悪堕ちなえちゃんは諸悪の根源の補佐をするようです   作:日差丸

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新たなる可能性

 そこから先の試合は白熱したものとなった。

 雷門もダイヤモンドダストもどっちかが優勢になることはない。

 雷門は言ってしまえばガゼルを抑えてしまえば点を取られることはない。同じようにダイヤモンドダストも私や豪炎寺君、アフロディを封じようとしてくるので、戦況は均衡している。

 

 そうこうしているうちに残り時間が十分を切った。

 もう逆転している時間はない。先に一点を決めた方がこの試合を制することとなるだろう。

 だけど、明らかに攻撃力が足りていない。その分私たち三人以外のシュートが何十発と撃たれているのだが、どれもベルガの守りを崩すことができなかった。

 この戦況をひっくり返せそうなカードを雷門は持っている。しかしそれはあまりにも危険な賭けだ。鬼道君も気付いているだろう。

 

「かくなる上は……円堂! お前もこい!」

「おうっ!」

「おい、ゴールはどうすんだよ!?」

 

 鬼道君は苦渋の決断で円堂君を上がらせた。

 これぞまさに雷門の最終兵器。あまり知られていないことだが、円堂君の身体能力のスペックはフィールドプレイヤーから見ても高い。それを惜しげもなく発揮することで、雷門は単純な数と必殺技のバリエーションを増やすことができる。

 だけどそれは同時に雷門のキーパーがいなくなることを示す。ツナミの懸念ももっともだろう。だけどこれしかないんだ。現状を打破するにはっ。

 

 一之瀬にボールが渡り、その左右に円堂君と土門が並ぶ。言うまでもなく『ザ・フェニックス』の陣形だ。

 しかし不死鳥が羽ばたくことはなかった。

 

「フローズンスティール!」

「っ、しまった!」

 

 クララによるフローズンスティールが一之瀬のボールに命中したのだ。

 ま……まずい! ゴールは今ガラ空きだ!

 クララは間髪入れずにロングシュートを撃った。

 

「うおおおおおおっ!!」

 

 雄叫びを上げて、ツナミは横っ飛び。その驚異的な身体能力でなんとボールに追いつき、足で弾いてみせた。ボールはコロコロとフィールド外に向かって転がる。

 はぁ……なんとか……って、げっ!?

 ラインを切るか切らないかというところで、ボールは突如動きを止めた。その上には足が置かれている。

 ガゼルは全力で走る円堂君を見て、笑みを浮かべる。

 

「止めだ雷門っ!」

「もちもちっ、黄粉餅ィィィッ!!」

 

 間に合えっ!

 ガゼルは撃つ速度を重視してか必殺技を使わなかったが、それでもそのシュートは弾丸のように威力が高い。

 必死に餅を鞭のように振るう。間一髪のところでなんとか追いつき、ボールは餅と衝突した。勢いを殺すことはできなかったけど、シュートはあらぬ方向へ飛んでいき、ラインを超えたことで窮地をなんとか脱した。

 

『防いだァ! 危機一髪! ツナミとなえによるファインプレーでなんとか防衛に成功ッ!』

 

「ツナミ、なえ、サンキュー!」

「おうっ、ゴールは俺らが守るぜ!」

「だからガンガン攻めていこう!」

 

 なるべく言葉を選んだつもりだ。ここで万が一にも上がるのを躊躇わられたら、全てが瓦解する。

 防御力の低下はわかってたことだけど、実際にやられると肝が冷えるね。少なくともキーパーのいないゴールを守るなんてもう二度としたくはない。

 鬼道君と目が合うと、彼は静かにうなずく。

 ——作戦は続行か。

 

 ダイヤモンドダストのスローイングで試合が再開。

 

「フレイムダンス!」

 

 一之瀬が先ほどの失態を取り返すように必殺技を発動。ブレイクダンスみたいな動きで足から炎の鞭を飛ばし、相手を燃やしながらボールを奪う。

 

「円堂!」

 

 先ほど『ザ・フェニックス』の陣形を見せてしまったせいか、再び三人が集まるのは難しい。そう判断したのか、彼はしばらくボールを動かして相手のディフェンスに穴を空けた後、鬼道君にパスを出した。

 それと同時に、円堂君と豪炎寺君の二人が今度は彼の左右に並ぶ。

 雷門の中心人物三人が放つ『イナズマブレイク』。FFのあの時からはるかに成長した今なら、ダイヤモンドダストの防御でさえも突破するのはわけないだろう。

 

「いくぞ、イナズマ——」

「甘い!」

 

 鬼道君が闇のオーラを纏ったボールを打ち上げる。

 しかしそれは、いつの間にか彼らの頭上に跳び上がっていたアイシーの胸に当たった。

 三人の目が見開かれる。同時に私はガゼルに向かって走り出す。

 アイシーは見下すような笑みを浮かべ、そのまま空中でガゼルにパスを出した。

 

 大丈夫だ。私の方が必殺技の発動が早い!

 ウォーターベールを発動するには、一度ジャンプしてボールを地面に叩きつける必要がある。そのタイムラグを突けば……!

 

「もちもち黄粉——」

「邪魔だ!」

「っ、あぐっ!」

 

 しかし彼はボールを得るが否や、躊躇いなしに私に向かってシュートを撃ってきた。

 弾丸は餅の鞭をすり抜け、腹部に直撃。予想外の攻撃に私は派手に吹っ飛ばされる。

 

「思い知れ! 凍てつく闇の恐怖を! ——ノーザンインパクトォッ!!」

 

 私たちの目に絶望が浮かぶ。

 冷気を纏った後ろ回し蹴りが炸裂し、青い光弾が発射された。

 

「ザ・ウォール!」

「ザ・タワー!」

 

 壁山と塔子が壁を形成。しかしそんなもの紙切れとばかりに光弾は一瞬でそれらを突き破る。

 円堂君は……まだかっ。

 しかしそれでは明らかに間に合わない。円堂君は走るのをやめて後ろを振り向き、拳を振り上げる。

 まさか……ペナルティエリアに入ってないの気づいてない!?

 

「ダメだよ円堂君! ハンドになっちゃう!」

「っ……!」

 

 万事休すか。

 手を使えない円堂君にノーザンインパクトが迫る。身を守ることもこれでは難しいだろう。

 絶体絶命。

 その時、絶対絶滅の円堂君が取った行動は——。

 

「——たぁぁあああっ!!」

 

 —–—まさかのヘディングだった。

 

「……ふぁっ!?」

 

 いやどうしてそうなる!?

 足とかあっただろうに、よりによっての選択がそれ!?

 いや……でもなんか意外に持ち堪えってるっぽい。というか、むしろ額に光が集まってきて押し返してる。

 と思ってたらなんか出た。具体的には円堂の額から拳が出た。

 うん、何言ってるかわかんないね。でも本当のことなんだもん。正義の鉄拳みたいなものが出たと解釈してくれたらいいだろうか。

 形を維持できなくなったのか、拳はしばらく経つと弾けた。その時の衝撃波でボールは逆方向へ吹き飛ぶ。

 

「止めた……?」

「なん……だと……!?」

 

 ……ハッ。ボーっとしてる場合じゃない。

 すぐにボールを回収し、全速力で走り出す。

 残り時間一分。間に合わせてみせる。

 ダイヤモンドダストの選手たちはノーザンインパクトが防がれたのがよほどショックだったのか、ほぼ放心状態だったため、私に気づくのが遅れた。その間にドンドン突き進んでいき、ペナルティエリアに侵入する。

 

 これだけは……決めてみせる。

 跳び上がり、黄金の満月を生成。それを踵落としで堕とす。

 

「ムーンライトスコール!」

 

 光の雨がゴールに降り注ぐ。今度は方向もバッチリだ。ちゃんと中心に向かっている。

 

「アイスブロックっ! ……グォァァァっ!!」

 

 ベルガの氷の拳は矢のように降ってくる光に削り取られ、ついには粉々に砕け散った。その後ゴールネットが何十回も撃ち抜かれる。

 

『ゴール! 一点を制したのは雷門! そしてここでホイッスルが鳴る! 試合終了です!』

 

 ホイッスルが鳴り響く。

 試合終了だ。それを自覚したとたん、抑えていたものが溢れ出すかのように大きなため息が漏れた。

 

 とうとう、マスターランクチームに勝ったか。嬉しいというよりも感慨深いという気持ちの方が大きいね。それはつまり、あのジェネシスに一歩近づいたってことなんだから。

 円堂君が走ってこちらにくる。その顔には満面の笑みがあった。

 

「やったななえ! 勝てたのはお前のおかげだぜ!」

「いや、円堂君が最後止めてなかったらこうはならなかったよ。というかあれなに?」

「さあ……? とっさのことだったから、あまりよくわかってないんだよな」

 

 この様子じゃ、本人も原理がわかってなさそうだ。

 まあ円堂君はどっちかというと感覚派だし、いずれあれを使って何かできるようにはなるだろう。一を聞いて十を理解する天才型じゃないから長い時間がかかりそうだけど。

 なんて考えてたら、いきなり円堂君に両足を掴まれた。

 

「ひゃうっ! え、円堂君っ、なにをっ」

「そーれ!」

「え、きゃっ!?」

 

 戸惑ってるうちに両足を勢いよく引っ張られる。私の上半身は勢いよく地面にぶつかりそうになったけど、その前にいつの間にか近くに来ていた塔子によって両手を掴まれて支えられた。

 えーと、なんだこの状況。塔子が両手を、円堂君が両足を持って私の体を浮かしている。

 彼らの顔には悪戯を思いついた子どものように笑みが浮かんでいた。

 

「よしみんな、胴上げだ! なえを打ち上げるぞ!」

「へっ……? いやちょっと待って! ひゃんっ、ちょっ、誰だ変なとこ触ったやつ!」

 

 円堂君が号令をかけると、みんなが次々と集まってきて私の背中やら腰やらを支えようとしてくる。

 涙目で訴えるも効果なし。というか浮かれたみんなの声のせいで聞こえてない。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」

 

 気づいた瞬間、私は地上十メートルぐらい離れた場所を飛んでいた。

 いひゃいっ、舌噛んだ!

 というか怖い怖い! 心臓止まっちゃう!

 

「助けてぇぇぇっ!!」

「いつもこれより高いところに跳んでるくせに、なに言ってんだよ」

「自分で跳ぶのと無理やり飛ばされるのは違うのぉぉ!!」

 

 この後数分間、私は臓器が浮き上がる感覚を味わい続けた。

 おうぇ……気持ち悪い。

 とりあえず腹いせに一番いい笑顔してた土門を殴っておいた。

 

「はは、賑やかだねなえちゃん」

 

 しかしそんな浮かれた雰囲気も彼らの登場で消え去る。

 

「ヒロト……いやグランか。あとチューリップ」

「誰がチューリップだ!」

 

 赤髪の二人組。グランとバーンだ。

 ガゼルと並ぶとなんか仲間外れにされた感があるね。主に髪色で。

 

「ちっ、まあいい。今日はお前らに感謝してるからな。消し炭にするのはやめてやるよ」

 

 バーンはやけに上機嫌だ。その目は俯いたまま黙っているガゼルに向けられている。

 あ、なんとなく察した。あの目は見たことがある。ライバルを蹴落として愉悦に浸ってるやつの目だ。

 

「これでダイヤモンドダストは実質マスターランク最下位になるのは確定した。下手打っちまったなぁガゼル!」

「私は認めない……次こそ雷門を叩きのめしてみせる……!」

「往生際が悪いぞガゼル。君の処分は父さんの手によって直々に下されることだろう」

「くっ……!」

 

 うわぁ、世知辛い。まさか表の世界に出てきてこんなドロドロした敵同士の潰し合いを見ることになるとは。なんかガゼルがかわいそうになってきた。

 ガゼルは凄まじい形相でこちらを睨み、エイリアボールを踏ん付ける。それがトリガーとなり、ボールが目も開けられなくなるほどの光を放ち始める。彼らの姿はそれに包まれていった。

 

「じゃあねなえちゃん、そして円堂君」

 

 その一言の後、彼らの姿は完全に消えていた。

 ようやく戦いが終わったか。少しため息をつく。

 体が正直言ってガタガタだ。イプシロン戦から治療する間もなく次の試合だったからね。さすがの私も疲れた。

 それを見かねてか、アフロディが近づいてくる。

 

「肩、貸そうかい?」

「いやいいよ。この程度数日休めば元通りだろうし」

「お節介だったか。まあ神のアクアにも耐え切れるぐらい頑丈な君を心配するのは野暮だったかな」

「そーいうこと。まあ素直に嬉しいから礼を言っとくよ」

 

 その後は疲労を癒すため、早急に稲妻町へ帰ることとなった。

 まあこの後監督の青天の霹靂な話で揉めることになるんだけど、それはまた別のお話だ。




 はい、というわけでダイヤモンドダスト戦は雷門の勝利です。というかなえちゃん、本当エイリア編になってからロクな目にあってない気が……。今回も思いっきりボール腹にぶつけられてましたし。なえ虐しすぎて怒られないか心配です。
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