悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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怒る司令塔

 ベンチへ戻ってきた私を、佐久間と源田は目を丸くして見てきた。

 

「ん、どったの?」

「いや、珍しいなと思って」

「お前が怒っているところなんて始めて見たぞ。というか、お前も笑み以外を浮かべられたんだな」

「ちょっとそれってどういう意味?」

 

 まったく、なんて失礼なやつだ。

 私はセールスマンじゃないんだぞ。そんなに毎日笑ってるわけないじゃん。

 

「まあ、取り乱しちゃったのは認めるよ」

「ふっ、よっぽど試合を中止されるのが堪らなかったのか。お前らしい」

「それもあるけど、たぶんみんなの持ってるエイリア石の影響を受けたのかもね。うまく感情がコントロールできなくなってる」

 

 私は裏社会にどっぷり浸かっちゃってるため、いざというとき拷問にも耐えられるように精神修行もさせられている。

 普段の私ならあそこでイラつくことはあれど、あんな風に怒鳴ることはなかった。

 エイリア石は身につけなくても近くにいるだけで精神汚染を受ける、か。勉強になった。

 

「敵情視察とはご苦労様だなぁ。で、成果は?」

「いや、なんにも? というか、そもそもそんな邪な目的で行ったわけじゃないし」

「ハッ、使えねぇ野郎だな!」

「野郎じゃないし、女だし。そこんところの区別もつけられないでよく司令塔なんてやってられるね」

「ああん!? んだとコラ!」

 

 相変わらず沸点の低いやつである。

 こんなのが司令塔だなんて、ほんと世も末だ。

 

「不動、うるさいぞ。もうちょっと落ち着いたらどうだ」

『いや佐久間、お前が言うな』

 

 源田、不動、私と、決して交わることのない私たちの意見は今このときだけ一致した。

 さっきの試合見直してきなよ。

 なによあのバーサーカーっぷり。聖杯戦争の筋肉モリモリマッチョマンでもまだマシな動きしてたぞ。

 いくらエイリア石込みでも、こいつは一度技術云々よりも精神修行をしてくるべきである。

 

 体育座りになって落ち込んでしまった佐久間を放っておいて、話を続ける。

 

「で、用件はなに? 不動がなんの理由もなく私に話しかけてくるはずないでしょ?」

「次の作戦が決まった。開幕()()を撃つ」

「……アレね。でもアレは佐久間のマークがいると厳しいんじゃない?」

 

 アレとは、私、佐久間、不動による必殺技のことだ。

 さすがに皇帝ペンギン1号までとは言わないけど、威力は折り紙つき。

 だけど撃つには、佐久間のマークをどうにかする必要がある。

 

 だけど不動は、だからこそ開幕なんだと答えた。

 

「たしかに、試合が始まれば佐久間にはマークがつくだろうぜ。だが、逆に言えば試合前にマークはついていない。この意味がわかるな?」

「なるほどね。一度っきりのチャンスってわけか」

 

 不動の考えた作戦に舌を巻く。

 悔しいけど、こういうところはこいつに敵いそうにないね。

 さっきこいつが司令塔で大丈夫か? みたいなこと言ったけど、取り消しておいてやろう。

 ただし、口では言わないけど。

 

「というわけで、聞いてたか佐久間?」

「ああ、バッチリだ。やってやるさ」

 

 うん、佐久間の精神状態も落ち着いてきたようだ。

 これならやれる。

 

 ハーフタイム終了の音がなった。

 私たちはゆっくりと立ち上がり、マイペースにフィールドへ戻っていった。

 

 

 ♦︎

 

 

 コートを入れ替えて、それぞれがポジションについていく。

 まあ今日は無風だし、コートチェンジは関係ない。

 強いて言うなら、グラウンドに仕掛けられたカメラの映りが変わる程度だ。

 

 相手チームはなんと、フォーメーションを元のベーシックに戻してきたようだ。

 つまりは、フォワードにシロウが参加している。

 しかもすでにアツヤの人格が出ているようだ。

 

 どうやら相手さんもやっと勝つ気になったらしい。

 それでなくちゃね。

 

 ホイッスルが鳴り、染岡へボールが出された瞬間に、私は加速する。

 

「真クイックドロウ」

「っ、くそ!」

 

 染岡を通り過ぎ、ボールを高速で掠め取る。

 スピニングカットを使わなかったのは、弾いたボールを回収されるのを防ぐためだ。

 

 すぐさまバックパスを出し、前へ走り出す。

 

「アレ、やるぜぇ!」

「円堂君たちの牙、抜いてあげる!」

「こいつで沈め!」

 

『な、なんと!? 白兎屋、佐久間、不動が一列に並んで走り出した!』

 

 実況の人、いたんだ……。

 じゃなくて! 

 

 不動は悪魔のように笑うと、センターラインからシュートを放つ。

 それを、前方にいた佐久間がキックを加えて加速させる。

 ボールはそのあまりの速度に黄色い熱を帯び始める。

 でもまだだ。

 私はさらに走り込み、トドメを刺すかのように足を振りかぶって——それに蹴りを入れた。

 

『トリプルブースト!!』

 

 ボールは黄色から赤へ。

 超加速したそれは雷門の選手たちを次々と通り過ぎながら、ゴールへ迫る。

 

 まさかの超ロングシュート。

 それに反応できたのは円堂君と……壁山と財前だった。

 

「ザ・ウォール! ——ぐわぁぁっ!!」

「ザ・タワー! ——きゃああっ!!」

 

 シュートブロックかっ。

 

 ゴール前に出現する、壁と塔。

 赤熱を放つボールはまるで巨大なハンマーで叩くかのように、それらを一撃で粉砕してみせた。

 

 だけど、そのせいでボールの勢いが落ちてしまう。

 

 弱まったシュートを止めようと、魔神が手を伸ばしてくる。

 

「マジン・ザ・ハンド改! ——ぐぅぅぅぅっ!!」

 

 魔神の手のひらの上でボールは回転し続ける。

 その摩擦熱によって黒煙が舞い上がった。

 

 結構な熱が出てるはずだけど、それでも円堂君は手を離さずに、顔をしかめながら腕を伸ばし続ける。

 そして数十秒後、ようやくボールの回転が収まった。

 

 まさか、これも止められちゃうとはね。

 いや、素直に円堂君を褒めるべきか。

 

 私の目はしっかりと捉えていた。

 彼のグローブが、炭化しかけてあちこち破れていることを。

 その先にある皮膚がわからなくなるほど、手が真っ黒に焦げてしまっていることを。

 

 あの手で止めるとか、本当人間じゃない。

 その目は負けてたまるかという意思で満ちている。

 さっきは意見の食い違いがあったけど、やっぱり彼も私と同類だ。

『サッカーに命を賭けている』。

 

「ちっ、次だ次! 何回かぶち込んでりゃ、いつかは……」

「無駄だな」

「……なんだと?」

 

 不動の言葉を、鬼道君は否定した。

 二人は先ほどのように睨み合う。

 

「そんなゴーグルをつけてるせいで目がおかしくなってるんじゃねぇか? どう見てもあいつは虫の息だ。もう力なんざ残っちゃいねぇよ」

「円堂の強さは、諦めない心だ。それが無限に力を引き出させていく。特に、お前のようなサッカーを汚す者にはな!」

「鬼道!」

 

 鬼道君の元へボールが渡る。

 一対一。

 不動は青筋を浮かべながらも、舌なめずりをした。

 

「面白ぇ……! だったら、それがただの妄想だってことを証明してやるよ!」

 

 まるで前半の続きだ。

 二人は激しくせめぎ合い、お互いの身体をぶつけていく。

 

 その衝撃で、鬼道君の体勢がわずかに崩れた。

 

「もらったぁ!」

「……待って不動!」

 

 勝ったとばかりに、足を伸ばす不動。

 しかし、私の位置からは見えていた。

 鬼道君の後ろから複数の人影が上がってくることを。

 

 鬼道君は突如誰もいない場所へボールを蹴り出す。

 不動から見れば、苦し紛れの行動だとでも思ってしまうだろう。

 だけどその先へ風丸が素早く走り込み、ボールへと追いついてみせた。

 

「なっ……!?」

「残念ながら、見えていなかったのはお前のようだな」

 

 風丸は向かってくるボールを、ダイレクトで蹴り返す。

 お手本のようなワンツー。

 身を軽やかに翻し、鬼道君は不動を抜いてボールを受け取った。

 

「円堂の言う通りだ! サッカーは仲間でやるものだ! お前たちのような、仲間を自ら傷つけるようなやつらに俺たちは負けない! 負けるわけにはいかない!」

 

 うぐっ。

 おそらくは私に向けても言っているのだろう。

 言い返せなくて、地味にダメージを受けるよ。

 

「上等だ……! そんなにお仲間が大事なら、俺の手でぶっ壊してやるよ……!」

 

 うわぁ、めっちゃキレてる。

 不動は鬼道君に出し抜かれたことがよっぽどご立腹なのか、すんごい青筋を浮かべながら震えていた。

 しかし何かいいことを思いついたのか、すぐにその表情を邪悪な笑みへと変える。

 

 場面は切り替わって、雷門側へ。

 ボールは鬼道君の足を離れ、染岡のところにあった。

 ゴールへ向かって走る彼に、郷院たちディフェンスが立ち塞がる。

 

「撃たせろ! シュートは源田が止める」

「なっ!?」

 

 その指示に私は驚く。

 まさか、わざとシュートを撃たせるつもりなの? 

 言うまでもなく、それは悪手だ。そもそもメリットがない。

 源田のビーストファングのストックだって少ないのに。

 

 ……ん、ストック? 

 不動の目は輝いていた。まるで映画の有名なワンシーンを待ち望むかのように。

 

 ようやく、私は理解した。

 こいつは源田を見せしめとして、使い潰すつもりなのだと。

 

 いくらあれの中身がキチガイでも、指揮権を持ってるのはあいつだ。

 郷院たちはサッと染岡の前から退いてしまう。

 

「バカ不動! 今すぐボールを取って!」

「おいおい、落ち着けよなえ。どうやったってあいつらはシュートを撃てねぇんだ。焦っても意味ないだろ?」

「鬼道君の話聞いてなかったの!? 雷門の一番の脅威は現在の力じゃなくて、その進化速度なんだよ!」

 

 言い争ってる間に、染岡はシュートを撃った。

 手足が生えた翼竜のブレスとともに、ボールが吐き出される。

『ワイバーンクラッシュ』。

 

 源田は両手を前に突き出してビーストファングの構えを取る。

 しかし、それはある程度まで進むと、磁力で引き寄せられたかのように急に曲がった。

 

 誰もがその行方を目で追っていく。

 そして見た。

 あらかじめ予知していたかのように、そこにシロウが走り込んできているのを。

 

「ビースト——」

 

 源田は急いで構え直そうとするけど。

 

「遅ぇよ! エターナルブリザード——ハァァアッ!!」

 

 シロウの方が早かった。

 ワイバーンクラッシュをさらにエターナルブリザードで加速。

 その結果、ブレスは氷を纏い、凄まじい速度で源田の横を通過してゴールに入った。

 

 まさかの失点。

 私は苛立ちながら、不動の胸ぐらを掴み上げる。

 

「不動、今のは明らかにあなたの落ち度だよ! 鬼道君のことを個人的に恨むのはいいけど、勝利に徹したプレイをして!」

「うるせぇ! 俺がどうやろうが勝手だろうが! 勝ちゃいいんだろ勝ちゃ!」

「こ、のっ……!」

 

 この分からず屋が! 

 私は別に、全力で戦っている仲間のミスを責めることはない。

 だけど、真剣にやらないやつは大っ嫌いだ。

 

 今回の不動がまさしくそれだ。

 必要のない命令で点を取られた。

 それだけで、私にとっては万死に値する。

 

 殺すつもりで不動を睨みつける。

 不動は怯んで、落ち着きを取り戻した。

 

「ちっ、わかったよ。責任ぐらいは取ってやる」

「当たり前だよ。次変なことしたら容赦しないから」

「ああ、取ってやるよ。責任をな。くくく……っ」

 

 なんだろあいつ、急ににやけちゃって。気持ち悪い。

 だけど、いつまでも気にしている場合じゃない。

 私はセンターライン近くに戻っていった。

 

 試合が再開。

 ボールを得ると同時にライトニングアクセルを発動しようとしたけど、力を溜めるために一瞬硬直している隙を突かれてしまった。

 キラキラと雪結晶が視界の端で舞う。

 

「アイスグランド!」

「っ……!」

 

 やられた。

 ディフェンスの方のシロウに戻っていたのか。

 彼と染岡は並びながら、攻め込んでくる。

 

 迫りくるディフェンスをかわそうとシロウは染岡にパスを出す。

 

「くらえぇぇぇっ!!」

「なにっ——ぐああぁぁぁぁ!?」

 

 しかし、絶妙なタイミングでの不動のスライディング。

 それは見事に直撃した。

 ——染岡の足へ。

 鋭いスパイクが肉へめり込む。

 

 悲痛な断末魔をあげながら、彼は勢いよく倒れた。

 当然のようにホイッスルが鳴る。

 

 不動、狙ったね。

 審判からあいつにイエローカードが掲げられた。

 だけどそれ以上に、雷門が失ったものは大きい。

 

「ぐぅぅぅぅっ!」

 

 苦しそうに足を押さえながら、その場を転がる染岡。

 その足はソックス越しでもわかるほど、大きく腫れてしまっている。

 あれじゃあもう走るのは無理だろう。

 シュートなんてものはもちろん論外だ。

 

 これが、あいつの責任の取り方か。

 だけど今回は責めたりはしない。

 なぜなら、これもサッカーの一部だから。プロの試合ともなれば、相手の有力選手を潰そうとするのはよくあることだ。

 

 だけど、やられた方はたまったもんじゃない。

 シロウがその怒りをぶつけようと、拳を振りかぶる。

 しかし染岡に諭されて、不動を睨みつけながら元のポジションへ帰っていった。

 

 不動は満足げでこちらに寄ってくる。

 

「ほらよ。責任、取ってやったぜ」

「はぁ、もう何も言わないよ。だけどレッドカードにだけは気をつけてね」

「さすがの俺もそこまでバカじゃねぇよ。ここで退場しちゃぁ、デザートが食べられなくなっちまうからなぁ」

 

 これ以上ないほど心配だ。

 このキチガイなら、試合中に選手を海までぶっ飛ばしたりとか本気でやりそうなんだもん。

 こいつの技ファールになりやすいの多いし。

 ジャッジスルー2とかくれぐれも使わないでくれることを願うばかりだ。

 

 だけど、この不動のプレイによってまた戦局が傾いた。

 竜の翼はもいだ。もう飛び立つことはない。

 あとは魔神を、あの悪魔のシュートで粉砕すれば、こちらの勝利だ。




 不動といえばトリプルブーストという人も多いはず。
 彼、ゲーム2だと勝負なしで仲間になるうえ、初期からトリプルブースト覚えてるんですよね。
 どうしてアニメでDEに取られてしまったのか。
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