悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
蘇る黒兎
真っ白な世界の上を、三人の子供たちが駆け回っていた。
彼らの足元には白黒のボール。
それを蹴っては追いかけ、蹴っては追いかけを続けている。
しかし少女は積もりに積もった雪に足を取られて転んでしまった。
顔から落ちたため、彼女の鼻は真っ赤になっていた。
それを見て、二人の少年は大笑いをする。
「おいおいなえ、ずいぶんいい顔になったじゃねえか! お似合いだぜ! ハハッ!」
「ぷはっ、うちは初心者なんよ? もうちょっと手加減してほしいっぺ」
「へっ、関係ねえよ。サッカーってのはいつだって全力でやるもんだ!」
「ぶー」
桃色の髪を持つ少女と、つり目の少年は互いに睨み合う。
それを仲裁するため、もう一人のたれ目の少年が間に入る。
「まあまあ。なえちゃんは初心者なのにかなり強くなってるからね。アツヤも手加減できなくなってるんだよ」
「はぁっ!? そ、そんなわけねえし!」
「へー、そうだったの。じゃあうちがアツヤを超える日は近そうやんね」
「けっ、んなわけねえだろ! それにオレには新しい必殺技があるんだからな!」
「……新しい必殺技? エターナルブリザードじゃなくて?」
「もっとすげえ技だ!」
首をかしげる少女に、つり目の少年は自慢するように答える。
たれ目の少年は、そんな弟に軽いチョップを入れた。
「痛っ」
「こらこら。あれはアツヤのじゃなくて、
「ちぇ、わかってるよ兄貴」
「二人の必殺技ってこと? 見せて見せて!」
まるでオモチャをねだるように、少女は目を輝かせる。
たれ目の少年は空を少し見たあと、頭を横に振った。
「うーん、残念だけど今日はダメかな。もうすぐ夜だし、天気も荒れそうだ」
「えー、そんなぁ……」
「今度見せてやるよ! それまで楽しみにしてろよな!」
「……うん、楽しみ! 約束だよ!」
少女は可愛らしく頷いて……。
——そこで、映像は真っ黒に途切れた。
♦︎
……懐かしい夢を見た。
昔、まだ私が雪みたいに真っ白で純粋だったころ。
総帥に拾われる前の夢。
当時私には、二人の友達がいた。
性格は真反対、だけどそのプレイはどちらも素晴らしいものだった。
彼らの試合に感銘を受けて、気づけば話しかけていた。そこで意気投合し、私はサッカーを始めることにしたのだ。
彼らは今どうしているだろうか……。
あの日約束した必殺技。それを私が見ることはなかった。
この直後に父の会社が倒産したからだ。
私はそのときのゴタゴタに巻き込まれ、気づいたときには東京送りになっていた。
こんな夢を見たのは、故郷に帰ってきたのが原因か。
鉄格子で分割されている外を見る。
そこには辺り一面の雪景色が広がっていた。
ここは北海道。
私たちは車に乗って雪降る道を移動していた。
車といっても、総帥の黒塗り高級車のような上等なものじゃない。
いわゆる護送車ってやつだ。
窓には鉄格子があるし、私は手錠で繋がれてもいる。
おまけに両脇には警察が監視としてそれぞれ座っている。
私はそんな中、目の前で同じように座っている男に話しかけた。
「いやーそれにしても捕まっちゃったね。これからどうするの総帥?」
「……どうするもこうするもあるか。今は流れに身を流されるだけだ」
男——総帥は静かにそう答えた。
この人もすっかり大人しくなっており、抵抗する素振りすら見せていない。
だけどその目の光だけはくすんでおらず、それどころか前よりも強くなっているのを私は見抜いていた。
私たちがなぜこんなことになっているのかというと、フットボールフロンティア決勝で逮捕されたあと、裁判で北海道の刑務所送りになることが決まったからだ。
総帥の行き先は悪名高いあの網走刑務所。
ほんと、かわいそー。
ここが某極道ゲームだったら、刑務所で事件が起きて、どさくさに紛れて脱獄してそうだけどね。
この人あっち系統の人と見比べても
ちなみに私は未成年のため少年院だ。
円堂君はどうしているだろうか……。
きっと今ごろはいつもの日常に戻って、実力に磨きをかけていることだろう。
それに比べて私はこんなところでボールにも触れられずにいる。
暇だ。超暇だ。
てなわけで今の状態を表した一曲をどうぞご堪能あれ!
「かーわいいーうーさーぎー、売られていくよー♪ 悲しそうなひーとーみーでみーてーいーるーよー♪」
「……その不快な歌を今すぐやめろ」
「ドナドナドーナードーナー♪ 子うさぎのーせーてー♪ ドナドナドーナードーナー♪ 護送車はーしーるー♪」
「まるで我々が少女を売りさばこうとしているように聞こえるから、やめてくれないかな!?」
ありゃりゃ、警察の人に怒られちゃった。
そんなことを考えていると、ポツリと総帥が呟いた。
「……そろそろか」
……なんのことだ?
と思ったら、外から地響きのような音が聞こえてきた。
護送車が揺れ、警察の人たちが慌てふためく。
北海道生まれの私はすぐにこの音の正体に気がついた。
これは……まさか……。
「雪崩だぁぁぁ!?」
嘘ぉぉん!? 私の歌のせい!?
叫んだのもつかの間、巨大な雪の波が護送車をかっさらい、私たちは外に放り出された。
そこで雪に飲まれながら何度も何度も地面を転がり、生き埋めになってしまう。
「ぐっ……!」
やばい、早く脱出しなきゃ。このままじゃ酸素もなくなるし、寒さで凍え死んでしまう。
だけど前後左右すらわからないこの状況じゃ、むやみに掘り進めるのは悪手だ。
下手すれば地上とは逆方向に進んでしまうかもしれない。
なので私は足元に向かって唾を吐き出した。
唾は雪にぶつかったあと、なんと浮き上がり、頭上の雪にぶつかる。
たとえ前後左右がわからなくなったとしても、重力だけはいつも同じ方向に働く。雪国生まれだからこそ知っている生き埋めになった際の知識だ。
つまり、地上の方向は……下だ!
幸いなことに手錠は雪崩の衝撃でひどく歪んでいた。これなら私の技術で取り外すことができる。
頭と足の向きを反転させ、ひたすら掘り進め続けることにする。
その数分後、ようやく光が見えて、地上に生還した。
「ぶはっ! ハァッ、ハァッ……死ぬかと思った……」
「へっ、そりゃご苦労なことで。ついでにそのまま死んでればよかったのによぉ」
息を整えていると、シャレにならない言葉がかけられた。
振り向けば、ニヤニヤしてる気色悪いモヒカン男が立っていた。
「えーと……私今現金持ってないんだけど」
「カツアゲしに来たチンピラじゃねえんだよ!」
お、ナイスツッコミ。キレッキレだね。
「ジョーダンだよジョーダン。不動明王、暗部のサッカープレイヤーだったね」
「けっ、相変わらずウザったい野郎だぜ」
「残念ながら野郎じゃなくて女ですー」
「FFで男性として登録してたやつが何言ってんだ」
こりゃ手厳しい。
ちなみにFFはフットボールフロンティアの略ね。
「それで、どうしてあなたがここにいるのかな?」
「そこの総帥さんの命令だ。護送車が来たら襲えってな」
不動が指差した方向には、護送車からすでに抜け出していた総帥がいた。その手につけられていた手錠は見当たらなくなっている。
……いや、総帥が無事なのはいいんだけどさ。
「なんで雪崩に巻き込まれたのに無傷なの?」
「自分で引き起こした事故に巻き込まれるはずがなかろう。仕込みはすでにしておいたということだ」
「いや、私にも教えとけよそれ! 下手したら生き埋めで死んでたよ!?」
「グダグダ言うな。これから近くの市街地に向かう。不動、車は?」
「アイアイサーっと。向こうに止めておいてるぜ」
この野郎……!
しかしここでキレてもしょうがないので、大人しくついていくことにする。
とりあえず、この所業は私の『総帥絶対許さないリスト156ページ』に加えといてやる! そんでもって末代まで呪ってやる!
……問題は、あの人に呪いが効くかどうかだけどね。
っと、その前に……。
私は護送車に近づき、中を覗く。
もぞもぞと動くシルエットが見えた。
やっぱり生き残りがいたか。
ひしゃげているドアを蹴り壊す。
中には腕やら足がとんでもない方向に折れ曲がっている、グロテスクなオブジェがあった。
「た……たす……っ!」
「あーうんうん、わかってるって。助けてあげるよ」
そいつの首に腕をかけ、力を込める。
「この世からね」
ポキッという音とともに首は小枝のように折れた。
それっきり、男は本当の意味で物言わぬオブジェと化す。
口封じ終了っと。
万が一にでも生き残っちゃったら大変だしね。
シナリオは運送中に不幸にも雪崩が発生。
乗っていた人間は罪人警官含めて、仲良く生き埋めまたは全身の骨が折れて死にましたって感じかな。
どうせ証拠も見つかりやしない。
私は用を終えたあと、総帥たちに追いつき、車に乗り込んだ。
♦︎
市街地に到着したあと、私たちはそこのホテルの一室に集まっていた。
どうやら予約はもう済ませてあったらしい。
世宇子が負けた直後に逮捕されたので、そんなことを部下に指示している暇はなかったはずだ。
つまりは、最初から私たちが負けることも想定していたわけか……。
そこんところも、詳しく聞いておかなければならない。
ちなみに服はアフロディからもらったものに着替えている。
着替えも持って来てるなんて、ずいぶん気の利く部下を持ったものだ。
「それで総帥、どういうこと? なんで世宇子にも選ばれなかった不動がいるの?」
「ああ? まるで実力が足りなかったみてえな言いようじゃねえか」
「実際そうでしょ。味方との連携が取れなくて、スタメンからいっつも外されていたベンチウォーマー君?」
「っ、テメェ!」
「見苦しいぞ二人とも」
不動が振り上げた拳は、総帥の一言によって止まる。
苛立たしげに不動は私を睨みつけたあと、舌打ちしながらその手を引っ込めた。
うんうん、正しい判断だと思うよー。
こう見えて私結構強いし。軍隊格闘術の訓練してたしね。
私たちが大人しくなったのを見て、総帥は今後の計画について語り始めた。
まず、私たちの脱獄(刑務所行ってないけど)の手引きをしたのはエイリア学園という組織らしい。
彼らのことを語る前に、今日本中で起きている謎の事件について話したいと思う。
FF決勝戦の日と同時に、日本では謎の組織による学校破壊が起きていた。
それがエイリア学園。
彼らは自らを『星の使徒』……つまりは宇宙人と名乗り、己たちの力を証明するため各地の学校にサッカー勝負を挑んできたのだ。
そして負けた学校の校舎は次々と破壊されていった。
ここで、どうしてサッカー? という疑問が出てくると思う。
しかしその答えは簡単に推測できる。
日本の総理大臣、財前宗助が世界的に有名な大のサッカー好きだからだ。
それで、サッカーで圧倒的身体能力などを見せつければ、自然と武力の差を証明できると思ったのだろう。
話を戻すけどこのエイリア学園による学校破壊、なんと私たちを打ち破ったあの雷門もやられてしまっていた。
最初に聞いたときは頭の中が真っ白になったものだ。
信じられなくて、テレビやネットで調べてようやく事実を認めることができた。
しかし彼らは七転び八起きの体現者。現在は日本中から味方を集めて、地上最強のチームを作ろうとしているようだ。
円堂君たちらしいや。
さてさて、そんなエイリア学園なんだけど、今後は彼らをスポンサーとして活動していくことになるらしい。
組織名は『真・帝国学園』。
うん、雑だね。五秒で考えたような名前である。
んでその真帝国のメンバーとして収集されたのが、このトサカキチガイということだ。
「総帥ー、質問。神のアクアを使った世宇子よりも強い雷門に、その真帝国のメンバーは勝てるの?」
「問題ない。すでに専用修練場によるトレーニングを終え、雷門と同等以上の戦力となっている。それに加えてこれだ」
総帥は部屋に置かれていたケースの中から、紫色の怪しげな石がついたネックレスを取り出した。
「なにそれパワーストーン? 総帥って意外と迷信信じるんだね。ぷふっ」
「バカを言うな。これはエイリア石だ。身につけたものに膨大な力を与える」
「……まーたドーピング? 懲りないねぇ」
「これは神のアクアの完全上位互換だ。身体に負荷はかからないのに加えて、出力は神のアクアを上回っている」
「……なんのために神のアクア作ったのそれ?」
「あいにくと、これは隕石を削って作られたもので数が限られている。神のアクアは量産するためだ」
エイリア石とやらを手に取ってみる。
……なるほど。たしかにすごいパワーを感じる。
それにこれは薬じゃないから、私でも簡単にパワーアップすることができそうだ。
だけど、私はこれを総帥に突き返した。
「あいにくと、趣味じゃないんだよね」
「……そうか」
総帥もそう言われるのがわかっていたのか、すぐに引き下がった。
ただとなりのモンキーは違うらしくて……。
「おいおい、今さら綺麗なサッカーとかほざくつもりじゃあねえよなぁ? 暗部の分際で笑わせんじゃねえよ」
「私は自分の力を証明するためにサッカーやってるんだよ。これ使っちゃ意味がない」
「けっ、甘ちゃんが!」
「それにこんなものなくても、あなた一人なら簡単に潰せるってのもあるしね」
「あぁ!?」
はぁ……本当にこいつとやっていけるのだろうか。
なんか色々と心配になってきたよ。
ただ、真帝国や雷門のことを気にするよりも前に、やるべきことがある。
それは私自身の鍛え直しだ。
今の私では、円堂君の『マジン・ザ・ハンド』を破ることはできない。それでは雷門に勝てない。
「総帥、さっき専用の修練場があるって言ってたよね?」
「ああ。例のエイリア学園から提供されたものだ」
「それ、使ってもいいよね?」
「無論だ。今の貴様では戦力にならんからな」
手厳しいことを言ってくれる。
だけど、希望は見えた。明日からはどんどん特訓して、バンバン強くなってやる。
そして今度こそ……勝つ!
その後は少し話をして、解散となった。
私は自分の部屋に戻り、ベッドの上で目を閉じた。
というわけで、エイリア編始まりました。
そしてあつ森が楽しくて、中々執筆が進みません。
ちなみに島名は『キャバクラふうぞく島』です。
ゲーム始めるたびにたぬきちが『よいキャバクラふうぞく暮らしを』と言うので、そのたびに笑っています。
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