悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
グループで分かれて探索すること数時間。
しかしその成果は一向に現れることはなかった。
「聞き込みとかいろいろやったけど、こうも情報が掴めないなんてね。ほんとにここに炎のストライカーがいるの?」
「瞳子監督の話じゃこの街のはずなんだけどなぁ」
並んでフェンスにもたれかかり、海を眺めながら私と円堂君はため息を吐く。
噂ってのは目撃者が多数いるからなるものだ。
でもそんな話すら出てこないとなると、その情報自体が怪しく感じちゃうね。
そもそもなんで沖縄の情報を東京にある雷門の理事長が得られたのかも謎だし。
……情報網がない場所でも隠れ家を突き止める方法。
簡単だ。
もしかしたら、噂なんて嘘っぱちで、理事長や瞳子監督は初めから豪炎寺君が沖縄にいることを知ってた?
じゃあなんでこのタイミングで私たちを沖縄へ行かせたんだ……?
そこまで思考の海に浸かったところで。
遠くから私たちの名を呼ぶ声が聞こえた。
「おっ、秋たちだ!」
「瞳子監督を含め、他のやつらもだいたい揃っているな。いないのは……吹雪と土門だけか」
他のグループが帰ってきた。
これは偶然じゃない。あらかじめ、合流時間を決めていたからだ。
だけど鬼道君の言う通り、いない人もいるみたい。
ちなみに、なんで土門と一之瀬が別行動なのかというと——。
「ああん、ダーリン、めっちゃ楽しかったなぁ! 次は海で泳ぎに行こうで!」
「ハァッ……ハァッ……ちょっと待って……もう……体力が……っ」
——まあ、こういうことである。
哀れ一之瀬。
聞けばこの数時間ずっとリカのショッピングに付き合わされたらしい。
あの元気オバケなリカに振り回されれば、そりゃこうなるってもんだ。
土門はこうなることを察して、友を見捨てて逃げたってわけ。
「えーと、その人が炎のストライカー?」
土方を見た秋ちゃんが訪ねてくる。
そういえばマネージャー陣は別行動してたから知らないんだっけか。
「こいつは土方。炎のストライカーじゃないけど、すごいディフェンス技を持ってるんだぜ」
「雷門の円堂にそう言ってもらえるとは光栄だな。ガハハハッ!」
「それでみんなに紹介しようと思って。俺たちのチームに入ったら百人力だぞ」
「おっと、悪いがそいつはできねえ相談だな」
「えっ?」
円堂君の頭に疑問符が浮かび上がる。
代わりに鬼道君が聞いた。
「なぜだ?」
「さっきも見ただろ? 俺には兄妹がいっぱいいる。あいつらの面倒を見てやらなくちゃならねえんだ」
言われて気づく。
そういえば、土方とは違って彼の兄妹たちはずいぶん小さかった。
たぶん年齢も小学生になったかどうかというところなのだろう。
そんな子供たちを残して旅立つのは、たしかに不安がある。
「そっか。お前が強いのは、守りたいものがいっぱいあるからなんだな」
「お前らだってそうだろ?」
「へっ、もちろん!」
土方の問いかけに、みんなが笑みを浮かべた。
……私以外は。
「うん、そーだねー……」
「遠い目をしてるぞなえ」
「なえさんって、何か守ってるイメージかけらもないッスからね」
「あははーあはっ……ハァ……」
「なんかすんごい落ち込んじゃった!?」
はい。ご存知の通り私にはそんな高尚なものはございませんよ。
というか考えたことすらなかった。
どーせ私は自分のことしか考えられない自己中ですよーだ。
「ま、まあなえだってなんかあるだろ? ほら、エイリア学園と戦う理由とかは?」
「エイリアが強いから」
「……」
「やめとけ円堂。この状態のなえは面倒くさい。どうせ放っておけば治る」
ああ、円堂君にまで見放された……。
みんなは私を置いて楽しく雑談に入ってしまう。
総帥とか不動とかの頭パッパラパーな連中とつるんでる時はどうってことないのに、円堂君たちといるとなまじ自分と彼らを比較しちゃうから、ザクザク心に刺さっちゃう。
こういう時ばかりは彼らに会いたくて仕方がないよ。
逆に言えばこういう時でしか会いたくはないけど。
「おーいみんなー! 炎のストライカー、見つかったぜー!」
男の声が聞こえてきたのはその時だ。
振り向くと、シロウと土門がこちらに向かって走ってきていた。
「土門、本当か!?」
「ああ、間違いないぜ! 今から紹介してやるよ!」
道を譲るように、土門が円堂君の正面からズレる。
その背後から現れたのは——燃え盛る炎を固めたかのような赤髪を持つ男だった。
「えっ……?」
みんなに動揺が走ったのも当然だ。
なにせ、彼は明らかに豪炎寺君じゃないんだから。
けどシロウも土門も、その顔には確信が浮かんでいた。
てことは、この二人を認めさせるなにかが彼にはあるってことか。
「はじめましてだな。俺は南雲晴矢。よろしくな」
「あ、ああ、よろしく」
言葉を返す円堂君の笑顔も、どことなくぎこちない。
彼、一番豪炎寺君に会うの楽しみにしてたからね。
ショックなのだろう。
「こいつ、俺たちが炎のストライカーを探してるって話を聞きつけて、自分から売り込みに来たんだぜ」
「ってことは、地元に住んでるのか?」
「まあね」
「……本当か? 見ねえ顔だな」
「へっ、俺もアンタを見たことねぇなぁ」
土方が初めて私たちと会った時みたいに、睨みをきかせながら南雲を見つめる。
しかし彼はそんな威圧すら受け流し、獣のような笑みを浮かべた。
それを見た時、なんだか体に悪寒が走った。
春奈ちゃんの隣にいた小暮が、か細い声で呟く。
「感じる……嫌な臭いだ、あいつ」
「えっ?」
「小暮にもわかる? いい匂いしてるよ。爆発寸前の火薬みたいな匂いだ」
小暮が気づけたのは、その人間不審な精神によるものだろう。
彼の過去も私はだいたい把握している。
その経験で黒い気配に敏感になっていた本能が感じ取ったのだ。
……くふっ、面白そうじゃん。
危険ってのはわかってるけど、興奮してきちゃったよ。
「なあ、見せてやれよあの技を」
「ただ見せるってだけじゃつまらねえ。一つゲームをしねえか?」
「ゲーム?」
「ああ。雷門イレブンVS俺。俺がアンタらから一点奪えたら俺の勝ち。奪えなかったら負けだ。どうだ?」
「ずいぶん自信があるそうね」
「自信があるから言ってんだ」
瞳子監督の言葉を軽くあしらわれる。
南雲の目からはハッタリでもなんでもなく、自分が勝つという確信が見て取れた。
「いいんじゃないの? 私はやりたいなー」
「……そうだな。やってみるか!」
「それでいい。マジで頼むぜ」
グラウンドがある場所に案内すると言い、南雲はこちらの反応も見ずに歩き出す。
その見えなくなった口から発せられた言葉を、ただ一人私だけが拾った。
——紅蓮の炎を見せてやるよ。
♦︎
南雲に連れられてたどり着いたのは、緑の芝がしっかり敷かれているグラウンドだった。
でも潮風に晒されてたせいか、どことなく独特な匂いがする。
しかし嫌な気はしない。
「準備はできてるかー?」
「んなもんとっくに終わってるっつの」
側から見れば異常な光景だろう。
コートの半分にいるのが南雲一人なのに対して、その反対には11人もの選手たちが待ち構えている。
もちろん私はトップなので、彼と真っ直ぐに対峙している状況となっている。
「よお。アンタは個人的に円堂と同じくらい気になってんだ。失望させてくれんなよ」
「あなたこそ、私一人に負けてその頭のチューリップを枯らさないようにね」
「俺の髪はチューリップじゃねぇ!」
あら失敬。
どうやら豪炎寺君みたいなのとは違って、熱くなりやすいタイプらしい。
とまあそんな一悶着があったけど、ようやく審判の古株さんがホイッスルを吹いた。
軽やかな音がグラウンド中に響き渡り、南雲が足を一歩踏み出し——そして宙を舞った。
「なっ、なんやそれ!?」
リカが驚愕の声を上げる。
南雲は常人じゃ考えられないほどの高さまで跳んでいた。
まるで眼中にないかのように、フォワード陣の頭上を通過していく。
リカたちにはそれを追う術はなかった。
そう、
「へっ、これくらいで驚いてちゃ話に——」
「——よそ見厳禁、だよ?」
「っ!?」
声をかけた時には、すでに足を振り抜いていた。
私と南雲の足に挟まれたボールが爆発音と衝撃波を撒き散らかし、私たちは落下する。
「す、スゴイです! さすがなえさん、まさかあそこまで跳べるとは……」
「彼女の真骨頂はあの類まれな足の筋肉のバネよ。それが常人離れした速度の走りや跳躍力、そしてキック力を生み出しているの」
っと、ベンチで瞳子監督らが話し合ってるのを尻目に。
同時に私たちは体勢を立て直し、地面に着地する。
「っ、やるじゃねぇか。あの高さまで追ってこられたのは久しぶりだ」
「私も空中戦、得意なんだよね」
「だったら……今度は真正面から行ってやるぜ!」
轟っ! という風切り音を立てて南雲が突っ込んでくる。
だったら私は、これで勝負だ。
「もちもち黄粉餅!」
気で作り出した巨大餅をぶん回し、まるで鞭のように南雲を攻撃する。
だけど彼はアクロバティックな動きで、変幻自在に伸びる餅を避け続けた。
「お返しだ! ——フレイムベール!」
「っ……きゃぁっ!?」
南雲が両足でボールを踏んづけると、私に向かって地面から火柱が連鎖的に立ち上った。
餅を盾にしようとしたけど、それも敵わず、私は火柱に巻き込まれる。
その隙に彼に抜かれてしまう。
その後も南雲の勢いが止まることはなかった。
塔子の『ザ・タワー』を強引にシュートで打ち砕き、ディフェンス陣を驚異的なジャンプで飛び越える。
あっという間に彼はゴール前までたどり着いた。
「紅蓮の炎で焼き尽くしてやる!」
ボールが天高く打ち上げられる、炎を纏い始める。
その輝き、熱はまさに太陽の如く。
何人だろうと焼き尽くす凶星に、南雲はオーバヘッドキックを叩き込む。
「——アトミックフレア!!」
瞬間、ジェットでもついたかのように炎を噴射させながら、太陽が落ちてくる。
撃たれた瞬間わかった。
あれはマジン・ザ・ハンドじゃ止められない。
「負けてっ、たまるかぁっ!!」
すでにゴール前に戻っていた私は黄金のオーラを纏い、跳躍。
そして足をあらん限りの力で振り抜いた。
炎上したのかと錯覚するほどの熱が、とたんにそこへ宿る。
っ、ぐぅっ……熱い……!
歯を食い縛り、そんな痛みも無視して足に力を込め続ける。
だけど、それでも威力負けして、派手に吹っ飛ばされた。
「真マジン・ザ・ハンド!」
円堂君が魔人の右腕を振るうも、あっけなく砕かれ。
ボールはゴールネットに突き刺さった。
誰も、その光景に口を開くことはできなかった。
本当に勝ってしまった。
それも1人で11人を。
みんなが目を見開いている中、ただ南雲だけがそれを当然の出来事のように受け止めている。
「へっ、テストは合格ってとこか」
「……すげぇ。すげぇよ南雲! お前のシュート、超強烈だったぜ!」
「当たり前だ。俺に任せりゃエイリアなんざイチコロだっての」
円堂君はさっきのシュートにえらく感動したのか、南雲をべた褒めする。
点を取られた相手を称賛するなんて、器がでかいというべきか。
まあそこが円堂君のいいところなんだけど。
その姿にみんなも現実を受け入れ始め、次第に南雲へ話しかけるようになっていく。
期待の新戦力にみんな胸を膨らませているのだろう。
その顔には悔しさを上回って喜びが目に見える。
……ただし、彼が本当に仲間だったらの話だけど。
「監督ー! 南雲をチームに加えてもいいですよね!」
「……構わないわ。ただし一つ聞かせてちょうだい。あなた、どこの学校の所属なの?」
「……っ!」
瞳子監督がその質問をした時、南雲の表情が明らかに変わった。
まるで聞かれたくなかったみたいに、彼女を一瞬睨みつけたのだ。
「……ああ、そうだな。えーと、俺は……」
「エイリア学園だよ」
取り繕うとした南雲の言葉を、上から降ってきた声が一刀両断した。
……この聞き覚えのある声は!
私たちは弾かれるように顔を上げる。
照明台の上には、赤髪の少年——ヒロトがいた。
「ヒロトっ!?」
「騙されちゃダメだよ円堂君。そいつは危険だ」
突然の忠告。
みんなの目線が信頼のものから疑念へ置き換わる。
南雲は何も言わずだんまりしている。
「なあ……エイリア学園ってどういうことだよ?」
「……ちっ」
円堂君の問いかけに返ってきたのは舌打ち。
答えを言わないってことは、彼はやっぱり……。
「あーあ、せっかく潜り込めそうだったのによ。テメェのせいで台無しだグラン」
「円堂君たちに近づいて何をするつもりだったんだ?」
「俺はただお前のお気に入りがどんなものなのか見にきただけのことよ」
「そうか……」
聞き終わると、急にヒロトはそばに置いてあったエイリアボールを撃ち込んだ。
円堂君が南雲を庇うようにマジン・ザ・ハンドの体勢の入ろうとする。
しかし彼はまるでお節介だとばかりに円堂君を飛び越えて、迫りくるボールに蹴りを入れる。
巨大な火災旋風が発生し、彼の姿を包み込む。
次に彼が姿を現した時、その服は赤をベースとしたユニフォームに変化していた。
「その服……南雲、お前まさか……!」
「ん……? ああ。こっちの名じゃバーンってんだ。覚えておきな」
「バーン……?」
「ああ。エイリア学園マスターランク、プロミネンスのキャプテン、バーンだ」
南雲は改めてそう名乗った。
プロミネンス……まだ他にチームがあったなんてね。
それも驚きだけど、一番は……。
「プロミネンスって……やっぱりチューリップじゃん」
「だから違ぇって言ってんだろうが!」
もちろん、それが太陽のコロナで見られる火柱みたいなものであることは知ってるよ。
ただチューリップとしての名前のやつも実在するわけで。
バーンは顔を真っ赤……とまではいかないものの、ものすごい形相で叫んでた。
「アッハッハ! やっぱり君は面白いな、なえちゃん」
「いやーそれほどでも」
「笑ってんじゃねぇよクソが!」
ふぁっ!?
あの野郎、私に向かってエイリアボール蹴ってきやがったぞ!?
頭に血上りすぎでしょ!
とっさのことで、さすがの私も反応できない。
あわや当たるかと思った瞬間、ヒロトが目の前に現れてくれて、蹴り返してくれた。
「暴力は感心しないな」
「お〜、カッコイイー」
「ちっ、ムカつくぜ。もういい、今日はこれでしまいだ」
バーンがどこからともなく取り出したエイリアボールを踏むと、そこから出た赤い光が彼を包み始めた。
同じようにヒロトも白い光に姿を飲み込まれ始める。
「じゃあオレたちはこれで失礼するよ。また会おう円堂君、それになえちゃん」
「っ、待て!」
円堂君が伸ばした手は虚空を掴むだけとなる。
まばゆい光が辺りを包み込んだかと思うと、次には2人の姿は見えなくなっていた。
「まさか、まだ他のチームがいたなんて……」
ポツリと塔子がみんなの気持ちを代弁した言葉を漏らす。
みんなの顔は一様に暗くなってしまっている。
私としては敵が増えるのは嬉しい限りだけど、みんなは違う。
やっと終わりが見えてきたと思っていた矢先に新たなチームが出てくれば、気落ちするのも仕方がないのかもしれない。
でもこのまま落ち込んでるわけにもいかないので、私は手を叩いてみんなの注意を引きつけた。
「みんな、吉報ならまだ残ってるよ」
「吉報……? 敵が増えて喜ぶのはお前だけなんだぞ?」
「違うって土門。それはバーンが炎のストライカーじゃなかったってこと。つまり、豪炎寺君がこの島にいる可能性がまだあるってことだよ」
「っ……そうか!」
みんなも気づいたようだ。
彼らの目に希望の光が宿る。
「よしみんな、豪炎寺探しを再開だ! 絶対に見つけてやろうぜ!」
そうして私たちはこの後も街を探索することとなる。
しかし、この日で豪炎寺君が見つかることはなかった。
バーン=チューリップネタ、一度やってみたかったんです。