悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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焦燥

 前半が終了し、私たちはベンチに戻っていた。

 いつつ……やっぱ体が軋むね。集中力が切れたせいでよけいに意識してしまう。

 

「予測はしていたが、正義の鉄拳が破られるとはな」

「なに、心配するな。究極奥義に完成なしだ。次は止めてみせる!」

 

 一点は取られたものの、みんなの闘志はまだまだ衰えていない。これなら十分に後半も戦えるだろう。

 ふと、ダイヤモンドダスト側のベンチを覗く。

 ガゼルの姿がない。それに……無人なはずの観客席にいた二人の姿も消えている。

 害する気配がなかったから放っておいたけど、実は試合前から見たことがある二人がこちらを見下ろしているのに気づいていた。それを報告しなかったのは、余計な心配をさせないため。

 

 と、思ってたら選手入場の方からガゼルが出てくるのが見えた。しかもめっちゃ不機嫌そう。

 あれは私におちょくられた不動に似てるね。青筋が浮き出て、いつ手を出してきてもおかしくない爆発一歩手前な感じ。

 可哀想に。おおかた例の二人に散々いじられてしまったのだろう。宇宙人でも社会というものが辛いことなのは変わりがないようだ。

 

 ハーフタイム終了の笛が鳴る。

 それぞれのチームがコートを入れ替え、それぞれがポジションについたところで後半が開始される。

 

「油断はしない! 徹底的に叩き潰す!」

「同僚にいじめられたからって八つ当たりはよくないよ?」

「っ、貴様、どこで聞き耳を……!」

「はい、もーらい」

 

 アハハッ、動揺しすぎ。

 さっきの予想は図星だったようで、ガゼルの意識が一瞬逸れた。その隙を突いてボールを奪う。

 

 二人のフォワードのうちどっちかにパスを出そうかと思ってたけど、すでに複数人によるマークが付いている。

 人気者は辛そうだねぇ。

 なら、私一人で行くしかないか。

 

「フローズンスティール!」

「ジグザグストライク」

 

 ゴッカの氷のスライディングが迫る。

 それは確かに速いし、避けるのは困難だろう。

 だけど、私のジグザグストライクほどではない。

 黄金の光を纏い、分身ができるほどの速度で進んであっさりと回避した。

 そして彼がここの最終防衛ライン。

 ということはつまり、私は今キーパーと一対一だ。

 その構図は奇しくも前半の円堂君とガゼルを彷彿とさせる。

 

「裁きの極光! ——ムーンライトスコール!」

 

 天空にまで跳び上がり、そこで巨大な月を生成。その上に着地と同時に跳躍した後、一回転し、かかと落としをくらわせる。

 瞬間、月が弾け、無数の閃光がゴールに降り注いだ。

 

 敵キーパーは即座に悟ったのだろう。止められるわけがないと。

 それでも意地とばかりに右拳に冷気を集中させ、頭上の光の雨へアッパーカットのように振るう。

 結果として、それが閃光に触れることはなかった。

 

 なぜか。それはゴール横の地面に出現した、無数の小さなクレーターが物語っている。

 

「は……外した?」

「……命拾いしたねっ」

 

 その惨状に思わず舌打ちする。

 外した要因はいくらでもある。体が本調子じゃないとか、完成して一日しか経ってない技の調整をしてなかったりだとか。

 だけど外したという事実が覆されるわけではない。

 これじゃあエースストライカー失格だよ。

 心配してか、近くに豪炎寺君とアフロディが寄ってくるのに気づく。

 

「ごめん……」

「気にするな。サッカーは全員でやるものだ。お前が全力を出せなくても、その分は俺たちがフォローしてみせる」

「そういうわけだよ。君の体の状態も察してるし、だからといって試合に出るなと言っても聞かないだろう。なら君は今の状態でもできることをするべきだ」

「……そうだね。わかった、今日の攻めは任せたよ」

 

 要するにアフロディは私にディフェンスに徹しろと言っているのだ。

 悔しいけど今みたいにチャンスを潰すくらいなら、二人のサポートに回った方が良いだろう。

 静かにうなずく。

 

 相手のゴールキックから試合が再開する。

 現在のボールの位置はハーフライン辺り。そこの攻防に加わり、ドリブルしているアイキューに向かって青い光を放つ足を振り抜く。

 

「スピニングカットV3!」

「っ、こんなもの……」

 

 青い衝撃波の壁がアイキューの前に出現した。しかしエイリア学園の生徒ならこんなもの強引に打ち破ってしまうだろう。

 だから私はその前に、自らその壁を突き抜けた。

 

「っ!?」

「もーらいっと!」

 

 突然目の前に現れることで驚かせ、その不意を突いてスライディングしボールを奪う。子供騙しだけど、一瞬一瞬の判断が致命的になるこのサッカーにおいては実に有用な技術だ。

 まあそれ以前に相手がマヌケな顔を晒すのがおもしろいからやってるってのもあるけど。

 ともかくボールを奪った私は豪炎寺君へ高くボールを上げた。

 しかしそれは彼に届く前に、跳躍した敵選手のアイシーによって阻まれてしまう。

 

 取られないような高さだったんだけど、見誤ったか。

 私のデータには名前は表示されてもその詳細まではない。お抱えの部下たちじゃそれが限界だったのだ。だから仕方ないと割り切り、次の行動に移る。

 

『ボールはアイシーからドロルへ! そのまま真ん中から駆け上がっていくぅ!』

 

「行かせないよ! ザ・タワー!」

「ウォーターベール!」

「っ、きゃぁっ!!」

 

 塔子が巨大な塔を作り上げるも、さっきの壁山同様水圧に押されてもろともに吹き飛ばされる。

 ドロルがパスした先にはガゼルが。

 すぐさま彼の前に立ちはだかる。

 

「もちもち黄粉も——」

「ウォーターベールV2!」

「しまっ……くぅぅっ!!」

 

 できるだけ急いで技を発動させようとしたけど、ガゼルの方が一枚上手だったようだ。

 彼から放たれた水の波動は今まで見た中で一番大きく、餅の鞭をあっけなく弾き返して私を吹き飛ばした。

 

 残るは円堂君のみ。前半最後と同じ展開になってしまった。

 氷を纏ったボールに、痛烈な回し蹴りが叩き込まれる。

 

「ノーザンインパクト!」

「正義の鉄拳G2! ——ぐあぁっ!!」

 

 イプシロン戦の時のように、必殺技が急に進化する奇跡は起こらない。奇跡は滅多に起きないから奇跡なのだ。

 青い光弾は前半と同じように正義の鉄拳を打ち砕いて、ゴールへ入った。

 

『逆転、1対2! とうとう覆されてしまったぁぁ!』

 

「勝つのは、我々ダイヤモンドダストだっ!」

 

 それは果たして私たちに向けて言ったのか、はたまた自分に向けてなのか。ガゼルの顔には逆転したという喜びはなく、むしろ焦燥に駆られているように見える。

 同僚に何を言われたのか。点を決めたのに笑えないなんて、可哀想な人だ。

 

 でも同情してる余裕はない。正義の鉄拳が通用しないということは、ガゼルのシュートを止める手段がないということだ。

 数人を常にマークさせて封じる手もあるけど、それじゃあ今度はこっちの攻撃力が足りなくなってシュートに持ち込んでいけなくなる。

 ではどうすれば……? そう悩んでいた時、鬼道君が近づいてきた。

 

「攻めるぞなえ。カウンターで行く」

「カウンター? こっちにはウォーターベールもノーザンインパクトも止める手段がないし、そもそも持ち堪えることができなさそうだけど。それに相手は逆転したんだし、攻めることはあってもその頻度は下がると思うんだけど」

「さっきの顔を見たか? 理由はわからないが、ガゼルは何かに焦っている。あれが演技でなければ必ず攻めてくるはずだ」

「でもウォーターベールはどうやって……」

「それは俺に考えがある」

 

 天才ゲームメイカー様の策かぁ。少なくとも私が何か考えるよりかはマシだろう。なにせあの総帥から戦略というものを余さず学んだ人だ。司令塔としての質は彼の方が間違いなく高い。

 

 試合再開。

 悔しいけど、本気になったダイヤモンドダストのディフェンスを今の私の体で抜くのは難しい。他のフォワードの二人はマークが厳重でそもそもボールを渡せないし、つまり私にはこの状況を打開する策がないということだ。

 なら大人しくやられるのがせめてもの役目だろう。

 

「フローズンスティール!」

「っ!」

 

 氷を纏ったスライディングがボールを奪い去る。発動したのはゴッカではなく、クララという青髪の少女だ。

 そこからダイヤモンドダストは一気に駆け上がっていく。鬼道君の言った通り、制限時間まで守るという考えはあちらにはないらしい。

 

 ボールはドロルへ。壁山がすかさず待ち構えるけど、彼の技が通用しないことはさっきで明白だ。それでも壁山が体から気を放出させたのを見て、ドロルもふらりと地面を発つ。

 

「ザ・ウォール!」

「ウォーターベール!」

「うっ、がぁっ!」

 

 案の定、壁山は吹き飛ばされてしまう。

 しかしドロルは驚き目を見開く。壊れた壁の後ろから、ミッドにいるはずの鬼道君が飛び出してきたからだ。

 彼の姿が一瞬だけぶれる。

 

「クイックドロウ」

 

 『クイックドロウ』。いわゆる縮地だ。自身の体を一瞬だけ加速させて、一気にボールをかすめとる。

 単純でそれほど強い技ではないが、動きを止めた相手一人からボールを奪うことぐらいは造作もない。

 鬼道君が口笛を吹く。それを合図に雷門の選手たちは前線へ駆け出した。

 

「しまった、カウンターだ!」

 

 ガゼルが注意した時には遅い。

 怒涛の勢いにダイヤモンドダストディフェンスは次々と抜かれていき、最前線にいる私にボールが渡る。

 

「フローズンスティールッ!」

「飽きたんだよその技!」

 

 ボールを両足で挟み込み、跳躍。そして弾丸のように体を捻って回転させ、体を地面と水平にしながらゴッカのスライディングをスレスレで躱した。

 着地と同時にボールの右端を蹴る。

 

「アフロディ!」

 

 ボールはアフロディへと向かっていく。しかし彼の前にはディフェンスが立ち塞がっていた。

 笑みを浮かべてパスをカットしようと足が振るわれる。が、それは空振りで終わる。ボールが急に方向転換したからだ。

 

 このマークされてる状態で馬鹿正直に名前なんて呼ぶわけないでしょうが。アフロディはフェイクで本命は豪炎寺君だ。打ち合わせなんてもちろんやってないけど、一流の選手は相手の動きを見るだけでその行動を予測できる。ほら。

 

 急カーブした私のボール。しかしその先にはやっぱり、豪炎寺君が立っていた。

 彼はボールを真上に打ち上げ、同時に炎の魔神を召喚する。

 

「爆熱ストーム!!」

 

 魔神が拳を打ち付ければ、ボールは火を噴いて目的の場所へ吹っ飛ぶ。その熱は離れていても感じられるほどだ。

 

「アイスブロックッ!!」

 

 敵キーパーのベルガが冷気を纏った拳を振るう。

 炎と氷。対極的な言葉のはずが、目に見える二つは明らかに対等ではなかった。螺旋状に回転する炎の渦に氷はどんどん溶かされていき——。

 

「——っぐあァァァァァァっ!!」

 

 ベルガの顔面を弾いて、ゴールネットにめり込んだ。

 わぉ、痛そう……じゃなくてっ!

 

『決まったァァ! 雷門二点目獲得! 同点に持ち込んだァ!』

 

「そんな……バカな……!?」

「へっへーん! うちの豪炎寺君を舐めてるからこうなる!」

「……潰すっ!」

 

 怖い怖い。

 喜びのあまりガゼルをおちょくってみたら、めっちゃ激怒された。血管が破裂しそうなぐらい手を握りしめ、歯ぎしりをしながらこちらを睨んでくる。

 だけど自業自得だ。笑みを返してやった。

 

「あの時変にこだわらないで勝負に徹していればこんなにはならなかったのにね」

「黙れ! 我々はマスターランクチーム『ダイヤモンドダスト』だ! 雷門如きに辛勝したなど恥以外の何ものでもない!」

「……そっちこそふざけないでよ。この神聖なフィールドに勝利以外の目的を持ち込むな! 勝負に徹しないでボールを蹴るだなんて、それこそ恥を知れ!」

 

 そこで今日初めて私は怒りを露わにした。

 私は中途半端な気持ちでフィールドに立つやつを許さない。その点、ガゼルは全力は出していても、真剣にサッカーをしていなかった。許されないことだ。

 ガゼルは私の殺気を感じ取ったのか、それ以上話すことなく去っていった。

 

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