悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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幼馴染×幼馴染

 ハーフタイム中のみんなの顔は曇っていた。

 いいようにしてやられちゃったからね。特に地雷発言を繰り返してきた目金君は青ざめるを通り越して失神寸前に見える。

 対照的にあっちのベンチではリカのママさんが作ったお好み焼きが振る舞われていた。

 その様子を見つめていた土門がぼやく。

 

「嘘だろオイ。リードされて前半終了なんて」

「いや、強いよ彼女たち」

 

 ありえないとでも言ってるふうに聞こえる土門の言葉を風丸が否定する。

 そういえば彼、一番やられていたっけ。

 特に相手の『プリマドンナ』とかいう技をくらったときは、それはもう見事に抜かれていた。見事なフェイントすぎて、ガックリと口に出してしまってたし。

 中学生男子の純情を踏みにじる、素敵な技だったね。私が覚えたいくらいだ。

 目金君が弱々しい手で肩を叩いてくる。

 

「ん、どしたの目金君?」

「い、いやぁっ、僕も前半ではけっこう動いたものでしてね。君にそろそろ活躍の場を与えてあげようかと……」

「ほんと!? ありがと目金君!」

 

 みんなからの白い目線が目金君に突き刺さっていた。

 彼は耐えきれなくなったのか、ベンチの端に座って小さくなってしまった。

 

 まああれだけ大口叩いてこれなんだし、逃げ出したくもなるだろうね。

 でも彼のことは今は無視だ。ようやくフォワードができる。

 でもまあ、その前にみんなの信用を勝ち取るのが先か。

 

「うーん、どうしよっかなー」

「ふっ、ずいぶん悩んでいるようだななえ」

 

 私があれこれ模索していると、鬼道君が声をかけてきた。

 彼は「こっちにこい」と言い、ベンチから離れるように歩き出していく。

 特に断る理由もないので、彼についていくことにした。

 ある程度距離を取ったところで、鬼道君が振り返る。

 

「ここなら誰にも話を聞かれないだろう」

「あのー鬼道君、何を……?」

「お前はどうすればみんなと打ち解けることができるかで悩んでいるんだろ?」

 

 鬼道君はズバリと私の悩みを言い当てた。

 さすがだねぇ。

 

「俺もキャプテンをしていた身だ。試合とあいつらの様子を見れば、仲間のことはだいたいわかる」

「その割には私の裏切りに気付けなかったようだけど」

「耳が痛い話だな」

 

 私のブラックジョークを鬼道君に苦笑いした。

 それにしても彼はなぜ、こんなところに私を呼んだのだろうか。

 そう思い、聞いてみると、

 

「なに、少しお前に協力してやろうと思ってな」

 

 あっけらかんと、そう答えてみせた。

 

「協力? 鬼道君は私を憎んでないの?」

「たしかにお前のやってたことには頷きがたいが、それでも俺はお前がサッカーにだけは嘘をつかないことを知っている。なら、すぐにでも新戦力として迎え入れたほうが得だと思っただけだ」

 

 ゴーグル越しで彼の目は見えないが、それでも彼は本当のことを言っているのだと声色でわかった。

 この私を、信じられると。

 

「……ったく、素直じゃないね。でも、ありがとう」

「その話、僕も加えさせてよ」

 

 ひょいっとシロウが私たちの間に入ってきた。

 いつの間に、とは言わない。どうやら私は裏社会で気配探知を学んでおきながら、彼の接近に気づけないほど深く悩んでいたらしい。

 私が他人のことで考え込んじゃうなんてね。ちょっと恥ずかしいや。

 鬼道君はシロウの参加に頷いた。

 

「ああ。吹雪が加わればさらに良くなるだろう。ちょうどいい作戦があるしな」

「作戦?」

 

 鬼道君は私たちにその作戦とやらを伝えてきた。

 たしかに、これならみんなの信用を勝ち取れそうである。

 

 ベンチに戻り、私は心待ちにしながら、ハーフタイムが終わるのを待ち続けた。

 

 

 ♦︎

 

 

「とにかく、相手のペースに惑わされるな! 俺たちは俺たちのサッカーをするんだ!」

 

 背後から円堂君の声が聞こえてくる。

 くふっ、敵として聞いてきた言葉を改めて背中で受け止めてみると、重みが違うね。やる気がグンと出てきたよ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ホイッスルが鳴る。ボールは雷門からだ。

 シロウからボールを受け取り、とたんに私は走り出した。

 その身に黒いオーラを纏いながら、力強く踏み込む。

 

「——ライトニングアクセルV2」

「きゃっ!」

「はやっ!?」

 

 イナズママークを描きながらドリブルし、あっという間に二人を抜き去った。

 でもまだまだ敵はいる。

 襲いかかってくるミッド陣を前に、私は真横に鋭いパスを出す。

 

 それを受け取ったのはシロウだった。

 とっさに彼は形見のマフラーに触れる。すると雰囲気が変わり、シロウの中に眠るアツヤが出てきた。

 

「へっ、いいパスだ。いくぞオラァ!」

「競争か。負けないよ!」

「俺を忘れてもらっては困るな!」

 

 私、シロウ、鬼道君と。

 逆三角形のようなフォーメーションになりながら私たちは突き進んでいく。

 相手が近づいてきたらすぐさまパス。そのパスをさらにどちらかにつなげていき、次々と敵を抜いていく。

 

 まるで進む鳥籠。

 それは信頼し合っている者同士でないとできない、素晴らしいコンビネーションだった。

 

「す、すごい……」

 

 誰の口からそんな言葉が漏れたのかは知らない。

 ただ前に突き進んでいくのみ。

 そしてペナルティエリアに入ったとき、私とシロウは鬼道君にボールを残して前へと飛び出した。

 

 鬼道君が指笛を吹き、甲高い音が鳴り響く。

 地面から出てきたのは、五匹のペンギンたちだった。

 

「皇帝ペンギン——」

『——2号!!』

 

 鬼道君から飛んできたボールを私とシロウが同時に蹴りをたたき込み、さらに加速させる。

 ペンギンたちを引き連れたシュートが、ゴールへ向かった。

 

「花吹雪!」

 

 相手キーパーの土洲がどこからともなく突風を発生させるけど、私たち三人が連携したシュートは並大抵のものじゃ止まらない。

 泳ぐようにペンギンたちは風を突破し、ゴールに入っていった。

 

「すごいぜお前ら! いつの間に練習したんだ?」

「練習なんてしてないよ。ま、私たちにかかればこれくらい当然さ」

 

 雷門コートに戻ってきた私たちを円堂君が出迎えてくれた。

 その後ろにいるみんなは目を白黒させている。

 

「なえと鬼道たちが……シュートを撃った……?」

「す、すごいッス……!」

 

 二つの意味での驚き。

 土門と壁山はみんなの気持ちを代弁するように、そう呟いた。

 それをチャンスと見て、鬼道君が話し始めた。

 

「みんな、たしかになえは影山の手下だ。だがサッカーにだけは嘘をつかない。どうか信じてやってくれないか?」

「……そうだな。いつまでも意地張ってちゃ仕方ないしね」

 

 一之瀬は私の方に歩いてくると、片手を差し出してきた。

 

「いろいろあったけど、これからよろしく」

「……う、うん、よろしく」

 

 自分でもわかるくらい、私の声は震えていた。

 彼は訝しげな顔をする。

 

「どうかしたのか?」

「い、いやー。私、こんなふうに迎えられたことが初めてで、ちょっと恥ずかしくてね」

 

 今までは事務的で、チームに入るというよりかは配置されると言ったほうが正しかった。

 だからこんな暖かく迎えてもらえて、柄にもなく緊張してしまっているらしい。

 

「さあ、試合に戻ろう! 再開だ!」

「それはいいんだけどさ……」

「ん?」

「……今度はあっちにすごく睨まれてるんだけど」

 

 私が指差した先には、般若のような顔で私を見てくるリカがいた。

 こ、怖っ。目なんか凄みを帯びすぎて燃え盛っちゃってるし、体からはどこぞのヤサイ人みたいにオーラが溢れちゃってる。

 そしてドスドスという地響きを立てながらこちらに近づいてきた。

 

「ほぉ……? 人様の彼氏奪うたぁ、ええ度胸やな?」

「え、えーと、今のはただの握手じゃ……」

「白々しいわこのピンクお花畑頭! 清純そうな顔しといて、とんだビッチやな!」

「び、ビッチ!?」

 

 いくら私が裏社会出身だとしても、純潔ぐらいはちゃんと守ってるわ! 

 なんて言葉にしたいけど、今の彼女にそれを言ったらヤバい未来になるのは目に見えている。

 ここは嵐が過ぎ去るまで大人しくしておこう。

 

「まあまあ、今は試合中だからさ。ね?」

「ああんダーリン! その通りやなぁ!」

 

 リカはさっきとは打って変わってなだめにきた一之瀬の腕に飛びつき、抱きしめ始めた。

 ……なんかドッと疲れた。

 もう結婚してハネムーンにでも行ってくれ。

 私たちは逃げるように散り散りとなり、それぞれのポジションに着いた

 

 そんなこんなで試合が再会。

 とたんにリカが猛牛の如く私に突っ込んでくる。

 だけど、冷静さを失ってるんだったら逆にチャンスだ。

 

「真クイックド……」

「うぉぉぉぉぉ!! 負けへんでぇぇぇっ!!」

「もんぶらんっ!?」

 

 すれ違いざまにボールを掠め取ろうとしたら、何故か次の瞬間には空を舞っていた。

 嘘ぉん!? なに今の動き!? 

 そのままリカはゴールに突き進んでいき、必殺シュートを放った。

 

「くらえや! 怒りのローズスプラッシュ!」

「マジン・ザ・ハンド改!」

 

 うぉ……マジン・ザ・ハンドと拮抗してるぞ。

 バタフライドリームの比ではない威力だ。

 恋する乙女は怖いや。

 

 だけどそこは円堂君。

 リカの迫力にも負けず、きっちりボールをキャッチしてみせた。

 

 スローされたボールを土門が受け取り、それをさらに後ろまで戻ってきていた私に渡す。

 どうやら少しは信用してもらえたようだ。

 少し嬉しいけど、顔を綻ばせてる場合じゃない。

 私がボールを持ったとたん、リカが凄まじい勢いで襲いかかってきた。

 

「うおっと、あぶなっ!」

「ボールをよこせぇぇぇっ!!」

 

 間一髪かわすけど、このままじゃつたないね。

 しょうがない。それじゃあ彼女の問題は彼氏に解決してもらおうか。

 

「一之瀬!」

「っ、わかった!」

 

 私はボールを一之瀬へとパスした。

 とたんに怒りが消えたのか、リカの動きが鈍くなる。いや、元に戻ったと言うべきか。

 一之瀬はその隙にグングン前へ上がっていった。

 

 波寄せるディフェンスたちを必殺技も使わずに次々と抜いていく。

 勢いで振り切るのではなく、テクニックを使っている。

 真正面から相対したとき、ディフェンスというのは基本相手が前に進まないように動きながら隙を見て、まるでフェンシングのように足を突き出して一瞬でボールを奪う。だから一度奪うのに失敗すると足を引っ込めるのに数秒使ってしまうのだ。

 彼はその、相手が足を突き出してくるタイミングをズラすのが絶妙だ。

 伊達に海外でならしてるってわけじゃないね。

 

 とうとうキーパーと一対一となった。

 シュートチャンスだ。

 一之瀬は足元のボールを踏んづけるようにして回転させる。そして浮き上がったそれにボレーシュートを放った。

 

「スパイラルショット!」

 

 螺旋状の回転を帯びながら、弾丸のようにボールは突き進んでいく。

 

「花吹雪!」

 

 それを防ごうと突風が吹き荒れたが、逆にスパイラルショットの回転に吸収されてしまい、勢いが衰えることはなかった。

 そのまま巨体の土洲ごとネットに押し込むように、ボールはゴールへ突き刺さった。

 

 おお、あれは新必殺技だね。

 一之瀬は決めポーズのつもりか、私たちに向かってウィンクを決めた。キザったらしくても妙に似合ってる。イケメンは違うということか。

 みんなも同じことを思ったのか、苦笑いを浮かべていた。

 

「ああ〜んダーリン! やっぱ最高やー!」

 

 約一名、目をハートにして体をくねらせている人もいたけど。

 

 

 そんなこんなで、その後の試合は終始雷門ペースで進んでいった。

 もともと相手はこっちのリズムを狂わせるのがうまいというだけで、実力勝負になればこっちが有利なのだ。

 私やシロウ、そして一之瀬が積極的に決めていき、スコアは最終的に6対0で雷門が勝ったのであった。




 試合内容は大幅カットです。正直この試合はそこまで重要じゃないですしね。一之瀬が点決めた時点で勝負は決したようなものですから。
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