悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
親の顔と同じくらい見たイナズマシンボルつきの鉄塔が流れていく。
真・帝国学園との激闘を終えたイナズマキャラバンは稲妻町へ帰ってきていた。
途中で御影専農の杉森と雷門の転校生であるシャドウと出会うという出来事があったものの、それ以外は特に何もなくキャラバンは雷門中の門を通り過ぎる。
ジェミニストームによって校舎が破壊されていた雷門中は現在工事の真っ最中だ。
あちこちに鉄骨の骨組みやクレーンなどの乗り物が置かれ、建築物はブルーシートで隠されていて見えなくなっていた。
「工事、いつ終わるのかな」
「だいぶかかりそうね。この戦いが終わる前にはできているといいんだけど……」
円堂の呟きに夏未が返す。
ブルーシート越しからでも枠組みらしきものは完成しているように見えるが、完成にはあと数ヶ月はかかりそうだ。
夏未は理事長の姿を見つけると顔を綻ばせて飛び出していってしまった。
キャラバンから全員が降りたところで理事長はわざと聞かせるように一度咳き込む。
「諸君、よくぞ戻ってきてくれた。夏未から報告を受けたが、真・帝国学園の件は私も驚かされたよ。苦しい戦いが続くと思うが、君たちならば必ず成し遂げられる。頑張ってくれ」
『はい!』
全員は気合の入った声で返事をした。
「とはいえ、休みも大切だ。短い時間だが、疲れた体を休めてくれたまえ」
「みんな、今から自由行動よ。各自家に帰ったりして、次の戦いの準備をしなさい」
その言葉で、今日は解散となった。
円堂は自分の荷物を下ろそうと、トランクを開ける。
すると、荷物の山の間に何かが挟まっているのに気がつく。
それは、桃色の美しい布だった。
鮮やかなその色は日光を受けて、キラキラと光り輝いている。まるでピンクダイヤモンドで作られた糸で編まれているようだった。
「わあ、綺麗な布ね! 誰のかしら?」
「うわっちょっ、押すなよ!」
夏未はそのあまりの美しさに円堂を押しのけて布に触った。
さらさらとした、心地よい手触り。
心なしか、桃の匂いまでしてくる。
滅多に見られないであろう高級品であることは円堂でもわかった。
しかし彼はそれを見て訝しんでいた。
どうしてか、あれに見覚えがあるような……。
というか、つい最近見たような……。
「きゃあああ!!」
そこまで考えたところで、夏未が悲鳴を上げた。
「どうした夏未!?」
「い、今荷物が……ゴソゴソって動いて……ひっ!」
震える声で説明している間にも、荷物の山はたしかに動いた。
涙目になった夏未は、可愛らしく円堂の後ろに隠れる。
「うわわわわっ! オバケぇぇぇっ!」
「ちょっ、壁山君……あっ」
同時にそれを見た壁山も、恐怖のあまりメガネに抱きついた。
プチっという音がした。
「みんな気をつけろ! なんかいるぞ!」
荷物の山の揺れがだんだんと強くなっていく。
中に潜む何かが、外へ出ようとしているのだ。
円堂は全員を庇うように前に立ち、ゴッドハンドの構えをとる。
もしかしたら宇宙人が潜入していたのかもしれない。
そうだったのならキャプテンとしてみんなを守らなければならない。
そう覚悟を決める円堂の足元にいくつかの荷物が転げ落ちる。
そして、中から姿を現したのは——。
「——ぷはっ。あー暑っ苦しい。クーラーないのここ?」
手で額の汗を拭う、なえだった。
あまりに間の抜けた言葉とその正体に、全員がずっこけた。
♦︎
昼寝をしていたらいつの間にか雷門中に着いていたようだ。
うーん、暖かい日差しが気持ちいい。
やっぱり外の空気は最高だね。
「……この縄さえなければ、もっとよかったんだけど」
「仕方ないだろ。エイリアの手がかりを持ってるかもしれないんだから」
私の愚痴を聞いた円堂君はそう返してくる。
白兎屋なえ、絶賛捕縛中でございます。
まさか暑さでクラクラしてた隙に捕まってしまうとは。一生の不覚だ。
あーあ、おニューの服にシワができちゃうよ。
ちなみに、私はもうユニフォームから私服に着替えていた。
夜、みんなが寝静まっている間に外に出て、部下から服を受け取っていたのだ。
「なんだか、試合中はあんなに怖かったのに……」
「いざこうして面と向かい合うと、緊張感が薄れるわね……」
と、マネージャーの春奈ちゃんと夏未ちゃんがため息をつく。
怖いとはなんだ怖いとは!
よく見てみなよ! このプリティーフェイスのどこが怖いって言うのさ!
雷門のみんなは初めは誰もが警戒していたのに、今じゃ脱力しきってしまっている。
警戒が解けたのはいいけど、なんだろうこの敗北感は。
「それで、結局お前はなにしにきたんだ。まさか、影山の指示というわけじゃないな?」
「違うよ鬼道君。ちょうどキャラバンが目の前にあったから、帰りのバスに利用させてもらっただけだよ。私も東京に戻りたかったしね」
「……それでトランクに乗り込むお前の思考が理解できない」
鬼道君は頭を抱えてしまった。
みんながウンウンとうなずいている。
まったく、失礼な人たちだ。
「まあまあ君たち。ここで時間を食っても仕方がないだろう。彼女への聞き込みは私に任せて、君たちはゆっくりと羽を休めるんだ」
「……そうだな。みんな、ここは理事長に任せようぜ!」
円堂君たちは私を雷門の理事長に引き渡したあと、蜘蛛の子を散らすようにさっさと校門から出ていってしまった。
遠くから『サッカー』、『河川敷』といった言った単語が聞こえてくる。
「えちょっ、待ってー! 私もサッカーしたいー!」
「……ここまでのんきだと、逆に感心してしまうよ」
みんながいなくなったあと、改めて理事長はこちらを見下ろしてきた。
第一印象は人の良さそうなオジさんかな。
だけど、理事長なんてやってるあたり、相当頭が切れるのだろう。
今も油断も隙も見せないで、私をじっと監視している。
正直、この人はちょっと苦手だ。というか負い目がある。
なにを隠そうこの人、実はサッカー協会の会長でもあるのだ。
そう、サッカー協会の会長。
私が世宇子にいたときに、『鉄骨落とし』の標的にした人だ。
怪我の後遺症なんて微塵も残っていないのがうかがえるけど、あまり気分のいいものではない。
「さて、白兎屋君。影山の部下である君に聞くのもなんだが、君にいくつか質問したいことがある」
「答えられる範囲でならいいよ」
もっとも、今の私は囚われの身なんだけど。
「影山が生きているのかを、まずは聞きたい」
「……さあ。わからないや。あの人、潜水艦の外装にお金かけすぎたせいで満足な脱出方法すら用意してなかったからね。おかげで私は爆発に巻き込まれて、海にドボンだよ」
もちろん嘘である。
総帥が生きているのは確実だ。
だけど、これに関しては話すつもりはない。
理事長はしばらく考えこんだあと、残念そうに頭をかいた。
どうやら拷問とかをするつもりはないらしいね。
お優しいことだ。
「うむ、では仕方がないな。次の質問だ。エイリア学園、このことについて君が知ってることを全て教えてくれ」
「それはいいけど、私の知ってることは少ないよ?」
「構わない。わずかな情報だけでいいんだ。ぜひ、教えてくれたまえ」
それじゃあさっそく。
そう思ったところで、体への締め付きが緩まったのを感じた。
「あーごめん、時間切れだわ。ロープ、もう抜け出せちゃった」
ロープを解いて理事長へと投げ渡す。
そう、なぜ私が律儀に質問に応答してやっていたかと思うと、縄抜けをする時間を稼ぐためだったのだ。
囚われたときの脱出方法ぐらい訓練してるんだよ。
理事長はそれを見て、少し困り顔になる。
しかしなっただけで、別段慌てているようには見えない。
「って、ずいぶん冷静だね。貴重な情報源が逃げちゃうんだよ?」
「たしかに情報が聞けないのは痛いが、私は娘と同い年の女の子を傷つけたくはないのだよ。顔向けができなくなってしまうからね」
ふ、懐が深すぎる……!
顔だけじゃなく心まで優しいとか、天使か? 天使かな? ……オジサンだけど。
なんで同年代なのに、私の上司はああなのか。
できるのなら入れ替わってほしいものだよ。
「それじゃあ、その寛大な御心に甘えて。今日はさよならさせてもらうよ」
一応警戒して、全速力で雷門中から出ていく。
でもやっぱり、理事長やその部下が追ってくるような気配はなかった。
ある程度走ったところで立ち止まる。
さて、これからどうしようか。
修行のために旅するのもいいけど、それには準備が必要だ。今すぐにはできない。
かといって、この町でやりたいことなんてないしなぁ。
そこでふと思い出す。
そういえば、さっきみんなが河川敷でサッカーって言ってたような。
よし、まずはそれを見に行こう。
スマホに地図を表示し、私は歩き出した。
ぐぎゅるるる、と腹が鳴った。
……方向転換。目標、マク●ナルド。
そういえば、感想で鬼道さんと教祖様が大怪我したと思っていた人がけっこういましたが、別にリタイヤとかはありません。
というか教祖様に至ってはキーグロが黒こげになるなんてほぼ日常茶飯事ですしね。鬼道さんもあくまで足が潰れたと錯覚するほどの激痛を感じただけで、実際には骨折などしておりません。
これに関しては「足が嫌な方向に曲がりかけていた」というところを間違えて「曲がっていた」と断言してしまった私のミスです。申し訳ございません。
ネタバレとか紛らわしいとかいろいろ言いたいことはあるでしょうが、現在ストックしてある話ではこれらのことについては一切説明していなかったので、ここに記述させてもらいました。ご了承ください。