悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「終わったかぁ……」
ホイッスルの音を聞いて、体中の力が抜けるような感覚とともに、仰向けに寝転ぶ。
空には優勝した雷門を祝って、色とりどりの紙吹雪が舞っていた。
負けて悔しいはずなのに、不思議と笑みがこぼれる。
最後に感じた胸の高鳴り。あれはまだ試合を続けていたいという私の思いなのだろう。
円堂君たちは私にあることを教えてくれた。
諦めないこと。何よりも、負けは終わりではないこと。
……そうだ。これは終わりなんかじゃない。私の新たなサッカー伝説の幕開けなんだ。
胸の高鳴りと熱はまだ残っている。
なら大丈夫だ。またやれるはずだ。
「おいしょっと」
身体に力を入れ直し、立ち上がる。
あいたた……。ちょっと無理をしすぎた。
だけどこの痛みが、今だけは心地よかった。
グラウンドを見渡せば、そこには勝利を喜ぶ雷門の選手たちと……打ちひしがれていている世宇子のみんながいた。
彼らが今後どうなるのかは、私にはわからない。
彼らは総帥の援助を受けて生活している孤児だ。だけど今回の失敗で総帥の立場は危うくなるだろう。
そうなれば援助はなくなり、今まで通り暮らせなくなってしまうかもしれない。仮にお金がどうにかなったとしても、神のアクアを使ってしまったという罪の意識は必ず残る。
そのときに果たしていつも通りでいられるかどうか……。
もしかしたら、サッカー自体をやめてしまう人もいるかもしれない。
彼らの人生は狂ってしまった。それは総帥と私のせいに他ならない。
「みんな……今までありがとうね」
だけど私は、今まで戦ってきてくれたチームメイトに感謝したかった。そんなことする資格なんて、私にはないのに。
「なえ……」
私の名を呼ぶアフロディの声が聞こえた。
だけどそれに反応せず、私は円堂君たちの元へ歩んでいった。
彼らは全員が笑みを浮かべていた。
だけど私に気づき、円堂君がこちらに向かってくる。
「……最高の試合だったよ、円堂君」
「ああ、俺もだ。でも、次は神のアクアなんかに頼らないお前と戦いたいぜ」
「神のアクアのこと、知ってたんだね。でも安心して。私はあれを使ってなかったから、今日のが私の全力だよ」
「え、ええっ!? でもたしかに飲んでるのを見たような……」
「正確には言うと、私には効果がないんだよ。体の耐性が高すぎて薬が意味をなさないんだ」
その耐性が高い理由については語らないことにした。
これは表で生きる彼にとっては不要なものだろう。
「そっか。ならもっとすげぇよ! 本当の力で、あれだけのサッカーができるんだから!」
「最後は負けちゃったけどね。すごいのは君だよ、円堂君」
試合開始の時点では、世宇子は雷門を遥かに上回っていた。
でも彼の諦めない心……『イナズマ魂』がチーム全員の力を引き上げ、最後には私すらも超えてみせた。
本当にすごいのは彼に決まっている。
「負けてもお前がすげぇのには変わりないぜ。それに負けてもまだ次があるじゃないか。人は諦めなければ、いつだってイナズマチャレンジャーだ!」
「イナズマ……チャレンジャー?」
「そうだ。じいちゃんの言葉らしいけど、一度でダメなら二度。二度でもなら三度。何度でも何度でも、諦めないで挑戦する……それがイナズマチャレンジャーなんだってさ」
……イナズマチャレンジャー。いい響きだ。
決めた。今日から私はイナズマチャレンジャーだ!
何度でも何度でも食らいついて、今度こそ雷門を倒す!
そして絶対に世界に行ってやる!
「イナズマ魂、もらったよ円堂君。次こそは勝つ」
「ああ、何度でも受けて立つぜ」
私と円堂君はガッチリと握手を交わす。
その最中に、突如グラウンド出入り口から複数の警察がなだれ込んできて、私たちを取り囲んだ。
「な、なんだ!?」
円堂君は驚いていたけど、私にはもうわかっていたことだった。
……そうか。もう時間か。
警察の壁をかき分けて、知っている人物が姿を現わす。
鬼瓦刑事。総帥のことを追いかけ続けている刑事だ。
「白兎屋なえ。殺人未遂及びその他複数の犯罪の疑いで、お前に逮捕状が出ている。大人しく署まで来てもらうぞ」
そう言って鬼瓦刑事は一枚の紙を私に見せつける。
そこにはバッチリと、私が犯した罪の数々が記されていた。
とうとうバレちゃったか。たぶんメインコントロールルームのデータを解析したのだろう。
ということは、総帥はもうとっくに捕まっていそうだ。
逃げ道も何もない。
観念して両腕を差し出し……鬼瓦刑事の手で手錠がかけられた。
警察たちに囲まれて、私は歩き出す。
途中で円堂君が心配そうにしていたので、笑いかけてやった。
まあ大丈夫だ。これからも上手くやるさ。
薄暗い出入り口に入る前に、最後に一度だけグラウンドを振り返る。
そして暖かな日の光と紙吹雪、そして優勝トロフィーをかかげている彼らに向かって、
「ありがとうイナズマイレブン。そしてさようなら。いつかまた、フィールドで会えることを」
そう言い残し、私はグラウンドから去っていった。
終わらせねぇよ?
というわけで全国大会編終了です。
なんとなく完結みたいな雰囲気ですが、当然物語はまだまだ続いていきます。むしろ、私としてはここからが本番だと思っています。
逮捕されてしまった彼女に明日はあるのか!?
次回をお楽しみに。
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