悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
「なん……だと!?」
驚きと恐怖、それらが混じったような顔をシロウは浮かべる。
だけど私は心の奥底でそんな予感がしていた。
間違いなく、最強のシュートを撃った。しかし、それでもあのデザームを破ることができるのかと。
「ハァッ、ハァッ……! 素晴らしい! 実力の均衡した者同士のギリギリの戦い! 高揚感! これこそが、私の求めていたものだァ!」
くそっ、好きに絶頂してるんじゃないよ。
たしかにほんの少し、ほんの僅かな差だったのだろう。現にドリルスマッシャーを砕くところまではたどり着いている。しかしそれでも、私たちが止められたのに変わりはない。
いつもならここで喜んだりするんだけど……。
「っ、もう一度だ! もう一度俺にボールをよこせ! そうすれば次こそは……!」
さすがに隣で不安定になってる相方の前で笑えるほど、無神経ではない。
ボールはデザームのスローによって、ゼルに渡る。
「ここから先にゃいかせねえぜ! ——スーパー四股踏み!」
「ぐおぁっ!?」
だけどそこで土方の必殺技が炸裂。巨大な足が地面を叩き、その衝撃波でゼルを吹き飛ばす。
彼はその後、すぐにボールをシロウへ蹴り上げた。
「みんなが求めるのはこの俺、アツヤの力なんだっ! だから俺がシュートを決める! それが俺がここにいる意味……!」
「っ、シロウ待って!」
銀色の風が私の横を通過する。
シロウの目にはもはや私なんて映っていなかった。ただ目の前にある
「エターナルブリザードV3ィッ!!」
「ドリルスマッシャーV2!」
決着は一瞬。氷が砕けて、ボールがドリルに貫かれる。ただそれだけ。
宙を舞う氷の破片が、彼の心を表しているかのように見える。
「……なんだこの手応えは……?」
デザームが投げ、誰かが奪い、パスをつなげる。
今度は私にボールが来た。
とにかく、もう一度だ。もう一度協力すれば冷静になるはず。
「シロウ、こっちに——」
「よこしやがれぇぇぇっ!!」
「えっ……きゃっ!?」
声をかけようと振り向いたその時には、彼が眼前に迫っていた。
激しいタックルが炸裂し、地面に転がってしまう。
ボールはもう、手元にはなかった。
「エターナルブリザードッ……V3ィィィ!!」
「……ワームホールV2」
上から落ちてきたボールが轟音を立てて地面にめり込む。
シロウ……やっぱり私は、貴方にとって不要なのかな……?
「エタァァナルッ、ブリザァァァドォォォォォオッ!!!」
「フンッ」
パリィンと、全てが砕け散った音が聞こえた。
氷も私の頑張りも……なによりも、シロウの心も。
デザームはなんの必殺技も使わずに、ただ手を突き出しただけでエターナルブリザードを止めてしまった。
デザームが急激に強くなったのではない。
「馬鹿……な……!?」
「せっかく楽しみにしていたのに、この程度とは興醒めだ。お前はもう、必要ない」
ポイっとフィールド外へボールを捨てる。それっきり、デザームの視線がシロウへ向けられることはなくなった。
まるで興味を失ったとでも言うように。
「必要ない……? シロウとしても……アツヤとしても必要ない……?」
「し、シロウ?」
寒さで凍えているかのようにシロウの体が震え出す。
声をかけるも、反応すらない。ただブツブツと呟くばかりで、そして、
『じゃあ……俺は/僕は、なんなんだァ゛ァ゛ァ゛!?』
一つの口から二つの声が聞こえた。
それだけ叫ぶと、彼は尻もちをついたっきり、糸が切れた人形のように動かなくなった。
「シロウ!」
『吹雪!!』
真っ先に彼の元へ駆け出す。
覗き込んだシロウの目には、もう何も映っていない。
空も雲も、目の前にいる私の顔でさえ。
絶望に塗り尽くされた今の彼からは、生気というものがまるで感じられない。
裏社会で生きてきた者として、何が起きたのかわかってしまった。
シロウが……シロウが、壊れた。
ガラスの心は粉々に砕け散ってしまい、彼に思考する力すら与えてくれない。
今の彼は、ゾンビそのものだ。
瞳子監督から急遽交代の指示が出る。
シロウに代わって小暮。
それは英断だろう。もうシロウには、明らかに戦う力が残っていない。
「円堂君、私が左の肩を支えるから、貴方は右を」
「ああ……」
担いだ体が重く感じられる。
人間の死体は重たいなんて言うけど、今の彼はまさにそれだろう。自分で歩くことすらできず、脱力するがままに全体重を私たちに押しつけている。
ベンチに座らせ、タオルを頭にかぶせる。
相変わらず反応はない。
こんなになるまで、私は……!
自分の無力さに腹が立ってくる。でもこの怒りは今ここで解き放つような者じゃない。だから握り拳をゆっくりと解く。
「吹雪、お前はここで見ていてくれ。お前の分も俺たちが戦い抜いてみせる」
「雷門は私が守るよ。シロウはそこで休んでいてね」
「……」
返事を待つことはやめた。期待してると辛くなっちゃうから。
言いたいことだけを言って、すぐにグラウンドに戻る。
デザームが自らボールを投げ捨てたおかげで、試合はコーナーキックからだ。
一之瀬が70°ほどの角度で高くボールを打ち上げる。
当然、他の選手には届かない。しかし私は別だ。
他とは隔絶したジャンプで空中に躍り出て、黄金のオーラを纏い、そのままオーバーヘッドを叩き込む。
「ドリルスマッシャーV2!」
しかし、それで点が決まるなら苦労はしない。
あっさり受け止められ、デザームのパントキックを起点にイプシロンのカウンターが始まる。
「ザ・タワー!」
「邪魔!」
「きゃぁぁぁっ!!」
マキュアの鋭いシュートがザ・タワーを粉砕。ボールはそのままゼルへ。
「うおおおおっ!」
「ハッ、トロイな」
ツナミの突進を軽々と避ける。しかし彼の気迫がうまくカモフラージュしてくれて、その次に迫る脅威に彼はまだ気づけていない。
「キラースライド!」
「ちっ!」
土門の決死のスライディングがなんとか当たる。しかし奪うだけの余力はなく、ボールはゆるい軌道で空中に浮き上がる。
リカが受け取ろうと跳び上がるも、後ろから突進してきたファドラに当たり負けして墜落させられてしまった。
まずい……シロウがいなくなったことでみんなの動きが悪くなっている。加えて試合前に決められたフォーメーションでは、彼はディフェンスに置かれていた。だから彼がいなくなった今、極端に守備が弱くなってしまったのだ。
「ガニメデプロトン! ——ヘアッ!」
「正義の鉄拳!」
ここだ! 弾かれたボールを拾い、一人敵陣へ突っ込んでいく。
相手がカウンターなら、こっちもカウンターだ。敵は数人。そいつらを全部かわして、それで……。
……何を撃てばいいんだ?
気づいてしまった。自分では決点力がないことに。
くそっ、私は何をしにここにいるんだっ。染岡君や豪炎寺君と誓ったじゃんか。私がチームを守るって。
なのにこの体たらく。仲間は消えて、シロウは壊れ、私自身は何もできないばかり。
「ヘビーベイビー!」
「っ、しまった!」
細長くて不気味な風体の男、ケイソンから発せられた紫色のオーラがボールにまとわりつくと、地面に沈み込んでそのまま転がらなくなってしまった。
前回シロウの時に見せた、ボールは重くする必殺技か。あの時は冷静さを欠いていたシロウに怒鳴ったけど、これじゃあ人のこと言えないな。
「なえ、こっちだ!」
絶体絶命のピンチ。
その時、ディフェンスにいたはずのツナミが猪突猛進の勢いで駆け上がってくるのが見えた。
あいつ、何を……いや、いけるかも!
形を歪ませて地面にめり込んでいるボールに、思いっきり蹴りをぶち当てる。
「ぐあぁぁぁぁぁ……っ!!」
重い。ズッシリと足の甲に伝わってくる。
だけど、こっちだって毎日エイリアボールを蹴り続けてきたんだ!
「負ける、かぁぁぁっ!!」
「なにっ!?」
ミチミチと悲鳴を上げる足を思いっきり振り上げる。
紫色のオーラが消え、ボールが浮かび上がり、ヘロヘロという擬音が似合いそうな勢いのパスがツナミに届いた。
「今だ、やっちゃえ!」
「おおおおおっ! ——ツナミブースト!!」
フィールドに津波が発生する。
水流の勢いに押されて凄まじい速度のシュートが、ゴールへ飛んでいった。
——ツナミブースト。
文字通り、ツナミの必殺技。
たしかにこの技はすごい威力だ。しかしそれでも、私やシロウのシュートほどとは言えない。あれじゃあドリルスマッシャーを破ることは不可能だろう。
私はデザームの性格についてはある程度把握していると自負している。
あいつは常にギリギリの勝負がしたくって、それに見合う相手を探している。
思い返すのはナニワ地下修練上でのあの試合。デザームにはドリルスマッシャーがあったのに、それを使ったのは数回だけだった。
なぜか? 簡単だ。
だから、この後デザームが出す技は必然的に——
「ワームホール」
ビンゴ。
光の網がシュートを捕らえた。だけどボールの回転は一向に収まらず、お構いなしとばかりに網を押していく。
ドリルスマッシャーは破れない。だけどあのツナミブーストは、ワームホール程度なら十分破れるんだよ。
それを証明するかのように、光の網が千切れた。
ボールは障害物を突き抜けて進んでいき——新たな壁にぶち当たる。
「ハァァァッ!!」
それはデザームの足だった。
回転は止まっていない。だけどやつはそれでもお構いなしとばかりに、足に乗せたボールを脚力だけで飛ばすように打ち返した。
「くそっ、惜しかったってのによ!」
「フハハハッ! 白兎屋なえほどではないが、いいシュートだったぞ! 次は私も本気を出してやろう」
そんな……!
千載一遇のチャンスが潰えた。
次からは宣言通りドリルスマッシャーを使ってくることだろう。それじゃあ今の作戦は通用しない。
どうすれば……!?
イプシロンの選手たちはまたもやペナルティエリアへ侵入していく。
ボールを奪いにいった人たちはみんな倒されてしまった。
ツナミが上がったこともあるだろう。ディフェンスが機能していない。
『ガイアブレイク改!!』
「正義の……鉄拳っ!」
またもや円堂君の拳が失点を防ぐ。
だけど、戦況が良くなることはなかった。
私が撃って、止められて、シュートを撃たれる。それを円堂君が弾いて、また私が撃つ。これが延々と繰り返されていく。
まるで前回の試合の再現だ。だけど状況はあの時よりもずっと悪い。
「ハァッ、ハァッ……!」
荒くなる呼吸を抑えることができなくなっていく。円堂君も同じような状態みたいだ。
それぞれ守りを円堂君が、攻めを私がほぼ全て担っているので、その消耗は激しい。もう何度二つのゴールを往復したことか。気がつけば足が震えていた。
だけど、止まるわけにはいかない。
「ハァァァァッ!!」
本日で何度目か分からない私のシュート。
だけどドリルスマッシャーが砕けることはない。
まるで同じビデオを何度も再生しているかのようだ。
何度も見た光景に、唇を噛む。
「……ふむ、貴様のシュートは熟成されたワインのようだな。刺激的で、旨味がある。……しかし、飲み過ぎるとくどく感じてくる」
「新鮮な味を提供できなくて……ハァッ、ハァッ……申し訳ないねっ」
「まあいい。貴様は私の求めるものを見事に用意してくれた。それだけでも満足というものだ。だからこそ、せめてもの情けとしてメインディッシュは本気でいかせてもらおう!」
メインディッシュ? 私とシロウが本命じゃなかったのか?
デザームは何を考えたのか、シロウの時と同じように手に持ったボールをフィールド外へ投げ捨てた。
彼の目が審判に向けられる。
「ポジションチェンジだ。私とゼルの位置を交換する」
「なっ……!?」
キーパーとフォワードのポジションチェンジ!?
その衝撃的な一言に、イプシロン以外の全員の目が見開かれた。
一応、ルール的には可能だ。キーパーのユニフォームを別の選手が着て、正式に交代をすれば認められる。
だけど実際にそれが行われることは……ごく稀だ。
当たり前だ。この状況は、本来ならメインとサブのキーパー二人が故障した時に適用されるものなのだから。いくらキーパーが怪我しやすいポジションでも、補欠までもが続行不能になることなんて滅多にない。
デザームはユニフォームの胸に付いているボタンのようなものを押す。とたんに、黒くて長袖のキーパーユニフォームは他のイプシロンのメンバーが着ているような、赤い半袖のものに切り替わった。
見ればゼルもいつのまにか着替えが終わっている。
あれもエイリアの技術なのかという疑問はあるけど、それよりも注目すべきはデザームだ。
ゴール前で改めて私たちは相対する。
「宣言しよう。正義の鉄拳は私が破るとな」
「私は円堂君を信じるだけだよ」
この余裕。というよりも前線へ立つことに慣れているような感じ。
加えてこのハッタリとは思えないような自信。
まさか……あいつの本当のポジションは……。
悠々と
吹雪退場。
デザームがだんだん手加減してもエターナルブリザードを止められるようになった理由を、自分は精神が不安定なせいで弱体化していったと考えているんですが、実際はどうなんでしょうか? 結局アニメじゃ説明されることはなかったし、別の意見があるなら是非教えてください。
次回は……スーパーデザームタイムかな?