悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「で、これはどこに向かってるの?」
昼食を終えたあと、私、不動、総帥の三人は黒服の部下が運転する車に乗って白い道を走っていた。
でも、かれこれ二時間以上経つけど何も見えてこない。
この北海道から出るには必然的に飛行機か船に乗らなきゃいけないわけだけど、車が向かっている先は明らかに街がない方向だった。
「黙ってろよ。もうすぐ着くからよ」
「暇なんだよ。ボールはないし、ここ圏外だし」
ネットが使えないスマホは役に立たない。
私こと白兎屋なえは自分で言うのもあれだけど、ジッとしてるのが苦手な性格だ。ゆえにこう言う時間が一番苦痛なのだ。
会話しようにも、同乗者はキチバナナとブラック上司だし。まあ総帥と二人っきりの状況よりかはマシか。
「ということでしりとりしよーよ!」
「ああ!? するかんなもん!」
「しりとり……りんご!」
「……ゴリラ」
いや、結局やるんかい!
バナナのツンデレとか誰得って話だよ。
まあ、不動も同じように暇だったってことでしょう。
ちなみに総帥は相変わらず無言を貫いております。
この人のボッチスキルは今日も絶好調のようだ。
「ご……ご……ゴエモンコシオリエビ」
「……ビビンバ」
「ば……ば……バウムッシュタヘラー」
「……ラッコ」
「こ……こ……コーカサスオオカブト」
「長ぇよ!? なんでわざわざたいそうな名前ばっか出すんだこのバカ女!」
「うるさいね……何出そうがしりとりのルールは破ってないんだし私の勝手でしょうが。ま、バナナとは頭の容量が違うんだよ頭の容量が」
「んだとテメェ!」
「悔しかったら勝ってみなよ。できるとは思えないけど」
「上等だぜ! 吠え面かかせてやるよ!」
数分後……結果から言っちゃうと、私が圧勝した。
同じ文字ばっか与えてやったら、すぐに答えられなくなった。
弱い、弱すぎるよ不動君。
負けたことが相当悔しかったらしく、このあと何回も不動は再戦をしかけてきた。そのたびにボコボコにしてやったけど。
ちなみに、途中からは黒服もノリノリで参加していた。
総帥は相変わらずだんまりしている。
この人ボッチ極めすぎだろ、とか思った。
そんなこんなで時間を潰していると、ようやく車が止まった。
たどり着いた場所は海岸だ。
しかし雪が降っていてとても泳げたものじゃない。
車を降りて、改めて周囲を見渡しても、移動手段になりそうなものはどこにもなかった。
「総帥ー、こんな何もないところに何しに来たの?」
「そういえば貴様には真・帝国学園がどのようなものか教えていなかったな」
「まあは見たほうが早えよ」
不動はピシッと海の方を指差す。
うーん、特に何もないような……。
そう思ったのは一瞬で、海面が広範囲にわたってゴポゴポと揺れだしたのがはっきり見えた。
次の瞬間、大きな水しぶきを上げて鯨が飛び出してきた。
……いや、よく見たらそれは鯨じゃない。表面は分厚い鉄でできている。
そう、それは巨大な潜水艦だった。
「はぁ!?」
これにはさすがの私もびっくりだ。
隣では総帥が満足げに頷いている。
「紹介しよう。あれが真・帝国学園だ」
……前々からぶっ飛んでるとは思ってたけど、マジで頭のネジ締め直したほうがいいんじゃないかこの人。
前は空中要塞といい、今度は潜水艦といい、いったいこんなののために何百億使ったんだよ。
外観も妙に作り込まれてるし、たまにこの人の考えていることがわからなくなる。
「中に入ったらスペシャルゲストを紹介してやるよ。なんと、かつての帝国のお仲間さんだ!」
「おりょ? あんだけやりたい放題やったのに、まだ総帥の下につきたい人なんていたんだね」
なにせ裏での妨害行為に鉄骨、さらにはあの世宇子戦だ。
もはやひどいとしか言いようがないぐらい、総帥は帝国イレブンを陥れている。
そんな総帥に着こうとするやつなんて、果たしてあの帝国にいるのだろうか?
だいたいは人並みの常識は持ってるはずだし……あえて候補をあげるとするなら五条さんくらいか?
あの人なんか超怖いし、いつもなに考えてるかわかんないんだもん。
おまけに暗部の情報網でもその経歴を一切暴くことはできなかった。
……いや、ほんと五条さん何者よ?
潜水艦の一部の部分がゆっくりと開いた。そこからモーターボートに乗った黒服がこちらに向かってくる。
あれに乗っていけってことか。そりゃそうだ。潜水艦じゃ岸にまで寄れないしね。
私たちは何も言わずに乗り込んで、真・帝国学園の中へと入っていった。
♦︎
たどり着いたメインコントロールルームは、ゼウススタジアムを彷彿とさせる作りになっていた。
奥には玉座みたいな椅子が置かれていて、それに総帥はどっかりと座り込む。
「さて、これが真・帝国学園だ。満足していただけたかね?」
「まだ見回ってないから満足もクソもないよ」
私の皮肉にそれもそうか、と総帥は返す。
そしてキーボードを軽く叩くと、しばらくして私のスマホが音を鳴らした。
どうやらマップデータが送られてきたようだ。
確認すると、この潜水艦の異様な構造に思わず舌を巻いた。
この潜水艦、なんとサッカーグラウンドがあるようなのだ。
しかも水面から出て天井を開ければ、観客席も出てくるという謎仕様。いや、誰が応援しにくるんだよ。
その他にもやたらと個人部屋が設置されていた。
たぶん真帝国のメンバーがここで寝泊まりするためだろう。
犯罪者がほいほい地上に顔出すわけにもいかないし、その協力者も隠れている必要があるからだ。
私の部屋はどうやらこことは少し離れた、特別な部屋らしい。
総帥補佐の特権である。
一通り確認したあと、今後のことについてまた少し話し合った。
現在、この潜水艦は大阪を目指している。そこにある修練場を使うためだ。
エイリア学園も雷門も今の私には荷が重い。
それをどうにかするための修行である。
とはいえ、到着には二日ぐらいかかるらしい。それまでにグラウンドを少し借りて練習しよう。
そう言おうとしたとき、天井の蓋が外れて、中から謎の物体が落ちてきた。
甲高い音が響く。
落ちてきたそれは、サッカーボールだった。
しかし私の知っているものとは全然違う。
色は帝国を意識してか黒と緑だし、なによりもボールは冷たい光沢を帯びていた。
「貴様にそれをやろう。いついかなるときでもそいつを離すな。それが修行だ」
「いついかなるときって、トイレやお風呂のときも!?」
「当たり前だ」
いや当たり前って言われても。それに、某有名サッカー漫画の特訓方法を私がやることになるとは。
名付けて『ボールは友達大作戦』だね。
ボールを試しに蹴ってみる。
うん……一応蹴れたけど痛いし超重い。
たぶん三十キロ近くあるぞこれ。こりゃ、なかなかしんどそうだ。
よくよく見れば、これエイリア学園が学校破壊に使ってたボールと同じものだわ。ということはこれもエイリア学園からの支給品か。
昨日、不動がどうやって雪崩を起こしたのか気になっていたけど、あいつはこれを使ってたんだなぁ。
そしてこれを扱えるということは、今のやつは私と同等か、またはそれ以上の力を持っていることとなる。
認めたくはないけどね。
「……わかった。しばらくはその方法で修行するよ。それと、グラウンドを使わせてもらうね」
「ついでに真・帝国学園のメンバーの顔合わせをしておけ。……不動」
「はいはいっと。あいつら集めときゃいいんだろ?」
不動はガラケーを使って一斉メールを送った。
新しいメンバーか……。なんか嫌な予感がするのはなぜだろうか。
十分後、その予感は見事に的中してしまうことを、今の私は知らなかった。
♦︎
グラウンドに入った私を待ち構えていたのは、地獄絵図だった。
グラウンドには十数人の選手たちがそれぞれ好きなことをしていた。
とはいえ彼らのやっていることには統一感がなく、まるで寄せ集めのように感じてしまう。
それだけならば、まだいい。
問題なのは、そいつらのほぼ全員の顔を私が知っていることだった。
「よりにもよって、なんでこのメンバーを集めた!?」
「仕方ねえだろうが。ある程度使えて、総帥に従うようなやつらは少ねえんだよ」
「だからといって、問題児だけでチーム作るのはどうなのよ!?」
それだけじゃない。
ここにいる全員は、かつて総帥の支配下にあった全国のサッカーチームの中で、トップクラスに問題児だったやつらばっかだった。
小鳥遊。高い実力を誇るが、あまりに敵味方を蔑むので孤立。
比得。残虐なプレイを好むせいで謹慎処分を何度も受けたことがある。
郷院。巨体を活かしたあまりのラフプレーに、負傷者が続出。
こんな感じで、チームでも爪弾きにされていた者たちばっかなのだ。
その悪名は総帥補佐である私にも伝わるほど。絶対いっしょにプレイしたくないなと、そのときは呑気に思っていた。
まさか後になって組むことになるとはね。人生ってわからないものだ。
「お前も人のこと言えねえだろ」
「失礼な! あんなサイコパスどもと一緒にしないでよ!」
「自分の経歴を振り返ってみやがれ」
経歴って……。
元帝国所属。チームを裏切り、挙げ句の果てに新チームで病院送りにし、その他様々な悪事に手を染めてきた。最終的に逮捕されて少年院送りが決定。
……一番この中で酷いの私じゃん。
気づきたくなかった真実に気づいてしまい、思わず膝から崩れ落ちてしまった。
「ふっ、久しぶりだな、なえ」
「その声は、まさか佐久間!? よかった、まともなのがい……て……?」
バッと顔を上げる。
そこにいたのは、たしかに佐久間だった。佐久間だったんだけど……なんかチョーイメチェンしてた。
髪の毛は以前よりも無造作に伸びてるし、ボサボサだし、なによりもトレードマークの眼帯に穴が空いちゃっててもう役割をなしていない。
プラスして両目は血走っており、覚醒剤でもやったかのように瞳孔が開いていた。
「えーと、佐久間さん?」
「ふ、ふふふっ……今の俺はさらなる力を得た……このエイリア石と、
「あーあ、だめだなこりゃ。恨みが爆発しすぎて耳がオシャカになっちまってる」
「なにそれ怖っ! いや私の自業自得だけどさ!?」
まるで幽鬼のようだ。
不気味に口を歪めながら、ぶつぶつと呪文のように独り言をひたすら発している。
その不安定な感情に影響を受けたかのように、胸元が怪しく輝いていた。
ジーザス! 神と私の知ってる佐久間は死んでしまった!
「佐久間は放っておけ。そのうち治る」
私が嘆いていると、見覚えのある人物が近づいてきた。
帝国のゴールキーパー、源田だ。こいつもここにいるなんてね。
彼の容姿もかなり変わっていた。
毛量が目に見えてわかるぐらい増しており、それらが重力に逆らって超次元な髪型を形成している。どうやってんだろあれ。
しかし、その声には佐久間にはない理性というものを感じられた。
「よかった、源田はまともなままだ」
「まあな。佐久間は世宇子にやられてから、お前や鬼道との差をはっきり見せつけられて、誰よりも苦しんでいたんだ。だから、手に入った力に興奮しているんだろうよ」
「力、ねぇ。それが総帥の下に来た理由?」
「当たり前だ。勝者は絶対、敗者に存在価値はない……俺は二度と、負けたくないんだ!」
源田の胸元から紫色の光が浮かび上がる。
彼は当時のことを思い出したのか、悔しそうに歯ぎしりをしていた。
たしかに、あんな悲惨な結果になればそう思うのも仕方がないのだろう。
でも私は少し違和感を感じていた。
私から見ても、佐久間と源田はどんなことがあろうが総帥につくような人物ではなかったはずだ。
なにせ総帥は、帝国イレブンの仇も同然なのだから。
絆の厚い彼らがそうやすやすと許すわけがない。
……やっぱり一番怪しいのはエイリア石でしょうね。
さっき源田が大声を出したときもちょっとだけ光ってたし、佐久間に至ってはさっきからずっと胸元が輝いている。
たぶん、あの石は人間の欲を解放する効果でもあるのだろう。あとで調べてみるか。
「それで、私のところに来たのはただ挨拶がしたかっただけじゃないんでしょ?」
「ああ、よく見抜いたな」
「そんなに睨みつけて来てたら、いやでもわかるよ」
源田はここに来たときから、ずっと私だけを見ていたのだ。
それも、まるで獲物を見つけた獣のような鋭い目つきで。
彼は少し間を置いて、私に言ってきた。
「俺と勝負しろ、なえ!」
佐久間、どうしてこうなった。
なんか書いてたら、ノリで変な風になってしまいました。
以上で、顔合わせ回です。