悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

60 / 157
雷門イレブン、海をゆく

 ゆらりゆらりと床が揺れる。

 

 刺すように眩しい日差し。

 雲一つない空。

 そんでもって、視界一面に広がる青い海。

 それをのんびり眺めながら、私は日傘付きのベンチに寝転がり、テーブルに置いていたドリンクを口に含む。

 

 私たちは陸を離れ、船で沖縄へと向かっていた。

 海は見たことあるけど、これほど美しいと感じたのは初めてだ。

 なんせ今までの私にとって海とは過酷な修行の場の一つという認識でしかなかったからね。

 突き落とされることも、荒波に揉まれることもなければこんなに平和で綺麗なものだとは思わなかったよ。

 

「暑いね。僕にはとても耐えられないな」

「じゃあそのマフラーを外しなよ」

 

 呪いの装備じゃないんだからさ。

 シロウは団扇がわりにマフラーを扇いでいるけど、そりゃ暑いに決まってる。

 いくら形見でもやりすぎである。

 

 シロウは陽花戸で私が立向居に夢中になっている間に復帰したらしい。

 少し心配だけど、今のところ彼に異変は見当たらない。

 むしろなにか吹っ切れたようで、ジェネシス戦前より元気になった気がする。

 まあ明るくなったのは良いことだ。

 

 ふとスマホを覗く。

 着信はなしだ。

 私の方でも部下を沖縄に放ってみたけど、豪炎寺君の情報について今のところはなんの進展もなかった。

 よっぽど巧妙に隠されているらしい。

 たぶん警察とかの組織が彼に力を貸しているのだろう。

 暗部出身のプロですら手がかりなしなのだ。

 豪炎寺君を探しに一足先に瞳子監督が沖縄に行ってるけど、この分じゃ見つかることはないでしょうね。

 

『本船は次の島、阿夏遠島(あがとおじま)に到着いたします。ご乗船、ありがとうございました』

 

 そう告げてアナウンスはかき消えた。

 体を起こして前を見れば、たしかに島が見える。

 もうこんな時間か。

 もうちょっと船でのんびりしてたかったんだけどなぁ。

 そう思ってると、円堂君たちがいる方が騒がしくなっていることに気づいた。

 

 なんだろ? 

 メガネ君お気に入りのレイナちゃんフィギュアが、小暮にとうとう海に捨てられちゃったとか? 

 だるいけど気になるので、あくびをしながら彼らの元へと向かうことにする。

 

「ふぁぁ……みんな、他のお客さんの迷惑だよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだ! メガネが!」

「メガネ君? ……あっ」

 

 円堂君が指差した方向を見る。

 そこには、海で浮き沈みを繰り返しているメガネ君がいた。

 

「……小暮。フィギュアは捨てていいけど、メガネ君は捨てちゃダメだよ?」

「なんで俺がやったことになってるんだよ!? あいつは一人で落ちたの!」

「まあそれは……ご愁傷様」

 

 チーンとセルフで口に出しながら両手を合わせた。

 円堂君が海に飛び出そうとしてるけど、それは無謀ってものだ。

 なにせ見えているとはいえ、ここから島まではまだ遠い。

 いくら円堂君といえど、慣れない海で人を抱えながら島にたどり着くのは難しいだろう。

 

「しょうがないなぁ。ここは私が……ん?」

 

 私しか彼を助けることができないだろう。

 そう思って海に飛び込もうと柵の上に立った時、水中からなにか黒い影がメガネ君に近づいているのが見えた。

 一瞬サメかと思ったけど、よく見ればあれは人影だ。

 私の予想は的中し、姿を現した男はメガネの体を掴むと、なかなか見れない速度で島へと泳いでいく。

 さすがに船のほうが速いので、一足先に島についた私たちはメガネ君を待つことにした。

 

 

 そして数分後。

 メガネ君はずぶ濡れにはなっているものの、なんとか例の男に無事救助された。

 改めて彼の方を見る。

 服装は海パン一丁だ。

 こんがり日焼けした茶色い肌に、高身長。そして膨れ上がるのではなく、コンパクトに引き締まったスポーツ向けの筋肉。

 なるほど、ただものじゃなさそうだ。

 

「ありがとうな。君はメガネの命の恩人だ」

「いいってことよ! 困った時はお互い様だ!」

 

 円堂君がお礼を言うと、男はそれを笑い飛ばした。

 彼の脇にはサーフボードが挟まれている。

 なるほど、サーファーか。

 あのスポーツは全身の筋肉を使う。

 体つきがいいのも納得だ。

 

「べ、別に僕一人でも泳げましたよ……」

「バカやろう! 海をなめんじゃねえ! 海は命が生まれる場所だ! 命落とされちゃたまんねえよ!」

「ひぅっ! ご、ごめんなさい……」

 

 いまいち反省していなかったメガネ君を男は厳しく叱りつけた。

 その言葉から、彼の海への思いの強さがわかる。

 さすがにこう怒鳴られちゃメガネ君もバツが悪くなったのか、か細いながらも彼は謝罪した。

 

「まあ、わかればいいんだわかれば。じゃあ俺はもう行くぜ!」

「ああ、ありがとうな!」

 

 サーファーの男は軽く手をあげて去っていった。

 まったく、人騒がせな話だ。

 でもこれで一安心だ。あとは次の船に乗って、目的の島へ行くのみ。

 ……と思ってたんだけど。

 

「船は一日一便しか出ないって、どんな田舎島だよ……」

 

 チケットを取りにいったマネージャー組が言うには、そういうことらしい。

 幸い宿泊施設は見つかったそうなので野宿する心配はないけど、これじゃあ今日中に目的地に向かうことは無理そうだ。

 

「どうするんだ円堂?」

「よし、練習するぞ!」

「えっ、練習って……どこでだ?」

 

 塔子の問いに円堂君は砂浜の方を指差した。

 

「ボールがあればそこがフィールドだ!」

「とは言っても砂浜だぞ。 練習になるのか?」

「いや、案外いいかもね。砂浜ってアスファルトとかの上と比べて格段に歩きづらいから、その分走りのフォームとか筋肉とかが鍛えられるんだ。スポーツ選手がこの練習を取り入れることもよくあるそうだよ」

 

 そう説明してやると、塔子はやる気が出たらしくて砂浜へ走っていってしまった。

 他のみんなも納得がいったのか、練習の準備を始めた。

 

 

 それから十数分後。

 有り合わせのものを使ってゴールを作り、フィールドが完成した。

 

「よし、やるぞ!」

 

 風丸と栗松が消えて現在のメンバーは12人となっていたので、5対5に分かれてミニゲーム形式で練習することに決まった。

 ちなみに2人計算が合わないのは、メガネ君とシロウが参加しないからである。

 メガネ君はいつものこととして、シロウはなんでもまだ本調子じゃないんだとか。

 みんなもシロウのことについてはもう理解しているので、文句を言う人は誰もいなかった。

 

「抜かせない!」

「それは無理だね。——ジグザグストライク!」

 

 精神を高揚させて黄金のオーラを身に纏い、電光石火の勢いで塔子を抜き去る。

 しかしその時点で頭痛がきて、すぐにオーラは消えてしまった。

 

 ジグザグストライクは一応できるようになったけど、よくて1人抜きだ。ジェネシス戦の時には遠く及ばない。

 それに、この発動時間の少なさじゃムーンライトスコールを出すことはできそうにない。

 でも、これはコツコツ積み重ねていくしかないことだ。

 できないことにあれこれ言ってもらちがあかない。

 

「いくよ、円堂君!」

「たぁぁぁっ!! 正義の鉄拳っ!!」

 

 私のシュートに円堂君は正義の鉄拳を出そうとするも、やっぱり失敗してゴールに入ってしまった。

 円堂君は歯噛みしてそれを見つめ、鬼道君がなだめる。

 正義の鉄拳の習得は手詰まりか。

 ギューンという部分が足りないらしいけど、これも私にはどうすることもできないことだ。

 

 試合が再開し、パスされたボールを今度は塔子が撃つ。

 

「マジン・ザ・ハンド改!」

 

 立向居から出た魔神がそれを片手で受け止める。

 どうやらマジン・ザ・ハンドは完璧に習得したようだ。

 あとは心臓に手を当てなくても発動できるようになれば、真マジン・ザ・ハンドの完成となる。

 彼なら近いうちにそれもできるようになるだろう。

 

 なんて考えてたら、塔子から面白い話が聞こえてきた。

 なんでもリカと2人でバタフライドリームをやりたいんだそうだ。

 たしかに攻撃のバリエーションが増えることはいいことだ。

 もっとも、リカ本人は一之瀬とやりたいらしくて不満そうだけど。

 

「そんなのなえとやったらええやないか!」

「パワーが違いすぎるよ。あいつと組んだら私が吹き飛んじゃう」

「せやったらアンタが筋肉ダルマになればええ話やん!」

「そんなゴリラみたいになるのは嫌だ!」

 

 筋肉ダルマ……ゴリラ……。

 私はベンチに座り、泣いた。心の中で。

 何もそこまでいう必要ないじゃん。

 私だって女の子なんだよ? 

 

「ま、まあまあ、今のは決してなえさんのこと言ってるわけじゃないんだし……」

「そ、そうよっ。落ち込む必要はないわっ」

「秋ちゃん……夏未ちゃん……!」

「でもなえさんと並ぶのにゴリラになる必要があるなら、必然的になえさんもゴリラってことになるんじゃ……」

『音無さん!!』

「あっ」

 

 もうダメだ。

 純粋な春奈ちゃんの言葉は私を完膚なきまでに打ち砕いた。

 砂浜に座り込み、指で絵を描く。

 へのへのもじ……っと。

 

「ああほら! 音無さんのせいで拗ねちゃったじゃない!」

「ご、ごめんなさい! つい思ったことが口に!」

「あー、みてー、すなのおしろができたー」

「ショックのあまり幼児退行しちゃってる!?」

 

 砂いじりしながら、練習風景を眺める。

 二人がバタフライドリームをしようとしたけど、見事にタイミングが合わず、失敗したようだ。

 ボールはあらぬ方向に飛んでいき……あっ。

 近くで寝転んでた人の頭の当たった。

 

 ……ん、てかあの人、メガネ君の命の恩人さんじゃん。

 表情を見るに、彼は円堂君たちに怒るどころか感謝してるようだった。

 えーとなになに……『いい波が来る時間に起こしてくれてありがとよ』か。

 そういえば彼はサーファーだったね。

 男は海の中へと消えていった。

 

 

 それからしばらくして、また例の男と関わることとなった。

 なんと塔子たちのバタフライドリームが沖の方まで飛んでいってしまったのだ。

 しかし驚くべきなのはここから。

 ボールが飛んできていることに気付いた男が、サーフボードに乗りながらそれを蹴り返してきたのだ。

 ボールは海を割って砂浜をえぐり、キャッチしようとした立向居を弾いてゴールへ入った。

 ちなみにその衝撃波で私の砂の城が跡形もなく消し飛んだのも忘れてはならない。

 

 

 そして今に至る。

 海から帰ってきた男を私たちは出迎えた。

 

「君……サッカーやってたのか?」

「いいや? 生まれてこのかたやったことねえが」

「それであれだけのシュートが撃てるなんてすごいぜ! なあ、俺たちとサッカーやってみないか?」

「ハッ、俺はサーファーだ。興味はねえよ」

 

 サーファー男はそう言って立ち去ろうとする。

 サッカーへの興味は人それぞれだ。

 これはばかりは仕方がない。

 第一、やる気のないやつなんて長続きしないだろうからね。

 そんなわけで、私の興味はゼロだったのだけど、意外にも彼を引き止めようとしたのは鬼道君だった。

 

「たしかにそうだな。やめておけ。素人が練習に加わっても怪我するだけだ」

「ああん? さっきの見てなかったのかよ。バッチリ蹴り返してやったじゃねえか」

「シュートはな。だがサッカーはそれだけでは無意味だ」

「なんだとぉ……?」

 

 しかもかなりの喧嘩腰。

 鬼道君、もしかしてわざとやってる? 

 男としてもその言葉は気に障ったのだろう。

 

「上等だ。サッカーやってやろうじゃねえか! それでお前をギャフンと言わせてやるぜ!」

「ふっ……いいだろう」

 

 鬼道君、総帥の弟子なだけあって感じの悪いやつ演じるの上手いね。

 男はすっかりやる気になったようだ。

 ……うーん、一緒にサッカーをやるのにいつまでも男呼びなのは違和感があるな。

 

「そういえば、あなたってなんていうの?」

「俺は綱海(ツナミ)。綱海条介だ!」

「そっかツナミか。私はなえ。よろしくね」

 

 その後、ツナミが靴と服を着たところで、練習が再開した。

 彼の評価は……まさに原石だね。

 立向居の時もそう評したけど、ツナミはそれ以上かも。

 

 荒波に幼少期から揉まれ続けたせいなのか、ぱっと見でもあの体には驚くほどしなやかかつ強靭な筋肉が宿っているのがわかる。

 あれはつけようと思ってつけられるものじゃない。

 まさに天然物だ。

 そっから繰り出されるシュートは一品もの。

 あまりの速度にあの円堂君ですら一瞬反応が遅れたほどだ。

 だけど素人らしいところもあり、どうやら動き回るボールを捉えることはまだまだ苦手らしい。

 ……まあ、それもちょっと前の話なんだけど。

 

「オラァァ!!」

 

 リカのシュートにツナミが食らいついた。

 あの並外れた体のバネを活かして跳び上がり、足を伸ばしてボールを弾いてみせる。

 さっきからこの調子だ。

 リカや塔子が蹴ったボール全てをツナミは防いでみせていいる。

 マグレじゃない。

 どうやらコツを掴んだらしい。

 

 それはそうとして、何度もシュートを撃ってるうちにリカと塔子のコンビネーションがよくなっている。

 ツナミという面白い人物の登場で余計な考えが吹っ飛んだからかも

 二人は何度も同時にシュートを撃ち続け、そしてついにその時はきた。

 

『バタフライドリーム!!』

 

 二人が蹴ったとたん、その背後に四枚の美しい翅が目に移った。

 ボールは花畑を舞う蝶のように予測不能な軌道をし、飛んでいく。

 

「な、なんだぁ!?」

 

 さすがのツナミもこれには足を当てることはできず、ボールはそのまま立向居の横をすり抜けてゴールに入った。

 

「よっしゃ、完成や!」

「これが私たちのバタフライドリーム……!」

 

 二人は笑顔になりながら顔を見合わせると、ハイタッチをした。

 おっ、珍しい。

 あの二人が仲良くしてるとこなんて初めて見たよ。

 

「ヒュー、やるじゃねえか」

「どう? これがサッカーだよ」

「なるほどな……たしかに面白ぇ!」

「次はあなたの番だよ。あれだけ大言壮語したんだから、失望させないでよね?」

「へっ、誰に言ってやがる。俺に乗れねぇ波はねぇ!」

 

 ツナミは親指をグッと突き立てて、ポジションに戻っていく。

 くふふ、どうやら塔子たちのプレーを見て火がついたようだ。

 さあ見せてよ、あなたのサッカーを。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。