸の高鳴りこそが——サッカーなんだ。

 

「そしてこれが……イナズマ魂、か……」

 

 私の足が地を離れ。

 身体が後ろへと吹き飛んでいき。

 ゴールネットにボールごと、私は突き刺さった。

 

 スタジアム中が静寂に包まれる。

 それを引き裂くようにホイッスルが鳴る。

 途端に……観客全員が大歓声をあげた。

 

『試合終了ォッ! 3対4でなんとっ、なんと雷門中が逆転勝利だァァッ!!』




 今回も書くことがいっぱいあります。
 けっこう原作とかけ離れた展開にしましたからね。

 ♦︎『マジン・ザ・ハンド』
 一番の改変ポイント。
 アニメで、大介がマジン・ザ・ハンドを左手で使用していたことが話されています。じゃあ原作マジン・ザ・ハンドは本当ならマジン・ザ・ハンド改なんじゃないかと。そう思い、変更しました。ちょうどあと一回進化残していて、キリもいいですからね。

 ♦︎『ダブルトルネード』
 これに関しては、少し謝罪を。特に説明もなく、鬼道さんがバックトルネードを習得してしまいました。
 実はやぶてん漫画でもファイアとダークでのダブルトルネードは採用されているんですよね。それでこっちを使いたかったんですけど、あいにくとこの作品はアニメを元にしているので、ダークをかぶらせるわけにはいかなかったんです。
 えっ? スピニングカットの守君? 知らんな。
 というわけで、バックトルネードが泣く泣く採用されました。

 ♦︎『スピニングフェンス』
 スピニングカットじゃないよ?
 オリオンでの風丸念願のディフェンス技です。こいつアニメの無印じゃディフェンスのくせしてディフェンス技持ってなかったんだもん。というわけで、ディフェンスは技を持ってないのはまずいと思い、追加。
 描写を知りたい人は、例のように検索してください。
 ちなみに、スピニングフェンスは本来五人に分散しますが、DE時代でも三人にしか分身できないのでその人数はおかしいと思い、三人に変更しました。

 ♦︎『イナズマ落とし』
 栗松がまさかの習得。
 これは特に深い意味はないです。強いていえば、空中に打ち上がったボールをクリアしたかっただけです。当初はGOの技である『ロケットヘッド』が使われる予定でしたが、あまり無印にない技を使うのはどうかと思い、変更しました。
 壁山と栗松は仲がいいし、このぐらいできても文句は言われない……はず。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。