悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
試合は街外れにあるグラウンドで行われることとなった。
私たちはベンチを囲みながら、作戦会議をしている。
その中には一之瀬の姿もあった。ようやく帰してもらえたようだ。
「応援は任しときー!」
向こうのベンチでは、お好み焼き屋の店主さんがでっかい旗をブンブンと振り回してエールを送っている。
どうやらあの人、リカの母さんだったらしい。
それにしてもまだ始まってすらいないのに元気なものである。
「さーて、今日は私の雷門デビュー戦! シロウ、となりは任せたよ!」
「うん、一緒に風になろうね」
そのセリフ、まだ使ってたんだね。
厨二臭いからやめたほうがいいと忠告してたけど、まだ治ってなかったらしい。時期的にも今が一番暴走しやすいから、ちょっと心配である。
……エターナルブリザードなんてシュート持ってる時点で手遅れかも。
「でも、なえさんのユニフォームはまだできてないのよね。だから今日はちょっと……」
「心配ご無用だよ秋ちゃん! とりゃっ!」
肩の布を掴んで、一気に服を投げ捨てる。
その瞬間突風が巻き起こり、私の体をすっぽりと隠した。
やがて過ぎ去ったころ、私は黄色のユニフォームを着ていた。
「ふっふーん! 早着替えは裏社会のたしなみだよ!」
「そんな裏社会あってたまるか!?」
おっ、土門ナイスツッコミ。
でも本当のことなんだけどなぁ。
特にどこぞの極道世界では、幹部クラスはたとえスーツの下にシャツを着てようがなんだろうが、この0コンマ何秒かで上半身裸になれなければ一人前とは言えないほどだ。
「どうしたの、これ?」
「みんなだって好きなチームのユニフォームくらい持ってるでしょ? ちなみに素材から作った業者まで、全部同じものにしといたから、これは正真正銘本物の雷門ユニフォームだよ」
「影山の手先が雷門のファンって……」
ちなみに背番号は『
それを見たみんなは苦笑いをしていた。
ともかく、これで私も試合に出ることができる。
意気揚々とフィールドに入ろうとすると、目金君が待ったの声をかけてきた。
「ちょっといいですかね、なえさん。この試合、僕にフォワードをやらせてくれませんか?」
「ふぁっ?」
「ずいぶんとやる気じゃないか。どうしたんだ?」
「たまには体を動かしておかなければと思いましてね。それに相手は女子チーム。僕がけちょんけちょんに蹴散らしてあげますよ」
ハッハッハと高笑いする目金君。
その発言に私のみならず、みんながドン引きしていた。
「まあいいんじゃないか? 目金がやる気出すなんて珍しいしな」
「え、円堂君!? じゃあ私のポジションはどうなるのさ!?」
「なえさんはディフェンスもできましたよね。なら栗松君とかと変わってもらうのはどうでしょうか?」
「えっ、俺でやんすか?」
私はガッチリと栗松の両肩を掴み、逃げられないようにした。
あら、何故だか顔がすごく青ざめてらっしゃるぞ。
こういうときにはニッコリ笑顔でスマイルだ。
とたんに栗松君が泡を吹き出してしまった。
……解せぬ。
「……ハッ! 川の向こうでばあちゃんの姿が見えたでやんす」
「ねー、くーりーまーつーくーん? ポジション変わってよー?」
「ひっ、嫌でやんす! だいたい目金さんがフォワードやらなきゃいい話でしょ!?」
「だって円堂君が決めちゃったんだもん。その……文句とか言って嫌われちゃったらやだし……」
「そういうときだけモジモジしないでほしいでやんす!」
あーもーらちが開かないよこのままじゃ。
というわけで最終手段。
恐ろしく速い手刀を彼の首に叩き込む。
栗松は小さな悲鳴をあげたのち、轢かれたカエルのように倒れた。
「どうやら栗松は熱みたいだね。うん、ちょうどいいから私が出てあげるよ」
「……なあ、なえっていつもこんななのか?」
「ああ。とくに辺見がよくあんな感じで被害に遭っていた」
なんか円堂君がドン引きしてるような気がするけど、スルーだスルー。
……ちょこっと私の鋼メンタルにヒビが入った気がする。
そんなわけで、最終的なフォーメーションはこうなった。
4—4—2の『ベーシック』。
攻守ともにバランスのいい陣形。
今回の私はそこの右サイドバックである。
正直に言えばフォワードじゃないのは不服だけど、まあいざとなれば前に出ればいいだけだからよしとしよう。
対する相手さんは……なんかすっごいフォーメーションだった。
ポジションの比率はなんと2—3—5。
見間違いではない。5である。
相手チームは最前線にフォワードを5人も置いているのだ。
フォーメーション名は『スーパー☆5』と言うらしい。
ふざけた名前である。
ちなみに情報源は部下たちから。
総帥が逃げたあと、実は私みたいに置いてけぼりにされたやつらがけっこういたらしいのだ。それらの信用できる一部を雇い直したってわけ。
おかげで出費がまあまあ痛いけど、自由に動ける手駒は便利だからね。仕方がない。
キックオフとともに試合が始まった。
ボールは大阪ギャルズからである。
フォワードの御堂が軽やかなリズムとともに前進してくる。
「ふっ、そんなドリブルで抜こうなんて甘いんですよ! ……えっ?」
相手はボールを両足で挟むと、なんと連続で前方回転しながら前に進み出したのだ。
どこが『そんなドリブル』なのかな?
風丸が止めに入るけど、相手はあっさりと彼を飛び越えて、空中に浮いたままパスを出した。
その先にいたリカが、いきなりシュートを撃ってくる。
ロングシュート。おまけにコースは真ん中。
これなら助けに入る必要はないだろう。
そんな予想通り、円堂君はガッチリとボールをキャッチしてみせた。
だけど一連の動きを見て、雷門イレブンの顔色が変わった。
目金君なんかは自信満々だった分、青ざめちゃってすらいる。
「今のは……?」
「一之瀬もわかる? あの速攻。身体能力。そしてとっさのパスにも対応してみせる連携力。どう考えても地元レベルじゃない。生き残りたいんだったら、死ぬ気でやったほうがいいかもね」
「あの一瞬で、そこまで見抜けたのかい?」
「自慢じゃないけど、観察眼には自信があってね」
総帥のご機嫌を伺うために鍛え上げられた私の眼力はあらゆるものを見抜く。
たとえばサングラスの奥の瞳とか!
って、自慢してる場合じゃないかも。
円堂君のスローから試合は始まる。
だけどその後は終始大阪ギャルズペースだった。
たとえば土門。
相手がわざと倒れたのを見抜けず、ボールを騙し取られたり。
たとえば塔子。
大声で驚かせ、出来上がった一瞬の隙を突かれたり。
たとえば小暮。
自分の足の周りを縫うように動き回る相手の足とボールに惑わされ、バランスを崩してこけてしまったりと。
おそらく、大阪ギャルズは相手のペースを乱すのが抜群に得意なんだ。関西の人特有の押しの強さがそうさせるのだろう。
雷門はいいようにやられてばっかだった。
だけど、一之瀬だけは別みたい。
人生がかかってる分、そうとう気合が入っているのだろう。相手に惑わされずにしっかりとボールを奪ってみせた。
よし、ここだ。
私はフリーになってるスペースめがけて走り出す。
「一之瀬、こっちだよ!」
「えっ……?」
ん、なんだ?
一之瀬はなぜか私を見ると動きが鈍くなってしまった。
パスを出そうとしたけど、その前にカットされてしまう。
「しまった!」
「リカ、玲華!」
大阪ギャルズがボールを高く蹴り上げる。
するとリカと御堂の2トップは互いの手を組みながら跳躍し、ボールを蹴った。
『バタフライドリーム!』
まるで花畑を舞う蝶のように。
ボールはムチャクチャな軌道を描きながらゴールへ飛んでいく。
円堂君は爆裂パンチの構えを取ってるけど、この分じゃかわされてお終いだろう。
——しょうがないなぁ。
「——スピニングカットV3」
円堂君の必殺技が不発に終わったところで、衝撃波の壁がゴール前に発生した。
バタフライドリームはそれに弾かれ、地面に落ちる。
そのボールの上に、私の足が置かれた。
「なっ!? あいつ、さっきまで前にいたはずやんか!?」
「油断大敵だよ、円堂君」
「あ、ああ……。ありがとうな」
リカが驚いてるけど、私の足ならハーフラインも割ってない場所からゴール前に一瞬で戻ることなどお茶の子さいさいだ。
それじゃあ反撃といきますか。
蹴り上げたロングパスは、塔子に届いた。
とたんに音を置き去りにする感覚で走り出す。
彼女らの目には私が瞬間移動でもしたように見えたことだろう。
あっという間に塔子を追い越す。
「こっちだよ!」
「う、うん……!」
「グッドスメル!」
私にパスを出そうとしたとき、前にいた堀から煙が噴き出した。
それを吸った塔子は心地よさそうに眠ってしまう。
その隙にボールを取られてしまった。
っ、まただ。
私にボールを出そうとしたとき、彼女の動きが明らかに鈍くなった。
もしかしてと思い、みんなの顔を改めて眺める。
そして気づいた。
みんなの私を見る目に、若干の警戒があることに。
たぶん、私はまだ雷門イレブンに完全に信用されてはいないんだ。
もちろん円堂君や鬼道君は別だ。他のみんなも話しかけてきたりはするので、打ち解けようという気持ちはあるのだろう。
だけど私はずっと雷門と敵対してきたため、簡単には私への不安は拭えていないのだ。
その後も延々とボールを奪ってはパスを回し続けたけど、攻撃の波に乗ることは出来なくて試合は
そしてとうとうホイッスルが鳴り、攻めきれぬまま前半は終了を迎えてしまった。
スーパー☆5、好きな人多いはず。
というか私もこのフォーメーション愛用してました。
攻撃力がバカ高くてけっこう需要あるんですよね。