悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
ミニゲームが再開し、私はドリブルでリカを抜いた。
そしてすぐさまゴール前のツナミにパスを出す。
「よっしゃぁ!」
「甘いよ!」
ツナミは足を振り上げ、砲台のようにその時を待つ。
だけど彼とボールの間に一之瀬が割り込み、ボールをインターセプトしてしまった。
「くそっ!」
「ツナミ、ボールは常に動き回ってるよ! 待つんじゃなくて、こっちから迎えにいくの!」
「おう! 次こそだ!」
そう気合は入れてたものの、そううまくはいかなかった。
私や鬼道君は何度もボールを彼に渡したけど、このチームのメンバーは全国クラスの選手なだけあって、次々とボールを奪ってみせる。
シュートとかと違ってドリブルは筋力だけじゃ解決できないからね。
苦戦するのも無理はないか。
「いったぞ立向居!」
「っ、しまった!」
立向居が弾いたボールはゆるやかな軌道を描きながら、ふらふらと上へ上っていく。
どうやらパンチングをミスったらしい。
「ええい面倒クセェ! どっから蹴ったって、ゴールに入りゃ同じ点だろうが!」
頭をかきむしり、ツナミは飛び上がる。
瞬間、どこからともなく津波のような水が発生し、彼を押し上げた。
「あれは……必殺技か!」
ボールをサーフボードに見立ててその上に乗り、ツナミは荒波を乗りこなしていく。
そしてそのスピードが頂天に達した時、ボールに蹴りをたたき込んだ。
「いくぜ、ツナミブースト!」
水を切り裂き、凄まじい速度でボールが突き進んでいく。
円堂君はとっさにそれに向かって拳を突き出す。
その時、拳からの光が一瞬だけ増したのを私の瞳は捉えた。
しかしすぐに輝きを失い、ツナミブーストは円堂君を吹き飛ばして背後の木製ゴールをぐちゃぐちゃに潰してしまった。
「……今の、明らかに威力が増していたよね」
「ああ。どうやらなにかの手がかりにはなったようだな」
ふむ、どういうことだ。
さっきはロクに気も溜めていないのに、通常よりも威力が出た。
いつもと違ってた点は、とっさに手を出したかどうか、か。
でもどうしてそれでクオリティが上がるんだ?
……うーん、わからない。
「へっ、見たか! これが俺のツナミブーストだ! ……って、聞いてんのかー?」
「……んっ、ああごめん。ちょっと考えごとをしちゃって。でも技はちゃんと見てたから安心して」
いつのまにか思考の海に沈んじゃってた。
私の悪い癖だ。
その後はゴールが壊れたことで練習は中止となり、私たちは宿泊先へと行くことにした。
その時にツナミとは別れた。
どうやら彼はこの島ではなく、沖縄に住んでいるらしい。
なんだか彼とはまた会えるような気がするよ。
♦︎
後日、船を伝って私たちは沖縄に上陸した。
現在は船に乗せていたイナズマキャラバンで、炎のストライカーの出現情報が出ているという場所へ向かっている途中である。
「豪炎寺君かぁ……どんな人なんだろう」
「クールというか仕事人というか、口より背中で語るタイプだね。いつもボーッとしてるシロウとは正反対かも」
「まっ、炎と氷だしな。でもああ見えて中身はけっこう熱いやつなんだぜ?」
後ろから土門が声をかけてきた。
豪炎寺君と私は、実を言うとあまり接点はない。
いや、妹さんの件で私が関わってるものはあるけど……それは今はやめておこう。
とにかく、円堂君や鬼道君と比べるとどうしても関係が薄くなってしまう。
彼、無口だから話す機会がなかったんだよ……。
そんな感じで豪炎寺君についてみんなで話してると、目的地に着いたみたいで、バスが停止した。
「ここが、炎のストライカーの目撃情報があった場所か……」
バスから降りて辺りを見渡すけど、あるのは海と浜辺ぐらいだ。
どうやらここから先は自分の足で情報を集めなきゃいけないっぽい。
「よし、ここにキャンプを張って徹底的に探すぞ! みんなで聞き込みだ!」
「えー、手がかりは炎のストライカー。この辺りの浜辺で、さながら炎を纏ったかのような凄まじいシュートが何度も目撃されたという……」
「とはいえ、これだけの手がかりでは難しい。何か他に情報はないんでスかねぇ……」
「……メガネと壁山、何やってるんだ?」
「さあ? 暑さで頭がやられちゃったんじゃない?」
メガネ君たちは『考える人』みたいなポーズを取ったまま、ドラマの刑事みたいな口調で話し合っていた。
聞き込みってことで刑事ドラマを思い浮かべたんだろうけど……見てて目が痛くなりそう。
お年頃とはいえ、中二病って怖いね。
「監督はどこに?」
「瞳子監督とはあとで合流する予定よ。でも、あの人もめぼしい情報は得られていないみたい」
鬼道君の質問に夏未ちゃんが答えた。
私の私兵ですら苦戦するほどのセキュリティだ。
彼女じゃ情報を集めることは難しいだろう。
「とにかく、悩んでてても仕方がない。みんなで手分けして探索だ! もちろん特訓もあとでやるから疲れ過ぎるなよ!」
「よし、あたしたちもバタフライドリームをもっと強化しなくちゃな! なっ、リカ?」
「え〜、うちはダーリンと海でスイミ「な・ん・か・文句あるか?」……させてもらいます」
塔子が女の子がしちゃいけないような、ものすごい顔になってるよ。
怖い怖い。
これにはさすがのリカも敵わず、冷や汗を流していた。
「さて、そんなことよりもまずは現地住民を見つけなきゃ。ここら辺にはいないみたいだし、ちょっと移動しようよ」
そう言うが否や、私たちの視界にサッカーボールが空へ向かって飛んでいるのが映る。
何度も落ちては上がっていることから、誰かがボールを蹴っているのだろう。木々の奥が落下地点なので姿は見えないけど、あそこに人がいるのは間違いない。
「ちょうどいいや。あそこに行ってみようよ。サッカーボールを蹴ってるのなら、サッカー情報に詳しい人かもしれないし」
この意見に反対した人はいなかったので、私たちはボールの落下地点に向かうことにした。
木々のカーテンをすり抜けると、そこでは小学生ぐらいの子どもたちが仲良くサッカーをしていた。
うーん、あてが外れたなぁ。
あんなちっちゃい子たちじゃ必要な情報は聞けそうにもない。
それに私は子どもが嫌いなので、後ろに下がって円堂君たちに任せることにした。
そして数分後……。
「うわぁぁぁんっ! 俺のサッカーボールぅ!」
「……円堂君、すごいね。まさかちょっと目を離した隙に子どもを泣かせてみせるなんて。鮮やかな手際だ」
「誤解だ! なんにもやってないって!」
私たちの目の前には、さっきまでの笑顔はどこへやらで、大泣きしてる子どもたちの姿があった。
言動から察するに、原因は円堂君の手の中にあるサッカーボールか。
話を詳しく聞いてみたところ、どうやらボールを拾ってあげたのを取られたと勘違いされてしまっているらしい。
やっぱり子どもって面倒くさい。
ほんと、私が出てなくてよかったよこれ。
私だったら泣くで終わってなかっただろうし。
「ゴラァァァッ!! 誰だ、俺の弟たち泣かせたのはァ!!」
と思ってたら、遠くから砂煙を上げて、ものすごい勢いで誰かが近づいてきた。
それは高校生でも滅多に見れないほどの巨漢だった。
目つきは鋭く、並の人だったらちびりかねないほどの凄みを帯びている。
……もっとも、そんな強面も、似合わない
「あの人がボール取ったー!」
「なにぃ?」
「え、あいや違うんだ! こっちにボールが転がってきたからつい体が動いちゃって。ごめんな」
「……本当だろうな?」
強面男はマジマジと私たちの顔を見つめてくる。
なんだかわかんないけど、そうとう怪しまれてるね。
まだ私はここで犯罪は犯してないはずだけど……。
「だいたいそこのお前! なんだその眼鏡は? 怪しすぎだろ」
「……失敬な。それとなえも笑うな」
「ぷふふっ……! だ、だって……鬼道君が不審者扱いされてるんだもん……!」
どうやら原因は鬼道君の容姿だったようだ。
たしかに彼、ドレッドポニテにゴーグル、そんでもってマントと中々カオスな服装してるからね。
よくよく考えてみれば変態である。
紛れもなく変態である。
それに帝国時代じゃ悪役みたいな雰囲気出してたし、怪しく見えるのも仕方がないかもしれない。
「待て待て! 鬼道は俺たち雷門中サッカー部の仲間だ! 決して怪しいやつなんかじゃない!」
「雷門中サッカー部? ……なるほど、お前らが宇宙人と戦ってるやつらか」
男は今までのピリピリとした雰囲気を解く。
そして突然大笑いした。
「ガハハハッ! いやーすまんな。最近宇宙人どものせいでピリついちまっててよ。つい警戒しちまった」
「いや、わかってくれたならいいよ」
円堂君と男は和解の印に握手を交わす。
「俺は
「雷門サッカー部キャプテン、円堂守だ。よろしくな」
「私はなえ。よろしくねー」
そういえば、ここ沖縄でもエイリアの出現情報があるんだったっけ。
豪炎寺君のことで頭がいっぱいになってたから、すっかり忘れてたよ。
「お前たち雷門がいるってことは、ここに襲撃予告がきたのか? だったら力貸すぜ。地元を荒らされるなんざ、黙っていられねえから、よっ!」
自身の力を見せつけるように、土方はボールを真上に蹴ってみせた。
爆発でも起きたのかと錯覚するほどの炸裂音が響く。
ボールは衰える様子もなく空へ飛んでいき、雲を突き破ってもなお伸びていく。
「スッゲェ力だな!」
「へっ、兄ちゃんは蹴っても守ってもすごいんだぜ!」
「へぇ……それはちょっと興味あるか、なっ!」
言い終わるが否や、土方に落ちてくる途中だったボールを横取りする。
そして足元でそれを遊ばせて彼を挑発した。
土方はそれを見て、柏手を打ったあと、地面が揺れるほど強く足裏を叩きつけた。
「スーパー四股踏み!」
何も起きないと思ったのは一瞬だけ。
急に私の周囲が暗くなる。
ふと上を見上げると、圧縮されたエネルギーで形作られた巨大な足が、私を押しつぶさんと落ちてくるのが見えた。
ズドォォォン!! と大地が震え、砂煙が上がる。
「へっ、どんなもんだ……なっ!?」
「やるねぇ。もう少しでペッチャンコだったよ」
砂煙を吹き飛ばして、無傷な私が姿を現す。
世宇子の『裁きの鉄槌』になれてなかったら危なかったかも。
「初見でかわされたのは初めてだぜ。やるな」
「ふふん、それほどでもあるよ」
「それにしてもすごい技だな。是非とも仲間にしたいぜ」
「これほどサッカーができるんだ。もしかしたら炎のストライカーの情報も持ってるかもな」
蛇の道は蛇とも言うしね。
同じことに精通していれば、自然にその分野の情報も入ってくるものだ。
土方は訝しげに眉を潜めた。
「炎のストライカー?」
「ああ。俺たちそいつを探しにここにやってきたんだけどさ、もしかしたら俺たちの仲間かもしれないんだ。何か知ってることがあったら教えてくれないか?」
「……聞いたことねえな。悪いが力になってやれそうにねえや」
その時、私は彼の体にいくつかの変化が現れたのを見逃さなかった。
ダウト。
彼、嘘をついている可能性が高いね。
人間というのは嘘をついている時に無意識化に行動を起こしてしまうことが多い。
口や顎の辺りを触り始めたり、呼吸が急に深くなったり、目を逸らしたりなどなど。
本当に一瞬の間だったけど、私にはそれがはっきりと見えた。
とはいえ、確定的な証拠があるわけじゃない。
今は彼を監視するだけでいいだろう。
「よし、それじゃあ気を取り直して炎のストライカー探し再開だ!」
「せっかくの縁だ。この街を案内してやるぜ」
話し合った結果、効率を上げるためにみんなをいくつかのグループに分けてこと街を回ることとなった。
土方は円堂君のグループに行くらしい。
ということで彼を見張るために、私も円堂君についていくつもりだ。
ちなみにうちのグループは他には鬼道君と立向居がいる。
そしてこのあと、私たちはしばらくの間、沖縄の街を観光することとなった。