悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです 作:日差丸
『あ、アフロディ!?』
突然の乱入者に私たちは度肝を抜かれた。
それほど意外な人物なのだ。
アフロディ。総帥が監督してたゼウス中の副キャプテン。つまりは私の元チームメイトだね。
もはや試合をしてる場合じゃない。駆けつけた私たちは彼を取り囲む。
「やあみんな。また会えたね」
「アフロディ、リハビリは大丈夫なの?」
「心配ないよ。神のアクアは体から完全に抜けた」
「……何しにきたんだ?」
円堂君をはじめ、彼を良く知っている雷門の人たちは刺すような目を向けている。
まあそりゃそうだ。自分でやっといてアレだけど、お世辞にもあの試合はクリーンな内容じゃなかったからね。雷門は怪我人が何人も出たし、あまりいい思い出ではないのだろう。
「ふふ、愚問だね。戦うために来たのさ、君たちと——」
「っ!」
「——エイリア学園を倒すために」
「……へっ?」
間抜けな顔をする円堂君。
そして次の瞬間、
「えぇぇぇぇっ!?」
驚きの声がグラウンド中に響き渡った。
円堂君はアフロディに詰め寄る。
「ど、どういうことだ?」
「あの試合で感化されたのはなえだけじゃないってことさ」
彼は今この場に来た理由を語り出す。
「僕は君たちから諦めなければ人は何度だって立ち上がれることを学んだ。そのおかげで厳しいリハビリに耐え、もう一度サッカーができるかもしれないところまで回復することができた。そんな時に、君たちの試合を見たんだ。そして思った。もし僕がもう一度フィールドで羽ばたけるようになったら、その時は君たちに恩返しを、そして大切なことに気づかせてくれたサッカーを守りたいって。だから僕はここに来た」
「アフロディ……」
あの自分以外をまともに見ることもできなかったアフロディが、そんなことを言えるようになるなんて……。
彼の言葉は私の体の奥底にまでしみじみと染み込んだ。
私は友人の成長に感動して涙しそうになる。
これを聞いても、一部のメンバーはいまだにアフロディを疑うことだろう。だけど私はどうしても彼と一緒にサッカーがしたくなった。
だから今回ばかりは恥を捨てて、このプライドばっかで重い頭を下げることにしよう。
「円堂君、みんな、お願い。アフロディを信じてあげて。私が頼むのもおこがましいけど、それでも私はアフロディを信じたいの……!」
「円堂、俺もありだと思う」
「ああ。そもそもゼウスの事件の主犯であるなえがここにいる時点で、今さらアフロディが加わったところで変わりはないしな」
「豪炎寺君……鬼道君……!」
お礼を言ったら二人の口角が吊り上がったので、気恥ずかしくなって頭を上げる。
円堂君はずっとアフロディの目を見ている。
「本気なんだな?」
「ああ」
「そっか。わかった。なえがこれだけ言ってるんだ。俺はお前を信じる!」
握手が二人の間で交わされる。
それから先はあっという間だった。
余っていたユニフォームを着て、アフロディはリカの位置に立つ。
背番号は11番。染岡君と同じものだ。
ゼウスの特徴的なものとは全く異なる黄色のユニフォームだけど、なぜだか様になっている。
あれか、金髪で色が似てるからかも。
少なくともどぎついピンク色の人よりかはマッチしてると思う。
……あれ、染岡君もピンクだっけか。
「このユニフォームを着ればみんな仲間だ! 頼んだぞアフロディー!」
後ろから円堂君の激励が聞こえて来る。
アフロディが頬を緩めた。
「ふっ、相変わらず器が大きいな」
「それが円堂君の魅力ってやつだよ」
「ああ。だけど彼に甘えてばかりではいられない。信用は自分で勝ち取ってみせる!」
そう決意を新たにしたところで、試合再開。
ダイヤモンドダストのスローイングが通ってしまう。
「ボルケイノカット!」
しかし土門がすぐさま走ってきた。
振り切った足が地面に弧を描き、そこからマグマの壁が噴き出ることで相手を弾き飛ばす。
チャンスだ。
アフロディは稲妻のような速度で身を翻し、すぐさま空いているスペースに切り込んだ。
土門は一瞬躊躇うような素振りを見せるも、すぐに足を振り上げる。
「……くそ、仕方ねえなぁっ!」
「ありがとう、土門」
嫌々というのがわかる態度だったけど、土門はパスをアフロディに出してくれた。それがつながり、すぐさまアフロディは前を駆ける。
一番反対意見が上がりそうなのは喧嘩っ早い土門だと思ってたけど、なんとか信じてくれたようだ。
思わず笑みが浮かんでしまう。
そしてここから、
「——ヘブンズタイム」
一瞬だった。
アフロディが指を鳴らしただけで、次の瞬間に彼は敵のディフェンスの背後に移動していた。
そして竜巻が発生。抜かれたディフェンスが吹き飛ばされる。
決まったね、アフロディの『ヘブンズタイム』。
原理は催眠術みたいなものだけど、簡単に言っちゃえばこの技はアフロディ以外の時を止める。まさにチートみたいな技だ。
もっとも制限がいろいろあるらしく、ドリブルにしか運用することはできないらしい。しかし一気に敵陣へ切り込むことができた。
「面白い技だ。だが、所詮人間に破られた神。神のアクアなき君に何ができる!?」
「できるさ。みんなと一緒なら、なんだって」
ガゼルが凄まじい速度で襲い掛かる。
それに対して、アフロディがしたことは、誰もいない場所に向かってパスを出すことだった。
「なっ……!?」
訂正しよう。
軋む体に鞭打って、全力で駆け抜ける。そしてボールに追いつくと同時にパスを出して、ガゼルを出し抜いた。
『ワンツー』。
サッカーの基本テクニック。
そうだ、サッカーは全員でやるものなんだ。一人でダメなら協力するまで。
自己意識の高い彼にはそれが見えていなかった。
「さっき君は神のアクアがなければ何もできないと言ったね。——訂正させてあげよう。これが、僕の新しい力だ!」
アフロディの背に翼が生える。
しかしそれは見たことがあるものとは違った。
以前のが昆虫のような翅であったのに対して、今彼が生やしたのには鳥類のに似た羽があった。
天空から落ちた雷がボールを包み込む。
アフロディは横に回りながらその上を飛び、くるりと回転。
光を纏ったかかと落としが、叩き込まれる。
「ゴッドブレイクッ!!」
眩い光を放ちながら、ゴールに向かってそれは落ちていく。
空気を通して、ビリビリとした震動が伝わってきた。
なんてシュートだよ。ゴッドノウズなんて比較にもならない。
対峙するダイヤモンドダストのキーパーが右手にエネルギーを溜めてるけど、これと比べると全くもって脅威を抱けない。
「アイスブロッ……ごがぁぁっ!?」
氷を纏った右腕は一瞬で弾かれ。
神々しいシュートが、キーパーごとボールをゴールに押し込んだ。
「先制点だと……? バカな……!?」
「これが人になった神の実力さ」
「アフロディすごいよ! ほんとほんとすごい!」
うんうん、復帰するだけじゃなくてこんなに強くなって帰ってくるなんて……!
あまりの嬉しさに抱きついてしまった。
お、いい匂い。香水もいいもの使ってるねぇ。
「は、離れるんだなえ! 女の子がそんなことをしては……!」
「アフロディも女の子だからだいじょーぶ!」
『えっ!?』
「違う、僕は男だっ!」
何言ってるんだこの金髪美女は。鏡見なさいよ鏡。どこに男要素があるのよ?
むしろ私よりも女の子らしい気が……これ以上考えても虚しくなるだけだからやめておこう。
アフロディが女子疑惑を必死に解いている間に、さっきのシュートについて考える。
見た感じ、爆熱ストームに匹敵するレベルのものだ。いや、もしかしたらそれすら超えてるかも。
豪炎寺君とエースストライカー争いするつもりだったのに、とんだダークホースが出たものだ。いやまあ嬉しいといえば嬉しいけど。でもなんというか、一番の座ってやつは譲りたくないものなんだよ。
豪炎寺君も同じ思いを抱いていると見える。顔には出してないけど、アフロディのシュートを見て目に熱気を宿しているのが丸わかりだ。
円堂君曰く、案外負けず嫌いらしいからね。まあその方がこっちもやる気出るからいいんだけど。
「……ふ、ふふふっ。君たちを正直侮っていたよ」
そんな喜びのムードで溢れる私たちを、その低い一声が凍てつかせた。
パキパキ、と地面の人工芝が凍り付いていく音が聞こえてくる。
あちゃー、やっこさん超キレちゃってるよ。無表情だけど力の制御を誤るほど感情が昂ってる。
彼は自身の髪の毛を握りしめながら、人でも殺せてしまいそうな目をギラリと向けてくる。
「もう手加減はなしだ。今浮かべている笑みが、この試合で最後のものだと思え……!」
安っぽいセリフだけど、実力は確かだ。
ダイヤモンドダストはまだ本気を出していない。
ガゼルの言葉がハッタリではないことは、そのあとすぐに証明される。
キックオフと同時に私が前に飛び出す。
「もちもち黄粉餅!」
「きゃっ!?」
エネルギーを固めて作った餅の鞭を振り回し、リオーネを殴打。同時にボールを絡めとって奪い、すでに前方へ走っていたアフロディに渡す。
彼は手を天に掲げ、技名を唱えようとする。
しかしその前に予想以上の速度の巨体が迫ってきていた。
「ヘブンズタ——」
「フローズンスティールッ!!」
「なにっ!?」
突然のことで回避が間に合わない。アフロディは凄まじいスライディングに巻き込まれて、跳ね上げられた。
あの技……使ったのは同じゴッカだけど、リカの時とは全然スピードが違う! なまじそれを見ていてしまったため、アフロディは計算以上の動きをする彼にやられてしまったのだ。
幸い受け身は取ったようで大したダメージはないみたい。
だけどボールが奪われたのは事実で、それが敵ミッドのドロルに渡る。
「抜かせないッス! ——ザ・ウォール!」
進路方向を塞ぐように巨大な岩が出現する。
それを意に返さずドロルは浮き上がると、ボールを両足で、地面にめり込ませる勢いで踏みつける。すると連鎖的に水柱が地面から噴き出した。
「ウォーターベール!」
「うわぁぁぁっ!」
その強烈な水圧によって岩は崩壊。壁山はその余波で倒れ、ドロルの突破を許してしまう。
そして最終ディフェンスラインにいる彼が破られたということは、
「ガゼル様!」
もう他にディフェンスはいないということだ。
ガゼルにボールが渡る。
まずいと思って走るけど、私の進路を潰すような位置取りをダイヤモンドダストの連中がしてきたせいで、間に合いそうにもない。
くそっ、間接的でこんな封じ方されたの初めてだよっ!
「見るがいい。凍てつく闇の恐怖を!」
浮き上がったボールを彼から発せられた冷気がコーティングしていく。ぱっと見てエターナルブリザードと似てるけど、比べるのも馬鹿らしい密度のものが圧縮されてる。
ガゼルは高速で動き、加速させた後ろ蹴りを叩き込む。
「ノーザン、インパクト!」
瞬間、氷は青い光と化して真っすぐに飛び出した。
速度も感じ取れるエネルギーもグングニル以上。
円堂君は右手を握りしめ、叫ぶ。
「正義の鉄拳G2!!」
神々しい拳が放たれる。しかしそれが青い弾丸を押し返すことはなかった。逆にジリジリと押されていき、ひび割れてついには砕け散ってしまう。
円堂君の横をすり抜けて、弾丸がゴールを撃ち抜いた。
ゴール。本気を出しただけでこれか……! たった数分で一点返されてしまった。
これがマスターランクチーム。
ああ……不安も感じるけど、それ以上に断然倒したくなってきたよ……!
「ふっ、他愛ない」
澄まし顔でそう言い捨てて、ガゼルは去っていく。
円堂君は悔しそうに右拳を見つめている。
それを尻目に、前半終了のホイッスルに耳を傾けた。
アフロディがすぐに信用されたのはなえちゃんがいるからです。ぶっちゃけ彼女はアフロディ以上に雷門メンバーからのヘイト値が高かったので、それが解決された今ではアフロディも信用出来るかもという気持ちが芽生えていたわけです。
そんでもってゴッドブレイクの登場。いや2から存在してるんだし、使わなきゃ損かなって。