悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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浪速のサッカー娘

「……なあ、本当にここであってるのか?」

 

 円堂君は眼前に広がる光景に困惑していた。

 エイリア学園のアジトの反応があると思われる場所へたどり着いたイナズマキャラバン。

 しかし、彼らの目の前に現れたのは、いかにもメカメカしい機械の群れ——ではなく、メルヘンな世界だった。

 

 そうです。ここはナニワランド。見ての通り、遊園地だ。

 

「間違いない。アジトはここ、ナニワランドのどこかにあるわ」

「と言われてもなぁ」

 

 まあ円堂君たちが戸惑うのも仕方がない。

 なにせここは見かけだけなら普通の遊園地なのだから。

 客も大勢いるし、ジェットコースターやフリードロップも動いている。

 どう考えても、アジトを建てるには不向きに見えるだろう。

 

 しかしそう思ってしまうところを逆手にとって、アジトは作られているのだ。

 この言いようからわかると思うけど、私はアジトがどこにあるか知っている。

 ただ、今ここで教えるのはちょっとためらわれた。

 だって円堂君のことだもの。場所なんて教えたら、すぐに突っ込んでいくに決まっている。

 そうなると、観光できる時間もなくなってしまうのだ。

 

 だってせっかく天下の台所って呼ばれている大阪に来たんだよ? 

 なにか食べなきゃ損じゃん。

 そんなわけで、今は黙っていることにした。

 

「とにかく、手分けして探すぞ」

「わかった。じゃあシロウ、さっそく……」

 

 シロウを誘おうと思い、振り向くと、いつの間にか彼の周りには見知らぬ女性が二人いた。

 

「怪しいアジトですね?」

「だったらあっちだと思います」

「うん、ありがとね」

 

 到着一分も経たずに現地民をナンパしちゃってるぅ!? 

 いつだ! いつからそんなチャラ男になってしまったんだ! 

 ああ、あの純粋だったシロウが! 

 

 彼はそのまま、二人に挟まれながらどっかへ行ってしまった。

 こうなったら仕方がない。鬼道君についていくことにしよう。

 

「って、あれ? 鬼道君は?」

「お兄ちゃんならもう行っちゃいましたよ」

 

 春奈ちゃんが答えてくれた。

 ジーザス! なんてこったい! 

 くそ、なんて薄情な幼馴染たちだ。

 私はまだチームに入って一日も経っていないのに。普通は馴染めるようにエスコートするでしょうが。

 

 まあ文句を言っても仕方がない。

 ここは円堂君と……。

 

「よっしゃ、行こうぜ!」

「円堂、あたしも行く!」

「ちょっと、円堂君!?」

「二人とも、待ちなさーい!」

 

 元気よく駆け出した円堂君と塔子と、それを追う秋ちゃんと夏未ちゃん。

 うわぁ、ああもみごとなハーレムは初めて見たよ。

 さすがは円堂君といったところか。

 ちなみに女子の呼び方が下の名前なのは、円堂君の呼び方を参考にしたからである。三人ともそっちのほうが慣れているようで、すぐに了承してくれた。

 

 ……じゃなくて! 

 ああもう! 円堂君まで行っちゃったじゃん! 

 

 こうなったら最終手段だ。

 誰でもいいから、そいつについていくことにしよう。

 そう決めた時には、周りには誰もいなくなっていた。

 

 どうやら私がグズグズしている間に、みんな行ってしまったらしい。

 ヒュルル、という冷たい風が吹いた。

 

 ……もういいや。私だって好きにやってやるさ。

 答えのわかってる探索は彼らに任せて、私は食べログで調べた店でも回ることにしよう。

 

 そんなわけで私はこっそりと出口と書かれたアーチをくぐり、外へと出ていった。

 

 

 ♦︎

 

 

 しばらく歩くと、商店街についた。

 巨大な蟹の看板とかが飾られていて、本当に大阪って感じだ。

 幸い私は金には困っていないので、どんなものでも食べることができるだろう。

 

 まずはお好み焼きだね。

 えーと、場所は……よかった。ここの近くのようだ。

 目当ての店にたどり着き、ガラガラと音を立てて戸を開ける。

 

「はーい、いらっしゃーい。何名さん?」

「私だけだよ」

「そんならカウンター席が空いとるから、座っとき」

 

 出迎えてくれたのはなんとなくギャルっぽいおばさんだった。

 私に顔を向けながらも、その下では両手に握ったてこを器用に動かしてお好み焼きを作っている。

 

 言われた通りにカウンター席に座って、お好み焼きを注文する。

 程なくして、出来上がったものが皿に乗せられて運ばれる。

 うむ、美味しい。さすがは食べログに乗るほどの店である。文句ない味だ。

 

 やがて半分ほど食べ終わったころ、乱暴に戸が開けられた。

 

「おかーちゃん、彼氏連れてきたでー!」

 

 おかーちゃんというのは店のおばさんのことだろう。

 ということは、あの女の子はこの人の娘か。

 その娘さんを一言で言うなら、ガングロギャルだった。

 生まれではなく、日焼けして顔から腕まで全て茶黒く色付けた肌。身につけているアクセサリーはキラキラしていて、化粧も濃い。

 

 そんな彼女に連れられて店に入ったのは——なんと一之瀬だった。

 

 いやお前何してるんだよ。真面目にアジト探してろよ。

 というかお前もか。お前も現地民ナンパしたのか。

 最近の子はずいぶんとマセているようである。

 

 っと、さすがに見つかりたくはないので、顔を逸らす。

 この目立つ髪色が心配だったけど、一之瀬は目の前のギャル娘に手一杯のようで、私に気づく様子はなかった。

 

 ギャル娘が厨房に消えてから数十分。

 彼女が再度姿を現したとき、その手で持ってる皿にはなんかめっちゃ豪華な盛り付けのされたお好み焼きが乗せてあった。

 なんだありゃ? メニューにもあんな美味しそうなの乗ってなかったぞ。伊勢海老みたいのとか乗ってるし、私も食べたいよ。

 

「お待たせ! リカ特製ラブラブ焼きや!」

 

 その味は見た目通りよかったらしく、がっつくような勢いで一之瀬はお好み焼きを食っていた。

 というかあの子はリカというようだ。

 

 気がつけば、私が食べ終わったころには一之瀬も箸を置いていた。

 食べるの早すぎである。よっぽど美味しかったのだろうか。

 耳を澄ませば、エイリア学園やらアジトやらの単語が聞こえてきた。

 どうやら彼は、聞き込みをしている最中だったらしい。だけど、そんな機密情報を容易に漏らすのはどうだろうか。

 

 そのとき、ガラガラという音が鳴った。

 戸が開いている。その奥には、円堂君を前に雷門メンバーが集結して店前に立っていた。

 

「あ、円堂!」

「こんなところにいたのか。それになえも」

「えっ、なえ?」

 

 一之瀬が慌ててこちらを見てくる。

 円堂君の目はごまかせなかったか。

 はあ、と観念して後ろに振り向いた。

 

「ヤッホー円堂君」

「お前ら、お好み焼き屋なんかでなにやってるんだ?」

「一之瀬は女の子ナンパしてここにきたみたいだよ。草食系な顔してやるときはやるもんだね」

「な、ナンパ……?」

「なっ、違うんだ秋! ……だいたい、君だってどうしてこんなところにいるんだ!?」

「えっ、あいや、私は私でここが怪しいと思って……」

 

 そのとき、外から強い風が吹き込んできた。

 それによって、私の席に置かれていた紙がはらりと円堂君たちのもとへ飛んでいってしまう。

 

「……あっ」

「……なんだこれ?」

「あー! これは食べログで紹介されてた有名な店の名前とその住所ッスよ!」

 

 円堂君を押しのけて、壁山がそう断言してきた。

 とたんに冷たい目線が私に殺到する。

 

「えーと、これはだね。その……そう、実はそこに書いてある場所全てがエイリア学園のアジトの可能性があるんだ!」

「そんなわけないだろぉ!!」

「もんぶらんっ!?」

 

 円堂君の豪快なスロー! 

 紙は私の顔に張り付いてなおその威力を伝え、私は倒れてしまった! 

 

「なんや、けっこう賑やかなお仲間さんなんやな」

「ハハ……。じゃあ俺はそろそろ行くよ」

 

 一之瀬はその一部始終に苦笑いしていた。

 彼が店を出ようとすると、その肩をリカは掴む。

 

「そうはいかへんで!」

「あそっか。お代がまだだったね」

「ちゃうちゃう。アンタ、うちの特製ラブラブ焼き食ったやろ? あれ食ったら結婚せなあかん決まりなんやで」

「けっ……!」

『結婚っ!?』

 

 お、おう……。

 これまたずいぶん超次元な発言をする人がいたことで。

 恋は押して押して押しまくるみたいなこと言ってるけど、これはもうつっぱりしすぎて土俵の外へ出ちゃってるよ。

 一之瀬はそれを聞いて、面白いくらいに顔を青くしていた。

 

「だ、だって、君はそんなこと一言も……!」

「当たり前やろが。言っとったら食わなかったやろ?」

 

 ここで人権侵害に加えて、まさかの詐欺が追加。

 法律という法律を飛び越えてきた私も、これにはびっくりである。

 

「まっ、そういうことやからエイリア学園だかなんかだ知らんけど、そいつらはアンタらだけで倒してな。ダーリンはうちとここで幸せな家庭を築く予定なんやってな」

「ダーリン!?」

 

 一之瀬の悲鳴にも似た声を無視して、リカは円堂君たちをちぎっては投げ、ちぎっては投げみたいな感じで次々と外へ追い出し始めた。

 一之瀬の救いを求める視線がこっちに寄せられる。

 

「なえ、助けてくれ!」

「しょーがないね。ここは私が……」

「あっ、なんや?」

「……どうぞご幸せに」

「この裏切り者ぉぉぉ!!」

 

 ハッハッハ! 

 あいにくと裏切ることには慣れているのでね! 何も感じないよ! 

 そんなわけで、一之瀬という尊い犠牲を払うことで私は無事生還することができのであった。

 

「さ、帰ろっか」

『待て待て待て!!』

 

 スタコラサッサとここから離れようとする私を、みんなが引き止めてくる。

 

「ここは放っておくのが一番だよ。面倒くさいし」

「そういうわけにはいかないだろ。このままだと一之瀬がチームを離れちゃうんだぞ」

「いやだってあのリカって子怖いんだもん」

 

 あれは総帥とは別で苦手なタイプだ。

 押しが強いというかなんというか。とにかく強引。非合理的ともいう。

 

『うわぁぁ! 円堂ぉぉぉ!!』

『ああーん! 待ってダーリンー!』

 

 戸一枚を挟んだ店内から、一之瀬の悲鳴が聞こえてきた。

 中のカオス具合が伺えるね。

 彼にはちょっと同情するよ。売ったのは私だけど。

 

「とにかく! もう一度店に入るぞ! 一之瀬を助けるんだ!」

 

 ゆ、勇者だ。勇者がここにいるよ。

 円堂君は果敢に魔界への門を開けようとする。

 しかしそのとき、突然横から現れた少女が円堂君を押しのけて、店の戸を開けた。

 

「なにするんだ!」

「なにって、リカ呼びに来たに決まっとるやろ」

 

 円堂君を押したのとは別の少女が代わりに答える。

 ふと横を見ると、十数人もの少女たちが雷門メンバーのとなりにいた。

 

「キュート!」

「シック!」

「クール!」

「うちらナニワのサッカー娘、大阪ギャルズCCC(トリプルシー)!」

 

 藪から棒に、少女たちは自分たちのことをそう名乗った。

 それにしても大阪ギャルズか。聞いたことはないはずだけど、あのピンク調のユニフォームはどっかで見たことがあるような……。

 ……そうだ思い出した! あれは監視カメラに映っていた侵入者のものと同じなんだ! 

 

 以前私がナニワ地下修練場を使っていたときに、監視カメラをしかけておいたの覚えているだろうか。

 後々になってその映像を確認したら、みごと彼女たちが特訓してる姿がバッチリ映っていたのだ。

 ということは彼女たち、サッカーの腕はかなりあるはず。

 ……ちょっといいこと思いついたかも。

 

 私が思考している間に、あっちはあっちで話がかなり進んでいたらしい。大阪ギャルズの女の子たちは一之瀬とリカを見てキャーキャー騒ぎまくっていた。

 

「どうするんスか? このままじゃ一之瀬さん本当にお好み焼き屋さんになっちゃうッスよ?」

「うーん、と言われてもな……」

「じゃあさ。サッカーで試合して、勝った方が一之瀬を好きにできるってのはどう?」

 

 私の提案に、全員の目が集中した。

 こうすれば合理的に試合をすることができる。

 せっかく見逃してあげてたんだし、その分のギャラはきっちり払ってもらわないとね。

 心の中で舌舐めずりをする。

 

「面白いな、それ。いいで、その話乗ったるわ」

 

 大阪ギャルズを代表するように、リカが店から出てきてそう答えた。

 その腕は一之瀬をプロレスしてるのかと錯覚するほどガッチリと絡んでいる。

 哀れ、彼の目からはすでにハイライトが消えていた。

 

「そうとなったらさっそく準備せな! ダーリン、行くでー!」

 

 リカの勢いに乗って、大阪ギャルズはどこかへ走り去っていってしまった。

 ……一之瀬も準備くらいさせてあげなよ。

 

「あんなこと言ってよかったのかな?」

「大丈夫です。 あっちは女子、それも地元チームですよ? 全国大会優勝の僕たちが負けるはずはありません。なえさんもそこを考えて、あんなことを言ったんですよ」」

「いや、そういうわけじゃないんだけどなぁ」

 

 ただ強い相手と戦いたかっただけだし。

 そんなことも露知らず、目金君は私の考えを勝手に推測して自慢げに語っていた。

 彼、あとで顔を青くしなければいいんだけど。

 

「まあどちらにしろ、あのチームに勝てなければイプシロンなんて夢のまた夢なのは確かだ。染岡も離脱したことだし、ここは一つチームの連携を再確認するのもいいだろう」

「鬼道……そうだな。じゃあ決まりだ!」

 

 これで、試合することは確定した。

 それはいいんだけど、一言尋ねていいかな? 

 

「……場所どこだろ?」

 

 

 その後、大阪ギャルズが迎えにくるまで、私たちは大阪の街を彷徨い続けるハメになった。

 

 

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