悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:キメラテックパチスロ屋
あーあ、これでも勝てなかったか。
目を覚ました私は、その一部始終を見て呟いた。
まったく。
いくらダメージがあったとはいえ、皇帝ペンギン1号を一回撃っただけで気絶するなんて、情けないにもほどがある。
皇帝ペンギン1号は、もともと私の最強技だ。いや、今でも最強と言ったほうが正しいか。
ダークサイドムーンも、この技にはさすがに劣る。
まあ、とある理由で中学生になってからは使わなくなったけど。
グラウンド内は大混乱に陥っていた。
ピクリとも動かない佐久間と源田。それに雷門のほうも染岡などの怪我人が出てしまっている。
遠目で瞳子監督が救急車を呼んでいるのがわかった。
読唇術ぐらいは覚えてるんだよ。
私も一応けっこうな怪我だけど、神のアクアプロトタイプで強化された身体は回復力も伊達じゃない。
もう血は止まってるし、走れるくらいにはなった。
さて、ぐずぐずしていられないや。
みんなが佐久間に気を取られている隙に、こっそりと私はグラウンドを抜け出して総帥の部屋を目指した。
となりでは不動が両手を頭の後ろで組みながら、苛立たしげな顔をして歩いている。
「ったく、使えねぇやつらだぜ。佐久間ももうちょっと使えるとは思ってたんだが」
「そもそも三回撃てたのが驚きだけどね。あの技は使えば使うほど身体がボロボロになっていく。普通は二回目で足も振りあげられなくなるんだけど……いやはや執念ってのはかくも恐ろしいもので」
「ちっ、くそったれが!」
不動は近くにあった自販機に、八つ当たりで蹴りを入れた。
なぜ自販機があるかって? ここは宿泊施設でもあるんだから、なきゃおかしいでしょ。
カランコロン、と自販機から音が聞こえてきた。
「おっ、ついてるね。今日はいいことあるかもよ」
「さっき不幸な目にあったばっかだっつーの!」
とか文句言いつつ、不動は落ちてきた缶ジュースを拾って、飲み始めた。
イチゴおでん味……美味いのそれ?
そんなこんなで、総帥の部屋にたどり着き、自動ドアが開かれる。
総帥は相変わらずの無表情だ。
だけどなんとなく、苛立ってるのがわかる。
「エイリア石まで与えてやって、引き分けか。使えないやつらだ」
「ほんと、その通りだぜ。使えないやつらだ。ねー総帥」
「使えないのはお前だ」
「……はぁっ!?」
いや、この流れからしてなんで自分じゃないって思ったんだろう。
さあ始まるぞ。
暗部では恒例の『部下いびり』が。
「私は一流の選手を集めてこいと言ったはずだ。だが貴様が集めてきたのは全て二流。貴様自身も含めてな」
「二流……? この俺が二流だと!?」
いや、無理でしょそりゃ。
あの問題児たちはサッカーの技術だけなら日本トップクラスだ。
そもそも強い選手は雷門がスカウトしていってるわけだし、あれ以上のはこの国にはない。
総帥はこのバナナに、海を渡ってこいとでも言ってるのだろうか。
だけどまあ、不動が二流呼ばわりされてる件に関しては仕方がないと思う。
「不動。今日の試合の最初の失点。あれはあなたが勝利に徹すれば防げたはずだよ。そのことに関しての弁解は?」
「ぐっ……!」
「感情論だけで作戦を無下にする。二流呼ばわりも納得だよ」
一流を名乗りたいなら、まずはその低い沸点を上げることだ。
今回のことが教訓になってくれることを願う。
不動は今どきの日本では珍しい、ハングリー精神旺盛な選手だ。
技術面の才能も間違いなくある。
彼は将来、私のライバルの一人になる可能性は高い。
だからこそ、今日の試合で潰れないでほしいものだ。
「そういうテメェは、ビビって皇帝ペンギン1号を一回しか撃たなかったじゃねぇか! 偉そうに指図すんじゃねぇ!」
「私のポジション忘れたの? 私は守りにも参加しなきゃいけないから、無闇に体力を消耗するわけにはいかないの。あのシュートは最終手段だよ」
そう、それが皇帝ペンギン1号を乱用しない理由。
小学生時代の私はリベロじゃなくて、普通のフォワードだった。
だからあと先考えずにあの技を連発できたのだ。
だけど私にディフェンスの才能もあると発覚してからは、皇帝ペンギン1号は私のポテンシャルを最大限活かすための足かせになると判断して、封印していたのだ。
不動は憎々しげに私たちを睨んだあと、この部屋から飛び出していった。
これでいい。
しばらくの間、さよならだ。
『影山! そこにいるのはわかっているぞ!』
ふと、モニターからそんな声が聞こえてきた。
げっ、この声は鬼瓦刑事だ。
本当にしつこい人だ。ルパンを追いかける銭形みたい。
総帥はそれを聞いて、不敵な笑みを浮かべながら、なにかのボタンを押した。
——その後、艦内で爆発が起こった。
『自爆システムが作動しました。自爆システムが作動しました。自爆——』
「おいい!? なんでこんな機能ついてるのさ!?」
「退場は派手なものに限る。クックック……」
ガキか! そんなお約束ごとみたいなもの必要ないんだよ!
普段は型破りなことばっかしてるのに、どうしてこういう様式は守るのかなあ!?
『影山! 出てこい影山ぁ!』
声は上から聞こえてきた。
これは鬼道君だね。どうやらよじ登って、この潜水艦の頂上まで来たらしい。
総帥は上のハッチを開けると、座っていた椅子ごと上昇し始めた。
あの人の長話に付き合ってたら、逃げ遅れてしまう。
私は部屋を飛び出して、船底を目指した。
たしか、あそこには小型の潜水艦がある。以前渡されたマップデータにそう書かれていたはずだ。
脳内に残っている地図を頼りに突き進み、ようやく最下層にたどり着く。
潜水艦らしきものの前には、どうやってか総帥が立っていた。
「……総帥。とうとう人間をやめましたか」
「そんなわけがなかろう。私の椅子は、ここ最下層にもつながっているのだ」
なんだ、走って損した。
総帥は鬼道君と感動の別れをしてきたあとなのだろう。こうなるのなら、私も残ってればよかった。
総帥は潜水艦のドアを開け、中へ入り込む。
——そしてなぜか、それを閉めた。
「……えーと、総帥?」
「貴様には言い忘れていたな。予算の都合上、この潜水艦は一人乗りとなっている」
「……嘘だと言ってよバーニィ」
「誰だそいつは」
おいおいおいおいおいおいおい!?
嘘でしょ、冗談でしょ!?
まさかこんなところで、かの有名な『悪いなのび太、この潜水艦は一人乗りなんだ』をくらうことになるとは……。
そんな風に頭を抱える私に、総帥は、
「勉強になったな。現実は金に厳しい」
元はと言えば、全部あんたのせいでしょうが!
予算の都合って、絶対無駄にこだわったせいでしょ!? そうに違いない!
だから、あれだけ無駄遣いはやめろって言ったのにぃ!
総帥を乗せた潜水艦は、ちゃぽんと静かな音を立てて沈んでいってしまった。
それを追おうとしたとき、突如近くの壁が爆発した。
あー、これはもうあれだね。ダメっぽい。
せっかくなので、ここで辞世の句を一つ。
「恨んでやるぅぅぅぅっ!!」
俳句じゃないじゃんとかいうツッコミはいらない。
直後、私の足元が光に包まれ——。
——白が、視界を埋め尽くした。
爆発オチなんてサイテー!
ここでお知らせです。最近小説のストックが残り少なくなってきました。なのでこれからは毎日投稿を続けていけなくなるかもしれません。
もちろん、ストックがなくなるまでは続けていくつもりなので、ご安心とご了承をお願いします。今後の更新頻度などについてはストックが本当に切れたときに話そうと思います。