悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
身も凍てつくほどの吹雪が吹き荒れる。
ゴールネットはそのあまりの冷たさに凍りついていた。
張り付いていたボールが、氷の結晶に包まれていて、まるで宙に浮いているかのように見える。
凄まじいシュートだった。ゴッドハンドがまるで歯が立たなかった。
未だに右手がビリビリと痺れている。
円堂は、それを放った人物に笑いかけた。
「すごいぜ吹雪! お前のシュート、何が何でも止めたくなってきた!」
「へ、止めれるもんなら止めてみな」
吹雪はディフェンスのときとは打って変わって、凶暴そうな笑みを浮かべる。その歯は獣のようにギラギラと光っていた。
「オフェンスとディフェンスの両方をこなす、ハイレベルなサッカープレイヤー……まるで
吹雪のスタイルを見て、鬼道が懐かしげに呟いた。
それは円堂が思っていたことと同じだった。
FF決勝の舞台で雷門を苦しめた天才ストライカー。『
「あいつ、今何やってるかなぁ」
別れの際に交わした約束を思い出し、ふとそう呟くのだった。
♦︎
「ぷっくしょんっ!」
むむ、風邪かなぁ。急にくしゃみが。
あるいは、誰かが私の噂をしてるのかも。
鼻をぬぐい、立ち上がる。
休憩はもう終了だ。そろそろトレーニングに戻らないと。
私がここナニワ地下修練場で特訓を始めてから、すでに三週間の時が流れていた。
その時間のほぼ全てを特訓に費やしていれば、実力は当然上がっていくわけで、私はすでに六つあるコースのうちの四つをクリアしていた。
残るはコントロールとキーパーのみ。
この二つが今の鬼門だった。
まず、コントロールコースはレベルが5を超えるとキーパーと同じように、足場がグラグラと揺れて安定しないようになってしまうのだ。
これだけでもかなりきついのに、マックスレベルになるとまるでマシンガンのように絶え間無くボールが襲いかかってくる。
本来なら弾は片足の靴なんだけど、エイリアボールに変えたせいで面積は大きいわ当たると痛いわで……超難しくなってしまっている。
ただ、これはあと二日ぐらいあればクリアできると思う。
問題はキーパーコースだ。
こっちは正直言っちゃうと、難しすぎる。
ただでさえ、私はフィールドプレイヤーなので足しか使えないのに、ボールをエイリアのにしてるせいで威力がとんでもないものになってしまっているのだ。
今はレベル8だけど、打ち返そうと当てたときには身体が後ろに吹っ飛んでるのだ。
これのマックスレベルの攻略は、かなり難儀しそうである。
休憩室を出てトレーニングマシンの方に向かっていると、誰かがそこで立っているのが見えた。
知らない人物だ。
特徴的なのは180cm以上は確実にありそうな高身長と、見事な逆三角形の胴体を見せつけるように肌にピッタリの服を着ていること。
その人物は私が歩いてくることに気づくと、口を開く。
「遅い。私がここに到着してからすでに五分三六コンマ五秒経った」
「いや待ってるんだったら呼びに来なよ。というかどちら様?」
なんだこの時間に正確な変態は。
身長と目つきのせいでものすごい威圧感を感じる。
おまけに腕を組んで堂々と立っているので超偉そうだ。
「私の名はデザーム。エイリア学園ファーストランク、イプシロンを束ねる者だ」
「真・帝国学園キャプテンの白兎屋なえだよ。よろしく」
なんとなく服装から予想していた通り、どうやらエイリア学園の人のようだ。
……って、ちょっと待って?
「ファーストランク? エイリア学園はジェミニストームだけじゃないの?」
「ふっ、まさか。ジェミニはセカンドランク、雑魚に過ぎん」
デザームはジェミニのことを格下と言ったけど、私の質問には具体的に答えなかった。
でもこの返事じゃ、間違いなくイプシロン以外のチームもいるのだろう。
あれだけの力を持つチームを複数持つ組織……エイリア学園の認識が少し甘かったかもしれない。
「……貴重な情報ありがとう。で、おたくは今日はどのようなご用件で?」
「この施設はもともと私が管理していたものだった。しかし最近、全コースをコンプリートしかけている人物がいることを知ってな。興味が湧いたというわけだ」
要するに暇つぶしっすか。宇宙人でもそんなの感じるんだね。
「つまり、私とサッカーがしたいってこと? なら受けて立つよ。宇宙人の実力、この目で見ておきたいしね」
「貴様は外様とはいえ、エイリア学園に所属しているのだ。失望させてくれるなよ?」
そういえばそうか。
真・帝国学園はエイリア学園の傘下だから、一応私もその一員なのか。
ということは私も宇宙人デビュー?
やったね!
デザームについていってたどり着いたのは、大扉の前だった。
普通だったら、この奥にはトレーニングマシンが何個も置かれている。
しかし今私が見たときにはその面影はなく、緑が生い茂るグラウンドが出現していた。
「これは……?」
「この場所の地下にはサッカー場が収納されている。それを引っ張り出してきただけだ」
デザームは迷いなくグラウンドに進んでいき、ゴール前で立ち止まった。その足にボールは置かれてはいない。
まさか、あいつのポジションって……。
「さあ来い! 貴様のシュート、どんなものか味あわせてもらおうではないか!」
やっぱりあいつ、キーパーか!
こりゃ予想外だ。
キーパーがキャプテンのチームは珍しく、デザームがそのポジションである可能性がすっぽり頭から抜け出ていた。
だけど、これは好都合かもしれない。
宇宙人なら練習相手に不足ないだろう。
それに、今の私のシュートがどれくらい通じるのかが気になる。
ボールを置く場所はペナルティアークだ。
ここなら遠過ぎず近過ぎずで、ちゃんとお互いの実力を測ることができる。
「いくよ、ダークサイドムーン……改っ!!」
空中に打ち上げたボールが闇のオーラを纏いながら巨大化し、漆黒の月へと変化する。それをオーバーヘッドで落とした。
しかし、月は以前とは目に見えて大きくなっていた。
デザームは不気味に笑いながら、片手でそれを受け止めようとする。
だけど、それで止められるほど甘くはないんだよ。
徐々に徐々に押し込んでいき、最後には手を弾いて、月はゴールに入った。
衝撃波でグラウンド中が揺れる。
「ほう……」
まじまじとデザームは、先ほど弾かれた自分の右手を見つめていた。
余裕しゃくしゃくだね。
まあそりゃそうか。
明らかに手加減されてたし。
「本気出しなよ。必殺技も使わずに勝負を挑んでくるとか、なめてるの?」
「フハハハハ! 失礼したな、貴様は合格だ! この私の相手をするにふさわしいと認めてやろう」
「いや、だからなんでそんな偉そうなのよ……」
なんか総帥とはまた違った上司だなぁ。
暑っ苦しいタイプ。
でも総帥よりかは何倍もマシだけどね。
宣言されたあと、ここで初めてデザームが構えた。
纏う雰囲気が変化する。
気圧されそうなほどの強い力と、肌が焼かれてしまいそうな熱を感じ、思わず私の口の橋がつり上がる。
さあ、私に見せてよ。宇宙人の実力ってやつをさぁ!
「ダークサイドムーン改ッ!!」
先ほどと同じように、漆黒の月をデザームに向かって落とした。
それに対して、デザームは両手に光を宿しながら、ゆっくりとパントマイムでもするかのように、それらを動かす。
「ワームホール!」
そう叫んだ瞬間、デザームの目の前には光でできた網が出現し、私の月をのみ込む。
とたんに消滅したかのように、月が消えてしまった。
「な、私のシュートはどこに……!?」
「上だ」
デザームが上を指差した瞬間、黒い月がものすごい勢いで空から落ちてきて、デザームの真横の地面に突き刺さった。
土煙が巻き上がる。
それが晴れると、中には完全に停止して地面にめり込んでいるボールがあった。
「ワープ!? そんなのあり!?」
「フハハハハ! いい、実にいいぞ! 地面にこれほど巨大な穴が空いたのは初めてだ!」
高笑いするデザーム。
くそっ、これだけ綺麗に止められたのは円堂君以来だよ。
しかもこれは勘だけど、やつはまだ本気を出していない。
さっきの技を放っているデザームからは、なんというか、身の毛のよだつような必死さがなかったのだ。
円堂君や豪炎寺君からはいつだってそれを感じていた。なのに、それ以上の強者からあの気迫が感じられないのはおかしい。
ふふっ、ちょっとショックだけど……燃えてきた!
「もう一回だよもう一回! 次こそ決めてみせる!」
「その心意気やよし! 何度でも撃ち込んでくるがいい!」
この後、私はかれこれ二時間に渡ってシュートを撃ち続けてきたけど、一度もゴールを奪うことはできなかった。
デザームは満足したらしく、馬鹿みたいに笑ったあと、どっかへ消えてしまった。
すごいね、あれが宇宙人の力ってわけか。完敗だ……。
どうやら私がこの地下から出る日は、まだまだ遠いらしい。
まだまだデザームには敵わないみたい。
そしてダークサイドムーンが進化しました。
新必殺技を期待してた人もいたかもしれませんが、それはまだまだ先になりそうです。