悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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目に見えぬ脅威

 イナズマキャラバンは大阪を出て、高速道路に乗っていた。

 流れる看板のほとんどには『福岡』という文字が描かれている。

 そう、私たちは福岡へ向かっている。

 そのわけとは——。

 

「じいちゃんのノートを手に入れるぞー!」

『おおーっ!!』

 

 まあ、一言で言っちゃこれだね。

 どうやら雷門の理事長さんから報告があって、円堂大介のノートが福岡の陽花戸中というところで発見されたらしい。

 

「んで、そのノートってなんなんや?」

 

 そんな中で新たに加わったメンバーは首を傾げていた。

 彼らを代表してリカが円堂君に尋ねる。

 

「ああ、俺のじいちゃんも昔はサッカーやっててさ。その時の必殺技がたくさんノートに書いてあるんだ」

「円堂たちはそれを見て次々と強敵を打ち破ってきたんだよ」

 

 円堂君はそう言って実際のものをみんなに見えるように掲げた。

 一之瀬が円堂君の説明を付け足す。

 ちなみに彼のとなりは土門だったんだけど、いつも通りリカの押しによって強引にその仲を引き裂かれてしまった。

 うんほんと、あれで怒らないとかいい性格してるよね。

 

 リカたちはそれを聞いてふむふむと納得する。

 ただ、小暮だけは不自然に笑っていて、円堂君の背後に忍び寄っていっている。

 そして一瞬の隙を突いて円堂君からノートを奪い取った。

 

「あ、小暮!」

「うしし、さーてどんなことが書かれ……はっ?」

 

 ノートを開いた次の瞬間、小暮は目を丸くした。

 その事情を知っている何人かは大声で笑った。

 もちろん私もだ。

 

「な、なんだよこれ! ただのラクガキじゃんか!」

「くふふっ、残念だったね小暮。それは円堂君にしか読めないんだよ」

 

 そう、なんと言ってもあのノート、字が汚すぎて円堂君しか読める人がいないのだ。

 その汚さと言ったら、スーパーコンピュータが計測不能になって爆発を起こしてしまうほど。

 ……そうだよ。一回興味心でコンピュータ使って壊したことあったんだよ!

 あれは痛い事件だった……主に私に懐の面で。

 

「あれ、なえにこれ見せたことあったっけ?」

「円堂君、そこは詮索しちゃだめだよ。乙女の秘密ってやつ」

「そ、そういうものなのか?」

「うんうん、そういうもの」

「……そっか。じゃあ仕方ないな!」

 

 円堂君がバカでよかった。

 私の巧みな話術によって、話題は別のものに切り替わっていく。

 ……女子陣からの視線が冷たくなったのは気のせいだろう。

 

「ねえお兄ちゃん、なえさんってキャプテンのこと知りすぎじゃない?」

「普段はバカっぽく見えるが、あいつはああ見えて情報を大切にするタイプだ。たぶん円堂の個人情報はあらかた目を通していると思うぞ」

「それってストーカーなんじゃ……」

「あれは女じゃないから大丈夫だ」

 

 ゴーグルかち割るぞクソドレッド。

 

 とまあアクシデントはいろいろあったものの、その後は特に盛り上がることもなくバスは進んでいった。

 そしてとうとう高速道路を降りて、福岡の街にたどり着いたのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

 やってきた福岡は、なんというかレトロな雰囲気の街並みだった。

 ビルなんかは一切見当たらず、どの建物も小さくて錆が至るところに見える。

 それに路面電車なんて初めてみたぞ。

 まあ目的地の陽花戸中は都市とは離れているらしいし、こんなもんか。

 

「なんだかタイムスリップしたみたいだね」

 

 となりのシロウが話しかけてくる。

 

「いかにも昭和って感じだからね。まあ見た限り、いかついヤーさんとかがあちこちたむろしてなくてよかったよ」

 

 ちなみにヤーさんとはヤクザのことである。

 なにせここは福岡。ヤクザの総本山だ。

 私の取引先の知り合いの何人かは福岡出身だし、とある西の組織の一強時代が続いている今、ヤクザといえばこの県を思い浮かべる人も多いだろう。

 それゆえにこの県は『修羅の国』なんて呼ばれたりする。

 だから少し心配だったのだ。

 

 しばらくすると陽花戸中らしき学校が見えてきた。

 イナズマキャラバンはそこの駐車場へ停車する。

 

「到着だ! 早くじいちゃんのノートを見に行こうぜ!」

「ちょっと円堂君、待ちなさいったら!」

 

 円堂君はさっそくキャラバンから飛び出してしまった。

 夏未ちゃんがそのあとを追っていく。

 青春だねぇ。

 っと、そこで窓からふくよかなおじいちゃんが近づいてくるのが見えた。

 

「監督、あの人は?」

「この陽花戸中の校長先生よ。私が話をしてくるから、みんなはここでおとなしくしててちょうだい」

 

 そう言って瞳子監督は出て行ってしまった。

 そして円堂君と夏未ちゃんを交えて会話し始める。

 その唇の動きを私はじっと見つめる。

 

 ……だいたいわかったよ。

 どうやらあの人、円堂大介の親友なんだそうだ。

 円堂大介は実は福岡出身で、中学生の時に雷門に転校したと。

 知っての通り、私は読唇術が使える。

 それで会話内容を盗み聞きさせてもらった。

 そしてこれで、どうしてノートがこんな古ぼけた街の学校にあるのかも合点がいったよ。

 

 その他にも夏未ちゃんと校長が昔からの知り合いだったりと、情報はそれなりにあったけど特に重要そうなものは見つからなかった。

 しばらくしてキャラバンのドアが開かれ、監督が戻ってくる。

 

「中で校長先生と話すことになったわ。みんなは外に出て、体でもほぐしておいて

 

 ようするに自由時間だね。

 みんなはキャラバンから出ると、それぞれの荷物を引っ張り出し始める。

 

「うーん、体でもほぐしてろって言われたけど……正直暇じゃない?」

「そう何時間も話すわけではないだろう。我慢するんだな」

「ぶーぶー」

「ひっ……! なえさんの体がぐにゃぐにゃになってるッスぅっ!?」

 

 鬼道君と会話しながら柔軟してたら、なんか壁山が私を見るなり泡吹いて気絶してしまった。

 

「まったく失礼な人だね。鬼道君もそう思わない?」

「いや……帝国時代から思ってたんだが、もう少し普通に柔軟をできないのか?」

「だってこれくらいやらないとぬるいんだもん」

 

 ちなみに今私の体がどうなっているかは絵面的にも気持ち悪いものなので、省略させていただこう。

 柔軟を終え、普通に立ち上がる。

 しかし監督たちの話はまだ終わっていないようだった。

 

 どうするかね、これから。

 練習するのもいいけど、せっかく新天地に来たんだからそれらしいことをしたいな。

 たとえば観光とか。

 というかもう観光でいいじゃん。

 というわけで、学校の敷地外に向かって走り出す。

 

「おいなえ! どこへ行く!?」

「ちょっと観光ー! 瞳子監督にはそう言っておいてー!」

 

 これでよしと。

 福岡の名物ってなんだっけな。

 名物じゃなくても、こんな古ぼけた街なんだ。都会じゃ見れないものとかもいっぱいあるはず。

 そんな風に妄想を膨らませながら、学校の壁を跳躍して乗り越え、街へと出ていった。

 

 

 ♦︎

 

 

 やっぱり思った通りだった。

 豊作だ豊作。

 私は両腕いっぱいにぶら下げた紙袋を揺らしながら、上機嫌で陽花戸に向かっていた。

 この街には都会にはないレアな駄菓子が大量にあったのだ。

 明らかにゲテモノが多かったけど、珍味ということで全部買っておいた。

 不味かったらみんなや部下たちに食わせればいいしね。

 

 ルンルンルンっと。

 スキップする音がよく響く。

 ここには人っ子一人いないようだった。

 

 ……おかしい。今は真昼だ。

 別に今歩いているのが裏路地ってわけでもない。

 現に行きは人がそこそこいた。

 なのに数時間も経たないで、人の気がまったくなくなるなんてことがあるのだろうか。

 

 そう思った時には、スカートの中に隠していたハンドガンとコンバットナイフを抜いていた。

 私だって裏社会の人間だ。これくらいの備えは当然している。

 

 しばらく沈黙して、辺りを伺う。

 すると電柱の影になっている場所から拍手が聞こえてきた。

 

「すごいね。まるで本物の軍人みたいだったよ。でもその物騒なものはしまってほしいかな」

「……なんだヒロトか。警戒して損した」

「一応オレも君たちの敵なんだけどなぁ」

 

 電柱から現れたのはいつか出会った赤髪の男、基山ヒロトだった。

 彼が両手を上げているのをみて、すぐに武器をしまう。

 その光景を見てヒロトはため息をつく。

 

「はぁ。前から思ってたんだけど、君はもうちょっと恥じらいってものを持ったほうがいいよ」

「大丈夫大丈夫。そーゆーのは計算してギリギリ見えないように動いてるから」

「そういう問題じゃないんだけどね」

 

 というか恥じらいなんてものはアマゾンの大森林でサバイバルさせられた時に捨てたわ。

 いくら修行のためとはいえ、小学生をガイドなしで放り込んだ時はさすがの私も総帥にキレたね。

 このことはもちろん『総帥絶対許さないリスト34ページ』にも書き残してある。

 

 っと、話が脱線しちゃった。

 

「で、エイリア学園が私になんのよう? 言っとくけどスカウトは事務所を通してからにしてよ」

「事務所あるのかい?」

「真・帝国学園」

「海に沈んでるよ!? どうやって話すればいいの!?」

 

 まあ要するにお断りってことだ。

 それに、前にも言ったけどあんなピチピチスーツ着たくないし。

 

「今日は残念ながらそういうのじゃないんだ。どっちかというと、君というか雷門全体に用がある」

「なんだ。じゃあちょうどいいし、案内してあげよっか?」

「いや、いいよ。それにオレはエイリアだしね。真昼から堂々と行くのは遠慮しておくよ」

 

 そっか。

 まあよくよく考えたら、このまま案内してたら私がエイリアを連れてきたってことになっちゃうし、これでよかったのかもしれない。

 

 もう話すこともないようなので、私は振り返り、陽花戸中に戻ろうとする。

 そのとき、後ろから声がかけられた。

 

「あ、そうそう。次の戦いの準備を早めにしておいたほうがいいよ。今の君たちじゃ、オレのチームには手も足も出ないと思うからね」

「それはどういう……っ」

 

 バッと勢いよく振り返る。

 そこにヒロトの姿はなかった。

 

 あの口ぶり……もしかして彼は雷門に勝負を挑むつもりなのか?

 しかもイプシロンを倒した私たち相手に手も足も出ないと断言してみせた。

 やっぱり存在していたのか。

 イプシロンよりも強いチームは。

 そしてそのチームにいるのがヒロトなのだと確信する。

 

 ……どうする? 報告すべきかな?

 いや、イプシロンとの決着もまだ付いていない状態でそんなの知ったら、戦意を喪失する人も出てしまうかもしれない。

 それはダメだ。

 

 結局、私はこの恐ろしい事実を黙っておくことにした。

 それがのちに悲劇を引き起こすことになるとは知らずに。

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