悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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雷門中

 雷門中。

 特に目立った特色があるわけでもない、普通の中学校。

 そこの悪い意味で有名なサッカー部が帝国学園との練習試合を行うという話は、タダでさえ話題が少ないこの学校中に瞬く間に広まっていた。

 

 そして試合当日。

 何気ない学校のグラウンドが、突如揺れ始めた。

 それはわずかなものだったが、近くにいた生徒たちはすぐにそれに気がついた。そして地震か何かかと思い、あちこちで戸惑いの声が上がる。

 しかし彼らの予想は大きく外れていた。

 

 晴天の空を黒雲が侵食していく。

 凄まじい音を立てて、何かが正面校門に近づいてくる。そして地震の正体が姿を現した。

 

 校門前に停まったのは、電車のように巨大で黒い物体。

 それは帝国学園の大型バスだった。

 そう、地震の正体とはこのバスが走っている時に起こっていた振動に他ならなかった。

 

 中からドライアイスの煙を吹き出して、バスの真ん中のドアが開かれる。

 そこからレッドカーペットが真っ直ぐに敷かれ、帝国学園の生徒と思われる者達が数十人その脇に立ち、敬礼する。

 その光景はさながら軍隊だ。

 

 そしてレッドカーペットの上を堂々と歩く者達こそ、選ばれし帝国イレブン。

 キャプテンである鬼道、そして総帥補佐であるなえを先頭に行進していき、グラウンドに入っていく。

 

「鬼道さん。なんでこんなチームと試合を? うちのスキルが上がると思えませんけど」

 

 ふと、辺見と呼ばれる男が鬼道に問いかけてきた。

 それは鬼道となえ以外のチームメイト全員が思っていたことだろう。

 しかし、鬼道はそれに曖昧な返答しか寄越さなかった。

 

「面白いものが見られるかもな」

「面白いもの?」

「まあ、精々楽しみにしておくことやっぺよ〜」

 

 鬼道の代わりになえが答える。そしてグラウンド外に生えている木を背にもたれかかっている少年に目線を向ける。

 辺見がそのことに気づいたかはわからないが、彼がこれ以上このことについて追求することはなかった。

 

 

 ♦︎

 

 

「雷門サッカー部のキャプテン、円堂守です! 練習試合の申し込み、ありがとうございます!」

「初めてのグラウンドなんでな、ウォーミングアップしてもいいか?」

「あ、どうぞ……」

 

 鬼道君はそれだけ言うとさっさとベンチに移動してしまった。我らが帝国イレブンはそのあとに続いていく。

 残されたのは私と円堂君のみ。その彼は私のことが気になるのか、マジマジと見つめてくる。

 

「何か気になるの?」

「あ、いや、君も帝国学園なんだろ? アップに行かなくていいのか?」

「ああ、そういや名乗ってなかったね。私は白兎屋なえ。帝国学園サッカー部の副監督をやってるの。よろしくね?」

「えっ、副監督!?」

 

 これは事実だ。

 帝国学園サッカー部は総帥が監督、そしてその次に権力のある私が副監督ということになっている。

 まあフットボールフロンティアのルールにも選手は副監督を務めてもいい的なものがあるし大丈夫っしょ。

 ……ちなみに制定されたのは私が副監督になって三日後の出来事である。

 これだけで誰が作ったのかはわかるね? 

 

 円堂君はしきりに驚いた後、仲間に呼ばれてグラウンド外へ行ってしまった。

 残念、暇つぶしにもうちょっとだけ話してたかったのに。

 私も手持ち無沙汰になってしまったので、仕方なく帝国側のベンチに行って、座ることにした。

 そして帝国イレブンのウォーミングアップを眺める。

 

 うーん、特に調子が悪い人はいないみたいだね。

 私もウォーミングアップぐらいは参加してもいいんだけど、少しでも動けばつい歯止めが効かなくなっちゃうからなぁ。

 

 っと、そんなことを思ってると、ふと鬼道君が指を鳴らす。

 そしてボールが寺門から辺見へパスされる。辺見はそれを高く打ち上げた。

 そのボールを鬼道君は空中で蹴り、グラウンド外で私たちの練習を見ていた円堂君へシュートした。

 

「いっ!? ぐぅ……っ!」

 

 突如シュートされたことに円堂君は驚くが、すぐに腰を深く落としてボールを両手で迎え撃った。

 そしてボールを止めることに成功する。

 だが、

 

「くっ……!?」

『キャプテン!』

『円堂!』

 

 シュートを止めた円堂君のキーパーグローブは摩擦熱で焦げができていた。

 しかもこれで手加減されてるんだから普通の選手にとっちゃ驚きだろう。

 これが鬼道君の実力。この圧倒的な力を見れば、並みの相手なら誰だって怖気付くに決まって—–—–。

 

「面白くなってきたぜ!」

 

 ……訂正しよう。どうやら一人だけ例外がいたみたいだ。

 他のチームメイトたちがビビる中、円堂君は元気そうな笑みを浮かべている。

 その中に恐怖の感情は一切ない。

 本心でこの結果が決まってるような練習試合を楽しみにしているのだ。

 

「燃えてきたぁ! みんな、一週間の成果をこいつらに見せてやろうぜ!」

『ええっ!?』

「あの……ちょっとキャプテン……」

「なんだ?」

「俺……トイレ行ってくるっス!」

「えっ、おい、壁山!?」

 

 そう言って壁山と呼ばれた巨体の男は、一目散にここから抜け出す。

 ……あーあ、ありゃ絶対戻ってこないパターンだよ。

 あの様子じゃメンバーには入っていなさそうだけど、一応副監督としてターゲットがいるかの確認をしに行くか。

 ベンチを抜け出して円堂君たちの元に歩み寄り、彼に問いかける。

 

「それでどうするの? 彼を入れても十人、あと一人足りないみたいだけど」

「それは……」

「円堂くーん!」

 

 グラウンド外からふと女の子の声がかかる。

 おそらくはマネージャーかな?

 その子が連れてきたのは豪炎寺修也……ではなく、眼鏡をかけたいかにもオタク臭がする男の子だった。

 

「彼、サッカー部に入ってくれるって!」

「目金欠流だ、よろしく」

 

 ん、なんか妙に自信満々そうだし、もしかしたら強いのかも? 

 

「彼、たしか運動は……」

「あ、ああ……」

 

 ……ああ。

 お通夜みたいなモードに入った雷門イレブンを見て、彼のことはなんとなく察した。それでも円堂君は嫌な顔一つせずに彼をメンバーに迎え入れてる。

 器がデカイとはこのことを言うのかねぇ。うちのグラサンボスもこの熱血さを見習ってほしいものだ。

 

 そんなことを考えて、視線を帝国のバスに向ける。

 その上にはいつのまにか椅子が突き出ており、そこに座った総帥がこちらを見下ろしている。

 自分の部屋といい、総帥は高いところがお好きらしい。

 いや、支配者はみんな高いところが好きってよく聞くし、これが普通なのかな? だとしたらその心情は私には理解できないけど。

 ちなみに支配者とは別で高いところが好きなものが煙とあと一つあるけど、それは心の中にとどめておくこととしよう。

 

 

 その後は冬海とかいう面白い名前の雷門の監督と話し合ったりして、暇を潰していた。

 しかし試合は一向に始まらない。

 おそらくはさっきトイレに行った人が原因か。

 これ以上待ってても多分来ないだろうし、しょーがないけど圧でもかけさせてもらおうかな。

 

「冬海先生。私たちも暇じゃないんだけど。早くしてくれない?」

「は、はい! すみません! 今すぐに部員たちに始めさせますので……」

 

 冬海が駆け足でここを離れていく。

 いや、ほんと早くした方がいいよ。チンピラっぽい辺見を始めとした帝国イレブンがだんだんイラついていってるから。

 そんな辺見はというと。

 

「おい寺門。どーして俺たちがこんな弱小と試合しなくちゃいけないんだ?」

 

 イラつきのボルテージが限界に達したのか、寺門に絡んでいた。

 しかし彼は彼でこの試合の理由を知っていたらしい。淡々と総帥の命令について語り始める。

 

「総帥は、ここに転校してきた選手を気にかけておられるのだ。そいつの実力をしっかり見極めて来い、とな……」

「ほう……。一体誰のことだ?」

「まだいないよ」

「……いない? いないってのはどういう意味だよ。面白いものが見れるって言ったのはなえ、お前だろうが!」

「まだ、って言ったんだよ。そう慌てなさんな」

「へぇ……それじゃそいつはうちに呼んでも使えそうなやつってことだよな?」

「それは私の権限じゃないよ。総帥が全部決めること。私たちはそれに従うだけだよ」

 

 お、喋ってたら円堂君たちがようやく帰ってきたようだ。

 トイレに行ってた選手も帰ってきてるし、これでなんとか十一人揃ったようだね。

 

「おーい、みんなそろそろ始まるからすぐに整列できるようにしといてよー!」

「ふん。ようやくか……」

 

 そしてグラウンドの中央に二つの列が出来上がる。校門側の列が雷門、校舎側が帝国だ。

 それらの真ん中には審判が立ち、各キャプテンにコイントスを求めるが……。

 

「必要ない。好きにしろ」

 

 そう言って鬼道君は自陣のコートに戻っていった。

 カッコつけちゃって。

 さては妹さんが相手側のベンチにいるのを見たんだろうね。

 でも多分逆効果だろうなぁ。

 だって完璧な悪人にしか見えないもん。

 

 グラウンドにボールがセットされ、各チームの十一人がそれぞれのポジションにつく。

 

 そして、キックオフの笛が鳴った。

 




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