悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:キメラテックパチスロ屋
皇帝ペンギン1号がゴールネットを食い破った。
ようやく同点。だけど、ここからって時にあまり関われなくなるのが残念だなぁ。
……ああ、来た来た。この足の底から電撃が上ってきたかのような感覚。
「ぐっ、ぐがァ゛ア゛ア゛ア゛っ……!!」
「なえっ!」
全身の筋肉が肉離れを起こしたかのように、悲鳴を上げる。
体がバラバラになりそうだ。脂汗が額に浮かび上がってくる。
あまりの激痛に耐えきれなくなり、私は両膝を地面につく。
「ハァッ、ハァッ……!」
「なえっ、お前なんて無茶を……!」
「ゴメン、円堂君。これしか思いつかなかった」
さて、まだ試合は終わったわけじゃないんだ。さっさと元の配置に着かないと。
震える足で立ち上がろうとし……足に痛みが走った。
「うぐっ……!」
「なえ、やっぱり痛みが!」
「これくらい……どうってことないよ。さあ、試合を再開しなくちゃ」
「無茶だ! フラフラじゃないか!」
たしかに、足元はおぼつかない。
だけどまだ走らなくちゃ。このままじゃすぐに点が押し返されちゃう。
鬼道君が私の前に立ち塞がる。
「その体ではとても無理だ」
「無理でもやらなきゃ。今が逆転するチャンスなんだよ? ここで決定的なシュートを撃てるのが、私以外に誰が……」
いるっていうの?
その言葉は芝生を踏む音によってかき消された。
誰もがそこへ注目する。
フードを被った何者かが、フィールドのラインを超えて、こちらに近づいて来ていた。
一瞬訝しんだ顔。しかしそれは喜色に変わる。
男は勢いよくフード付きのパーカーを脱ぎ捨てた。
ボロボロのユニフォームに刻まれた10の数字。
腕や足中にも焦げたような痕がある。それは厳しい修行を超えてきた証だろう。
鋭い目。逆立った、激しい白い髪。
そして立っているだけで震えるような威圧感。
雷門のエースストライカー。
そう、彼の名は……!
『豪炎寺!!』
みんなの声が一致した。
豪炎寺君はポケットに手を突っ込みながら、ゆっくり円堂君へと歩いていく。
「お前……」
「待たせたな、円堂」
「いつもお前は、遅いんだよ!」
二人の拳がコツンとぶつかった。
円堂君は満面の笑顔を、豪炎寺君はクールな笑みを浮かべている。
そうだ。これが私が見たかったものなんだ。
離れていても千切れることはない、本当の絆。
私にはないもの。
脳裏にかつての試合後に喜び合う二人の姿を思い出して、思わず笑ってしまった。
豪炎寺君は円堂君と一通り喋ったあと、こちらに向かってくる。
「約束は守ったよ、豪炎寺君」
「ああ、感謝する。そしてここからは任せてくれ」
「おーっと、見くびらないで欲しいな。私もまだ試合するつもりだよ。いいですよねー監督!」
いくら皇帝ペンギン1号とはいえ、一回撃っただけで動けなくなるほど私はヤワじゃない。どこかの眼帯厨二病とは違ってね!
まあ、さすがに少し弱体化はしちゃうだろうけど……それでもまだ役に立てるはずだ。
瞳子監督もそう判断したのか、うなずいてくれた。
「わかったわ。ではあなたを残し、浦部さんと豪炎寺君を交代します!」
リカと豪炎寺君がすれ違う。
「へっ、こんだけ期待してるんや。下手なシュート撃ったらただじゃ済まさへんで」
「フッ……」
豪炎寺君が私の横に立つ。
かつては敵同士だったけど、肩を並べてみるとすごく安心するよ。
なんというか、この人なら大丈夫って根拠もないのに、本当に信じられる。
私も負けてられないね。
「豪炎寺修也。今ごろ現れたようだが、もう遅い。私のグングニルで、貴様がボールを蹴る間もなく決着をつけてやろう」
「残念だが、そう一筋縄じゃいかないと思うぜ」
「なにぃ?」
デザームには意味がわからなかったのだろう。でも私にはわかる。
豪炎寺君の登場で、みんなからいつも以上の気迫を感じるのだ。
逆にイプシロンのメンバーは彼の得体の知らない力を感じ取ったのか、無意識に後退りをしている。
一流の選手は敵味方にも影響を与えると総帥は言っていた。
現に私も根拠もないのに、今ならなんだってできそうって気が湧いてきている。
絶望的な状況はまだ去っていないのに、負ける気がしないよ。
「さあ、バーニングだよみんな!」
『おうっ!!』
試合再開の笛が鳴った。
デザームが鬼のような形相で突っ込んでくる。
「さあ貴様の力を見せてみろ! 豪炎寺修也!」
「……」
豪炎寺君はデザームの方へ走って行き……その横を通り過ぎた。
「なっ!?」
豪炎寺君はそのまま単身でボールも持たずに敵陣へ突っ込んでいく。
なんで何もしない、とあちこちから声が上がる。
だけど私は、この状況に見覚えがあった。
円堂君も彼が何をしたいのか気づいたようで、メラメラと闘志を燃やしながら笑った。
「そういうことか……わかったぜ豪炎寺!」
「何をゴチャゴチャと……! くらえ、グングニルッ!」
もう飽きるほど見た神槍がゴールへ迫る。
だけど円堂君の目には諦めも絶望もなかった。
力強く手のひらを空へ突き出して、ぐっと握りしめる。
「ようやくわかったぜじいちゃん! 究極奥義が未完成ってのは、完成しないってことじゃない。ライオンの子どもが大人になるように、常に進化し続けるってことなんだ!」
円堂君の頭上に現れた、巨大な拳。
だけどそのサイズはさっき見たものよりも一回りも大きく、さらに激しく回転し始めた。
「これが究極奥義——正義の鉄拳G2だぁぁぁ!!」
神槍が拳とぶつかった時、ガラスが砕けたかのような音がした。
それは槍を形作っていたエネルギーが崩壊したということ。
「いっけぇぇぇぇぇっ!!」
失速したボールを押すように正義の鉄拳は飛んでいき……それを遥か遠くまで吹っ飛ばした。
その落下地点には、円堂君を信じて突き進んでいた豪炎寺君が。
そのまま駆け上がっていく豪炎寺君。
イプシロンのディフェンスがその前に立ちはだかるが、
「ヒートタックル改!」
炎を纏った激しいチャージによって、一気になぎ倒された。
そのまま彼はゴール前へ。
ふわりとボールが浮かび上がり——炎の竜巻に包まれる。
「真ファイアトルネード!」
「ワームホ……あがぁぁぁぁっ!!」
回転を伴った、炎のシュート。
もはや圧倒的だった。
ゼルのワームホールなんて意味をなさず、ボールは彼の顔を撃ち抜いてそのままゴールに突き刺さる。
とたんに大歓声。
あっという間に逆転してしまった。
「……っ、フハハハハッ! 面白い、面白いぞ豪炎寺修也ァ! 今度はそのシュート、私の手で止めてやろうっ!」
デザームのユニフォームがキーパー用のものに変わる。
ポジションチェンジか。その顔には若干の余裕の笑みが浮かんでいる。おそらくはさっきのファイアトルネードを見て、勝算があると思ったのだろう。
でも、今の豪炎寺君なら。
「うぉぉぉっ!!」
「豪炎寺君ばっかにいいところ見させないよ! ——もちもち黄粉餅!」
試合が再開。
餅を鞭のようになぎ払い、ゼルのボールをからめとってこちらに引き寄せ、彼にパスする。その後追従するように私も走り出す。
雷のように速いドリブルと、流れる水のようなパス回しに誰もついていくことはできなかった。
当たり前だ。なんせここにはFF最強のフォワードが二人もいるんだから!
「ジグザグストライク! ——決めて、豪炎寺君!」
「ああ!」
光の如きドリブルで抜き去り、豪炎寺君へとパス。
そして鋼鉄の魔人、デザームと対峙する。
「こぉい!!」
「ハァァァッ!!」
豪炎寺君の背中から炎の渦が発生し、それを引き裂いて何かが飛び出す。
あれは……魔神!?
円堂君や立向居のとも違う、炎の魔神。それは豪炎寺君を両手に乗せると、天へと投げ飛ばした。
回転しながら、弓引くように彼の足が伸ばされる。それと同時に、魔神は拳を振りかぶって——。
「爆熱ストーム!!」
火炎弾ともいうべきシュートが放たれた。
空から落ちてくるそれを見ているだけで、肌がチリチリと焼けていくのを感じる。
しかしデザームはこんな時でも、いやこんな時だからこそ、狂ったように口を歪めて笑う。
「フッ、フハハハハッ!! 止めるっ! 必ず止めて見せるっ!」
鋼鉄のドリルが彼の手のひらに浮かび上がる。
「ドリルスマッシャーV2ッ!! ォオオアアアアアアッ!!」
二者の必殺技が激突。
しかし豪炎寺君は勝負の行方を見ずに、ゴールへと背を向けて歩き出す。
まるで結果がわかり切っているかのように。
「なっ、なんだこのパワーはっ!?」
ゴール前が一際眩しくなった。
鉄壁を誇っていたドリルスマッシャーに、どんどんヒビが入っていく。ミシミシと嫌な音を立てて、そして、
「うぐあぁぁぁぁぁっ!!」
盛大な轟音とフラッシュ、そして爆風が巻き起こり、ボールがネットを揺らした。
「す、スゲェ……」
それは誰の言葉だったのだろうか。
だんだんと話し声は大きくなっていき、それはやがて大歓声へと変わった。
「豪炎寺、やったな!」
「スッゴイ技ッスね! オレ、感動したッス!」
「ああ。これが俺の爆熱ストームだ」
みんなが集まって、ワイワイ盛り上がっている中、私はただデザームの方を見ていた。
なんだろうか、この気持ちは。喜ぶべき状況のはずなのに、なんかモヤモヤする。
時計を確認する。もう5分も残っていない。
この感情は、豪炎寺君に向けてのものじゃない。自分に対してイライラしてるんだ。
なんというか、このままデザームとの決着もつけれずに終わってしまうことが、嫌って思ってしまう。
たしかに、このまま残りの時間を守ることで勝つことはできるだろう。だけどそれでいいの?
たぶん、デザームと戦うことができるのも今日が最後だろう。
このまま流されるままに終わらせていいのか? 否、いいわけがない。
だから私は、笛が鳴ったとたん、全速力で前へ駆け出した。
「らぁぁぁぁっ!!」
「なにっ、ぐはっ!?」
荒々しいタックルでゼルを吹き飛ばす。
イプシロンのメンバーは、ドリルスマッシャーとグングニルが敗れたせいか、呆然としてしまっている。
好都合だ。なにせ今は一分一秒が惜しいんだから。
「デザァァァァム!! 私と最後の勝負をしろデザァァム!!」
「私が……負けただと……そんなバカな……?」
殺気迫る勢いで吠える。
だけどデザームは自分の両手を眺めるばかりで、ちっとも私のことなんか見ちゃいない。
よほどショックだったのだろう。先ほどまでのカリスマ的なオーラは失せてしまっている。
正直、このまま撃てばほぼ確実に決まると確信できる。
でもそれじゃあ意味がないんだ!
「一回の負けでくじけるな! あなたは私たちの何を見てきたの!? どんな時だって、最後まで諦めないからサッカーは燃え上がるんでしょうが!」
「最後まで……燃え上がる……?」
デザームが私の目を見てくる。
そうだ。負けを認めても、そこでうずくまってちゃそこで終わりなんだ。大切なのはその悔しさと怒りを燃料に変え、立ち上がること。
それを積み重ねることが、最高の試合につながるんだ。
この思いをデザームが聞いていたのかどうかは知らない。エイリアならテレパシーぐらい使えそうだしね。
ただ一つわかったのは、彼の目に炎が戻ったということだ。
「ウオォぉぉぉォッ!!」
獣のような耳をつんざく音が響きわたった。
デザームは両拳を思いっきり打ちつけ、覚悟を決めたように叫ぶ。
「さあこい!! 最後の勝負だ!!」
「ハァァァッ!!」
全身で黄金のオーラを纏う。
デザームのドリルスマッシャーを破るには、今のシュートだけでは足りないだろう。
だから
一度も成功させたことのない、幻のシュートを。
もちろん無策ではない。
私は現在、しこたま体を痛めつけられたせいで意識が朦朧としている。
だからだろうか。正気じゃない分、いつもより黄金のオーラの効果が強まっている。
感覚的にわかった。今ならあの技が撃てる——と。
一度しゃがみ込み、足のバネを十分に使って跳躍。同時にオーラが噴出され、地上で衝撃波が発生した。ボールはオーラに乗っかって、蹴るまでもなく自動でついてくる。
たどり着いたのは、遙かな天空。
そこで私は両手をボールに突き出し、自分のオーラを注入すると、眩いばかりの黄金の月が完成した。
頭痛は、ない。
というか痛覚が麻痺してるのかも。
それだけヤバい状態ってわかってるのに、私はこれを蹴る楽しみで笑みを堪えきれなかった。
そう、さいっこうに楽しかったよ。
だからさ——私からの最後のプレゼント、受け取ってね?
「ムーンライトスコールッ!!」
月に着地してまた跳躍。そしてくるりと一回転して——落下する力を利用しながら、かかとを落とした。
瞬間、月が破裂。ダイヤモンドダストのように光の粒子が辺りに散らばるが、数瞬後にそれらは数多の巨大な槍となって、地上に降り注ぐ。
下から見れば、バカでかいレーザーが十数個落ちてきたように見えるだろう。
デザームはそれを見てなお、いやいっそうに破顔した。
「私の魂! 私の全て! ——ドリルスマッシャーV3ィィィィッ!!」
出現したドリルは、今まで見てきた中で一番大きかった。あまりの回転に熱を帯びて赤く変色している。
それを盾にするように、デザームは前に突き出す。
しかし一つ、また一つと閃光が当たるたびに彼の足は後ろに下がっていく。
「まだだ……! 負けてなるものかァァァァッ!!」
魂を吐き出しそうなほどデザームは吠える。
しかしその願いは届かず、とうとうドリルスマッシャーが砕け散った。
直後、デザームが見たのは怒濤のレーザーの群れ。
何個かが彼の横を通り過ぎ、次々とゴールネットを撃ち抜いていく。
それらの光はやることを終えると収束していき、一つのボールへと戻った。
コロコロと倒れたデザームの横を転がるボール。
そこで三度なるホイッスル。
みんなは掲示板の方を見た。
『4対1』。
そして、声を上げて歓喜した。
「やったぞぉぉぉぉぉっ!!」
『ウオォォォォォッ!!』
選手だけではない。観客席からも割れんばかりの歓声が響いてきた。
ようやくお役御免か。もう立つ力も残ってなくて、どっさりと地面に寝転がる。
——雷門対イプシロン・改。
勝ったのは雷門だ。
原作じゃこの時点でのファイアトルネードは改だったはずでしたが、この作品ではゼウス戦ですでに進化してしまっているので真です。まあ今後の展開にはまったく影響がないとは思いますが。