悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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禁断の技

 真・帝国学園のグラウンドに、二つのチームがそれぞれフォーメーションを取っていた。

 

 展開された屋根の外に見える空は鉛のような鈍色。

 重苦しそうな雲が日光を遮断している。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 真・帝国学園のフォーメーションはこうなっている。

 帝国でも用いていたバランス型のフォーメーション『デスゾーン』を、不動のゲームメイクの下、動かしていくスタイル。

 チームメイトの調教はバッチリ済んでるし、予定通り動いてくれることだろう。

 

 対する雷門は、前に戦ったときとはガラリと雰囲気が変わっていた。

 当たり前か。エイリア学園との試合で半数ほどが離脱させられたようだしね。

 4—4—2のこれまたバランスのいい『ベーシック』は変わってないけど、各ポジションには今までと違ったメンバーがついている。

 中でも注目すべきはフォワードだ。

 豪炎寺君の位置には、代わりにシロウが立っていた。

 

「へぇ、シロウ。今日はフォワードでいくつもりなんだ」

「君は僕が止めてみせる!」

「できたらいいね。ただ、気をつけなよ。私たちにはスッゴイ秘策があるから」

「秘策だって?」

 

 そう、秘策だ。

 不動が考えた、これ以上ないほどえげつなく、雷門には効果的な作戦。

 不動は早くそれを見せてやりたくて仕方ないのか、テンション高めで私を諌めようと声をかけてくる。

 

「おいおい、ネタバレは厳禁だぜ? サプライズは秘密だからこそ、さいっこうに面白ぇんだからよ」

「くふっ、それもそうだね。ゴメンゴメン」

 

 そうしていると、ホイッスルの音がなった。

 佐久間からのキックオフで、ボールは私へ。

 

 思いっきり地面を蹴って加速し、染岡とシロウの間を一瞬で通り過ぎる。

 

「なっ……!?」

「北海道で戦ったときと、全然違うっ!?」

「当たり前だよ! 私はあれから、地獄と言っても過言じゃない特訓を乗り越えたんだ! 前と一緒だと思ってたらヤケドするよ!」

 

 走りながら、黒い光を身に纏う。

 一之瀬が何か必殺技を出そうと、逆さになって回転し始めるけど——。

 

「遅い! ライトニングアクセルV2!」

「フレイムダ——ぐわぁっ!」

 

 以前にも増してキレを増したライトニングアクセルで、一気に突破をする。

 

「こっちだなえ!」

 

 既にペナルティエリア近くまで切り込んでいた佐久間にパスを出す。

 彼が身体に力を入れると、まるで炎のようなオーラが激しく噴き出した。そのまま左右にドリブルしながら、相手のディフェンス陣まで突っ込んでいき——。

 

「烈風ダッシュ!」

 

 その熱風とともに、彼らを吹き飛ばす。

 

 残るはキーパーである円堂君のみだ。

 佐久間は一度立ち止まる。そして振り返ると、鬼道君を睨みつけた。

 

「よく見ておけ鬼道……これが俺の、力だっ!」

「……まさか、やめろ佐久間ぁ!」

 

 ただならぬ佐久間の雰囲気に、鬼道君は彼が何をしようとしているのか察知したようだ。

 さすがは元帝国のキャプテン。

 だけど、もう遅い。

 

「見せてやれよ佐久間ぁ! お前の真の力を!」

「う……うぉぉぉぉっ!!」

 

 佐久間は大きく息を吸い込むと、グラウンド全体に響き渡るような、大きな指笛を吹いた。

 それによって地面から出現したのは、五匹のペンギン。

 だがその色は皇帝ペンギン2号のときの青ではなく、血のような赤。

 それらは一度は飛び立つと、空を旋回して、振り上げられた佐久間の右足に次々と噛み付いていく。

 そうやってエネルギーが注入され、強化された右足を、思いっきり振るった。

 

「それは——禁断の技だぁぁぁ!!」

「皇帝ペンギン——1号!!」

 

 佐久間の足がボールに触れた途端、爆発が起きた。

 そして巻き上がった煙を突き破り、ミサイルのようにペンギンたちがボールとともに、ゴール目指して飛んでいく。

 

「マジン・ザ・ハンド改!」

 

 円堂君の背後に、雷を纏った魔神が出現する。

『マジン・ザ・ハンド』。円堂大介の残した最強のキーパー技。

 だけど、それも今回ばかりは無力だ。

 

「ぐっ、なんだこのっ、凄まじいパワーは……っ!?」

 

 円堂君がそう呟いた瞬間、ペンギンたちが魔神の右手を食い破った。

 再び、爆発。

 あまりの衝撃波に円堂君は吹き飛ばされ、さらに追い討ちをかけるように飛んできたシュートを腹にくらって、豪快にゴールへ突き刺さった。

 

「ヒャハッ! 素晴らしいぃ!!」

 

 なんか不動が点を入れた佐久間以上に興奮しちゃってるけど、無視だ無視。

 佐久間は滝のように汗を流しながら、荒く息を吐いていた。

 

「ヘーイ佐久間、ナイスシュート!」

 

 ねぎらいの意を込めて、彼の肩をパシッと叩いてやる。

 

「がぐっ!?」

 

 ……あ、いけね。

 佐久間は小さく悲鳴をあげて、グラウンドに崩れ落ちてしまった。

 皇帝ペンギン1号の反動のことすっかり忘れてたよ。

 

「あー、ごめん佐久間。ちょっと迂闊だったか……も……?」

「ふっ、ふふっ……ふははっ! 俺が、俺がシュートを決めたァ……!!」

 

 ……謝ろうとしたけど、スッゴイ嬉しそうに汚く笑ってるコレを見て、すぐにその気が失せた。

 なんか陸に打ち上げられた魚みたいにビクンビクンしてて、超気持ち悪い。

 

「ハハッ! 見たか鬼道ぉ! これが俺の、『皇帝ペンギン1号』だ……!」

「二度と使うな! あれは禁断の技だ!」

 

『皇帝ペンギン1号』。

 総帥が考案した、最凶最悪のシュート。

 絶大な威力を誇るが、その反動として撃った選手は肉体が破壊されるほどのダメージを受けてしまう。

 一回で全身に筋肉痛が走り、二回で肉離れ。三回目は……全身の複雑骨折。

 そして二度とサッカーができなくなる。

 

「なぜだ……なぜ佐久間にこれを撃たせた、なえ!? お前はこの技の危険性を誰よりも理解していたはずだ!」

「うん、身をもって知ってるよ。だけどそれが何か?」

「なんだと……?」

 

 怒り狂い、刺すような目線を向けてくる鬼道君に、私は笑いながら自論を述べる。

 

「本気でサッカーをやってるんだよ? 命かけるのなんて、当たり前じゃん」

「なえ……お前は、どこまで……!」

「嫌だったら、私たちに勝つことだね。そうすれば、禁断の技なんて必要ないって証明できるかもよ?」

「……言われるまでもない!」

 

 踵を返して、鬼道君は雷門コートへ戻っていく。

 これで、円堂君たちにも皇帝ペンギン1号の情報は共有されるだろう。

 

「それで、こっからどうするのかな、司令塔さん?」

「やつらの甘ちゃんな性格上、佐久間のマークを増やしてくるはずだ。たぶんあの吹雪ってやつもディフェンスに入るだろうぜ。俺たちはそこを突く」

「なるほど、じゃあサポート頼むよ」

「それと、次のキックオフの後はアイツらに抜かせてやれ。それでようやく本当のショーが始まる。……くくく、ハハハッ!!」

「突然笑い出すのやめてくれない? 私まで変人扱いされそうなんだけど」

「あぁん!?」

 

 精神異常者は佐久間だけで十分だっての。

 

 しばらくして、雷門がフォーメーションを組み立てていく。

 どうやら不動の言う通りになったようだ。

 5ー3ー2の『ダブルドッグ』。

 フォワードのシロウがセンターバックとなり、代わりに鬼道君がトップに立っている。

 

 ディフェンスを増やして、佐久間にシュートを撃たせないつもりだね。そうすることで彼を守ろうとしている。

 だけどそれは、決点力のある選手が佐久間しかいないって勘違いしてるってことじゃないかな。

 

 キックオフと同時に鬼道君たちが駆け出す。

 私は適当にショルダーチャージを数回入れたあと、指示通りに抜かせてあげた。

 

 他のメンバーも不自然にならない範囲で手を抜いている。

 そうとも知らずに鬼道君、染岡、一之瀬の三人は源田の前までたどり着いた。

 

「見せてやる! これが本当の、皇帝ペンギンだ!」

 

 へぇ。あのメンバーで何を撃つのかと思ってたけど、これか。

 

 鬼道君はさっきの佐久間と同じように口笛を吹いてペンギンを呼び寄せたあと、ボールを蹴り出した。

 そこに、両サイドから走りこんできていた二人が同時にボールを蹴り、シュートを加速させる。

 

「皇帝ペンギン——」

『——2号!!』

 

 飛んでいくペンギンの群れ。

 しかし源田の顔は涼しげだった。

 むしろ獲物を見つけた獣のように、牙と目をギラギラと光らせていた。

 

「ビーストファング!」

 

 源田は腰を落とし、腕を上下に開く。

 その背後に現れたのは、黒き毛皮を纏った凶獣。

 獣は吠え、迫り来るシュートをその牙で噛み砕いた。

 ペンギンたちはそれだけで、食い荒らされたかのようにバラバラとなる。

 

「ふっ……うぐっ! うごォォォォォォオッ!!」

 

 源田はボールを抱えながらその場に倒れ、絶叫する。

 聞くだけでその痛みが伝わってくるような、あまりに生々しい声に雷門メンバーがすくみ上る。

 

「鬼道、こいつもまさか!?」

「ああ、『ビーストファング』……同じ禁断の技だっ」

『ッ!?』

「源田に、あの技を出させるな……!」

 

 自分でも無茶を言ってることをわかっているのか、鬼道君の表情は苦しげだ。

 

 なにせシュートを撃てば源田が壊れるし、シュートを撃たせても佐久間が壊れる。

 後者はまだいいが、シュートを撃てなければ勝てない。

 それがサッカーというものだ。

 おまけにその攻撃のための戦力も、佐久間のマークに回っていることでほぼ半減している。

 

 前門の虎、後門の狼。あるいは四面楚歌。

 どちらにせよ、詰みだ。

 不動の秘策とは、この矛盾した構図を作り出すことだった。

 

「オラ、いつまで昼寝してやがんだ源田ァ! さっさとボールをよこせ!」

「言われなくてもっ!」

 

 源田のスローは真帝国のミッド陣に繋がった。

 ボールを持ったのは、私に楯突いてきたやつ筆頭の小鳥遊。

 彼女は敵が近づいてきたのを確認すると、ボールを両足で挟んで回転させながら、地面に落とした。

 

「竜巻毒霧!」

「うっ……ゴホッ! ゴホッ! これは……!?」

 

 へぇ、やるじゃん。

 あれは戦国伊賀島の『毒霧の術』と漫遊時の『竜巻旋風』の融合技だね。

 いつの間に研究していたのやら。だけど嬉しい誤算だ。

 

 右サイドから上がっていき、小鳥遊はそこで不動へとパスする。

 

「いくぞ佐久間ぁ!」

 

 不動は佐久間へとパスを出そうとしたけど、その前に二人の選手が佐久間の前に立ちふさがった。

 シロウと一之瀬だ。

 

「ぐっ、邪魔をするな!」

「君が壊れるところを見たくないんだ!」

 

 どうやら意地でも離れるつもりはないらしい。佐久間のガードは厳重だ。

 佐久間は皇帝ペンギン1号を撃った反動で身体を痛めていて、とても振り切れそうにはない。

 だけどその分、逆サイドがガラ空きだよ。

 

「引っかかったな! やれ、なえ!」

「しまった! 逆サイドだ!」

 

 不動によるセンタリング。

 ボールはディフェンスの頭上を飛び越えながら、大きな弧を描いていく。

 私は曲芸のように月面宙返りをしながら、空中でボールをトラップし、天高く蹴り上げた。

 

 ボールは漆黒のオーラを纏いながら、徐々に巨大化していく。

 その大きさは世宇子時代よりもさらに巨大だ。

 見せてあげるよ、パワーアップした私の必殺技! 

 

「ダークサイドムーン——改ッ!!」

 

 暗黒の月が、ゴールへと落ちていく。

 それを迎え撃つのは魔神。

 かつての戦いの再来だ。

 

「マジン・ザ・ハンド改!」

 

 ——だが、その結果までもが同じとは限らない。

 魔神の腕は徐々に闇に呑まれていき、ついには胴体に大きな風穴を空けて消滅してしまった。

 その後ろにいた円堂君を巻き込みながら、月はゴールへ入っていく。

 

 ゴール。これで2対0。

 倒れている円堂君の前まで歩いていき、彼を見下ろす。

 

「どう円堂君。これが今の私の力。これが私の——サッカーにかける思いだよ」

「……ああ、ビリビリ感じるぜっ。だけど、お前のそれは間違っている! それを証明するために、俺たちは負けられないんだっ!」

「くふっ、そう、それでいいよ円堂君。もっと、もっと、もっと! 熱くこの魂を輝かせよう!」

 

 感じるよ、あの熱を。

 さあ円堂君、私に見せて欲しい。

 君のイナズマ魂を——!

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