悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「終わったんだね……」
横からそんな声が聞こえてきた。
シロウはもう元の人格に戻っているらしい。
でもその表情はアツヤが浮かべていたのとは真逆で暗い。
「ん、なんか嬉しくなさそうだね」
「今日勝てたのはアツヤとなえちゃんのおかげだ。でも僕は……吹雪士郎はなにもできなかった」
「どっちもあなたなんじゃないの?」
「……うん、ごめん。うまく説明できないや。でも……なんか嫌なんだ」
彼は顔を俯かせたままグラウンドを出て行ってしまった。
そこに気づいているのは私以外誰もいない。
みんな勝利の喜びを分かち合うことで、いっぱいになっている。
追いかけようとはしなかった。
彼も一人で考えたいこともあるだろうし。
それに、私は円堂君と違って人の心ってものがよくわからない。
私が行っても慰めにもならない可能性が高いし、もしかしたら彼を傷つけてしまうかもしれない。
「ふ……フフフ。ハーッハッハッハッハッ!!」
そのとき、突然ゴール前で打ちひしがれていたはずのデザームが笑い出した。
あまりの声量に、反響したのも合わさって、グラウンド中が揺れたかのような錯覚を覚える。
「なにがおかしいんだ!?」
円堂君がそう問いかける。
デザームは狂気の笑みを一瞬で消し、とたんに殺気が込められた目で私たちを睨んできた。
「ドリルスマッシャーを破ったことは褒めてやろう。そして我らイプシロンに勝利したこともな。だが我々はさらなる鍛錬を積み、必ずやお前たちの前に再び姿を現す。そして円堂守、吹雪士郎、白兎屋なえ。貴様らを叩きのめしてやろう……!」
イプシロンのエイリアボールが一人でに浮き上がり、光を放ち始める。
それにデザームたちは包まれていった。
「っ、待て!」
円堂君が逃亡を阻止しようと光の中に突っ込んだけど、遅かったらしい。
光を突っ切った先に、イプシロンの姿はなかった。
「戦いはまだまだ続くのか……」
「また来ても返り討ちにしてあげるだけだよ」
というか来てくれなきゃ困る。
私だってあれだけ止められて悔しいわけじゃないんだ。
次こそはもっとスッゴイのぶち込んで、今度こそ一対一でデザームに勝ってみせる。
そのためにも、今やるべきことは一つだ。
切り替えるためにパンと頬を叩く。
「よし、さっそく特訓だ! デザームを倒すためにも付き合ってね?」
「任せろ! どっちが勝つか勝負だ!」
「お前たちの体力は無限なのか?」
鬼道君が呆れたような顔してるけど気にしない気にしない。
私たちはさっそくトレーニングルームに向かって走り出した。
♦︎
暗闇が統べる部屋にて、デザームは膝をつき頭を垂れていた。
かれこれこうして10分。
だがやめるわけにはいかない。
それが彼の最初の罰なのだから。
闇を切り裂き、三つのスポットライトが大理石でできた純白の塔を照らした。
その上には三人の男がたたずみ、デザームを見下ろしている。
スポットライトの色はそれぞれ青、赤、白。
そのうち青に照らされている男が口を開く。
「無様だねデザーム」
「申し訳ございません」
「敗者に存在価値はねえ。さっさと消えろ」
続いて赤の男が喋りだす。
その口調は、感情が感じられない平坦な前者とは真逆で、荒々しいものだった。
デザームはさらに頭を深く下げ、許しをこう。
「わかっております。しかし、私にもう一度だけチャンスをくださいっ! このままでは……雷門との真の決着をつけぬままでは終われないのですっ!」
「ハッ、知るかよそんなこと」
「君の気持ちがどうだろうが、我々には関係ないことだ。私情を挟むのはよしてくれないかな?」
「まあまあ二人とも、落ち着きなよ」
最後に白の男がなだめるように話した。
青と赤の男たちの殺気が彼に向けられる。
「グラン、テメェは敗者のケツ持つつもりか?」
「君は黙っててくれないかな」
「どうだろ? でもデザームはまだ全力で戦ったってわけじゃないんだろ? だったらまだ利用価値はあると思って」
しかし白い男——グランはそれらをどこ吹く風で受け流す。
その反応を見て、赤の男が露骨な舌打ちをした。
「ちっ、あちこち遊んでるかと思いきや、こういう時だけ口を挟んできやがって。テメェのそういうところが気にくわねえ」
「そんなにあの円堂ってやつが気になるのかい?」
「ああ。彼は実に面白い。それに、彼以外にもまた一人面白い子もいたしね」
「あぁ?」
赤の男は訳がわからず首を傾げた。
だが青の男は理解していたようだ。
「白兎屋なえのことか」
「あーあれか。ビデオ見たぜ。女のくせしてなかなか熱そうなやつだったな。まあ俺の紅蓮の炎には敵わねえが」
「わかってないなバーン。それは見かけだけだ。あの瞳は間違いなく凍てつく闇を宿しているよ」
「ああん? 俺の目が節穴だって言いてえのか?」
「もしかして自覚していなかったのかい?」
「テメェ……!」
「そこまでだ」
あわや一触即発のところで、グランが言葉を強めた。
二人は睨み合ったあと、互いに顔を背けた。
「ちっ、イライラするぜ。もういい、会議はここまでにさせてもらう」
「僕もだ。今日はもう話したい気分じゃなくなった」
「じゃあデザームの処分はどうするんだい?」
「テメェの好きにしろ」
二つのスポットライトが再び闇にかき消された。
残ったのはデザームとグランのみ。
デザームはこの会議中で初めて顔を上げた。
「感謝します、グラン様」
「いいよ。それにオレも本気のイプシロンと雷門が戦うのを見てみたかったしね」
「お任せください。次こそは必ず勝利を貴方様方に捧げさせてもらいましょう……!」
「期待しているよ」
最後にグランを照らしていたスポットライトまでもが消え去る。
こうして部屋は再び暗闇に閉ざされた。
今回は文字数がいつもより少ないです。
まあ前回が多かったので、釣り合いは取れているのかなと。