悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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雷門襲来

「どこにも学校なんてないじゃないか」

 

 雷門イレブンは愛媛のとある埠頭に来ていた。

 ここに真・帝国学園があると聞かされていた。

 だが、見えるのは霧がかった不気味な海とコンテナの山だけだ。

 

 コンテナに止まっていた大量のカラスたちが、侵入者を見つけて耳障りな音で鳴く。

 霧がかっていてどこか薄ら寒いのもあり、気の弱い壁山とメガネはそれだけですくみあがった。

 

「テメェ! やっぱ俺たちを騙してやがったんだな!」

「せっかちな野郎だな。真・帝国学園だったら、ホラ」

 

 染岡が激昂し、ここまで案内した男——不動へ食いかかった。

 だがそれを相手にもせず、気だるそうに不動は指を前に突き出す。

 つられて円堂たちは海を見るが、特にめぼしいものは見えなかった。

 

 

 ——そう、()()()()()()

 

 突如、地響きでも起きたかのような音が聞こえた。

 一瞬の轟音。まるで海の中で爆発でも起きたかのようだ。

 それにつられて飛び出すように水中から姿を現したのは——黒光りする巨大なクジラだった。

 

 否、それはクジラなんかではない。もっと無機質で、人工的なもの。

 ——潜水艦だ。

 

 円堂たちは言葉を発することもできなかった。

 誰もが突如現れた巨大なバケモノの姿に圧倒されていた。

 いや、その中でただ一人だけ例外がいた。

 引きちぎれるほどに口を歪めて、大げさに拍手を繰り返している。

 

「いいねいいねぇその反応! だが驚くのはまだ早いぜぇ!? 主役の登場だ!」

 

 潜水艦の壁が機械音とともに開き、地上とをつなげるための橋が伸びてきた。

 だが、円堂たちの視線はある一点に集中していた。

 開いた壁の闇の向こう。その先には——。

 

「……影山……」

「ハロー円堂君! おひさー!」

「久しぶりだな円堂。それに鬼道よ」

 

 ——雷門の宿敵、影山零治と白兎屋なえがたたずみながら、円堂たちを見下ろしていた。

 

 

 ♦︎

 

 

「影山ぁ!」

 

 パイナッポーウインナー! 

 ……いや、わからないならそれでいいのよ。

 

 挨拶するや否や、鬼道君が鬼のような形相で怒鳴りつけてきた。

 おーこわこわ。きっとあのゴーグルの奥のハンサムアイは人を殺しそうな目つきをしていることだろう。

 ……それ以上に怖い目つきなのは隣の染岡なんだけどね。

 

「もう総帥とは呼んでくれないのか」

 

 残念だとで言うように総帥は首を振る。

 その動作だけで雷門イレブンの視線が強くなったのを感じる。

 総帥の煽りスキルは今日も絶好調である。

 

 さてと。

 私は足元に転がしていたエイリアボールを軽く空中に浮かせる。

 そして円堂君めがけて左足でシュートした。

 

 風を切り裂いて、弾丸のように迫るボール。

 彼は突然のことで目を見開いていたが、すぐに切り替え、右手を構えた。

 

「っ、ゴッドハンド!」

 

 気力で形作られた巨大な右手がボールを受け止める。

 数秒ほど回転を続けたあと、ボールは勢いを失い彼の手に収まった。

 ——その手からは、黒煙が出ていた。

 

「ぐっ、うっ……!」

「いきなりなにをするんだ!」

 

 右手を抑えてうずくまる円堂君の前に風丸が立ち塞がる。

 

「なにって、テストだよ。前と一緒じゃすぐに壊れちゃうからね。でも安心したよ。()()()()で済んだのなら、今日は楽しめそうだ」

 

 なにせパワーアップのし過ぎでうちの補欠の方のキーパーを潰しちゃったからね。

 哀れ、エイリア石でも私との差を埋めることはできなかったようだ。

 もちろんうちの会社はブラックだから保険も治療費も降りてないよ。

 でもあれじゃあなんの役にも立たなそうなので、右腕がへし折れた状態のまま外に捨てておいた。

 ご冥福をお祈りしよう。いや、たぶん生きてるだろうけど。

 

「鬼道っ」

「ああ円堂、わかっている。あいつの利き足は右だ。つまりは、反対の足であれだけのシュートを撃てるほど、なえは強くなっている」

 

 察しがよくて助かるよ。

 どうやらようやく、以前の私とは違うことを認識してくれたようだ。雷門のみんなの表情がこわばる。

 

「影山。真・帝国学園なんてものを作って、今度は何を企んでいるんだ!?」

「私の計画はお前たちには理解できん。この真・帝国学園の意味さえもな。私から逃げ出したりなどしなければ、わかったはずだ」

「俺は逃げたんじゃない! あんたとは決別したんだ!」

 

 違いに睨み合う二人。

 こんな状況で場違いなのはわかってるんだけど、言わせてちょうだい。

 

「……私にも意味が理解できないんだけど」

 

『……』

 

 四方八方から冷たい視線を感じる。そんな空気読めみたいな雰囲気やめて。

 いやだって説明されてないし。というか、意味なんてあったの? って感じ。

 

 総帥は軽く咳き込むと、潜水艦内へと戻っていく。

 

「まあいい。ついてこい鬼道。かつての仲間たちに合わせてやろう」

「っ、待て影山!」

 

 総帥を追って、鬼道君は橋を駆け渡り、私の横を通り過ぎていく。

 その後ろに続いて円堂君も後を追っていった。

 

「円堂が行くならあたしも!」

 

 いや、空気読めよ。

 財前塔子だっけか? は同じように橋を渡ろうとしていた。

 

 しかしそこはさすが真・帝国で二番目に会話ができる男。

 見事に私が言いたいことを察して、その前に立ちはだかってくれた。

 

「オイオイ、野暮だなぁお前。感動の再会にゾロゾロついてっちゃ、台無しだろ?」

「そーそー。デリカシーがない子は嫌われるよ?」

「うっさい! あんただって空気読めてないくせに!」

「残念ながら大気中に文字を書くことはできないので、空気を読むことはできませ〜ん! アハハッ!」

「こ……んのぉっ……!」

「抑えなさい財前さん。これは挑発よ」

 

 今にも飛びかかってきそうな財前を、後ろでさっきから黙っていた女性が引き止めた。

 彼女が新監督の瞳子さんか。冷静沈着って感じでできる大人みたいなオーラを醸し出している。

 ……まではいいんだけど、死んだ魚みたいな目が特徴的過ぎて正直リアクションに困る。

 初めて見たよ、デフォでレイプ目な人。

 なんか社会人として色々苦労してたんでしょう。

 できる社員な私はあえてそこには突っ込まないでおいた。

 

「心配しなくても、追いかけた先で罠をしかけるような真似はしてないよ。私がしたいのはあくまでサッカーだからね」

「……なえちゃん、君はどうして……?」

 

 さっきから動揺したままだったシロウが、ここに来て急に話しかけてきた。

 私はその問いに不敵な笑みを浮かべながら答える。

 

「決まってるじゃん。今日本で一番強いサッカーチームは雷門。だったらそれと敵対しているチームにいた方が、戦える可能性が高くなるからだよ」

「おっと、話はそこまでだ。これ以上はメインイベントを見逃しちまうからなぁ」

 

 そういえば円堂君たちを放置したままだったね。

 不動は一足先に橋を渡り、潜水艦に戻っていく。

 

「じゃあねシロウ。これ以上はフィールドで語ろうよ」

 

 そう言って、私も元来た道を引き返して、グラウンドに向かった。

 

 

 ♦︎

 

 

「さあ鬼道、自分の愚かさを悔い、再び私の前に跪いた仲間を紹介しよう!」

 

 さあ、イかれた仲間たちを紹介するぜ! 

 

 とまあ冗談はさておき、なんとか間に合ったようだ。

 私たちがグラウンドに着いたとき、総帥の側には佐久間と源田が立っていた。

 

 それを見て鬼道君たちはたいそう驚いていらっしゃる。

 まあそりゃそうでしょ。かつての友人があんなヤクチュウと厨二病を混ぜたような顔と格好をしてるんだからね。

 

「感動の再会ってやつだねぇ」

「よかったよかった。本人たちも大喜びだ」

「では、元チームメイト同士、仲良く話したまえ」

 

 うわぁ、みんなゲッスいわぁ。

 同じような笑顔を浮かべてるであろう私が言うのもなんだけど。

 

 不動の拍手が、まるでお猿のシンバルのオモチャみたいに神経を逆なでする音を立てる。

 

「久しぶりだな、鬼道」

「なぜだ……!? なぜ、影山なんかの下に……!」

「強さだよ。強さが欲しかったんだ」

「強さだって!? 強さを求めた結果が、あの影山のサッカーだったんじゃないのか!?」

 

 

 開口早々、鬼道君と円堂君がまくし立ててくる。

 こうなることは予想できてたんだけど、ちょっと心配が。

 となりの佐久間がさっきから何にも喋ってないんだよね。しかも目の焦点も会ってないし、体も少し震えている。

 マズイ、鬼道君を目の前にして、いつものヤクチュウモードになりかかっちゃってるよ。

 源田がまともなままだったのが、唯一の救いか。受け答え全部対応してくれてるしね。

 

「源田、戻ってこい! なあ、佐久間も……」

 

 あ、ちょっと、今の佐久間に触ったら……。

 注意しようとしたけど、遅かったようだ。

 伸ばされた手を、佐久間は強引に弾き返した。その顔には酷く歪んだ笑みが浮かび上がる。

 

「ふ、ふふっ……! 俺たちは力が……勝利が欲しかったんだよ……!」

「俺たちが病院のベッドで寝ていたとき、どんな思いだったか。帝国を捨て、雷門に逃げたお前には絶対にわからない」

「そんな言い方ないだろ!? 鬼道は、お前たちや帝国のみんなのために、世宇子を倒そうって……!」

「綺麗事を言うな! 鬼道、お前が欲しかったのだって、勝利だ!」

「っ……!」

 

 たぶん、これは源田たちの本心なんだろうね。

 調べたところ、エイリア石には心のリミッターを解除する副作用があるようだ

 つまりは自分の心に抑えが効かなくなってしまう。

 

 だけど、これには源田たちにも言い分があるとは思う。

 だって、たとえ仲間の無念を晴らしたって、肝心の人たちがそのときとなりにいなきゃ意味がないじゃん。

 よく心はどこまでも繋がってるなんて言うけど、人間ってのはそう割り切れるほど単純じゃないんだよ。

 もっとも、それを中学二年生に察しろってのは酷な話なんだけど。

 

 どちらにせよ、ポンポンチームを裏切ってきた私には毛ほども心に響かない話だ。

 

「……お前たちの言う通りだ。自分勝手に勘違して、行動してしまったのは謝る。だが、影山の下につくのだけはやめてくれ!」

「今さら遅いんだ、よっ!!」

「ぐふっ!!」

 

 佐久間渾身のシュートが鬼道君の腹部に当たり、そのまま吹き飛ばされた。

 わー痛そう。

 エイリア石で強化された佐久間のシュートはかなり強烈だ。

 でもこのままじゃ、試合にも響いちゃいそうなので、そこで私は佐久間を制止することにした。

 

「はーいストップストップ。ほら、続きは試合でしようよ。このままじゃ楽しみが減っちゃう」

「……ああ、そうだな」

「おいおい、ぬるいこと言ってんじゃねぇよ! ほら佐久間、パスだ!」

 

 やっぱりクズだわこのバナナ野郎。

 いつの間に回収していたボールを、不動は佐久間へと転がす。

 しかし彼は意外にも動かず、逆に不動をキッと睨みつけた。

 

「見くびるなよ不動。俺はお前ほど短気じゃない。敗北の屈辱は、試合で拭ってみせる」

 

 よし、偉いぞ佐久間!

 あとはこのまま撤退させれば……。

 

「待て、源田、佐久間! 俺たちのサッカーは……」

「『俺たちのサッカー』?」

 

 あ、そのワードは……。

 佐久間は右足を振り上げる。そしてボールを——

 

「『俺たちのサッカー』は、負けたじゃないかぁっ!!」

 

 ——思いっきり、鬼道君へシュートした。

 

 おいぃっ!? 

 お前さっき言ったこと復唱してみろよ!

 何が『俺はお前ほど短気じゃない』(キリッ)だよ!? 

 超短気じゃん! 

 

 でもさすがは円堂君と言うべきか、彼はすぐさま二人の間に割って入り、ボールを受け止めてくれた。

 

「……影山なんかに従うやつに、『俺たちのサッカー』なんて言わせない」

 

 ポツリと、彼は佐久間だけでなく、私たちに向けるように呟く。

 そして振り返り、ボールを片手で突き出しながら私たちに宣言した。

 

「来い! この試合に勝って、本当の『俺たちのサッカー』を見せてやる!」

「ふふっ、いいよ円堂君、その気迫! 『Dead or Alive』! 負ければ全てを失い、勝てば全部を得る! そんな血湧き肉躍る戦いを、もう一度始めよう!」

 

 狂ったように私は笑う。

 やっぱり総帥の下について正解だった。

 こんな緊張感のある戦い、そうそうできるものじゃない。

 

 さあ、サッカーやろうよ、円堂君!




 うーん、どうしてもシリアスができない。
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