悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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ノリノリサッカー

 試合が始まる前。

 私たちはベンチに集って、作戦を練っていた。

 

 とはいえ、そんな大したものではない。

 実際はポジションの確認だけだ。

 現在の雷門はメンバーが二人も蒸発してしまって、今までのフォーメーションで戦うことができなくなっている。

 それを調整するための話し合いってわけ。

 

「メンバーは12人……ディフェンスは4人いるからなんとかなるが、問題は風丸のポジションだな」

「僕はパスしておきますよ。ストライカーとしての誇りがあるのでね。それに、立向居君は以前ミッドフィルダーだったといいますし、僕よりも役に立つでしょう」

「……メガネって、フォワードだったんだ」

「ガーン!」

 

 何気ない塔子の言葉に、メガネ君は撃沈された。

 いやだって試合出ないんだもん、彼。

 実際追加メンバーのみんなはそれを知って目をパチクリさせている。

 

「ま、まあそういうことで、いけるか立向居?」

「はい! どこまで力になれるかわかりませんが、精一杯やらせてもらいます!」

 

 まあ妥当な判断だね。

 ミッドフィルダーは中盤に位置してるだけあって、攻めと守りで揺れ動かされることが多い。

 メガネ君が秋葉名戸の試合で実はある程度の実力を持っているのは知ってるけど、練習不足がたたって体力が不足してるので相性が悪いからね。

 

 そんなわけで、最終的なフォーメーションはこうなった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 バランス型の『ベーシック』を軸としたフォーメーションだ。

 左サイドに若干不安があるも、それは根性とかでカバーしてくしかない。

 

 同時に相手もポジションに着き終えたようだ。

 ツナミは意外にもディフェンスの位置にいた。

 彼ほどのキック力の持ち主ならミッドかフォワードが妥当だと思うんだけど……。

 理由を尋ねてみたら、ノリだと言って返されたのはのちのお話。

 

「大海原ァ〜! あい〜や〜大海原〜!」

 

 ベンチで大海原の監督さんが奇妙な踊りをしながら歌ってるけど、無視だ無視。

 あのペースに乗せられると試合に集中できなくなっちゃう。

 

 かくてホイッスルが鳴り、試合が始まる。

 ボールは大海原から。

 一気に近づいてボールを奪ってやろう——と思ってたら、なぜだか相手は自陣の方にボールを回し始めた。

 しかも大道芸みたいにいちいち頭に乗せたり逆立ちとかしながら。

 

「ヒョー! ノッてんなぁみんな! 俺も負けてらんねぇ! 古謝!」

 

 ノリノリで前線へ上がってくるツナミを見て、現在ボールを持ってる古謝が高くパスを出した。

 ツナミはそれめがけて——なんと横っ飛び。

 アクロバティックな動きとともに両足でボールを見事にキャッチしてみせた。

 

『イェェイッ!!』

 

「……で? それになんの意味があるの?」

「ノリだよノリ! かっこいいだろ?」

 

 思わずずっこけた。

 総帥……私は今かつてないほどの敵と戦ってるのかもしれません。

 果たして打ち勝てるのだろうか。この『ノリ』とかいう万能ワードに。

 

「へんっ、何がノリや! んなもんうちがぶっ飛ばしたるわ!」

「古謝!」

「ヒュー! いくぜぇ!」

 

 ツナミからまた古謝にボールが渡る。

 そんな彼に、ボールを奪おうと意気込んだリカが接近していき——。

 

 

「8ビート!」

 

 ——あっさりと、流れる水のようにすり抜けられた。

 

 一瞬、私たちの目が見開かれる。

 ドリブルしていた古謝に特筆すべき点はなかったはず。

 速度もコントロールも、全てが平凡に見えた。

 なのに、あのリカが抜かれるとは。

 

 ちらりと、大海原の方を見る。

 音村だったっけか。

 彼が何かを言った瞬間、動きがよくなった気がする。

 なら気をつけなければいけないのは彼の方か。

 私は音村を警戒しながら古謝の前に立ちはだかる。

 

「16ビート!」

「遅いんだよ!」

「ぐあっ……!?」

 

 私のスライディングが見事に古謝の体をすくい上げた。

 あれ……取れた……? 

 音村は驚き、目を見開いて私の方へ向いている。

 どうやらあっちにとってもこれは予想外の事態だったらしい。

 

「なんだかわかんないけど、チャンスだよ! 上がっていこう!」

 

 ボールを取ったのなら攻撃のチャンスだ。

 持ち前の俊足を活かして、ドンドン前へ進んでいく。

 

「抜かせないよ!」

 

 途中、大きな巻貝を頭に被っている小柄な少女——キャンが立ちはだかる。

 っと、私はヒールでボールを浮かせ、軽やかに彼女を抜き去った。

 ボールは緩やかな軌道を描きながら、彼女の頭上を通過していく。

 簡単なトリックだけど、私ほどの速度で走りながらこれをやると、案外引っかかる人が多い。

 キャンもその例に漏れず、虚を突かれてぼんやりとボールの行方を眺めるほかなかった。

 

「もらったぁ!」

 

 しかしこのテクニックで騙せるのは密着した相手のみだ。

 落ちてくるボールを見て判断したのか、ツナミが飛び出してきた。

 このまま受け取っても彼と衝突するだけだろう。

 フィジカルにも自信はあるけど、さすがに身体能力の化け物である彼とぶつかったらどうなるかは私もわからない。

 だから私は背後に落ちてくる落ちてくるボールを、ノールックのまま足裏で横に流した。

 

「げっ!」

「ぶつかるだけがサッカーじゃないんだよ——立向居!」

「はいっ!」

 

 受け取ったのは、左ミッドの立向居だ。

 すぐさま前へ駆け出すが、

 

「4ビート!」

「あっ!」

 

 相手ディフェンスに即行で取り返されてしまう。

 ミッドの立向居にはキーパーの時に感じられたようなセンスが見られない。

 加えて今日までキーパーをしていた影響か、その動きはすこぶる悪かった。

 仕方がないこととはいえ、やっぱりキツかったか……。

 

「ザ・タワー!」

「アダージョ、2ビートダウン!」

「くっ……かわされた!?」

 

 その後の大海原の選手は、不自然に思えるほどすんなり雷門ディフェンスを突破していく。

 塔子のザ・タワーも、当たる直前にボールを持っていた選手がパスを出したことで破られた。

 ボールは一気にペナルティエリア内へ。

 と、ここで、大海原のディフェンスの方から大声が聞こえてきた。

 

「よっしゃ! ワシもノるぞぉ!」

 

 砂煙をあげながら、牛のように巨体が駆け上がっていく。

 ディフェンスの宜保(ぎぼ)が、ノリに任せて前線へ上がってきたからだ。

 彼の横に、さらにフォワードの池宮と古謝が並ぶ。

 この陣形は……必殺技か! 

 

「ぬおぉぉぉっ!!」

 

 宜保は二人の腕を掴み、自ら回転しながら彼らを振り回すと、その遠心力を利用して空高くまで投げつけた。

 宙に浮かび上がった二人は一回転。

 そして同時にかかと落としをボールに叩きつける。

 

『イーグルバスター!!』

 

 まるで、空から獲物めがけて落下する鷲のような鋭いシュートだ。

 だけど、私たちの守護神だって負けちゃいない。

 ゴール前に飛ぶ鳥を落とす雷が落ちた。

 

「真マジン・ザ・ハンド!!」

 

 魔神の張り手が鷲を叩き落とす。

 勢いを殺されたボールは抵抗することなく、円堂君の手のひらに収まった。

 

「ふぅ……」

『イェェェェイッ!!』

「……止められてもイェイなんだ」

 

 もう突っ込まないぞ。

 にしても彼ら、ふざけているように見えてけっこう強い。

 私たちのドリブルやチャージ、果ては必殺技までもが分析され、いなされているような感じだ。

 私たちのデータをあらかじめ頭に入れていたとか? 

 ……いや、あのノーテンキな連中がそんな面倒くさいことをしてるとは考えられない。

 じゃあどうやって私たちの動きを読んでるんだ? 

 自問自答しても、明確な答えは出ない。

 怪しいと思えるのは……あの音村とかいう男だ。

 彼の指示で敵が動いているのは間違いないだろうけど、問題はその内容だ。

 音楽関連の単語を言うばっかりで、意味がわからない。

 もしかしたら彼らだけに通じる暗号のようなものなのかもしれないな。

 

「まあなんにせよ、前進あるのみだよ!」

 

 なんて張り切っては見たものの、この後の私たちの流れはドンドン悪くなっていった。

 パスがつながらないのだ。

 ボールをせっかく持っても、すぐに取られてしまうせいで攻めることが全然できていない。

 私にはその理由がわからなかった。

 スピードはイプシロンの方が明らかに速いくらいなのに……。

 

「16ビート !」

「うわ、うわわぁ! くそ、なんで取られるんだよ!」

 

 たった今小暮がその餌食となってしまった。

 イケイケムードに乗ってか、大海原の選手たちは大半がハーフラインを超えて雷門コートまで侵入してきちゃってる。

 

「もちもち黄粉餅!」

 

 伸ばした餅の鞭で相手をがんじがらめにし、奪い取る。

 あんまりにもピンチが多いので、私も前線へ上がることができずにいた。

 私だけしか彼らからボールを奪うことができないからだ。

 なぜか彼らでも私の動きは読めないらしく、私は何度もボールを取り返すことに成功していた。

 

「オラ!」

「くっ!」

 

 だけど全てを防げるわけじゃない。

 私が前線に返してすぐにボールが相手フォワードに渡って、虚を突かれてシュートを撃たれてしまった。

 幸い円堂君の横っ飛びパンチングで外に弾いてことなきを得たけど、彼の顔には疲労が見え始めている。

 いつまで持つことか……。

 

「っ……せめてあの指示の意味が理解できればなぁ」

「必要ないな。それよりも簡単に、やつらを突破する方法がある」

「鬼道君、なにかわかったの?」

 

 鬼道君はうなずいてみせた。

 天才ゲームメーカーとも呼ばれる彼の頷きほど安心できるものはない。

 鬼道君はボールがコーナーキックになったのを契機に、みんなを集めて作戦を話し始めた。

 




 表現に困る音村のリズムサッカー。
 なんで2ビートが加わると8ビートになって、代わりに16ビートを加えたら右の守りが甘くなるのかは謎ですが、作者なりに頑張って書いていきたいと思います。
 このトゥントゥク理論、理解できてる人っているのでしょうか……?
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