悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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地下修練場、再び

「よし、勝ったぞ!」

「これで一之瀬さん、お好み焼き屋さんにならなくてすんだッスねぇ!」

「よかったでヤンスぅ!」

 

 一之瀬の人生を決める戦いは雷門の勝利で終わった。

 そのことに歓喜して、壁山と栗松は涙をだらだらと流している。

 大げさな人たちだ。

 

「ダーリンやっぱ最高や! あんなサッカーができるなんて! もう一生離さへん〜!」

「えっ!?」

 

 だけど、リカはまだ諦めてはいなさそうだった。まるで白馬の王子でも見たかのように、目をキラキラさせている。

 一之瀬の受難はまだまだ続きそうだ。

 

 とはいえ、彼女も約束は守ってくれるはずだろう。むりやりここに残らせるなんてことはしないはずだ。

 一件落着である。

 

 と思ってたら、リカが私の方に歩いてきた。

 しばらくじっと見つめられる。気まずい雰囲気が流れた。

 何も言ってこないので、そろそろどうにかしようとしたとき、リカはおもむろに手を差し出してきた。

 

「まあ、ええサッカーやったで。女であんなすごいプレーするやつ、初めて見たわ」

「……くふっ、どうも。あなたこそ私を弾き飛ばしたときのタックル、見事だったよ」

「いや、あれはうちも無我夢中で……って、そんな話はどうでもええわ。あんたの実力は認めたる。せやけど、ダーリンのことは負けへんで」

 

 握手かと思ったけど、違ったらしい。リカはグッと拳を突き出して宣言してきた。

 ……やっぱり勘違いされてたか。

 このままじゃややこしくなりそうなので、早めに誤解を解いとくか。

 私は彼女の腕をそっと下させた。

 

「いや別に私、一之瀬のこと好きじゃないんだけど」

「えっ?」

「いやだから、誤解なんだって」

「……ホンマか?」

「うん、ホンマホンマ」

「……紛らわしいんじゃこのボケェ!」

「そげぶっ!?」

 

 リカの怒りの鉄槌が頭に叩き込まれた。

 り、理不尽だ……! 

 あまりの痛みに涙目になってしまう。

 くそぉっ、なんか頭から白い煙が出てる気がするよ。

 リカはハッとしたような顔をして、私に謝罪してきた。

 

「ご、ごめんな。うち、これが初恋やねん。だからあんたみたいな綺麗な子が近くにおったの見て、ついカッとなってまって……」

「謝るんなら拳を出さないでほしかったな……」

「それはツッコミや。拳ちゃうで」

「あ、そうですか……」

 

 謝るのか否定するのかどっちかにしなよ。なんかドッと疲れた。

 だけどまあ、そういう事情だったのならしょうがない。初恋というのは得てして暴走しやすいものらしいしね。

 特に彼女は中学生、思春期の真っ只中だ。

 怒るのは可哀想だろう。

 それに、私のこと綺麗って言ってくれたしね。

 

 私たちは最後に握手して、仲直りした。

 これで本当に一件落着だ。

 さて、目的を果たしたし、みんなを修練場に案内しよっかな。

 とか思ってたらいいタイミングで目金君が彼女らの強さには秘密があるのではないかと聞いていた。

 これに彼女たちは……。

 

「あ、ああー! 今日もええ天気やなー! あ、虎や!」

「ええっ、どこどこー!? って、虎が空飛ぶかいな!」

 

 なんていう、ギャグなのかどうかすら怪しいこと言ってキョどっていた。

 彼女たちは顔を見合わせて、こちらに聞こえないようにコソコソと話し始める。まあ読唇術使える私には無意味だけど。

 どうやら彼女たちは自分たちの秘密を話すかどうかで揉めているらしい。

 ちょうどいいや。あそこの関係者である以上、彼女たちにも説明しとく必要があったからね。

 

「残念だけど、あなたたちの秘密はバレバレだよ」

「えっ、な、なんのことや?」

「だからとぼけても無駄だって」

 

 スマホをいじくり、彼女らの前に見せつける。

 そこには修練場で特訓している大阪ギャルズの様子が映っていた。

 

「実は私、前からあなたたちのこと知ってたんだよね」

「そ、その映像は?」

「監視カメラからのだよ。()()()()()()、ね」

「げっ!? そんなもんあったんか!?」

 

 リカたちも不法侵入の自覚があったのか、その顔はどんどん青ざめていった。

 一方で円堂君たちはこの状況を見て、小首をかしげていた。

 

「えーと、何が起こってるんだ?」

「彼女たちはエイリア学園の特訓施設を使って練習してたんだよ」

「そっか! だからあんなに強かったんだな!」

「待てよ。なんでお前がそんなこと知ってるんだ?」

 

 円堂君は合点がいったとばかりに手を打った。しかし風丸は別の疑問が湧いたようで、質問してきた。

 まあ疑問に思うのも当たり前だ。

 特に隠す必要もないし、話すとするか。

 自分の荷物が入ったバックをあさり、私は一枚の書類を円堂君たちだけでなく、大阪ギャルズにも見えるように見せつけた。

 

「……これは?」

「土地の権利書だよ。私、ここ大阪にあるエイリア学園のアジトの管理を任されてるの」

『……え、えぇぇぇぇぇっ!!!』

 

 実は修練場に行く前に総帥からこれを渡されていたのだ。

 そのときは特に理由を話されなかったけど、今思えばいずれ消える自分の代わりに管理させるつもりだったのだろう。

 

 みんなは驚くばかりに、口をあんぐりと開けて顎を落としていた。

 くふっ、いいねその反応。隠していたかいがあったよ。

 

「そ、そんなのまで持ってるなんて……さすが影山の補佐というか何というか」

「あれ、欲しくなった? なんなら少し遅れたけど誕生日プレゼントがわりにあげてもいいよ?」

「……あれ、俺の誕生日をなんで知ってるんだ?」

「えっ、あっ、いやその……」

 

 げっ、喋りすぎた。

 これ以上余計なことに勘付かれる前に、なんとか笑顔でごまかす。

 

 さて話は逸れたけど、どうやら鬼道君だけは驚いていなかったようだ。

 彼との付き合いは長いからね。大阪ギャルズの映像を見せた時点でこうなることも予想されちゃってたかな。

 他のみんなが聞きたいであろうことを、彼は冷静に質問してくる。

 

「ということは、お前はエイリア学園のアジトがどこにあるのか知っていたということか?」

「うん、そーいうこと」

「なら教えてくれてもいいだろう。正直言って、この数時間はまったく無駄なものになったぞ」

「だって彼女たちと戦いたかったんだもーん。そのために彼女たちの不法侵入も不問にしてたんだから」

「……はぁ、お前というやつは……」

 

 怒る気も失せたようだ。彼は頭を抱えて、そのまま引き下がった。

 いまだボーとしてる人たちもいたので、パンパンと手を叩いて注目を集める。

 

 さて、じゃあみんなをナニワ地下修練場に案内してあげるとするか。

 

 

 ♦︎

 

 

 ナニワランドのとある建物。そこの裏口から入ると、壁に描かれた満面の星空が私たちを出迎えた。

 だけど私はそれを無視して突き進んでいき、カモフラージュされたレバーを下げる。

 すると私たちが立っていた場所が急に降下し始めた。

 

 そう、この床はエレベーターとなっている。

 円堂君たちはこの仕掛けにただただ驚くばかりだった。

 

「まさか、こんなのが遊園地の地下にあったなんて……」

「まだまだだよ。驚くのは——これを見てからにしたらどうかな?」

 

 エレベーターから降りてしばらく進んだ先に大きな自動ドアがたたずんでいる。それが開いた先には、巨大なトレーニングマシンが置かれていた。

 

「どう? けっこうイケてるでしょ。真・帝国学園のみんなも最初はここで特訓したんだよ」

「ああ、スゴそうなのはわかるんだけど……なんか、カラフルじゃないか?」

「……私だってこうなってるとは思わなかったよ」

 

 修練場がデコられていたのは前に使ったときから知ってたけど、その度合いが酷くなっていた。

 前はビーズとかだけだったのに、今じゃあちこちにペンキで可愛らしい落書きまでされてある。

 もう誰もここが日本中を恐怖に陥れているエイリア学園のアジトだとは思わないだろう。

 

「ここのトレーニングはけっこうきついで。うちらもそこそこ長く使うてるけど、まだマックスレベルまではいったことないんや」

「マックスレベル?」

「ああ、ここじゃあそれぞれのマシンに1から10までの難易度が設定されてるんだよ。レベルを上げていけばいくほど特訓もハードになって、ドンドン強くなっていくってわけ」

「へえ、面白そうだな! さっそくやってみるぜ!」

 

 円堂君は近くにあったいろいろ設定をいじくれる機会を操作して、スピードコースのマシンに乗ってしまった。

 えーと、難易度は……10!? 

 止めようとしたけどときすでに遅く、円堂君は派手に壁まで吹っ飛ばされてしまった。

 ——そのすぐ真横に、高速で飛んできたエイリアボールがめり込んだ。

 

「……あ、しまった。私全部の難易度の障害物をエイリアボールにしてたから、その設定がまだ残ってるんだ」

「そ、それを先に言ってくれ……」

 

 彼女たちは最高難易度をクリアしていないと言っていた。この様子じゃ、たぶんたどり着いてすらいないのだろう。

 あとでマシンの設定を書き換えなきゃ。

 

 そんな感じでトラブルはあったものの、雷門イレブンはここでイプシロン戦がある三週間後まで特訓することとなった。

 もちろん私もいっしょである。すでにここのマシンは全てクリアしてしまったとはいえ、それでもあのデザームには敵わなかったのだ。

 もっとシュートに磨きをかけなければならない。

 そう決意して、私は目の前のボールに蹴りをたたき込んだ。

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