悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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新たなる才能

 

 

 陽花戸中に戻ってきたら、グラウンドに円堂君を含めたみんなが集まっていた。

 彼らの周りにははっぴみたいなユニフォームを着た人たちがいる。

 たぶん彼らがここのサッカー部なのだろう。

 

「ヤッホー円堂君。ノートはあった?」

「ああ、あったぜ。それよりもどこに行ってたんだよお前」

「いろいろとね。お土産あげるから許してよ」

 

 紙袋の中から駄菓子を取り出して、円堂君に投げ渡す。

 ちょうどいいので、他のみんなにも配るとしよう。

 

「あ、ありがとうございますッス!」

「へー、アメリカじゃこんなの見たことないよ」

「……なんで俺だけ焼き栗なんでヤンスか?」

「まったく、しょうがないなあお前は」

 

 円堂君は呆れたようにため息をついた。

 ちなみに焼き栗は帰り道で買ったものである。

 秋でもないのにこんなものが売ってるのは珍しいので、つい財布の紐を緩めてしまった。

 

「そうだ、紹介するよ。陽花戸中のキャプテンの戸田と、キーパーの立向居だ」

「戸田だ。そして後ろにいるのが俺のチームメイト。あの『神姫(ゴッドプリンセス)』に会えるなんて光栄だよ」

「こいつら全員、俺たち雷門のファンなんだってさ」

「へー、円堂大介のノートがある学校に雷門イレブンのファンか。運命ってやつを感じちゃうね」

 

 バンダナを頭に巻いている男、戸田が手を差し出してきたので握手する。

 立向居って子とも握手しようとしたんだけど……なんか手を出した途端に小動物のようにすぐ円堂君の後ろへ隠れられてしまった。

 

「え、えーと。私なんかしたっけ?」

「あ、ご、ごめんなさい! つい反射で! 映像の中の白兎屋さんってすごく怖くて、そういうイメージがあったんです!」

「いや、嫌われてないならいいよ。それと名字で呼ぶのはやめてほしいな」

「そ、そうですか……」

 

 改めて立向居と握手する。

 しかし彼は関節が石になってしまったかのようにガチガチになってしまっていた。

 

「私、そんなに怖いかな……?」

「今までの自分の試合を見返してみろ」

 

 鬼道君に言われて振り返ってみる。

 ……うん、全国大会の時だけでもけっこうやらかしてるな、私。

 雷門戦に限らずとも、世宇子にいた時なんか試合のたびに相手選手全員を病院送りにしてたし、彼らが恐れるのもうなずける。

 ま、反省はしないけど。

 でも彼、パッとしなさそうだし、正直あんまり興味ないかな。

 

「立向居はああ見えてゴッドハンドが使えるんだぜ」

「……へえ。面白そうじゃん」

 

 しかし、その言葉が私の興味を引き戻した。

 舐め回すように足から頭までを観察する。

 彼は今までとは違う私の様子にたじたじになって、うろたえる。

 

 なるほど、よく見ればいい体つきだ。

 小柄に見えるけど体全体、特にキーパーの必殺技の土台となる腰回りがよく引き締まってる。

 なによりもあの両手。

 何度も何度も皮が剥けてズタボロになっているのが一目でわかる。

 円堂君のにそっくりだ。

 

 私は円堂君の方に顔を向ける。

 

「え、えっと、あの……」

「円堂君。これからの予定は?」

「陽花戸のみんなと合同練習するつもりだ」

「そっか。じゃあ立向居、私と練習してみない?」

「え……? ええぇぇぇっ!?」

 

 何をそんなに驚いてるんだか。

 立向居があたふたしている様を見てくすりと笑う。

 

「い、いくらゴッドハンドが使えても、なえさんのシュートは無理ですよ……!」

「へー、あなた止められるシュートの時しか練習しないんだ。そんなんで円堂君に追いつけると思う?」

「ハッ……やります! いえ、やらせてください!」

「それでいい」

 

 円堂君を引き合いに出すと、彼は目に見えてやる気を出した。

 うん、単純だね。

 まああの挑発に乗らなかったら乗らなかったで、その瞬間に私は彼をサッカー選手失格として見なしただろうし、これでいいんだけど。

 

「なえさん、立向居をよろしくお願いします。悔しいけど、俺たちじゃあいつから点を取るのは難しいんです。だから今回の練習はあいつにとっていいものになると思います」

「くふっ、任せておいてよ。このサッカーの女神にね」

 

 戸田の頼みに、私はサムズアップして答えてやった。

 

 その後、各自の準備が整い、合同練習が始まる。

 

「さて、いくとするよ」

「お願いします!」

 

 現在、私はゴールを背にした立向居と一対一になって向き合っている。

 他のみんなはリフティングとかドリブルとかの基礎練習だ。

 意外かもしれないけど、シュート練習はどこに行っても後回しにされることが多い。

 実はドリブルとかのボール運搬能力の方がサッカーでは重視されているからだ。

 だからしばらくゴールは独占できると見ていいだろう。

 ちなみに円堂君はキーパーなのにフィールドプレイヤーのみんなと同じ練習をこなしている。

 だから彼、実はゴールキーパー意外でも普通以上にできるんだよね。

 

 まあその話は置いといてだ。

 ペナルティエリアのラインに十数個ものボールを並べる。

 そしてその一番端っこのものを思いっきりシュートするくらい。

 

「ゴッドハンド! ……ぐあっ!?」

 

 立向居は右手を天に掲げて、ゴッドハンドを発動した。

 しかしその色は煌びやかな金ではなく、透き通るような青だ。

 だけど力不足だったようで、ボールはそれを突き破ってゴールに入る。

 

「立向居。必殺技は完成してからが本番だよ。百錬成鋼、今日は何度も何度も壊しまくって、徹底的にそれを鍛えるから」

「はい! よろしくお願いします!」

 

 セットされていたボールに再び蹴りを入れる。

 シュートはまたゴッドハンドを割ってゴールに入った。

 

「まだまだぁ!」

「その意気だよ。ほら次!」

 

 ひたすらボールを蹴り続け、なくなったら補充してまた蹴り込む。

 休憩の時間になるまでそれは続いた。

 彼、ゴッドハンドを習得しただけあって根性は一級品だ。

 もう百回ぐらいやってるのに、目の輝きはちっとも小さくなっていない。

 面白い人間を見つけたよ、ほんと。

 

 

 ♦︎

 

 

 6時くらいになって、ようやく練習は終わった。

 私たちはマネージャーたちが用意してくれたスポーツドリンクで喉を潤し、汗を拭う。

 

「ほい、立向居……って、受け取る力もないか」

「ハァッ……ハァッ……! お、俺ならっ……大丈夫……です……っ!」

 

 立向居はゴール前で仰向けになって倒れていた。

 まさにボロ雑巾といった感じだ。

 それでも私の特訓に弱音を一度も吐かなかったんだから、すごいやつだよ。

 

 彼の頭の横にドリンクを置いてやる。

 しばらくして呼吸が落ち着いてきたのか、それを飲み始める。

 そんな彼の様子を見に円堂君がやってくる。

 

「大丈夫か、立向居?」

「はい! 大丈夫です!」

「ならいいんだけど」

「俺、今日のなえさんとの特訓で自分がまだまだだってことを、改めて思い知らされました。ゴッドハンドを覚えて少しいい気になっていた自分が叩き直された気がします」

「そっか。でもお前はやっぱりすごいと思うぞ。見てたぜ、最後のゴッドハンド。なえのシュートを止めてみせたじゃないか」

「全部なえさんのおかげです!」

「お、おう……なんか照れるね」

 

 立向居がすっごいキラキラした目で私を見てくる。

 そんな目で見るなぁ! 浄化されるぅ! 

 とまあ冗談はさておき、こんな純粋に感謝されたこと今までなかったので、どう対応してあげればいいのか戸惑ってしまった。

 

「いいか。今日のゴッドハンドみたいに、努力は必ず身を結ぶ。どんなに厳しい冬でも、諦めなければ必ず春がくるんだ」

「はい! 円堂さんの教え、絶対に忘れません!」

 

 キャプテンの今日の格言に耳を傾ける。

 円堂君が言うと説得力増すねそれ。

 彼、忍耐の人だから。

 立向居なんかえらく感動して、どこからか取り出したメモ帳に必死に書き写していた。

 やがて彼のペンの動きが止まったころ、戸田が近づいてくる。

 

「どうだろう。明日、試合をしないか?」

「いいなそれ! やろうぜ!」

 

 そんなわけで、トントン拍子で明日試合することが決まった。

 

「わあ……憧れの雷門イレブンのプレイ、楽しみだなあ」

「呑気なこと言ってる場合じゃないよ? 明日は私も必殺技を使う。心してかかることだね」

「は、はい! 気をつけます!」

 

 ……できが良すぎるねぇ。

 あれだけ私のシュートくらっておいて、明日からさらに強くなるなんて聞かされたら顔を青くするのが普通だ。

 だけど彼は微塵もそんなそぶりを見せなかった。

 これなら私が壊してしまうこともないだろう。

 なにせ真・帝国学園の時じゃ補欠のキーパーを殺っちゃったからね。

 名前は……だめだ、思い出せない。

 興味のない三流の名前となると、すぐに忘れてしまうのは私の悪いくせだ。

 

 

 その後はグラウンドにテーブルを置いて、みんなでカレーを食べることとなった。

 途中で小暮が一部のメンバーにデスソースを混ぜるというハプニングがあったものの、間違えて自分も同じものを食べてしまい、彼は被害者たちと同じ末路を辿ることとなった。

 私の? 

 当然もられてるわけないじゃん。

 というか恐れられてるせいでイタズラなんか一度もされたことない。

 悪ガキらしく、危機回避能力は抜群ってわけだね。

 ……それはそれでちょっと寂しいけど。

 

 

 ♦︎

 

 

 夜。

 私は久しぶりに眠れずにいた。

 目を閉じれば、浮かび上がってくるのはヒロトの顔。

 そしてその背後にうごめく、姿形もわからない闇のシルエット。

 どうやらナーバスになっているらしい。

 仕方がないのでテントを出ることにする。

 

 月が……綺麗だ。

 宝石の海の中で、黄金の光をたたえながらそこに存在している。

 だけど私の月は黒い。

 あんな風に堂々と表に立つことはできない。

 たまに、自分の行いに虚しさとかを感じることがある。

 そういう時は決まって、こんな風に届かない月がよく見える。

 

 ……いかんいかん。

 気分がさらに落ち込んじゃってるよ。

 たぶん私は心の奥底で不安を感じているのだ。

 デザームには一対一で破れて、さらにその背後には別のチームが控えている。

 この先私の力は通じるのかと。

 

 考えなければいけない。

 これからを生き抜くためにも。

 私は辺りを見渡して、キャラバンの天井上がなんとなく考え事をするにはよさそうだと思い、登ることにする。

 でも先客がいたみたい。

 登った先には、シロウが寝袋を敷いて寝転がり、星を眺めていた。

 

「あ……」

「シロウも眠れないの?」

「まあね」

「となり、失礼するよ」

 

 言うが否や、許可を聞く前に寝転がる。

 どーせ断られないし大丈夫だろう。

 

「北海道の空は……」

「ん?」

「北海道の空は、もっと遠かった。凍てついた黒いキャンバスに星が貼り付いているように見えたけど、ここじゃあもっと近いように見えるよ」

「緯度が違うと星って見え方も変わるらしいしね」

「そして、アツヤとの距離も……」

「シロウ……」

 

 シロウは天に向かって手を伸ばす。

 しかしアツヤの元へは当然、届くことはない。

 

「羨ましいって、思ったんだ」

「えっ?」

 

 ぽつりと、呟くようにシロウが言った。

 

「アツヤが羨ましいんだ。みんなが必要としているのはフォワードの能力。だけどそれは僕じゃなくてアツヤのものだ。吹雪士郎のものじゃない」

「シロウ、アツヤの能力はあなたの体に宿っているものだよ。アツヤもあなたなの」

「それは違うよなえちゃん。僕はアツヤじゃない。アツヤみたいにシュートを決めることはできない」

 

 シロウは儚げに笑い、立ち上がる。

 そして地面へと降りていってしまう。

 

「ごめん。今は誰とも話したくないんだ」

 

 とうとう、彼の姿はキャラバンの中に消えていってしまう。

 まただ。

 私は友人の悩みにうまく答えてあげることができなかった。

 

 科学的に考えて、彼の中に眠るアツヤは吹雪士郎の体を使って行動をしている。

 つまり、アツヤは吹雪士郎の一部であり、シロウの精神のままでも同じ能力を発揮することは十分可能なはずなのだ。

 だけど私は、そんな科学的根拠にとらわれて、彼の心というものを読んであげることができなかった。

 やっぱり私は人でなしだね。

 幼馴染の心一つすら理解することができない。

 

 これから彼のために何ができるか。

 考えて、一つの結論に達する。

 私が点を決めるしかない。

 攻撃面を強化して、アツヤが出てこないようにするんだ。

 

 だけどそのアイデアじゃ振り出しに戻ってしまう。

 どうやってあのデザームから点を決めるか。

 

『じいちゃんのノートを手に入れるぞー!』

 

 その時、朝聞いた円堂君の言葉が脳裏に蘇った。

 ノート、か。

 そういえば私も彼みたいなものを一冊持ってたっけ。

 ……気分転換だ。

 久しぶりにあれでも読んでみるか。

 もしそれで何も浮かばなかったら、彼のノートでも見せてもらえばいいや。

 

 そうと決まれば善は急げ。

 私は女子用のテントに戻り、バックの中から()()を取り出した。

 

『禁断の書』。

 あの皇帝ペンギン1号やビーストファングを含む、数々のロクでもない技が記されたノート。

 

 テントから出て、キャラバンの上にぴょんと飛び乗る。

 そしてノートを開こうとすると——。

 

「あれ、お前ここで何やってるんだ?」

 

 横を振り向く。

 キャラバンの上に登りかけている、円堂君と立向居がそこにいた。




 なんとなく、陽花戸編はシリアスなシーンが多くなりそうです。
 なにせ原作屈指の鬱シーンの塊ですからね、ここ。
 具体的には言いませんが。
 鬱丸絶望太なんて私は知らない。
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