悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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大海原のイカれたメンバー

 月明かりの下、ぶつかるほど激しく体と体がぶつかり、幾度となく足と足が交差し合う。

 その間で踊るように転がるボールを、私たちは追い続ける。

 

「っ、さすが鬼道君。よくついてくるね」

「あいにくとっ、しがみつくので精一杯だがなっ! だが、これならどうだ!?」

 

 鬼道君の足に青い光が宿る。

 それを横薙ぎに振るうと、私の目の前の地面に弧が描かれて、そこから光があふれ始めた。

 これは……まさか……っ。

 

「スピニングカット!」

 

 火山のように、地面から青い衝撃波が噴出する。

 だけど衝撃波が消え去った後、私の姿がどこにもないのを見て、鬼道君は戸惑う。

 

「……上か!?」

「正解。だけど遅いよ」

 

 彼が気づいた時には遅かった。

 私は彼の背後に着地し、勢いを殺さず前へ駆け出す。

 

 スピニングカットは私のでもある技だ。弱点はもちろん知っている。

 たとえば相手と自分の間に衝撃波の壁を作るせいで、その時に相手の姿を見失ってしまうこととか。

 今回はこれを利用して跳躍し、衝撃波を飛び越えたのだ。

 普通跳躍なんてすればその分目立つけど、それはスピニングカットがガードしてくれる。

 現に鬼道君もすぐに気づくことはなかった。

 

 彼を抜けてゴール前へ。

 黄金のオーラを纏い、全力でボールを蹴る。

 

「パッと開かず、グッと握って——ダン! ギュン! ドカァァン!! ……ぐあぁっ!!」

 

 対抗するように、円堂君も黄色い光を拳に集中させ始める。

 しかしその輝きはどことなく頼りげなく、弱々しい。

 そんなものを突き出されたところでシュートを止められるはずがなく、ボールは拳を弾き、あっけなくゴールに入った。

 

「くそっ、どうしてもギュンがわからない……!」

「焦るな円堂。究極奥義と呼ばれる技だ。そう簡単には会得できるわけがない」

 

 焦る円堂君を鬼道君がなだめる。

 

「そういえばさ。ツナミの時は威力がずっと上がってたよね。あれみたいにできないの?」

「うーん、あの時はとっさだったから、感覚を思い出せないんだよなぁ」

 

 お手上げか。

 せめて、もう一度ツナミにあの技を撃ち込んでもらえばなんかのきっかけを掴めるかもしれないけど……そんな都合のいいことがあるわけがない。

 だいたいツナミと出会ったのは別の島でだし、再会は無理であろう。

 

「どうする? 結構な時間やってるけど、まだ続ける?」

「いや……やめておこう。これ以上は体を休める時間がなくなる」

 

 たしかに、グラウンドは照明がついてるから大丈夫だけど、辺りはもう真っ暗だ。

 ベンチに置いていたスマホを覗く。

 もう午前1時か。

 たしかに、そろそろやめたほうがよさそうだ。

 

 円堂君はもう少しやりたそうだったけど、さすがにスポーツ選手にとって体のケアが大事なことを理解しているので、彼もその案をのんだ。

 私たちはそれぞれテントとイナズマキャラバンに戻って、眠りにつくのであった。

 

 

 ♦︎

 

 

 その次の日……。

 

 

「さあ、今日も練習だ!」

 

 円堂君は相変わらずの元気でみんなに声をかけていた。

 場所は南雲……いやバーンと戦った例のグラウンド。

 ここ、街の端っこにあるわりには人工芝や照明があったりと、充実してるんだよね。

 海辺にもかなり近く、少し耳を澄ませば波の音が聞こえてくるので個人的にけっこう気に入っている。

 ……買い取っちゃおうかな、ここ。

 

「オーッス!!」

 

 無駄にでかい声が聞こえてきた。

 土方だ。

 彼はグラウンドに来ると、背中に背負っていた緑々しいものをベンチに下ろす。

 

「これ、うちの畑で取れた新鮮な野菜だ。使ってくれ」

「おお、水々しくていい野菜だな。助かるよ」

 

 大根、にんじんにネギまで……。

 多種多様な野菜が詰め込まれた籠を見て、古株さんのほおがゆるむ。

 私たちがお礼を言うと、彼は豪快に笑った。

 

「ガハハハッ! 気にすんな! お前たちには地球を守ってもらってんだ。いつも元気でいてもらわなきゃな」

 

 しかも、来客はそれだけじゃなかった。

 

「おおーい円堂ー!」

「んっ? 今どっかから声が……」

「こっちだこっちー!」

 

 ふと影が差したので上を向く。

 なんか飛んでた。

 アッタマ悪い表現だけど、それしか言いようがない。

 時間が経つにつれ、その姿が鮮明となっていく。

 あれは……ツナミ? 

 彼はサーフボードに乗ったまま、空を飛んでいた。

 うん、どうしてこうなった。

 

「イヤッホーイッ!!」

 

 結構な高さだったはずなのに、ツナミはそれを気に留めず飛び降り、着地した。

 頑丈な体でなかったら即死ものである。

 

「ヤッホーツナミ。お久しぶ……もんぶらんっ!?」

 

 その時、挨拶しようと近寄ったら、サーフボードが私の真横に突き刺さった。

 うん、完全に突き刺さってる。

 私に当たってたら即死ものである。

 

「ぶっ! 面白い声出すなお前!」

「……ツナミ、今のは忘れよう。ねっ?」

「いやいや、あんなおもしれーの、そうそう忘れなっ……」

 

 ツナミの横顔を高速でエイリアボールが通過する。

 彼の背後で、木かなんかが砕け散ったような音が響いた。

 

「わ・す・れ・よ・う・ね?」

「……オッス」

 

 うんうん、わかってくれたようで何よりだよ。

 振り返ったら、みんなが青い顔をしてたので微笑みかけてあげた。

 

「なんか問題ある?」

『いえ、なにも!』

「それならよかった」

 

 ったく、ビクビクしちゃって。失礼しちゃうよ。

 

「それで、ツナミはなんでここに?」

「ああその話だ。聞いてくれよ円堂! 俺、サッカー部に入ったんだ!」

『ええっ!?』

 

 そういえば、ツナミが今着ているのはサッカーのユニフォームだ。

 海を思わせる涼しげな水色に『海』という漢字が刻まれている。

 

「でもどうしてそんな急に?」

「あの日お前らとやったのが忘れらんなくてよ。つい入っちまった。まあノリだよノリ」

「ノリって……」

 

 私たちは呆れた顔をする。

 軽い……軽すぎるよツナミ……。

 ……とはいえ、これで彼もサッカー選手となったわけだ。

 理由はともあれ、実力は確か。

 今はまだ青いけど、熟せば素晴らしいプレイを見せてくれるはず。

 成長後が楽しみだね。

 

「どうだ、俺たちのチームと試合しねえか? みんな雷門イレブンに会ったって言ったら羨ましがってよ。ここは俺の顔を立てると思って。なっ?」

「もちろん、受けて立つぜ!」

 

 円堂君がそれを断るはずもない。

 みんなもやる気満々だ。もちろん私も。

 

「ダメよ。その試合、許可できません」

 

 でもその雰囲気に水を差してきたのが瞳子監督だ。

 彼女は感情の感じられない目で、私たちを見据えて話し出す。

 

「みんな、昨日のこと忘れたの? 私たちの前には次々と新たな敵が現れてくる。そんな、なんの練習にもならない地元チームと遊んでいる暇はないはずよ」

 

 そうはっきりと、ツナミのいる前で言い放った。

 チャラチャラしてるように見える彼もそれは聞き捨てならなかったらしい。

 わかりやすく目を細めている。

 あわや一触即発という雰囲気。

 だけどその言葉は、私の勘にも触っていた。

 

「それは傲りが過ぎるんじゃないの?」

「傲り? 私は事実を言ってるだけよ」

「相手の情報もロクにないくせによく断定できるね。それに、サッカーは最後までやってみなくちゃわからないもんだよ。このチームの監督をやってるんだから、それぐらいとっくにわかってるって思ってたんだけど」

 

 思い返すのは、初めての出会いから敗北まで。

 帝国や世宇子とやった時だって、諦めなかったから奇跡が起こった。可能性を捨てなかったから、勝てたのだ。

 だからこそ、このチームの監督がそんな戯言を言うのは許さない。

 そしてなによりも、

 

「それに、挑まれた勝負を受けないなんてサッカー選手失格だよ。そんな腑抜けたチームがこの先生き残れるとは思えないけどなぁ」

「なんとでも言うがいいわ。私の考えは覆らない」

 

 心の中で舌打ちする。

 私と監督の目から稲妻がバチバチほとばしる。

 みんな止めようとはしてるけど、殺気混じりに睨みつけているせいか、わたわたとうろたえるばかり。

 しかし空気の読めなさそうなツナミはお構いなしに、私たちの間に入っていった。

 

「まあ待て待て。俺たちのチームもなかなかやるもんなんだぜ。フットボール……なんちゃらにも本来は出るはずだったんだし」

「出るはずって……なにが起きたの? もしかして妨害が?」

「んにゃ、当日に村祭があって監督が試合のこと忘れて踊りまくってたらしい。んで時間に間に合わず不戦敗っと。面白い話だろ?」

「……私、別の意味であなたのチーム心配になってきたんだけど」

 

 総帥とは別の意味で頭おかしいでしょ。

 私だったらメリケンサックで顔面殴打してそうな事案である。

 しかしこの、本人曰く笑い話が上手いこと空気を和らげてくれた。

 円堂君は苦笑いしたあと、監督に頭を下げる。

 

「お願いします監督! 俺、どうしてもツナミとサッカーがしたいんです!」

『お願いします!!』

 

 円堂君にだけ頭を下げさせるわけにはいかないと、みんなが言葉を揃えて頭を下げた。

 私はしてないけど。

 だって気まずいし、噛みついたばっかの相手に頭を下げるなんてプライドが許さない。……総帥は別だけど。

 あの人超怖いんだもん。

 

 瞳子監督はしばらく黙ってたけど、じっと動かないみんなを見てため息を吐く。

 

「……好きにしなさい」

「よっしゃ! やったなツナミ、これでサッカーができるぞ!」

「おう! サンキューな監督!」

 

 かくして、私たちはバスに乗り込み、ツナミが在学しているという大海原中学校に向かうこととなった。

 

 

 ♦︎

 

 

 バスを降りて、目的地に到着する。

 ツナミに連れられて見た大海原の光景は、壮観なものだった。

 

 青く突き通った、サンゴすらも見える海。

 そのど真ん中に、水面に浮かぶような形で校舎が建っていたのだ。

 陸や各校舎は木製の橋で繋がれており、そこから下を覗き見ると、図鑑や写真でしか見たことがないような魚たちがひらひらと舞い踊っている。

 

「うち、ハネムーンはこういう透き通った海って決めてたんや。ダーリン覚えといてな」

「えっ?」

「ああもう、大海原サイコ〜!」

 

 なにを妄想したのか、リカは叫びながら橋の上を駆けていった。

 ……まあ橋はいっぱいあって多少入り組んでるけど、グラウンドとかの施設は目立つから放っといても大丈夫だろう。

 やがて私たちは海に浮いたサッカーグラウンドにたどり着いた。

 

「……でも、肝心のサッカー部はどこにもいないみたいだけど?」

 

 設備は充実してるけど、ベンチやグラウンド、観客席には見渡す限り人っ子一人いなかった。

 と思ってたら、真っ昼間なのにも関わらず、空に花火が上がった。

 

「サプラァァァァイズッ!!」

 

 がたいがデッカい男が叫ぶと、どこかに隠れてたのか、変な人たちが次々と姿を現した。

 掲げられた手作りの旗には『雷門イレブン歓迎!』と刻まれている。

 

「驚いた? 驚いたでしょ? ねえねえ驚いた? ハッハッハ! そりゃよかった!」

「……ねえ、監督さんはどこなの?」

「そこのオッサンだよ。いいノリしてんだろ。そしてこいつらが大海原イレブンだ!」

 

 ツナミは両腕を広げて言ったあと、それぞれの選手を紹介し始めた。

 

「こいつは毎日船にノッててよ、こいつは家がノリ山町で、そんでこいつの母ちゃんはノリ屋のノリ子だ」

「頭痛くなってきた……先に帰っていいかしら?」

「ま、まあまあ夏未さん」

 

 なんというか……個性が強すぎる。

 監督があれなのだから、カエルの子はカエルってやつなのかな。

 基本ノリがいい私でもついてけないぞ。

 

「でも一番ノッてるのはあいつ……音村だな!」

 

 ビシっとツナミが指差した先には、端っこの方で腕を組んでる人がいた。

 髪は水色で、眼鏡をかけ、ヘッドホンをつけている。

 最初は全然ノッてそうには見えなかったけど、どうやら音楽を聞いてノッているらしい。

 彼は体を一定のリズムで揺らしながら、話しかけてきた。

 

「やあ。僕は音村楽也。君たちが雷門イレブンだね。今日の試合、楽しみにしてるよ」

 

 彼はそう言って、右腕にかけている黄色い布を見せつけてくる。

 キャプテンマーク。

 つまり、彼がこのチームのキャプテンってことか。

 

「やあやあ、あなたが監督さんですね!」

 

 っと、目を離してたら例の監督さんが瞳子監督に声をかけていた。

 しかもめっちゃ下心ありそうな顔をして。

 

「見てましたよぉフットボールフロンティアでの見事な采配! どうです、この後星空でも見ながら優勝監督のお話を聞かせていただくというのは!?」

「ありがとうございます。()()()()にもそう伝えておきますね」

「へっ……響木監督……? ……ああ! あまりにも似ていたもので気づきませんでしたなぁ!」

『んなわけあるか!?』

 

 私たちは声を揃えて突っ込んだ。

 絶対見てないだろこの人! 

 どうやったら白ひげオジサンとこの人を間違えるんだよ!? 

 

 ……なんか別の意味で疲れそうな試合になりそうだ。

 私は嘆息を漏らした。




 キャンちゃんの紹介はないです。
 なんというか、アニメじゃ影薄すぎましたよね、彼女。
 ゲームじゃそこそこ重要なキャラだったのに。
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