悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「クハハハッ! 私にドリルスマッシャーまで使わせるとはな! 中々楽しませてくれるではないか!」
デザームの高笑いに歯ぎしりをする。
くそ、第二形態持ってるとか魔王かよあいつ。
というか冗談抜きでどうしよう。
私の見た限り、ダークサイドムーンはあのドリルスマッシャーとやらに完全に破られていた。数をいくら足しても入ることはないだろう。
でも、現時点で私以上のシュートを撃てる人なんてここにはいない。未来形で考えても、可能性がありそうなシロウは今ディフェンスだ。
っと、考えている場合じゃないね。
デザームによるロングスローはミッドであるメトロンのところまで届いた。
雷門ディフェンスは今の出来事に動揺してか、次々と抜かれていってしまう。
そして再びボールはゼルへ。
「ガニメデプロトン! ハァッ!」
「マジン・ザ・ハンド改!」
紫色のエネルギー破が再び放たれる。
しかし魔神の右手が揺らぐことはなかった。
特訓の成果が出ているね。マジン・ザ・ハンドのクオリティがずいぶん高くなっている。
これはもう少しで進化しそうだ。
雷門のカウンターが始まる。
起点は私。
得意のスピードで敵選手らをぐんぐん抜き去り、そのままデザームへシュート——。
「——なんてね」
せずにかかとでバックパス。
背後にはリカが走り込んできていた。
「ローズ……スプラッシュ!」
ダイレクトでの必殺シュート。
完璧な時差攻撃。
これならどうだ?
「フッ……」
だけどデザームはまるで嘲笑するように、リカのシュートを軽々と右手一つで止めてみせた。
しかも必殺技も使わず。
くっ……だめだ。シュートの威力が足りないのもあるけど、それ以上にデザーム自身が強すぎる。
こんなまやかし程度じゃ引っかかってくれないっていうことか。
だったら……!
デザームがボールを投擲する。
しかし私は自身のバネを最大限活かしてボールに飛びつき、奪いとった。
そのまま足に雷を纏いながらシュート体勢に入る。
「真ディバインアロー!」
乱れ突きならぬ乱れ蹴り。
何度も蹴りを叩き込み、エネルギーを注入していく。
そして止めに回し蹴りを当てたとたん、ボールはまるで光の矢のように高速でゴールへ飛んでいった。
「スピードで来たか。だが無駄なことだ。——ワームホ……なにっ?」
光の網がゴール前に展開される。
だけど私のシュートはその上を通り過ぎていき、バーに命中した。
反射されるように、ボールは弧を描きながら私の方へ戻ってくる。
『バー当て』。
帝国対雷門戦でも使った私の特技である。
でも今回撃つのは私じゃない。
宙に浮かぶターゲットめがけて、一之瀬が飛び上がった。
彼のヘディングがボールを捉える。
だけどその行先はゴールではなく、真下だ。
彼の足元には、鬼道君が走り込んできていた。
『ツインブースト!!』
二重のフェイントからのシュート。
これにはデザームも完全に引っかかっていた。
彼の目線が空中にいる一之瀬を見つめているうちに、ボールはゴールのサイドへ向かっていき——。
瞬間、ボールの軌道が重力で引っ張られているかのように捻じ曲がり、地面に落ちた。
いや、捻じ曲げられた。
ゴール前のデザームは、片足を突き出した状態で立っていた。その足元には半分以上地面にめり込んだボールがある。
叩き落としたのだ。
ツインブーストをあの足で。
それもあっけなく。
「フハハッ! 今のは惜しかったな。だが私は見ての通り長身だ。足の届く距離も当然長い」
届く距離って……鬼道君はポストすれすれの位置を狙ってたんだよ?
手足が長いだけじゃない。
左右への移動を高速でこなせるほどの下半身の強さ。
無敵か、こいつは。
その後は円堂君とデザーム、どちらも一歩も譲らない激しい攻防戦となった。
どちらかが撃っては止め、撃っては止めを繰り返し続ける。
お互いの武器は、それぞれの鉄の壁を崩すことはできなかった。
そして前半が幕を閉じ、試合はハーフタイムを挟むこととなった。
♦︎
「みんな、善戦どころか一歩リードしてるじゃないか! 勝てるぞこの試合!」
円堂君が励ましの声を私たちにかける。
だけど今回ばかりはみんなの表情は雲がかったままだった。
なにせ、私のシュートがああもあっさり止められちゃったからね。
それにたて続けに撃っても綻びができる気配すらない。
いくら先制点を取ったとは言え、これではみんな不安なのだろう。
こういうときは行動で示してみんなを勇気づけたいところだけど、それにはあのデザームを打ち破らなくてはならないので無理だ。
正直言って手詰まり。
あのあともできる限りのフェイントを混ぜ込んでたけど、あいつたとえ引っかかっても平気でボールキャッチしてくるんだもん。
「なえさん、あなたはそのままのポジションでいいわ。だけど主にディフェンスの方に集中して」
「だったらディフェンスでもいいんじゃないの?」
「あなたが一番前にいることで敵のフォワードに負担がかかるのよ。それにセンターには吹雪君もいるし、同じ箇所を守らせても意味がないから」
瞳子監督も守備を固めるのに賛成らしい。
だけど、心配なのはシロウだ。
誰も気づいていないけど、さっきからシロウになったりアツヤになったりと、頻繁に人格が交代していた。
幸い前半は何も起こらなかったけど……そろそろ疲れが出てくるころだ。何が起こるかわからない。
そんな不安を抱えたまま、ホイッスルが鳴った。
のっけから凄まじい攻防が再開する。
マキュアと私の肩がぶつかり合った。
互いに弾かれ、並行しながらグラウンドを駆けていく。
「ボールをよこせ!」
「腰が入ってないんだよ!」
今度は全体重をかけるように、彼女は勢いをつけて肩を突き出してきた。
今だ。
舞うようにそれを避ける。
そして目標を失った力に振り回されふらついたところを、逆に回り込んでタックルしてやった。
当然バランスなんて取れるわけもなく、マキュアは2、3メートルほど吹っ飛び、倒れる。
「カハッ……! マキュア、乱暴なやつ嫌い……!」
マキュアの憎しみが込められた言葉を受け流し、前へ進んでいく。
今のはファールスレスレだったね。
どうやらこの湧き立つような試合に、私自身もずいぶんとヒートアップしているらしい。
「真ジャッジスルー!」
「ごぐおっ!?」
ゴーグルを被った巨体、タイタンに蹴りを叩き込んでやれば、ゴール前だ。
いくよ……!
ボールを宙に打ち上げ、漆黒の月を作り出す。
「真ダークサイドムーン!!」
「ドリルスマッシャー!!」
数秒の均衡。
しかし、やはり鋼鉄のドリルを打ち砕くことはできず、またもや月に穴を空けられ、止められてしまった。
「ハッハッハ! この手が痺れる感覚……最高だ!」
デザームは裂けるかもしれないほど口を開き、獰猛な笑みを浮かべている。
……いや、デザームだけじゃない。
いつの間にかイプシロンの選手たち全員にも同じような笑みがあった。
円堂君がみんなの力を引き上げるように、デザームの行動が徐々に伝染していったのか。
あれほど優れたゴールキーパーだ。それぐらいできて不思議じゃない。
デザームのスローイングはミッドのファドラに渡った。
だけど大丈夫だ。あの位置にはシロウがいる。
「ゲヒヒヒヒャッ!!」
「——アイスグランド」
「ゲヒャッ!?」
気色悪く笑っていたファドラはたちまち氷漬けとなり、シロウがそのこぼれ球を拾った。
いいぞシロウ。そのままこっちに……!
そう思い、彼をよく見て気付いた。
シロウが、獣のように鋭い目つきになっていることに。
「いつまでチンタラ守ってんだよ!」
「っ、吹雪!?」
みんなからの制止の声も聞く耳を持たない。
吹き荒れる吹雪のように、一直線にゴールへと走っていく。
「邪魔だ! オーロラドリブル!」
シロウの背後にオーロラのような光が発生。
そのあまりの眩しさに目も開けられなくなり、敵ディフェンスのモールはそのまま突破された。
「完璧じゃなきゃ、俺はいる意味がねぇ!」
……前に聞いたときと同じ言葉だ。
『完璧』。
シロウがなぜこれにこだわっているのかはわからない。
だけどあの様子から並々ならぬ執着であることはわかる。
一人で突っ込んでいくシロウの前にタイタンとケイソンが立ちはだかる。
「撃たせろ! こいつは私が相手をする!」
が、デザームのその一声で二人はモーゼの滝の如く、道を開けた。
その行為にシロウの顔が歪む。
「このっ……舐め腐りやがってぇぇぇっ!!」
「さあこい! あれからどれだけ成長したか、私に味合わせろ!」
シロウが両足で挟んだボールを回転させ、冷気を集中させていく。
とたんに、彼の近くの地面が凍りつき始めた。
なんという冷気。まるで吹雪そのものだ。
そして一回り大きくなった氷結晶に渾身の回し蹴りを叩き込む。
「エターナルブリザードV2!! ——ハァァァッ!!」
「ドリルスマッシャー!」
進化したエターナルブリザードは見るからに凄まじい威力だった。
だけどだめだ。
デザームのドリルはびくともしていない。
やがて氷が砕け散り、中のボールが露出してしまう。その瞬間ボールはあっけなく上に弾かれ、デザームの手に落ちていった。
「この程度ではまだ足りないぞ。もっと魂を熱くさせるシュートを叩き込め!」
「なんだとぉ……!」
デザームはボールは足元に落とす。そしてバウンドした瞬間を見計らって、さらに加速させるように蹴った。
ドロップ式パントキック。主に遠くに飛ばすための蹴り方だ。
「しまった!」
重要なセンターディフェンスを任されていたシロウが前に出ている。つまりは真正面はガラ空きになっているということだ。
全速力で自陣へ戻っていく。だけどデザームの蹴ったボールは私よりも速かった。
「ガイアブレイクだ! 戦術時間は2コンマ7秒!」
『ラジャー!!』
遠くにいるはずに聞こえてきた指令にゼル、マキュア、メトロンの三人が答える。
三人の体から膨大なエネルギーが発生し、その影響でいくつもの岩石がボールへ引き寄せられていく。
『ガイアブレイク!!』
そして岩で固められたボールを蹴った瞬間、解き放たれたかのようにエネルギーを纏ったボールがゴールへ向かっていった。
その延長線上に小暮が立っていた。
彼は逆立ちになると、扇風機のように足を回転させ始める。
あれが噂の旋風陣か。
だけど技が完成するよりも早くボールは小暮の元にたどり着き、彼を円堂君のところまで吹き飛ばした。
「小暮!? ——ぐあっ!」
円堂君は飛んでくる小暮を受け止めようとする。
それが致命的となった。
人一人の体重を突然受け止めたことで彼はバランスを崩してしまう。
そこへガイアブレイクが迫り、小暮の背中をえぐりながら円堂君ごとゴールへ突き刺さった。
ようやく勢いの止まったボールがコロコロとグラウンドを転がる。
失点。これで同点だ。
恐れていたことが起きてしまった。
「あ、あぁ……! 俺のせいで……!」
事態の深刻さはなによりも張本人が知っているのだろう。
小暮は顔を真っ青にしながら泣きそうな顔をしていた。
だけど、円堂君はそんな彼の肩に手を置くと、
「時間はまだあるぞ。気にするな。走り続ければなんとかなるさ」
そう言って慰めてみせた。
小暮の表情が少し緩む。
それを見ていた他のメンバーの気持ちも和らいでいるように見えた。
「みんな、時間はあるぞ! 切り替えて行こうぜ!」
『おうっ!!』
全員のやる気が高まっているのが感じられる。
これだ。これでこそ雷門だ。
ピンチの時ほど強くなる。
私は幾度となく、彼らが奇跡の勝利を収めた瞬間を見てきた。
『バーニングフェイズ』発動。
反撃の時間がやってきた。
「ライトニングアクセルV3!」
前線のフォワード二人を抜き去り、ゴールを目指していく。
負けることを考えるな。
同点なんかクソくらえだ。
とにかく、ガムシャラでもいいから攻め続けろ。
決して諦めるな。
私の好きなイナズマイレブンはいつだってそうやって勝利をもぎ取ってきたじゃないか。
先ほどのガイアブレイクにも加わっていたメトロンがスライディングを仕掛けてくる。
両足でボールを挟みながらジャンプし、それを乗り越える。
「ギヒャヒャッ! もらったァ!」
しかしメトロンの後ろにいたファドラが飛びかかってきた。
空中じゃ身動きは取れない。そう考えたのだろう。
甘いんだよ。
私はかかと落としでボールを下に叩きつけると、ファドラの肩に手を当ててさらに高く跳躍した。
追いかけるように、バウンドしたボールが私のところまで上がってくる。
そこから見下ろし、フォワード陣が全員マークされていることに気がつく。
データ分析によると、イプシロンは相手のフォワードを封じ込める戦法を得意とするらしい。全員手慣れていることを感じさせる動きだ。
だけど私は知っている。ディフェンスでありながら、フォワードもこなせるやつを。
「シロウ!」
私は一見すると誰もいないであろう場所へパスを出した。
しかし空中にいた私には、シロウが猛スピードで上がって来ているのがはっきり見えたのだ。
フォワード潰しの陣形が仇となって、ディフェンスはガラ空きだ。
再び吹雪が吹き荒れる。
「エターナルブリザード……V3ィィィッ!!」
「ドリルスマッシャー!!」
だけど、シロウのシュートはまたもやドリルに弾かれてしまった。
シロウのエターナルブリザードはさっきよりも威力が上がっていた。
だけど、それ以上にドリルスマッシャーが圧倒的すぎるのだ。
「ぐっ……! チクショォォォォォォォォッ!!」
見ていられない。
悲痛と絶望の入り混じった声がこだまする。
「ハハハ! もっとだ! もっと滾らせろ!」
今度はイプシロンのカウンターだ。
ファドラが奇声を上げながら雷門陣へと切り込んでいく。
「させるかよ! ボルケイノカット!」
だけど土門の新必殺技が文字通り火を吹き、ボールはフィールド外まで弾かれた。
「くっ……やるな」
ファドラはそう言い残して去っていく。
攻撃は防いだけど、最後に土門の必殺技が外へ出た原因だったため、ボールはイプシロンからだ。
先ほどのファドラからの長いスローイングは、マキュアに届いた。
「今度こそ! 旋風陣!」
今度は小暮が前に出た。
逆立ちして足を扇風機のように振り回せば、周囲の風が踊り出す。それに引っ張られて彼女のボールは宙を舞い、小暮の足下に落ちた。
やっと調子が出てきたみたいだね。ここでも円堂君の言葉が効いている。
「一之瀬さん!」
「ああ、任せろ!」
小暮からのパスを受け取った一之瀬。
その横にリカが並んで走る。
「ダーリン、バタフライドリームいくで!」
「えっ、えぇ!?」
ひ、酷い無茶振りを見た……。
もちろん必殺技がそんな簡単にできるはずがない。
特にあのコンビじゃ一生かかってもできないような気がする。
一之瀬は困り果てたような顔をする。
しかし彼らの間を裂くように一陣の風が通り過ぎた。
「コラ返さんかうちらのラブラブボール!」
「へっ、点を決めなきゃいけねぇんだろ? いいから俺に任せろ!」
「吹雪、無茶だ!」
シロウのやつ、完全にアツヤに体を乗っ取られているね。
ああいう理不尽なところとかそっくりだ。
そして無鉄砲で、無謀なことも。
鬼道君の忠告を無視してシロウは突き進んでいく。
二人のディフェンスが立ちはだかったが、まるで槍のように猪突猛進して強引に壁を打ち破った。
だけどさすがに無理しすぎたのか、バランスを崩してしまう。
それを見てケイソンが動いた。
「——ヘビーベイビー」
「っなんだこれは……! ボールが……重い……!」
彼から黒い波動が発生し、ボールに纏わりつく。
とたんにそれは重力で引っ張られるように地面にめり込み、いくら蹴っても動かなくなってしまった。
しかしケイソンが蹴るとボールは元どおりに弾んで彼の前を転がり始める。
「っ、しまった……!」
……言わんこっちゃない。
いくらシロウでも相手は宇宙人なんだ。力押しが通じるわけがない。
彼が何を悩んで、どうして傷ついているのかは知らない。
だけど今の姿を見て、私の中で苛立ちが生まれた。
「止めといこうじゃないか! 5コンマ6、ガイアブレイク!」
『ラジャー!』
イプシロンによる連続パスがみんなを翻弄していく。
そして時間ぴったりでゴール前にボールがたどり着き、例の三人が並んだ。
『ガイアブレイク!!』
岩石の塊が弾け、中から凄まじいエネルギーを込められたボールが出てくる。
小暮のときでわかったけど、あのシュートは威力もさることながら、スピードもかなりある。
エネルギーを心臓から手に一度溜める必要があるマジン・ザ・ハンドじゃ間に合わない……!
「俺だって……負けていられないぜ!」
だけど円堂君は私の予想とは違ったことをした。
彼の気迫に応えるように、心臓から気の塊が飛び出したのだ。
それはひとしきり円堂君の周りを回転すると、自動的に彼の右手に宿る。
そして、魔神が生まれた。
「真……マジン・ザ・ハンドォォォッ!!」
溢れ出したエネルギーが雷と化し、魔神の右手に宿る。
それが叩きつけられ、ガイアブレイクは粉砕された。
残ったボールだけが、円堂君の手に収まる。
くふっ、ここできて進化か。
やっぱり円堂君は最高だ。
「吹雪、なえ! ラストチャンスだ!」
気がつけば時間も残りわずか。
円堂君から投げられたボールを受け取り、全力で駆ける。
彼だけじゃない。みんなの思いがこもったこのボール、必ず導いてみせる!
そう誓ったのも束の間、シロウがこちらにやってきた。
「俺にボールをよこせ!」
「嫌だね。これは大切なものなんだ。今のあなたには渡せない」
「いいから……よこせっつってんだよぉ!!」
あろうことか、シロウは私に対してタックルをしかけてきた。
その瞬間、何かが切れるような音が脳内でした。
「いい加減にしろ!」
「ぐごっ!?」
気がつけば、彼の腹にボールを叩き込んでいた。
シロウは腹を押さえながらその場にうずくまる。
獣のようにギラついた目が向けられた。
「何をしやがる!?」
「私は言ったよね? 全力を出さないやつを許さないって」
「俺はいつも全力だ!」
「仲間にパスも出さずに突っ込んでってボールを取られる。そんなのが全力? 笑わせないでよ。全力っていうのはね、自分の持っているあらゆる手段を尽くすことを言うの」
「っ……!」
「ギヒャヒャッ! お話なら試合後にするんだな!」
「……うるさい」
真ジャッジスルー。
飛びかかってきたファドラを避けて、その腹をボール越しに蹴り上げる。彼は断末魔をあげながら地面に倒れた。
どうやら長々と説教している暇はないらしい。
「シロウ、一か八かだけど私と一緒にエターナルブリザードを撃ってみるつもりはない?」
「……なんだと?」
「一人じゃどっちがやってもダメ。だったら二人がかりでいくのは道理でしょ?」
「だけどよ、そんな練習は……」
「染岡君の時は即興でできたらしいじゃん。だったら私でだってできるはず。彼の代わりにはならないけど、ここは私を信じてよ」
まっすぐ彼の瞳を見つめ、頭を下げる。
「ちっ、わーったよ! やればいいんだろやれば!」
「決まりだね。じゃあ行くよ!」
照れを隠すようにシロウは頭をかいていた。
くふっ、素直じゃないね。
私の説教が効いたのか、今の彼に先ほどの切羽詰まった雰囲気はなくなっていた。
言うが否や、私たちは同時に走り出した。
当然私がシロウに歩調を合わせれば、その分だけ遅くなる。
でも問題ない。そのデメリットを補って余りあるほどに、私たちの連携は完璧なんだから。
高速でのパス回し。
イプシロンのディフェンスたちはそれにただただ圧倒され、一度もボールに触れられなかった。
「いくよシロウ!」
「しっかり合わせろよ!」
ゴール前へ。
私は両足でボールを挟みながら宙返りし、上に投げ飛ばす。
それにシロウはかかとを落とすと、ボールはかつてないほどの吹雪を纏いながら巨大な氷の結晶と化していく。
そこへ私たちは同じく吹雪を身に纏いながら回転し——
『ホワイトダブルインパクトッ!!』
—— 左右で同時に結晶を蹴った。
瞬間、荒れ狂う吹雪がエンジンとなって氷結晶が発射された。
「ドリルスマッシャー!!」
デザームが出現させたドリルが盾となって、結晶とぶつかり合う。
火花の代わりにキラキラという雪結晶が舞う。
「フハハハハッ! 素晴らしい! 素晴らしい威力だ! だが私のドリルスマッシャーはそれすら上回る!」
「くふっ、そうだといいね」
「なにっ」
一瞬不思議そうな顔をしたけど、未だドリルとぶつかっている氷を見てやっと気づいたらしい。
氷の結晶が時間を増せば増すほど大きく成長していっていることに。
「ぐっ……! ぉぉぉおおおおおおっ!!」
デザームが必死な形相を浮かべながら手に力を込めるけど、もう遅い。結晶はドリルの大きさを完全に上回るほどになっていた。
徐々に、徐々にだけど氷のかけらに混じって鉛色の何かが飛び散っていくのが見えた。
嫌な音を立てながらどんどんドリルにひび割れが入っていく。
そして。
『いっけぇぇぇぇぇっ!!』
「バカな……!」
そのかけ声に呼応するようにドリルが砕け散った。
結晶はデザームを巻き込みながらネットに突き刺さり、そのままゴール全体を氷で埋め尽くした。
ネットに絡まりながら、空中で浮いているようにも見えるボールにみんなの目が集中する。
甲高い笛の音が三回聞こえた。
終わったのだ。試合が。
そして何よりも……私たちは勝ったのだ。
「やった……やったぁぁぁ!!」
我を忘れて子どものように叫んだ。
見れば他のみんなもそれぞれが抱き合って喜びを分かち合っている。
イプシロンとの長く険しい戦いは、こうして幕を閉じた。
初代しか見ていない人のための補足。
♦︎『ホワイトダブルインパクト』
初登場時はけっこう不評だった必殺技。というのも、アレスでは白恋対雷門戦の前の試合は世宇子で、そのときアフロディが新技『ゴッドノウズインパクト』を披露したため、名前がかぶったからだと思われる。ホワイトダブルブリザードでよかったじゃん。
ただモーションは普通にカッコいい。詳しくは自分で調べてみよう。