悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
こんなもんかな。
パソコンに選手情報が表示されていく。
いつもは寺門のところに私がいるんだけど、あいにくと今日は出れないから彼が代わりにいる。
後は変わらないかな。
いつも通り、5ー3ー2のバランスの良いオーソドックスな帝国スタイルだ。
対する雷門は4ー4ー2のこれまたバランスの良いベーシックか。
公式記録がないから一応未知数なんだけど……正直期待はできないそうにない。
これで負けたら廃部って聞くし、終わったら雷門中と交渉してトラクターを使わせてもらおう。ストレス発散に。
えっ、免許証持ってないだろって?
甘い甘い。
帝国学園ほどの闇となれば偽装パスポートはもちろん、免許証の一つや二つ発行することぐらいわけないのだ。
鬼道君がコイントスを拒否したため、ボールは自動的に雷門からになる。
そしてメガネ君からのキックオフで試合が始まった。
ボールはピンク髪のヤクザっぽい人に渡り、すぐにバックパスが繰り出される。
あの人は多分染岡だね。
敵チームの情報はだいたい部下の黒服の人たちから私に送られてきている。
素人ならぱっと見じゃ無理かもしれませんが、そこはデスクワークを第二の戦場にしてきた私。
流れるように表示される情報を全て頭にインプットすることができた。
さて、そんじゃ試合の続き。
染岡からのバックパスを松野が蹴り上げ、帝国コートに入った染岡に再び渡ることになる。
そこを狙ってトップの寺門と佐久間がスライディングを仕掛けるんだけど……やる気のカケラも感じられないね。
案の定避けられてしまった。
どうやら鬼道君たちは最初は相手に撃たせることにしたみたいだ。その証拠にディフェンス陣が全く走っていない。
それをチャンスと見たのか、パスをもらった風丸がぐんぐん動かないディフェンスを抜いて、ペナルティエリアへ侵入していく。
そこに近くにいた五条さんが立ち塞がるんだけど、相手はパスを細かく繋いでそこを避け、サイドに回してくる。
そしてボールを持った宍戸がコーナーエリア近くまで進み、そこからセンタリングを上げてきた。
そこを狙って半田が走り込み、頭から飛び込む。
しかしそれはフェイントだ。
ボールは半田の頭の上を行ってしまう。
そしてそこにはフリーになった染岡が。
「くらえ!」
足を振り上げ、シュートが放たれた。
コースはゴールバーギリギリのところ。
あまりサッカーを見たことがない雷門中の生徒たちはそれを見て決まった、とでも思っていただろうね。
しかしそれは起こり得ることのない未来だ。なぜなら—–—–。
「なにっ!?」
「ふっ……」
こちらには帝国が誇るキング・オブ・ゴールキーパー、源田がいるのだから。
彼は初めからフェイントに気づいていたのだ。
それに全国で鍛え上げられた源田にとって雷門のシュートなどスローモーションにしか見えないのだろう。
それを惜しかったと勘違いし、ため息をつく生徒たち。その声を押しのけて、源田の口が開いた。
「鬼道! 俺の仕事はここまでだ!」
そう言って源田は鬼道君にボールを投げた。
それを受け取り、彼は悪人面を加速させて笑みを浮かべる。
「さあ、始めようか……帝国のサッカーを」
ああ、とうとうやる気になっちゃったようだねありゃ。
「いけ」
そう言って寺門にパスが出される。
それを軽く受け取ると、ハーフラインすら超えていない距離でそのまま超ロングシュートを放った。
しかしそれでも、雑魚を狩るには十分だ。
あまりの威力にボールを掴んだはずの円堂君の手が弾かれ、彼ごとゴールに突き刺さる。
これで一点。帝国にボールが渡ってから数秒の出来事だ。
『円堂っ!』
雷門イレブンが円堂君の元に駆け寄っていく。
盛り上がっていた外野もこれには一気に沈み返ってしまったね。
それじゃあ、次は内野を黙らせるとしようか。
そこから先は到底試合と言えるものではなかった。
帝国の誰かがボールを持った瞬間にシュートが放たれる。たまに防ごうとする選手もいるけどお構いなしだ。
それらを全て吹き飛ばし、ボールは次々とゴールネットに突き刺さる。
そして前半が終わるころには10-0という絶望的な点差を生み出していた。
♦︎
『……奴はまだ動かないのか?』
「そうみたいですねー。もしかして去年に妹さんが事故になったのに何か負い目を感じてるとか?」
『“事故になった”ではなく“事故にした”の間違いでは?』
「私が悪いみたいに言わないでくださいよ。手配したのは私ですけど、総帥が命令したんじゃないですかやだなー」
『とにかく、後半は何をしてでも引きずり出せ。いいな?』
「りょーかい」
通信終了っと。
ケータイをしまい、みんなの様子を見る。
全員汗一つすらかいてない。まあ当たり前か。だって走ってすらないんだもん。でも後半はもうちょっと働いてもらわなきゃね。
「総帥はなんと?」
「何してもいいから後半はターゲットを必ず引きずり出せって」
「そうか。では副監督としてどのような命令を出すつもりだ?」
「決まってるでしょ」
帝国イレブン全員を見て、私は命令する。
「—–—–潰せ。跡形もなく叩き潰し、地獄絵図を作り上げろ」
「フッ……ではそうするとしようか」
鬼道君は三日月のように口角を歪める。
そして後半戦が始まる合図が出されると、みんなを連れてグラウンドに戻っていった。
さて、ここからが本番だ。帝国流のサッカー、とくとご覧あれ。
ホイッスルが鳴った。帝国ボールから後半戦が始まる。そしてキックオフしてすぐに、ボールは鬼道君に渡った。
「いくぞ。デスゾーン、開始……」
その声を合図に雷門側のコートを佐久間、寺門、洞面が駆け抜ける。
そして鬼道君はボールを空中に蹴りだしながら叫ぶ。
「そして奴を、引きずり出せぇ!」
上げられたボールを追うように佐久間、寺門、洞面が回転しながら天高く跳び上がる。
そして三人をつなぐように線が描かれて、三角形が出来上がる。
その中心部に浮かぶボールに紫色のパワーが込められ、三人は同時に両足の裏でそれを蹴り出した。
『デスゾーン!』
ボールは紫のオーラを纏いながらものすごい勢いで雷門ゴールへ向かっていく。
円堂君はそれを止めようとするが、一瞬で吹き飛ばされて、彼ごとネットをえぐるような勢いでゴールに入った。
さすが、現帝国イレブン最強の必殺シュート。
本来なら洞面の代わりに私がいるんだけど、それ抜きでも凄まじい威力だ。
それは直撃して俯けに倒れている円堂君が証明してくれているだろう。
「続けろ。奴をあぶり出すまで」
「……っ!」
鬼道君のその無慈悲な言葉に、木陰に隠れているターゲットが若干顔を歪めた。
いいね……あともう少しってとこかな。
「サイクロン!」
「う、ぐわァァァァァァ!?」
引き続き雷門ボールでキックオフ。
途端にDFの万丈が足を振り上げて竜巻を放ち、ボールを持っていた半田を空の旅に招待した。
そしてボールは寺門へ。
「百烈ショット!」
両足で交互に何度も踏みつけてのシュート。
もちろん円堂君は止められるはずもなくこれも得点になる。
そしてここから、地獄絵図が始まった。
「おらよっ!」
「えぐぅぅっ!!
「キラースライド!」
「ガァァァァァァァ!!」
『うわぁぁぁぁぁっ!!』
14点目。
「うがっ……!」
「ぐあぁぁぁ!!」
これで18点目。
帝国イレブンのラフプレーと必殺技が次々と雷門イレブンを打ち倒していく。
そしてとうとう立っているのは円堂君だけになってしまった。
鬼道君は手をピストルのように構え、彼を指差す。
「出てこいよ……出てこい! さもなくばあの最後の一人を、あいつを—–—–」
「—–—–叩きのめす!」
寺門がシュートを繰り出す。
それは円堂君の顔面にヒットしたが、バックスピンがかけられていたためゴールに入ることはなかった。
戻ってきたボールは佐久間の元に。
ダイレクトにそのまま打ち込み、寺門同様にボールが円堂君に当たって跳ね返ってくる。
これぞまさにリンチだね。
何度も何度も跳ね返ってきては打ち返す。
しかし……。
ちらりと木陰の方を見る。そこには先ほどよりも悔しげに歪めた少年の顔が見える。
あと少し、あと少しなんだよなぁ。
決定的な瞬間。
それさえあれば彼は出てきてくれるはず。
再三シュートが放たれる。
だが、今度は違った。
近くに立っていた風丸が円堂君を押しのけて身代わりになったんだ。
彼は顔面からボールをくらい、派手にゴールネットに吹き飛ばされる。
「風丸……お前の気持ち、受け取ったぜ……。このゴールだけは、絶対に守ってみせるっ!」
「フッ、一度として守れてはいないが、なっ!」
「百烈ショット!」
鬼道君がボールを空中に打ち上げ、再び寺門の百烈ショットが放たれた。
だが何度もくらったおかげで見えてきたのか、完璧なタイミングでボールを掴む。
だけど、彼の足腰の踏ん張りよりも百烈ショットの方が上だったようだ。
再び彼ごと吹き飛ばし、ゴールに入ってしまう。
これで19点目。
円堂君も力尽きたのか、ピクリとも動かない。
本当ならこのまま雷門のキックオフなんだけど……。
「あ、ぁぁ……いやだぁ! もうこんなのいやだぁ!」
なんとメガネ君が敵前逃亡。
誇りある10番のユニフォームを地に投げ捨て、遠くへと消えていった。
「これで、終わりかな……」
「まだだっ!」
私のつぶやきが聞こえたのかは知らないけど、たしかにその声は聞こえた。
「まだ……っ、終わってねぇぞっ!」
円堂君だ。ボロボロになりながらも立ち上がり、鬼のように必死な形相でボールを睨みつけている。
これには私のみならず、鬼道君も驚いたようだ。
いや、帝国イレブン全員がその異常さに目を見開いている。
「面白いね。だったら……」
私の口笛がグラウンドに響いた。
それを聞いた寺門は持っていたボールをフィールド外にわざと出す。それはベンチにいる私の元に転がってきた。
「—–—–私が直接引導をくれてあげるよ!」
つま先で軽く蹴り上げ、そこから思いっきりシュートを雷門ゴールへ向けて放つ。
それはこの試合で最も強烈だったと断言できるだろう。
風を纏い、地を砕きながらゴールへ、円堂君へ迫っていく。
しかし、それがゴールにたどり着くことはなかった。
「—–—–すまない夕香。今回だけ、お兄ちゃんを許してくれ……!」
ふと、そんな声が聞こえたかと思うと。
円堂君の前に白髪の誰かが立ち塞がった。
そして地面を削って後ずさりしながらもボールを足で受け止め——
「うぉぉぉぉぉっ!!」
「……マジ?」
——蹴り返してきた。
ボールは真っ直ぐに私の元へ。
右足を前に突き出して靴の裏で受け止めようとするけど、ボールの勢いはまるで止まることを知らないようだ。
先ほどの彼のように数メートル後ろに下がらされたところでボールはようやく失速し、黒煙を出しながら地面に転がる。
「出てきたね。炎のストライカー、豪炎寺修也!」
白くて逆立った特徴的な髪。
なによりもこの凄まじいキック力。
間違いない。彼こそが豪炎寺だ。
「待ちなさい! 君はうちのサッカー部じゃ……」
「構わないよ? 私たちは」
「し、しかしですね……」
「くどいよ? 私に二度同じことを言わせないでくれる?」
「ひ、ひぃ……!」
豪炎寺君の突然の介入に、冬海が抗議の声を上げた。
こっちはいいって言ってるのに、随分と名前の通りに不愉快にさせてくれるねぇ。
彼とは違って審判は帝国が雇った人だ。故に私の命令は絶対と理解しているのか、あっさり豪炎寺君の加入を認めてくれた。
「豪炎寺、やっぱり来てくれたか……」
「大丈夫か?」
「ああ……遅すぎるぜ、お前」
円堂君の笑顔に豪炎寺君は思わずフッとクールな笑みを浮かべた。
彼が加入して希望が湧いたのか、雷門中のメンバーも次々と立ち上がってくる。
「仕切り直しだよ鬼道君。もう一度あいつらに絶望を見せてやれ」
「ああ……言われなくてもだ」
キックオフして間もなく、辺見がスライディングで宍戸からボールを奪う。
「いけ……デスゾーン」
辺見がボールを高く打ち上げた。
それを追うように先ほどの佐久間、寺門、洞面の三人が飛び上がる。そして回転しながら三角形を描き、
『デスゾーン!』
デスゾーンが再び放たれた。
さて、豪炎寺君。君はどうやってこれを止めるつもりかな?
しかし彼が見せた答えは、私たちが思いもよらないものだった。
なんと、豪炎寺君は雷門ゴールに背を向けて、真っ直ぐに駆け出したのだ。
これは……敵前逃亡? いや、違う!
まさか、円堂君を信じてるとでもいうの……?
そして私の問いに答えるかのように、円堂君の体から気のオーラが溢れ出してきた。
徐々にそれらは彼の右手へと集中していく。
それを天に掲げると、神々しい光を放つ巨大な手が出現した。
「なっ……必殺技!?」
円堂君の光の手に当たったデスゾーンは徐々に勢いを失っていき、最後には完全に動かなくなった。
止められたのだ。
帝国最強のデスゾーンが、弱小チームのキーパーごときに。
「いけぇ、豪炎寺!」
円堂君からの特大スローイングが、動揺して動きが止まっている帝国イレブンの間を通っていく。
それを受け取った豪炎寺君はすぐさまヒールで空中に蹴り上げる。
そして跳躍と同時に足に炎を纏いながら回転し、ボールに蹴りを入れた。
「ファイアトルネード!」
炎のシュートが帝国ゴールを襲う。
源田が飛びつくも間に合わず、ボールはそのままゴールへ。
雷門の初得点。
誰もが唖然として押し黙る。
しかしその意味を理解すると、決壊したかのように円堂君たちはもちろん、観客までもが大歓声をあげた。
そんな騒ぎの中、私のポケットから場違いな電子音が鳴る。
着信は……総帥からか。
すぐにボタンを押して耳にそれを当てる。
『ここで終わりだ。データ収集は完了した。……スーパーストライカー、豪炎寺のシュート、少しも錆びついてはいない』
それだけを言い残すと、プチンという音とともに電話が切れた。
その後鬼道君の方を向くと、ふと目があった。
私が頷くと彼も頷き返してくる。
どうやら言いたいことは伝わってくれたらしい。
すぐに審判の元に向かうと、話をつけてくれた。
「た、たった今、帝国学園から試合放棄の申し出があり、ゲームはここで終了っ!」
「し、試合放棄!? だったら勝負はどうなるんだ!?」
「そちらの勝ちでいいよ? 私たちもやることはやったし、これ以上やっても利益なしだからね」
「……って、ことは俺たち……帝国に勝ったのかっ!!」
私の報告を聞いて「よっしゃぁぁぁぁ!!」という円堂君の嬉しそうな声を背にして、グラウンドから去っていく。
帝国イレブンは鬼道君の指示で私よりも先にバスに乗っていた。
総帥の姿も上には見当たらない。
最後に校門に差し掛かったところで、もう一度だけ振り向く。
円堂守。
豪炎寺君はもちろんそうだけど、今日一番の収穫は間違いなく彼だ。
彼がいなかったら豪炎寺君も来なかったし、そもそも試合すらできなかっただろう。
もしかしたら円堂君からは何か人を惹きつける不思議な力があるのかもしれない。
彼らはまだまだ弱小だ。だけどこれを機にどんどん強くなっていくことだろう。
そうしたらフットボールフロンティアにも出るのかな?
「ああ……楽しみだ……楽しみだな……」
帝国と互角になった雷門を想像してみる。
互いに激しくぶつかり合い、汗を弾かせて血を流し、魂を削り合う。
まさに生きるか死ぬか。
勝ち負けをかけて熱く戦うその光景を思い浮かべるだけで、思わず笑みがこぼれた。
それがどうか実現されますように。
そう願いながら、私はバスへと乗り込んだ。
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