悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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ナニワ地下修練場

 フィールドのペナルティアークに、ボールは置かれていた。

 ゴール前にはエイリア石によって力を手にしたエンペラー・オブ・ゴールキーパー、源田が両手を広げて待ち構えている。

 周りにはロクでもない野次馬たちが騒ぎあって観戦している。

 

 勝負の形式は単縦なもの。

 私がペナルティアークからシュートを撃って、入れば勝ち。源田が止めれば負け。

 ボールはもちろん通常のを使う。

 PKの場所から蹴れたら、技術とかで色々できるんだけど、ここからじゃ単純な力技が重要となる。

 つまりは小細工なしで正面から行くしかない。

 

「来い! あの日の屈辱を拭わなければ、俺は前には進めないんだ!」

 

 源田はいつも以上に気合が入っているように見えた。

 正直言って、点が入るかどうかまったくわからない。彼から感じられるオーラが前とは桁違いに違うからだ。

 それが私の感覚を狂わせてしまっている。

 ……面白い。

 

「月の深淵を、もう一度教えてあげるよ!」

 

 ボールを踏みつけ、跳ねあげると同時にサマーソルトキックで空中に蹴り上げる。ボールはその後、黒いオーラに包まれて、月のように巨大化した。

 天高く跳び上がった私はそれを、オーバーヘッドで地上に向けて叩き落とす。

 

「ダークサイドムーンッ!」

 

 今の私の全力。円堂君には破られたけど、これならどうだ! 

 しかし源田はまったく物怖じしていなかった。

 そして両手を上下に広げ、まるで獣が肉を噛みちぎるように、両方の手でボールを挟み込む。

 

「ビーストファング!」

 

 獣の牙と暗黒の月が、青白い火花を撒き散らす。

 十数秒の均衡。

 打ち勝ったのは……獣だった。

 月は消え去り、源田の手の中にはボールが収まっていた。

 

 源田は得意げな笑みを浮かべたあと……絶叫しながらその場に倒れた。

 

「うぐっ、ぐぉぉぉぉっ……!!」

 

 寒さで震えるようにうずくまっている。見るからに苦しそうだ。

 その理由を、私は知っている。

 

『ビーストファング』。またの名を禁断のキーパー技。

 禁断の技というのは、総帥が考案した、あまりにも危険すぎて封印された必殺技のことだ。

 これらの共通した特徴は一つ。身体に半端じゃないほどの負担がかかること。

 データでは何人もの選手たちが、これを使って表舞台から姿を消していったことが記されていた。

 

 このビーストファングもその一つ、全身の筋肉を無理矢理肥大化させてシュートを止める鉄壁のキャッチ技だ。

 禁断の技の秘伝書は、以前帝国学園から抜けるときに持ち出していたので、おそらくそれを読んで会得したのだろう。

 結果はご覧の通り。

 彼は今身体中の筋肉が破裂したかのような痛みを覚えていることだろう。

 

 だけど、源田は止めてみせた。この私のシュートを。

 

 禁断の技については、文句を言うつもりはない。

 敗者には勝者をあれこれ非難する権利はないからだ。

 というか禁断の技は適度を守ればいいだけなので、ぶっちゃけ言っちゃうと私はこれを肯定している。

 

「はァッ……はァッ……! どうだ……俺の必殺技は……!」

「止めらちゃったか。やっぱり、本格的に鍛え直す必要があるね」

 

 この間にも、円堂君はどんどん成長していっているだろう。

 このまま置いていかれるわけにはいかないのだ。

 

「よし、さっそく特訓だ! みんな、いくよ!」

 

 さっそく私は金属製のボール、通称『エイリアボール』を蹴って、特訓を開始しようとする。

 ……が。

 

「嫌だね」

 

 誰かが言ったその一言で、私の頭は凍りついた。

 

「……えーと、もう一回言ってくれるかな?」

「しつけぇな、アンタも。俺たちは好き勝手やるためにここに来たんだ。アンタみてぇな甘ちゃんエリートに従う義理はねぇな」

「第一生意気なのよ、顔が」

「チビは引っ込んでろ!」

 

 最初に言葉を発した順から弥谷に小鳥遊に郷院……だったっけか。

 それを皮切りに、他のメンバーからも罵詈雑言が浴びせられる。

 だめだこりゃ。思いっきりなめられてる。

 

「そんなに練習してぇんだったらやってやるよ! オラよキャプテン、パスだ!」

 

 弥谷はニヤつきながら、ボールを蹴る。

 その速度は明らかにパスなんて呼べるものじゃなかった。

 

 だけど、その程度じゃ動じることはない。

 冷静に足で受け止め、トラップする。

 しかしふと前を見たとき、私の目に飛び込んで来たのはマシンガンのように次々とシュートが私に向かって飛んでくる光景だった。

 

「なっ!?」

 

 あいつら! 

 なんと、今度は弥谷だけでなく、チームのほぼ全員がボールを蹴ってきたのだ。

 もはやトラップなんていちいちしている余裕はない。全力で足を動かし、ひたすらボールを弾け続ける。

 

 もはや何分続いているのかもわからない。

 誰かがボールを補充し続けているせいで、攻撃が一向に止まないのだ。

 もうこうなったら根性勝負だ。

 あいつらだって人間。一、二時間も休まず撃ち続ければ疲れもするはず。

 それまで耐えてみせる。

 

 そう決意した次の瞬間、私の足を弾き返して、非常に硬い何かが腹にめり込んだ。

 空気と液体を吐き出しながら、あまりの威力に数十メートルほど吹き飛んでいく。

 

「あっ、ガハッ……!」

 

 これは、サッカーボールの威力じゃない……! 

 倒れた周囲を転がっていたものは、先ほど総帥からもらったエイリアボールだった。

 あいつらはリンチするだけじゃ飽き足らず、ボールの中に金属製のやつまで混ぜ込んだのだ。

 

 あいつらの返答はよーくわかったよ。

 ……殺す。

 

 だけど、それは今じゃない。

 もっと私が強くなってからだ。

 朦朧とする意識の中、憎悪の炎が身体の中で燃え盛っているのを感じた。

 

 

 ♦︎

 

 

 数日後、潜水艦は久しぶりに地上に顔を出した。

 場所は大阪付近の海。

 そこからボートで陸まで行き、車に乗り換えて目的地に向かった。

 

 今回の同行者は誰一人いなかった。

 いや、正確には黒服が数人いるけど、総帥や不動などのメンバーがついてくることはなかった。

 なので問題が起こることもなく、車は進んでいき、目的地にたどり着いた。

 

 ……そう、たどり着いたはいいんだけど……。

 

「……ほんとに、ここに修練場があるの?」

「はい。我々も直接確認しております」

 

 私の目の前には『NANIWA LAND』という文字が掲げられた、入場口があった。

 それを潜ると、世界が一変して、まるでおとぎの国に来たような雰囲気になる。

 真っ白な城、ジェットコースター、魔法のじゅうたん、フリードロップなどなど……。

 

 そう、ここは『ナニワランド』。

 俗に言う遊園地という場所だった。

 

「そう言われちゃおしまいだけど、にわかには信じられないよね」

 

 遊園地内は平日にもかかわらず、大量の客で賑わっている。それは今が夏休みだからだろう。

 だけど、遊んでいる暇はない。

 一刻でも早く、強くならなきゃいけないのだ。

 

 黒服たちに連れられてたどり着いた場所は、小さな城だった。

 とはいえ今は使われていないらしく、表入り口はテープで封鎖されている。なので裏口から入るようだ。

 

 中には壁一面に宇宙を意識した絵が描かれていた。

 だけど黒服たちはそれに目も向けずに、端っこにあるくぼみの中に入っていった。

 

「ここです」

「ここって言われても……どこにもないじゃん」

「それは今からお見せしましょう」

 

 私が近くに立ったのを確認して、黒服は木製の取っ手に力を込める。

 すると、まるでなにかのスイッチのように取っ手が沈み、今いる場所が突然降下し始めた。

 

 これって、まさかエレベーター? 

 目を見開いたまま固まっていると、下の方から明かりが見えた。

 

 そこはまさしく、修練場だった。

 いかにもゴツい機械がそこら中に置かれている。ボールもだ。

 いいねいいね、ワクワクしてきたよ。

 

「これは……?」

 

 何やら黒服たちは、施設の様子を見て驚いているようだった。

 どうやら彼らは、あちこちに飾り付けられた小道具に目を向けているようだ。

 ビーズやらキラキラしたものがいっぱいある。

 てっきり宇宙人の趣味かと思っていたけど、この反応から見てどうやら違うらしい。

 

「白兎屋様。どうやら我々が不在の間に、侵入者がいたようです」

「侵入者? この施設ってロックとかなかったの?」

「いいえ。明け渡されたときにそんな説明は受けませんでした」

「そう。なら偶然ここを見つけたんでしょうね」

 

 少しの間、黙り込む。

 ここはもう使う人がほとんどいないとはいえ、犯罪者の秘密基地だ 知られたからには、やっぱり排除すべきか? 

 ……いや、逆に考えるんだ。強いチームが一つ増えてよかったと。

 

「決めた。侵入者は基本放置。だけど、監視カメラを数台仕込んでおくこと。あと、私の特訓の邪魔をされないように見張りを頼むよ?」

『ハッ』

 

 黒服たちが息を合わせて返事を返してくる。

 強いチームが増えれば、私の楽しみも増える。せいぜいそのときまで生かしておくことにしよう。

 

 そんなことよりも特訓だ。

 黒服の話では、ここではアタック、ディフェンス、スピード、テクニック、スタミナ、キーパーの六つのコースが選べるらしい。

 そしてそれぞれのコースにレベル設定があって、最大は十まであるようだ。

 私の目標は、全コースマックスレベルの制覇。

 幸い時間はたっぷりある。焦らずやっていくつもりだ。

 

 

 そんなわけでまずはアタックコースから。

 ここでは単純に、地面に置かれたボールをゴールに決めるだけでいいらしい。

 ただ、問題なのはゴールの前に立ちはだかっているロボットだ。

 巨大な二本の腕が生えてあり、高速回転して振り回すことでシュートを妨害するようだ。

 試しに、真ん中に思いっきり打ってみたけど、あっさり弾かれた。私のシュートを止めるとは、パワーも相当なものらしい。

 しかもこれでレベル3なんだから驚きだ。

 だけど、角度をつけてみたらすぐに入った。

 その後もどんどんシュートを決めていき、最終的につまづいたのはレベル5になってからだった。

 

 アタックコースの検証はこれくらいでいいだろう。次に行くとしよう。

 

 

 ディフェンスコースは、人型のロボットからボールを奪うという内容だった。

 だけどこれも例によって難しく、タックルしてもビクともしなかった。

 おまけにレベル3になってからは障害物も出現するようになったので、ますます取れなくなった。

 ちなみに、ロボットが持っているボールはエイリアボールにしてある。

 これも総帥からの課題だしね。

 アタックコースで使わなかったのは、あの内容じゃ質量が圧倒的に大きいこっちの方が簡単になってしまうからだ。

 

 

 お次はスピードコース。

 ここは巨大なランニングマシンを使って走るという内容だった。

 レベルを上げると、マシンから生えたいくつもの砲身から設定したものが高速で発射されるようになっている。

 しかしスピードは私の得意分野。

 エイリアボールでドリブルしながらという条件をつけても、レベル6まではクリアできた。

 だけど次のレベルで思いっきり吹き飛ばされ、そこで検証を一旦ストップした。

 

 ちなみに砲身に設定したのは同じくエイリアボールである。

 ……うん、バカだったね。

 金属の塊がお腹を打ち付けてきて、骨が折れたかと思った。

 でもその方が緊張感があって成長しやすいと思うので、続けるつもりだ。

 

 

 テクニックコースはリフティングをしながら、四方八方から発射される弾をひたすら避けるというもの。

 もちろんボールも弾丸も先ほど同様エイリアボールである。

 で、やってみた結論は……レベル4で死にかけた。

 複数のエイリアボールが身体中に当たって超痛かった。

 少しあざになっちゃってるよこれ。

 

 

 スタミナコースは、スピードコースに似ていて、ランニングマシンの上を走るという内容だった。もちろん私はエイリアボールでドリブル込みである。

 目立つのは、その機械が異常に大きいこと。

 たぶん五、六人が一斉にトレーニングできるのではないだろうか。

 そして特訓内容の違いも、かなりあった。

 このランニングマシン、急に坂になったりデコボコ道になったりと、ありとあらゆる方向から体力を絞りとっていくのだ。

 オフェンスとディフェンスを掛け持ちしている私はとりわけ異常なほど体力があったが、それでもレベル5をクリアするのでやっとだった。

 次のレベルに進んだ瞬間に力尽きて、潰された。

 

 

 最後のキーパーコースは、かなり難しかった。

 ちなみにキーパーコースをやっているとは言っても、グローブをつけて構えているわけではない。私はシュートを足で打ち返すつもりだった。ポジション柄、そういう機会は多いからね。

 

 で、このコース、何が難しいというと、まず足場がグラグラと揺れて安定しないのだ。最初は飛んでくるボールに近づくのにさえ苦労した。そんでもって弾はエイリアボールに設定しているせいで、威力は何倍にも跳ね上がってしまっている。

 結局私はレベル2にたどり着くのに精一杯だった。

 

 

 以上が、全部のコースをやってみた感想である。

 なるほど、ここでならかなりのパワーアップが望めそうだ。

 さっそく私は来たる戦いが来るまでの間、ここにこもってひたすら特訓することにした。




 今回は初めてのなえちゃんフルボッコ回でした。
 まあさすがに今の彼女じゃ、エイリア石使用の人間十数人を相手にはできないわけで。

 修練場はゲームとアニメの内容をミックスした感じになりました。
 不思議コースも本来はあるのですが、さすがにどう表現すればいいかわからないので廃止にしました。
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