悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
今日は陽花戸に滞在する最終日。
私と立向居はグラウンドで対峙していた。
朝の集合で、瞳子監督は円堂君を外すことを決めたと話した。
彼女はやると言ったら本当にやる人だ。
今日中に円堂君を立ち直らせなければ、彼は本当にチームを離れることとなるだろう。
だけど、そんなことはさせてなるものか。
そのための立向居だ。
「いつでもやれます!」
「マジン・ザ・ハンドでなによりも重要なものは?」
「足腰と心臓! それと何があっても諦めないイナズマ魂です!」
「オーケー。じゃあいくよ!」
私は闇の衣を纏うと、サマーソルトでボールを天高く打ち上げる。
立向居が驚愕の表情を浮かべた。
だけどお構いなしだ。
「もしあなたのが本当のマジン・ザ・ハンドなら、これを止められるはずだよ!」
ボールは闇に包まれ巨大化し、漆黒の月へと変貌。
それをオーバーヘッドで地に落とす。
「見えざる光の裏——ダークサイドムーン!」
本気では撃ってないけど、それでも世宇子の時と同じくらいの威力だ。
半端なものでは止められやしない。
立向居は腰を落とすと、右腕を頭の手前に置いてエネルギーを放出した。
それは人魂のような塊となって胸から飛び出し、右手に宿る。
すると彼の背後に青色の魔神が浮かび上がる。
それは練習試合の時よりもはるかに鮮明だ。
「マジン・ザ・ハン……ぐぁぁぁああああ!!」
だけど黒い月が当たった瞬間、魔神はガラス細工のように弾け飛んでしまった。
その余波で立向居が吹き飛ばされる。
本当は立ち上がるまで待っててあげたいけど、あいにくと時間がないんでね。
地面に横たわったままの彼にそのまま質問をする。
「なんで完成しなかったと思う?」
「心臓から出たエネルギーを100%右手に伝えることができませんでした」
「でしょうね。その構え、円堂君のを見よう見まねでやってるよね」
「は、はい……」
「だから失敗するんだよ。あれはマジン・ザ・ハンドに慣れた円堂君が、発動時間を短縮するために編み出した構えなんだよ。彼ほどの熟練度があってこそできるものであって、今から習得しようとする立向居には向いていないってわけ」
「じゃあどうすれば……?」
「FFの決勝は見たでしょ? 右手を心臓に当てながら、相手に背を向けるほど体を捻ってエネルギーを溜めてみなよ。それが一番やりやすいはずだよ」
「はい!」
彼が再び構えに入ったのを見て、ボールを蹴り上げる。
そして漆黒の月を落とした。
「ダークサイドムーン!」
「マジン・ザ・ハンドぉ!!」
2回目。
彼の背から青白い稲妻が放出され、その中から魔神が出現する。
このビリビリ来るような感覚……間違いなく本物に近づいていっている。
魔神の張り手が月と衝突した。
今度は一瞬で砕け散ることはなく、しばらくの間均衡状態となる。
「ぐぅぅぅ……がぁっ!?」
だけどその威力に魔神ではなく立向居の方が押し負けてしまい、ボールは立向居を巻き込んでゴールに入ってしまった。
「立向居ー! 足腰が重要って言ったでしょー! もう一回!」
「ぐっ……はい!」
その後も何本も撃ったけど、最後の最後で競り負けてしまい、立向居がシュートを止めることはなかった。
クオリティは90%を超えている。
でもどうしても踏ん張ることができていない。
……やっぱり足腰の筋肉が足りないか。
あれだけハードなトレーニングをしたとはいえ、筋肉というのは本来長い時間をかけて改良するもの。
1日や2日じゃ追いつくことはできない。
「くそぉ……! どうしても、どうしてもできない……!」
「っ……!」
立向居は地面に拳を打ちつけ、自らの無力を嘆いている。
もうアドバイスもネタ切れだ。
どうすればいい……?
私じゃやっぱり無理なのか……?
手詰まりかと悩んでいた時、誰かがフィールドに入ってくるのが見えた。
「ふっ、やってるな」
「鬼道君……」
「俺だけじゃない。見ろ」
言われて彼の後ろを覗く。
そこには雷門メンバーやマネージャーたち、さらには陽花戸の選手たちまでもが集結していた。
「なにを……?」
「俺たちは全員同じ気持ちだ。このまま眺めているだけと言うのは後味が悪いんでな。手助けに来たんだ」
「みんな……!」
胸の奥がじんわりと暖まっていくのを感じる。
今までこんな風に応援されたことはないから、目尻がちょっと熱くなっちゃった。
「お前はシュートを撃つことに集中しろ」
「わかった!」
ボールをセットし、体から黒のオーラを放出する。
あとは彼だけだ。
私は不安が浮き出ている彼の顔を見据えた。
「立向居! たしかに技術や筋力は重要だ! しかしそれよりも大切なことをお前は忘れているぞ!」
「大切なもの……『絶対に諦めないイナズマ魂』……!」
「そうだ! やれ立向居!」
「行けー立向居ぃ! 円堂さんにお前の力、見せてやるばい!」
「頑張るッスー!」
「あなたならできるわ! 頑張って!」
鬼道君のその言葉とともに、爆発したかのような声援がグラウンド中から飛んできた。
似てる。
あの時の光景と似ている。
湧き上がる観客たち。
幻か、舞台はいつのまにか見覚えのあるところに映っていた。
『ゼウススタジアム』。
私は白いユニフォームを纏っていて、その目線の先には彼が……円堂君が見える。
「——いくよ! ダークサイドムーンッ!!」
空を塗り潰す、漆黒の月。
対してゴール前に出現したのは、青電を纏った魔神。
「マジン・ザ・ハンドォォォォッ!!」
雷鳴がほとばしり、光が、視界を埋め尽くした。
目が回復したころには私は陽花戸のグラウンドに戻ってきていた。
そして気づく。
ゴールネットが揺れていないことに。
彼のその右手に、ボールが収まっていることに。
「で、できた……できたぁっ!!」
立向居はボールを天に掲げながら叫んだ。
とたんに周囲が湧き立ち、歓喜の声がグラウンドを埋め尽くした。
ふと屋上の方を見ると、円堂君がこっちを見下ろしていた。
彼がこの光景を見て、なにを感じたのかは彼次第だ。
だけど彼はもう大丈夫だろう。
こちらを見つめるその瞳には、いつもの炎が宿っているのが見えたから。
♦︎
「みんな、心配かけてごめんな」
「いいってことだ。雷門のキャプテンはお前しかいない」
鬼道君が円堂君の背を叩き、彼は笑った。
円堂君はすっかり元気を取り戻したようで、いつものやる気に溢れる姿に戻っていた。
うんうん、これこそ円堂君だよ。
私も頑張ったかいがあったってものだ。
「監督もありがとうございました」
「今度からも、チームに必要ないと思ったらすぐに抜けさせるわ。いいわね?」
「はい!」
監督は相変わらずというかなんというか。
でも復帰を許してもらえたのだし、これでいいのかもね。
「んで監督。今日中に出発って言ってたけど、どこに行くの?」
「沖縄よ。昨日理事長からエイリア学園の動きがあると報告されたの」
沖縄か……。
修行に明け暮れてて青春なんてものを過ごしたことのない私にとっては、ほとんど無縁だった場所だ。
「青い空、白い海……ビーチサッカーなんてしたら楽しそうだなぁ」
「海関係あらへんやないか!」
「まあ、なえらしいと言えばらしいね」
妄想してたところをリカに叩かれ、一之瀬に呆れられた。
とたんにみんながドッと笑った。
むー。
海は修行時代に酷い目にあったことがあるから嫌いなんだよ。
島も見えない海の真ん中で磁石渡されて落とされて、命からがら生還した私の気持ちがわかる?
っと、そんなくだらないことを思ってると、瞳子監督のケータイに着信が来た。
監督はそれを確認したあと、私たちにあることを告げた。
「たった今理事長から連絡が来たわ。沖縄に炎のストライカーと呼ばれる男がいるそうよ」
「それってもしかして……!」
「ああ。豪炎寺のことかもしれん」
みんなは顔を見合わせて、ニカっと笑った。
全員が同じ考えをしていたのだろう。
「よし、沖縄に向けて出発だ!」
豪炎寺君か……。
私が真・帝国として雷門と戦った時には、すでに雷門からいなくなっていた。
その理由が気になって部下に調べさせてたけど……果たして仮に沖縄に豪炎寺君がいたとして、監督は彼をチームに入れる気があるのかどうか。
できれば円堂君たちに今度こそ相談したいけど、豪炎寺君の妹さんを危険な目に合わせちゃうからできないし。
ほんと、知ってるだけの立場はつらいよ。
「円堂さん、俺も行きます! マジン・ザ・ハンドが完成したら言おうと思ってたんです!」
「大歓迎だよ! これからよろしくな、立向居!」
まあそれはさておき、新たな仲間も加わったところで。
こうして私たちは沖縄に向けて出発することとなった。
どーもお久しぶりです。
用事も済んだのでまた投稿再開しようと思います。
私が目を回して動き回っていたこの期間でいくつもの情報が入りました。
ドラクエ10大型アップデート実施、そんでもって今月中でのポケモンのアップデート。
期間が空いたのでこの作品も読み直さなきゃだし、やることいっぱいあるなぁ。