悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
開始早々10点差をつけられ、みんなの顔に焦燥以上のものが浮かび上がってくる。
「なんとかしないと……! このままじゃ円堂が……!」
風丸がボールを奪おうと飛び出すも、無駄だった。
私ですらギリギリ追いつけるかどうかという速度なのだ。
風丸は何もできず、ほぼ棒立ちのまま抜かれてしまう。
それも、余裕を表すように股抜きをされて。
「そ、んな……そんなはずがない……! 俺たちが追いつけないなんて……そんなことがあってたまるか……!」
必死に風丸はボールを持ったクィールのあとを追いかける。
だけど距離は縮まるどころか、どんどん離されていく一方だ。
「ダメだ……追いつけない……!」
とうとう風丸は走ることをやめてしまう。
絶望。
生気を失ったかのように、彼の瞳から光が落ちていく。
声をかけてあげたいけど、今は他人のことを気にしてる場合じゃない。
ボールがまたグランに届く。
どうやらジェネシスの選手たちは、フィニッシュはグラン以外にボールを回すつもりはないらしい。
シュートする選手を選んでいられるぐらい、余裕があるってことか……!
「ふっ!」
「今度こそ……!」
「もちもち……黄粉餅ぃ!!」
だけど、これ以上黙ってやられてなるもんか!
私はゴール前に立って、餅を振り回した。
そうやってボールを絡め取り、勢いを殺そうとするも、そのまま突き破られてしまう。
「きゃぁっ!」
反動で私は地面に倒れる。
後ろで黄色い光が見えたけど、次に聞こえた回転するボールがネットと擦れる音で止められなかったことがわかってしまう。
「もう終わりかい円堂君? 君の実力はこんなものじゃないはずだよ」
「まだ試合は……終わっちゃいない……! 諦めない限りチャンスは必ずくる……! それまで、このゴールは、俺が守るっ!」
ゆっくりと立ち上がりながら、円堂君が吠える。
そうだ。彼の言う通りだ。
試合を捨てるやつが、試合で勝てるわけないでしょうが!
「なめないでよグラン……! たとえ何点差あろうが関係ない。私たちは試合が続く限り、諦めない……!」
「それでこそ君たちだ」
グランは背を向け、自軍のコートへ戻っていく。
「よし、まずは1点! 取り返すぞ!」
『おうっ!!』
私たちの言葉が響いたのか、みんなの戦意が少し戻った気がする。
……風丸以外は。
彼は死んだような目で、動かずにただ棒立ちしている。
「アーク!」
「そこだ!」
アークへのパスを鬼道君がカットした。
動きがよくなったわけじゃない。
あらかじめコースを予測していたのだ。
彼が身につけているゴーグルは、もともとボールの回転する軌道を深く読み取るためのもの。
回転さえわかれば、どこに出るかを推測することもできる。
「吹雪!」
シロウがボールを受け取る。
とたんに彼の目がつり上がり、アツヤが出てこようとする。
「よっしゃ! ……がぁっ!? 『やめろぉぉぉっ!!』」
シロウは一つの口で二人分の言葉を話す。
アツヤとシロウが人格を交換し合い、側から見れば狂ってしまったようにしか見えない。
そんな不安定な状態のままゴール前へたどり着いた。
今人格の主導権を握っていたのは……シロウだった。
「エターナルブリザードッ!! うわぁぁぁぁぁぁっ!!」
氷を纏ったシュートを繰り出す。
だけど、氷の密度も吹雪の激しさも、何もかもが弱々しい。
シロウのエターナルブリザードには、アツヤの時みたいな迫力が微塵も感じられなかった。
そんなシュートが通じるほど、ジェネシスは甘くはなかった。
栗松ほど小さいキーパー、ネロは必殺技も使わずに、あっさりと両手でそれを受け止めてしまう。
「そんな……吹雪がエターナルブリザードのタイミングをミスするなんて……」
「大丈夫かい?」
「あ……ごめん。タイミングがちょっと合わなくて……」
一之瀬の問いかけに作り笑いでシロウは返す。
だけど明らかに大丈夫ではない。
そうこうしているうちに、またグランに点を取られてしまう。
ダメだ。シロウはもう戦えそうにない。
なら、残された道は一つ。
「みんな、私にボールを!」
私がやるしかないんだ。
キックオフと同時に私にボールが渡る。
フォワード陣を抜き去り、どんどん前へ。
私とジェネシスのメンバーの速度はほぼ互角。
ならあとは、テクニックと根性で打ち勝つしかない。
私の目の前にハウザーという、タコみたいな顔の大男が立ちはだかる。
「っ、ボールが……消えた……?」
「こっちだっての!」
だけどハウザーは私の足元を見て、身動きを止めてしまった。
瞬きをしている間にボールが消えた。
彼にはそう見えただろう。
だけどこれはトリックの一種でしかない。
相手が瞬きするタイミングを見計らって、ヒールリフトでボールを頭上へ浮かせただけ。
彼はそれにまんまと騙され、あっさりと抜かれた。
これでキーパーのネロと一対一。
ボールを天空へ打ち上げ、漆黒の月を出現させる。
「真ダークサイドムーン!!」
月のあまりの大きさに、ネロの姿が隠されていく。
しかしある時点でダークサイドムーンはまったく進まなくなってしまう。
角度を変え、今起きていることを確かめる。
そこには両手で軽々と月を押さえつけている、ネロがいた。
「フッ……こけおどしだな」
爆発。
闇が晴れたあと、ボールをキャッチしたネロが姿を表す。
「やっぱり……ダークサイドムーンじゃ通用しない……!」
だけど、ムーンライトスコールは未完成だ。
とても使えるようなものではない。
どうする……?
どうすればいい……?
悩みに悩んでいると、脳裏にある光景が浮かび上がってくる。
あれは……世宇子対雷門の試合の時だった。
ゴッドハンドが通じず、ピンチに陥っていた時。
だけど円堂君は逆転するのを諦めず、未完成だったマジン・ザ・ハンドを使い続けていた。
そしてとうとう完成させて、私たちを打ち破って見せたのだ。
思考が現実に戻っていく。
……そうだ。
やる前から諦めてどうする。
諦めないから、必殺技は完成するのだ。
覚悟は決まった。
同時に笛が鳴り響く。
ボーッとしている間にまた1点決められてしまったのだろう。
だけど今さらな話だ。
試合が再開し、私は獣のように飛び出す。
「懲りないやつだッポ〜」
「しぶといのは悪人の華だよ」
「っ!?」
——ライトニングアクセルV3。
限界まで加速して、小柄なクィールを抜き去る。
「さっきよりも速く……!?」
「ズズズ……!」
「今のはまぐれにすぎない、と言っています」
ライトニングアクセルを発動したまま、ゾーハンとコーマと激突する。
相手は二人がかり。
ものすごい力が足にのしかかってくる。
だけど。
「負けて……たまるかァァァァァッ!!」
「っ、バカな……!?」
あらん限りの声で叫ぶ。
それに応えるように徐々に足がボールを押し戻していき、ついには二人を弾き飛ばした。
今だ!
ボールを蹴り上げ、漆黒の月を生み出す。
その上に跳び上がり、かかと落としをくらわせる。
「ムーンライトスコール!! ——がぁっ!?」
だけど、やはり失敗だった。
月は爆発し、私は上空から落下。
グラウンドに背を思いっきり打ち付けてしまう。
ボールもネロにキャッチされたのが見えた。
ボールがまたもやグランに渡る。
だけど、今度の彼は少し違う雰囲気を纏っていた。
「好きだよ円堂君、君のその目!」
空中に打ち上げられたボールをグランが蹴る。
瞬間、禍々しくも美しい流れ星が煌めく。
「流星ブレード!」
「ァァァアアアアアアアアアアッ!!!」
獣のような雄叫びが響いた。
それはシロウからのものだった。
彼はゴール前に立つ。
その時の彼は、シロウともアツヤとも言えない、見たこともない顔をしていた。
そして、そこに流星ブレードが流れてきて——爆発が巻き起こった。
「吹雪ィィィ!!」
円堂君が駆け寄るけど、彼は返事をすることなく、地面に横渡っている。
完全に気を失っているようだ。
シロウのバカ……! 無茶しちゃって……!
試合は一旦中断され、シロウが担架でベンチに運ばれていく。
代わりにフィールドに入ってきたのは栗松。
だけど、とてもシロウの代わりにはなりそうにない。
まだだ……こんなんで諦めるわけにはいかないっ。
試合が再開。
その後もボールがくるたびに、何度も何度もシュートを撃った。
そして止められて、グランに点を決められるというサイクルを繰り返していく。
もう10回は撃っただろう。
だけど、完成度はいっこうに上がらない。
「ハァァァッ!!」
「動きがトロくなってきたッポね〜」
「がはっ!?」
正面からくるクィールとすれ違う。
直後、腹に鈍い痛みを感じた。
肘……当て……!
「おいファールだろ今の!」
「いや、計算されてやっている! なえが影になって、審判も判断できないんだ!」
解説どうも鬼道君……!
こっちからじゃなんでファール取られないのかわからなかったからね。
幸いボールは奪われなかったけど、そのせいで足を止めてしまう。
その隙に、私を包囲して次々とジェネシスの選手たちが襲いかかってきた。
「遅い」
「スローだね」
「トロイな」
「がはっ!? ごほっ! がぁっ! ぐがぁぁぁっ!!」
「なえっ!」
彼らはボールを取らずに、いたぶるように私にチャージをしかけ続ける。
嵐のような猛攻。
絶え間なく繰り出される攻撃に、口から赤い液体が充満していくのがわかる。
円堂君の声も遠く聞こえるよ。
「なえさん、逃げてくださいッス!」
「ダメだ……! 攻撃の全面を任せてたせいで、もう体力が残ってないんだ!」
体が水に浮かぶような感覚に襲われる。
衝撃を受け、右へ左へふらふらと。
パチンコ玉のように弾かれて、もはや意識も朦朧としてくる。
「貴様は危険因子だ。悪いがここで潰させてもらう」
青ガミの女セイにボールを奪わレル。
私……ワタしのぼーる……。
取り返サなキャ……。
あレ、でも体がウゴかないや……。
「さらばだ!」
大きナ音がシタ。
スッゴっくお腹がイタいヤ。
そノ瞬間、目のマエがマックラに染まリ。
——オホシサマがミエた。
♦︎
「ア……ハハッ! アハハハハッ!! ナァイスパァス!!」
腹にボールをめり込ませながら、それを微塵も感じさせずに、なえは突如笑い出す。
それもただの笑いではない。
口は限界まで引き絞られた弓のように、目は暗闇に光る獣のもののように。
今の彼女は見る者全てを恐れ慄かせるような、凄みを発していた。
そんな彼女の笑いに応えるように、黄金の気力がその体から溢れ出す。
光に近い色のはずのそれは、しかし神聖さは感じられず、むしろ禍々しい。
「黄金の……狂気……」
ふとキャラバンの上で聞いた言葉が、円堂の口からこぼれる。
狂気。
今の彼女は、まさしく狂っていた。
「……イヒッ」
ニヒルな笑みをなえがする。
とたん、その姿は彼らの目からかき消えた。
「ごぼぉっ!?」
「アハッ!」
声は彼女の正面に立っていたハウザーから。
彼は顔面にボールをめり込ませながら、鼻から血を出していた。
そのボールを押し込んだのは、彼女の足。
なえが飛び蹴りのようにボール越しに彼の顔面を蹴ったのだ。
包囲網が崩れる。
ジェネシスは複数人で彼女を囲っていたため、ゴール前のディフェンスは数が少なくなっている。
そこへ、黄金の光を纏ったなえが直進していく。
「フォトンフラ——」
「グラビテイショ——」
「——ジィグザァグ、ストラァイクッ!!」
残ったゲイルとキープが必殺技を放つ前に。
なえは今までとは比べ物にならないほどの速度で、縦横無尽にフィールドを駆け回る。
そのあまりの速度に残像と光の軌跡しか見ることができない。
二人は追うことができず、気がついた時には彼女は彼らの背後にいた。
黄金のオーラがボールに集中していく。
それを、名も叫ばずに彼女は蹴った。
「死ねッ!!」
「……っ!? さっきよりも速い……!?」
ボールは黄金に輝きながら、まっすぐゴールに進んでいく。
その軌跡、まさに光の道。
それは必殺技ではないが、必殺技以上の威力と速度を持っていた。
ネロはその変化に目を見開いた。
その一瞬が命取りとなる。
判断が遅れて飛びつくも、ボールは彼の伸ばした手の横を通っていき——ゴールネットに突き刺さる。
「アハハハハハハッ!!」
悪魔のような笑い声が響く。
その光景に、点を取られた側も取った側も唖然としてしまう。
「アハハッ!! アハッ……ァ……!」
しかしそれも長くは続かなかった。
しばらく笑ったあと、糸が切れた人形のように彼女は突然倒れ、そのまま動かなくなる。
「……あ、救急車を! 救急車を呼んで!」
「っ、は、はいっ!」
いち早く瞳子が救急車を要請する。
グラウンドは、不穏な空気に包まれた。
というわけで、覚醒回でした。
ちなみになえちゃんがジェネシスを圧倒しているように見えますけど、ジェネシスの選手たちはグラン以外まだ必殺技も使っていないのをお忘れなく。まあ最後の方でディフェンス陣が使おうとしてましたけど。
そんでもって新技紹介です。
♦︎『ジグザグストライク』
金色の光を纏い、目にも止まらぬスピードで駆け回りながら相手を抜き去る。
シュート技なのかドリブル技なのかで議論されることが多い必殺技。
一応この小説ではドリブル技扱いです。
アレスの必殺技なので、知らない方は動画とかで調べることをおすすめします。
なえちゃんの必殺技がアレスやGOのものばっかなのはどうかとも思うんですけど、やっぱり主力の必殺技ってたいていアニメで使われちゃってるんですよね。
かといってオリジナル技を作るのもどうかと思い、仕方なく無印以外のところから引っ張ってきています。
なので無印しか知らない方には申し訳ないです。
できる限りわかりやすいように書いていくつもりなので、これからもよろしくお願いします。