悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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鉄拳への手がかり

「8ビート!」

「バックパスで塔子へ! その後打ち上げてリカだ!」

 

 両側のコートから指示が飛び交う。

 大海原ディフェンスのスライディングを鬼道君の指示の下かわし、前線のリカにボールが渡る。

 

 2点リードとなって、流れは完全に雷門のものとなっていた。

 音村の指示は相変わらずだけど、大海原の選手たちの動きは目に見えて悪くなっている。

 残り時間もさほど残っていないし、この調子なら勝てそうだ。

 

「うぉぉぉぉお!!」

「行くなツナミ、スルーしろ! ——今だ、16ビート!」

「っ、おっ、おう!」

 

 鎖に引っ張られたかのようにツナミが急停止する。

 リカはその横を悠々と通り過ぎる。

 が、次には敵のディフェンスが左右からスライディングをしかけてきて、ボールを奪った。

 

「ツナミへ!」

「へいツナミ!」

「へっ? ……うわとっと!」

 

 ツナミがボールを持ったか。

 今がチャンスだ。

 彼はボールを持ち慣れておらず、何をすればいいのかわからないと言った様子で棒立ちしている。

 そこへ近くにいた一之瀬が迫る。

 

「ツナミ、古謝にパスしろ!」

「パスは……こうだ!」

 

 一之瀬に捕まるギリギリのところでパスが通る。

 

「ナイスだツナミ!」

「お、おう!」

 

 ツナミがややギクシャクしながらも笑みを浮かべる。

 それにしても解せないね。

 リカからボールを奪ったあと、あそこでツナミにパスする必要はなかったはず。

 音村はいったい何を狙ってるんだ……? 

 

 まあいいや。

 

「スピニングカットV3!」

「のぎゃっ!?」

 

 奪い返せば問題ない。

 古謝を吹っ飛ばし、左サイド側から駆けていく。

 さっき点を決めたのが目立ってたのか、ほとんどのディフェンスがこっち側に寄ってきている。

 そうなったらセンタリングするしかないよね! 

 てなわけでほどほどに引きつけたところでボールを蹴った。

 

「何回も同じ手が通じるとは思わないことだ!」

 

 しかしそれは罠だったようだ。

 なんと司令塔である音村自身がすでに逆サイドに回り込んでいる。

 このままの軌道だと、ボールは彼の足元に落ちることになるだろう。

 まあ——

 

「——だよね」

「っ!?」

 

 そう呟いた時、弧を描いて飛んでいたボールがカックンと真下へ落ちた。

 縦回転、かけておいて正解だったね。

 その先には鬼道君が走り込んできている。

 急な方向転換に大海原の誰もが反応できていなかった。

 そう——超人的な()を除いては。

 

「ぉぉぉおおおおおおっ!!」

 

 漆黒の影が空中に躍り出た。

 まるで鷲のように向かっていき、その両足でボールを挟む。

 その光景は、試合の序盤で真っ先に見たものと同じだった。

 

「……うそーん」

「へっ、俺に乗れねぇ波はねぇ!」

 

 華麗に着地したツナミ。

 その顔に先ほどまでの陰りはまったく見られない。

 ……そうか、これが音村の狙いだったのか。

 ツナミは見て分かる通り、ノリによってプレイの調子が変わる。

 言うなれば気分屋なのだ。

 音村はあえて安全な状況でツナミを動かすことで、そのテンションを引き上げたのだ。

 

「おー! いいぞぉツナミ!」

「ひゃっほーい! このままいくぜぇ!」

 

 土煙を巻き上げながら、ものすごい勢いでツナミが走ってくる。

 その進路上にリカが立ち塞がり、チャージをかけようとするが……。

 

「はん! 一回ボール取れたくらいで調子乗んなや!」

「マグレじゃねぇぞ! 俺様は天才! 綱海条介様だぁ!」

 

 跳躍、まさにひとっ飛び。

 ツナミはリカの頭上を難なく飛び越えて、なんと突破してみせた。

 もうそこにチームのリズムを狂わす弱点としての姿はなく、ツナミという一人の選手がそこにいた。

 

「パスコースを塞げ!」

 

 鬼道君の指示が飛び、雷門メンバーは次々とツナミの近くにいる選手にマークしていく。

 ツナミは身体能力は高いけどコントロールはさほど良くない。この包囲網をすり抜けられるような器用なパスを出すことはできないだろう。

 その通りだったらしく、ツナミはどこにもパスが出せないことに気付いて棒立ちになっている。

 そこへ、風のように素早く私が踏み込む。

 

「うおっ!? あっぶねぇっ!」

「あーりゃりゃ。避けられちゃったか。ちょっとショック」

 

 野性の勘というべきか、ツナミはほとんど目で追えてなかったくせに、反射的に私の足をかわしてみせた。

 そこからすぐさま体勢を変化させて、ツナミと対峙する。

 

「まあいいや。この距離は私の距離。次はないよ」

 

 ツナミは脱出口を探そうと右へ左へ視線を動かすも、見つからず、そのまま立ち尽くしている。

 絶好のチャンスだ。

 足に揺れる炎にも似た青い光を宿す。

 ——スピニングカット。

 これで一気に吹っ飛ばして、おしまいにしてあげる。

 

「……ええいめんどくせぇ! ゴールなんざどっから撃ったって入れば同じだろ!」

 

 しかし、私の足が振り抜かれることはなかった。

 ツナミがヤケになったかのように叫ぶと、彼の周囲から荒れ狂う波が発生した。

 それに巻き込まれて、必殺技を失敗しちゃったのだ。

 

 これは……浜辺で見た時の……! 

 常人ならもみくちゃにされてしまうであろうそれに、彼はボールをサーフィン代わりにして乗って、どんどん加速していく。

 

「ツナミブースト!!」

 

 そしてそれが限界点に達した時、大量の水を纏いながらゴール目指して突き進むボールが放たれた。

 その速度は予想以上。前回よりも速くなっている。

 シュートはまず私を避け、人と人の間の穴をすり抜けて直接円堂君の元へ。

 

 彼は彼でマジン・ザ・ハンドの体勢をし始めるけど……マズいね。予想外のタイミングで放たれたことで、いつもより発動が遅い。

 このままじゃ間に合わない。

 

「っ……ぉぉおおおおっ!!」

 

 背中をボールに向けるほど腰を捻った状態で。

 円堂君は地面に叩きつけるかのように強く踏み込んで、その右拳を解き放った。

 激突。そして瞬間、閃光。

 眩いイナズマがスパークしたかと思うと、彼は大きくその体を退け反らせて尻餅をついた。

 ……その近くを、コロコロとボールが転がっていき、彼の体にぶつかって停止する。

 

 そこでホイッスルの音が鳴った。

 試合終了。

 結果だけ見れば2対0で快勝だけど、実際はかなり苦しい試合内容だった。

 しかし収穫はその分があった。

 雷門の弱点が分かったこと。そして何より——。

 

『円堂っ!』

「……今のは……」

 

 手を握ったり開いたりしながら、円堂君はマジマジとその右手を見つめている。

 最後のツナミブーストを防いだあのパンチング。あれは明らかに普通ではなかった。

 

「いやーすげぇな円堂。あの腰の動き、サーファーがボードから落ちそうな時にするやつにそっくりだったぜ」

「腰の動き……そうか、『ギューン』の正体はそれなのかも」

 

 サーファーは全身の筋肉を使うため、上半身と下半身のどちらもがバランスのよい鍛え方をされている。

 一方でサッカー選手はというと、バランスのいい筋肉をしてる人はいるかもしれないけど、主に足を用いるため、どうしても動きの部分で上半身と下半身にズレが生じてしまう。

 ツナミが言っているサーファーの動きとは、たぶんそのズレた二つをスムーズに動かすためのものなのだろう。

 

 しかしとっさのことだったため、再現は難しいらしく、何回も真似してみてはツナミにダメ出しをもらっていた。

 しかしここではいそうですかとやめないのが我らがキャプテン。

 円堂君はツナミへその頭を思いっきり下げて、頼んだ。

 

「ツナミ、俺にサーフィンを教えてくれ! 俺にはこの動きがどうしても必要なんだ!」

「……ダメだ。海はお前が思っている以上に危険だ。そんな思いつきかなんかでやらせられっかよ」

「思いつきなんかじゃない! 頼む、この通りだ!」

 

 食い下がって中々離れる気配がない円堂君にツナミは頭をかく。

 こうなった彼はしつこいことをよく知ってる。

 なにせ本当に自分の要望が叶うまで諦めないのだから。

 さしものツナミも、36回ぐらい同じことを頼まれれば、根を上げて首を縦に振ることだろう。

 っと思ったら、彼は急に険しい顔を解いてため息をついた。

 

「ったく、しゃーねーな。お前にはサッカーを教えてもらった礼があるしな。今度は俺が、お前にサーフィンを教えてやる番だ」

「本当か!?」

「ああ。ただし、海では俺の言うことは絶対聞け! それが条件だ!」

 

 こうして、円堂君は正義の鉄拳を習得するためにサーフィンをすることとなった。

 しかしすぐに練習というわけにはいかない。

 今はちょうど昼ごろで、お腹が空いている。それに試合疲れもあるだろう。

 そんなわけでとある提案をしたのが、あの大海原の監督さんだった。

 

「ナイスな試合の後にはナイスなバーベキューだ!」

 

 ……っと、こんな感じである。

 何がナイスなバーベキューなのかはわからないけど。他のみんなもノリノリだったので、深く突っ込むのはやめておいた。

 そんなわけでバーベキューをするため、私たちは機材を持って浜辺へ向かった。

 

 

 ♦︎

 

 

 突き刺すような太陽の真下に、もくもくと白い煙が上っていた。

 しかし誰もその煙を見て焦燥に駆られる者はいない。むしろ一部は顔を埋めて匂いを嗅いでさえいる。

 そう、その煙はギュッとと肉汁が染み込んだジューシーな匂いをしていた。

 目を閉じればジュージューという肉が焼ける音がする。それに対抗するかのようにザザンという細波の音も聞こえてくる。

 しかし一番耳に響くのはみんなの喧騒だ。しかしなぜだかやかましいとは感じない。

 そんな自然と人工のアンサンブルを楽しみながら、串刺しにされた肉に食らいつく。

 

 ふむ、中々にいい。

 高級食みたいと褒めるほどでもないけど、安心して口にできる味だ。

 ただ……一本の串に肉やら野菜やらを六つも七つも突き刺すのはどうなんだろう。

 壁山とかは十個ぐらい刺さってるし。それを両手で六セットぐらい持ってるんだから、たまげたものだ。

 私はわりと少食だから、この分じゃ三セットほどでお腹いっぱいになっちゃいそうだね。

 

「辛ぇぇぇっ!?」

「うっしっし」

「コラー! 小暮君ー!」

 

 っと、またやってるのか小暮は。

 哀れな大海原の被害者は我慢できないとばかりに海に顔を突っ込んで……あ、そのまま気絶しちゃった。南無三。

 海の民が塩水飲むって、バカでしょ。

 この殺人未遂の容疑者である小暮氏は春奈警部と絶賛鬼ごっこ中である。

 その途中で彼の手からデスソースの容器がポロッと私の手前に落ちた。

 ……にやっ。

 

 

 数分後。

 

「ぎゃぁぁぁっ!?」

「辛い辛い辛い!」

「舌が、舌がぁぁぁぁ!」

「小暮ぇぇぇっ!」

「俺じゃねぇよぉぉ!? 辛い痛い死ぬぅぅっ!」

 

 私の目の前にはサザエさんみたいに小暮のあとをみんなが追いかけていく光景があった。

 ただし速度は砂浜の砂が勢いよく舞い上がるほどである。

 たまにはこんなこともしてもいいよね。

 こういう時にスケープゴーストにできる小暮に感謝感謝。

 発想が完全に悪人のそれである。

 まあ私悪人で犯罪者ですし。

 

 その後、私がデスソースを混ぜたことがバレて、小暮と一緒にバーベキューが終わるまで正座させられたのは別のお話。




 はい。復活しました。これから投稿再開していきます。
 これからは週2ぐらいのペースでいけたらいいなと。
 
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